第86話 DIY
カーミラが新たに仲間に加わった。俺たちはオザックの迷宮討伐に向けて村に借りた新居に向かう。
「あるじ、肉ない?カーミラ、肉もっと」
ギルド食堂の朝食メニューはパンと果物とスープ。大体いつもこんな感じだが、カーミラには物足りないようだ。
人狼だからね、文字通り肉食女子だ。それでも、パンとかは食べないわけじゃなく、人一倍食べてるけど。
(笑い事じゃなかったんだからね)
食事の必要がないリナが、わざわざ等身大でテーブルについて、ずっと念話で愚痴をこぼしていた。
昨夜はカーミラの抱き枕にされたようで、リナには睡眠は不要だから実害はないんだけど、いつ寝ぼけてかじられるか気が気じゃなかったそうだ。
狼は群れで生きる動物だけど、人狼も誰かと一緒にいたいものなのかな?奴隷にされる前はどういう生き方をしてたんだろう?そのうち聞いてみよう。
きょうからオザックの古民家に引っ越しだ。
再びセラミック自走車を出して御者台に座り、後ろの客席にノルテとカーミラを乗せる。
カーミラは初めての乗り物を怖がるかと思ったんだが、
「カーミラ、もっとハヤイよ」
とか言って全然平気だった。
借りた古民家に着くと、きのうガレスおばさんが言ってた通り掃除されてきれいになってた。きょうはまず生活環境の整備だ。
間取り的には、大部屋と続きの土間にかまどと水がめみたいなのがあるから、ここがLDKってことだよな。
まず、かまどは壊れかけてたので、粘土で補修しておく。
それから調理具や食器だ。
「料理」スキルのあるノルテに必要なものを聞いて、土鍋とかセラミック製フライパンとかを創り出す。使いやすい大きさとか形とかもあるようなので、軟らかい粘土を出してノルテに成形してもらってから、スキルで“焼き固める”ことにした方がいい、って途中でわかった。
食器も言われるままセラミックで作る。
ノルテは「工芸」スキルもあるからこういうのは得意なようだ。実際、鍛冶工房で職人が打つ刀とかの柄や鞘などの細工を命じられることも多かったらしく、そういう作業は楽しかった、っていう。
他に三つの部屋があって、ひとつは納戸みたいだが残り二部屋に2つずつ簡素な木のベッドが置かれていたから寝室だろう。老夫婦が住んでたって話だが以前は子供たちも住んでたんだな。
ベッドはそのまま使わせてもらうとして部屋割りが悩ましい。
部屋は広いから、ひとつベッドを動かして「寝室」に三台ベッドをくっつけて並べることにした。キングサイズのベッドみたいだ。ただし、布団が必要だな。
それから水回りだ。
まず家の外にセラミックで給水タンクを作り、そこから土管をつないでかまどのあるキッチンと、厠の手洗いに引けるようにした。タンクには定期的にリナに水魔法で純粋な水を作りだしてもらい貯めることにする。
森の中の小川から水を引くことも考えたが、どの程度きれいな水なのかまだよくわからないからな。
排水は土管で小川まで流せるようにした。この小川は村の方向には流れてないから問題ないだろう。
ただし、トイレの汚水は直接川に流すのはちょっとまずい気がするから、くみ取りに来てくれる農家用の汚水槽を家から離れた場所に作る。これはリナに地魔法を使って穴を掘ってもらい、そこにセラミック槽を埋め込む形にした。
そうそう、庭にもう一つセラミック槽を作る。そう、お風呂だ!
こっちの世界でも風呂に入れるようにしたいってのは、ずっと思ってたことだ。しかも混浴だ。
かなり頑張ってMPも残り少なくなってきた。
とりあえず昼過ぎには、Do It Yourselfは一段落して、あとは必要なものを買ってくることにする・・・
村庁舎のある通りには、八百屋や肉屋、衣類や雑貨に農具など、一通り各種の店があるようだ。カーミラがハアハアしてるのはもちろん遠くから肉屋の匂いを嗅ぎつけたからに違いない。
だが、傷みやすい食料は最後だ。冷蔵庫とかもないんだしな。
まず布団だ。ベッドはあったが布団はなかった。
衣類の店には寝具は置いてなかったが、少し離れたところに、布地そのものを売ってる店があり、そこに種類は限られていたが布団や毛布のようなものがあったので、とりあえず4セット購入した。
アイテムボックスに入るかな、と思ったが、荷車で届けてくれるというので頼むことにした。
ついでにタオルとか足拭きみたいなのとか、布地自体も何かと使いそうだとノルテが言うので縫い針や糸とかと一緒に買い込んだ。
それから、木工製品の店で衣類や食器を入れる棚とか、雑貨屋で燭台とろうそくとか、生活に必要なものを細々買い込む。
このへんもノルテがフンフン鼻歌交じりで楽しそうに選んで、俺はお金を払って配送を頼んだりアイテムボックスにしまうだけだった。ほんと助かった。家庭的な女子っていいよね。
そして食料だ。野菜と果物、卵に乳製品と、さすが王都の台所を支える村だけあって、新鮮そうで安くて種類も豊富だ。
傷みやすい肉類は最後になったが、肉屋に入った瞬間、カーミラの目が輝いた。
きらきらじゃない。ギラギラだ。よだれが垂れそうなので俺が必死に押さえてる間に、ノルテに購入してもらう。
この日の店主のおすすめは、ついさっきさばいたばかりだという鶏と羊だったので、どちらも俺だったら食べきるのに5人ずつ必要なぐらい買った。女子二人の食欲がハンパないからな。
すぐにでも食べたそうにしてるカーミラを見て、即食べられる調理済みの肉まんじゅうも3つ買った。こっちの世界は1日2食が基本だが、朝からDIYで疲れたし、MPも消耗したからな。
行儀悪いけど、それをぱくつきながら家に向かうとカーミラもすっかりご機嫌になった。
みんなでベッドメイクをしてる間に、リナには水魔法でタンクに給水してもらった。やっぱり魔法は便利だ。
きょうはもうお楽しみモードに入りたい気分だけど、そうもいかない。
なにしろ明日から迷宮討伐が始まるから、その前に戦力としてのカーミラを確かめておかないと。
みんなの本来の武器に形を似せて、練習用にセラミックの模擬剣やダガーを作りだした。硬化させず、まわりは粘土でかためて、大けがしないようにね。
そして裏庭で、戦士モードのリナを相手に立ち会わせてみる。“寸止め”ってのをカーミラに教えるのに時間がかかった。
でも、模擬戦は一瞬だった。
「はじめ!」と、俺が合図した途端にカーミラがリナに飛びかかって、馬乗りになってた。
なにが起きたのかほとんどわからなかった。
女戦士モードのリナはLV1とは言え、ザグーやセシリーに鍛えられて剣の筋はいいはずだが、ダガーを剣で受けたと思った瞬間に回り込まれて、後ろから押し倒されたらしい。
ノルテもすばしっこいが、カーミラはそれ以上に速い。
その後ノルテと俺も順番にカーミラと立ち会ってみたが、俺なんか一応LV16だし、剣技(LV3)も持ってるのに防戦一方だった。単純なレベルじゃ実力は測れない、って痛感するな。
試しに3対1でやってみたら、ようやく捉えた、と思った瞬間にカーミラが消えてしまった。隠身スキルを使ったようで、こっちは察知と地図スキルがあるから、なんとか見失わないものの、それだってカーミラを知ってるから出来ることだ。
初見の相手が隠身を発揮してるカーミラを見つけるのは、簡単にはできないだろう。
人狼にはジョブがないんだけど、スカウトとか忍びみたいなスキルを持ってるし、それでいて戦闘力も高いし、敵に回したら大変な相手だと思う。
魔法抜きでカーミラと実戦練習をするのは大変なので、粘土スキルに頼ることにした。
自走車を作った時から考えてたんだが、“自動で動く”を使って、ゴーレムと言うかロボット兵みたいなのが出来ないかと思ったんだ。
関節ごとに別パーツをイメージして、粘土の脚、胴、腕、頭部、と創り出していく。カーミラもノルテも、興味津々だ。
身長3メートルぐらい。俺のイメージ力が足りないのか、子供の頃見たロボットアニメみたいに考えてたのが、できあがったのはハニワみたいな感じになっちまった。
まあいい、形はそこまでこだわりはない。
「歩け」とか命令して動かしながら、スムーズにいかないところを修正していく。
「よし、カーミラ、こいつと戦ってみろ。今度は全力で倒すつもりでいい」
ノルテも、リナまで注目してる。
ハニワゴーレムは動きは遅いけど、体重は多分1トンぐらいあるから一発殴られたら吹っ飛んじまうレベルだと思う。
カーミラはふんふん匂いを嗅いで警戒しながら、背後から飛びかかってダガーを突き立てたり噛みついたりするが、ほとんど効いてない。だが、ゴーレムのパンチを食らったりもしないが、捕まれたら終わり、だからヒットアンドアウェーに徹して、なかなか決め手がない。
将棋で言う千日手模様だったし、俺のMP的にそろそろキツイので、練習は切り上げることにした。
ただ、カーミラは身を挺してみんなの盾になる、っていう発想は無いし、動き回ることが長所になるタイプだから、前衛ではあっても「壁役」じゃない。このハニワゴーレムは壁役として使えるかもしれないな。
練習台だけってのはもったいない働きをしたので、作ったのを消さずに、“とっておく”で収納した。これなら明日出すときにMPをほとんど使わないからね。
その時、カーミラが急に鼻を鳴らして、警戒心をあらわにした。
「どうした?」
「くさいのいる。小さい魔物、カーミラより弱いよ」
慌てて俺も察知してみる。確かに近くの森の中に気配がある。
「2つか3つぐらいか?」
「3匹、あっち」
カーミラの方が正確なようだ。
「案内出来るか?」
「できる、あるじ、カーミラついてきて」
そう言うと、ぱっと消えそうになるので、その前に慌ててパーティー編成する。
これでカーミラが隠身を使っても地図スキルで把握出来るし、リナやノルテにもわかるようになる。
カーミラは素早く森の中に消えていった。“追跡”というスキルを使っているのか、動きに全く迷いがない。
カーミラが相手を把握したらしく、赤い小さな光点が地図上に3つ浮かぶが、すぐに一つが消え、残り二つは追い立てられるようにこっちに向かってくる。
「来るぞ」
合図してすぐ、茂みからオニウサギが2匹飛び出してきた。オスメス一匹ずつか。戦士モードのリナに刃の鋭い本来の剣を渡すと、見事に一匹を仕留めた。もう一匹はノルテが模擬戦用のハンマーで殴りつけて倒した。
カーミラが自分が仕留めた一匹を嬉しそうにぶら下げて戻ってきた。
口にくわえるんでなく手に持ってる点はいいが、「ごはん、肉とったー」ってのはちょっとな。
「カーミラ、それは食べない、魔石に換えるから」
と言うと、すごく悲しそうな目をする。
「あるじ、食べないか?カーミラ食べたい」
「リナ、一匹ぐらいなら大丈夫かな?」
「・・・まあ、いいんじゃないかな」
カーミラの表情がパッと明るくなった。
そういえば、ベスが前に、魔物の肉は少量なら精力がつくから人気だ、とか言ってたよな・・・
残る二匹のオニウサギは、僧侶モードにしたリナに浄化させた。なるべく僧侶のレベルを上げたいので、パーティー編成を解いてリナだけに経験値が入るようにする。まあ、浄化だけだと知れた量だと思うが。
しかし、迷宮以外のオニウサギの巣は大体駆除したはずなのに、まだ完全じゃないのか?
家のまわりに魔物が出るってのはいただけないから、これも、そのうちちゃんと調べてみよう。
朝からたっぷり働いた。
あとはもちろん、「ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・」タイムだ!




