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第83話 狼少女ふたたび

オザック村を後にした俺たちは、ギルドへの報告と迷宮発見の報奨金をもらうため、王都に戻ることにした。粘土遊びスキルLV10で新たに得た能力で、自動運転車みたいな乗り物を作ることができるようになった。

 セラミックの“自動運転車”は、かなり使えそうだ。


 オザック村から王都までの5kmぐらいなら、気分が悪くなるほどMPを消耗することも無かった。今後、遠くに旅をするとか一日中走らせるなんてことは、まだ出来るかどうかわからないが、いざって時は馬より早く移動することもできそうだった。


 課題は二つ。乗り心地がよくないってのと、人に見られると悪目立ちするってことだな。王都に向かう途中、人が近づいてくるのを二度察知して、その時はいったん降りて“とっておく”スキルで収納して歩いた。


 冒険者ギルドに着いたら、またアトネスク副ギルド長の所に呼ばれた。きょうは殿下と呼ばれていたギルド長はいないようだ。やっぱり宮様は“名誉総裁”みたいな感じで、普段はアトネスクが仕切ってるんだろうか。


 俺の話を聞き終えたアトネスクは、先ほど内務省に呼ばれて、オザックの迷宮は「オープン化」して冒険者に委ねる、との方針を伝えられたと、あっさり教えてくれた。


「まだ細部の条件を詰めているから、クエスト掲示板に告知するのは明日かあさってになると思うが、シローは当事者だからな、先に話しておいてもよかろう。もし討伐に参加する気があれば優先的に受け付けるが?」


 冒険者として迷宮で稼ぐ、っていうのは考えてたことだから、参加させてもらうことにした。

 そうなると、やっぱりパーティー戦力アップは必須だな。


 俺の頭に浮かんだのは、4日前に奴隷商人の所で見た戦闘奴隷だった。

 

 あのいかつい男たちは問題外だ。俺が普段一緒に暮らす自信はとてもない。

 あの狼も論外だ、食われちまったら元も子もない。でも、ひょっとしたら美人で性格がよくてしかも戦力になるような奴隷がいるかもしれない。一度見に行くか?


 ただ、俺自身が戦闘奴隷だったわけだが、いくらぐらいで手に入れられるのか、相場がまるでわからない。


 腰の革袋に戻していたリナ人形に聞いてみると、前に来たとき、ギルド1階の掲示板に、奴隷の売買情報も少し載っていたはず、と言う。GJだ。

 階段を降りて見てみると、というかリナに見てもらうと、たしかに幾つか載っていた。


『譲ります』

◆“アラドの百人斬り”戦士LV13 斧技LV5

     小金貨25枚

◆“忍び寄る幽鬼”スカウトスキル持ちLV8

     小金貨16枚

    

 どっちもキャッチコピーからヤバすぎる、


◆“クエストにも夜のお供にも” 女僧侶LV3

     小金貨20枚、応相談、まずはご連絡を


 僧侶は役に立ちそうだけど、レベルが低いし、年齢とか容姿とか不明だしな。でも相場は小金貨20枚、つまり大金貨でちょうど1枚前後、レベルが高い方が当然高め、ってことかな。

 売る方がいれば買う方もいる。


『譲って下さい』

■戦闘可能な魔法使い 

     小金貨20枚まで

■「隠身」「罠解除」スキル持ちの奴隷求ム

     金額相談 連絡は○○気付ニテ


 上はともかく、下は犯罪臭がプンプンするけど、いいのか?


 わかったのは、今の持ち金じゃ戦力になるような奴隷を手に入れるのは難しいってことだ。今は全財産で小金貨20枚もないからな。


 やっぱり期待したいのは迷宮発見の報奨金だ。ちょうど午後になったし、もらいに行こう。小金貨何枚かでももらえるとかなり楽になる。


***********************


 王宮の衛兵に内務省に行きたいというと、ギルドカードとステータス開示のダブルでチェックされたが、そう待たされずに通してもらえた。

 入構者の扱いは平民と貴族で完全に分けられていて、平民の方は長い列ができていた。俺は形ばかりでも騎士身分と言うことで、簡単に通してもらえて、ちょっと悪い気がする。カレーナが言ってた通り、すごく助かってるよな。


 内務省の出納窓口でも、多少待たされはしたが、従者を連れた騎士ってことで特にうさんくさげには見られず、二人の職員が立ち会って、小さな木箱を持ってきた。

 箱の蓋に何か印が刻まれてて立派そうだ。


「これが公式な迷宮発見者に対する報奨になります。お確かめを、シロー卿」

 なんか儀式っぽい。

 蓋を開けると、あれだ、ゲンさんからもらった王国大金貨ってのが1枚入ってた。やった!大金貨ゲットだぜ。大金貨は小金貨20枚の価値だ。


 俺は顔が緩むのをこらえて重々しく頷き、差し出された受領証に、なんとか覚えた俺の名前をサインする。

 職員二人がそれを確認し一礼する。


 これで、今の財産は小金貨換算すると38枚ぐらいになるはずだ。日本円換算だと・・・3~400万円になる!人生で一番の金持ち期だ。

 今後の生活費とか、部屋を借りるなら家賃も考えなきゃいけないが、これで資金ができた。



 俺は、先日の奴隷商人をウドリオを訪ねてみた。


「ようこそおいで下さいました、シロー卿」

 やせぎすで人相の険しい男が、思い切り営業スマイルで迎えてくれた。きょうは、あのゴツい用心棒の姿が見えない。

 

「奴隷を見せてもらいたい。迷宮に入ることも考えてるんだが・・・」

「それはそれは、きっとご希望にそえる者がおりましょう」


 いいカモが来たと思われてそうだ。


 地下二階に降りると、先日見たゴツい用心棒はこっちにいた。

 痩せぎすのまだ小さな女の子が、牢の中の奴隷に食事というか、単なる黒パンと水だけだが、順番に与えている。その護衛あるいは見張りってことのようだ。

 女の子自身もおそらく奴隷なんだと思うが、小さな子供だからかジョブとかレベルは表示されない。


 階段の近くから、先に女奴隷が並んでいる。

 ジョブや特別なスキルも無いものが多いが、「奉仕」とか「性技」とかのスキルを持つ者もいる。戦闘系と言えるのは、かろうじて「21歳 戦士(LV2)」という大柄な女か。他に、「15歳 巫女(LV1)」という少女がいた。


「巫女って、どういうジョブなんだっけ?」

 俺が訊ねると、脈ありと思ったのか、ウドリオは大げさな身振りで説明を始めた。


「巫女は僧侶と同じく治療呪文を使えるようになるジョブですが、僧侶より少し成長が早い他、僧侶にはないスキルも覚えるとされています。また、必ず処女であることが条件のジョブですから、この娘ももちろん清い身です。お客様にはきっとお気に召していただけるでしょう・・・」

 僧侶と言えばカレーナだ。僧侶が処女ではないと言うことじゃなく、必要条件じゃないってことなんだろう。


「あれ?じゃあ巫女が処女でなくなると・・・」

「その場合は、僧侶にジョブチェンジすると言われておりますので、ご心配はいりません」

 なんか、この会話、俺がこの巫女少女を欲しがってるみたいじゃん?

 その少女の方もチラチラこっちを気にしてるし。ゴメン、そうじゃないから。こんな華奢な、しかもレベル1の女の子は、迷宮とか危険なクエストにはとても連れて行けそうにないし。


「他はどうかな?」

 俺が関心をなくしたように先に向かうと、少女はちょっと気落ちした様子だ。こんなひどい所から早く出たいよな、でも、奴隷をみんな引き取ったり出来るような力は俺にはないしどうしようもない。


 残念ながらその先は、例の凶悪そうな男奴隷たちだった。正直、あんまり目を合わせたくない。

 チラ見すると、戦士LV12とか、盗賊LV10とかが見えるけど、パスだパス。


 そうするともう最後に残ってるのはあの人狼になっちまうな・・・

 ちょうど、そこに食事の配給が行ったところだった。

「きゃあっ!」

 パンを差し込もうとした女の子が悲鳴を上げた。


「このけだものがっ!」

 ウォーンという野獣じみた叫びと男の怒声、そしてその手に握る鞭の鳴る激しい音が同時に響き渡った。


「これは申し訳ありません・・・もう望月を4日も過ぎたというのに」

 ウドリオが顔をしかめる。

 俺たちを止めたいようなそぶりを見せたが、構わず奥に進む。


 檻の中で四つん這いになって、フウゥーッとうなり声を上げている少女がいた。狼じゃないぞ?


<カーミラ 人狼 女 17歳 LV8

      /奴隷(隷属:ウドリオ)

   スキル 嗅覚      状態異常抵抗

       追跡      隠身

       HP回復(小) 察知

       地獄耳     格闘(LV2)

       短刀技(LV1)      >

      

 名前からするとこの前見た人狼のメスだと思うけど、きょうははっきり人間だ。

 こないだは、たしか「女」じゃなく「♀」って表示だった記憶があるぞ。人型になると変わるのか。

 でも、人狼にはジョブってないんだな。


 破れたボロ布を体にくっつけただけでほとんど裸同然だし、髪もばさばさで犬歯をむき出しにして・・・ただ、顔立ち自体は美形だ、こっちの世界に来てから見た中で1,2を争う美形かもしれない。とは言え、意思疎通さえ無理っぽいから、まさにお話にならないってやつだが。


 その狼少女?を奴隷男がビシビシ鞭で叩いて大人しくさせようとしているが、半分以上かわしてるぞ、すごい身のこなしだ。とは言え、むき出しの肌に幾つも鞭の痕が残ってて痛々しい。


 俺がそう思って見つめてると、結構離れてたのにこっちを向いた。目が合ったと思うのは多分気のせいじゃない。

 また先日みたいに、ふんふん鼻を鳴らしてる。じいっと見てる。でも、ほんの一瞬、“連れ出して”って言ったように見えたのは、もちろん気のせいだろう。そもそも言葉をしゃべってる所を見たことないし・・・


 ウドリオに促されて、俺たちは地下一階に戻った。


「いかがでしたか?あの戦士などは某国の兵士出身の戦争捕虜で実戦経験も豊富です。今なら特別に、小金貨30枚に勉強させていただきますが」


 あのLV12の戦士か、怖そうでよく見てないな。俺がなにも返せずにいると、角度を変えてきた。

「あるいは後衛のタイプをお探しですか?でしたらあの巫女の娘などは?」


「あの娘はいくらなんだ?」

 なんか言わなきゃ、と思って一応聞いてみるが、すごい悪い奴っぽいぞ俺。

「磨けば光る器量ですしなんと言っても清い身ですからそうそう手に入りませんが、お客様だけには特別に小金貨25枚でお譲りしましょう」


「でも、レベル1だよね?」

「すぐに実戦には厳しいかもしれませんが・・・即戦力という意味ではやはり先ほどの戦士が」

「いやいや・・・」

 なかなかいい人材っていないよな。


「では例えば・・・あの人狼の娘などにはご興味はおありですか?」

「ああ、あれって、前来た時に思いっきり狼だったやつだよね?」

「・・・はい」

 まずい所を見られたって顔だ。


「俺、ぺろっと食べられちゃったりしそうだけど?」

「いやいや、そのようなことは決して! そもそも人狼が狼化してしまうのは満月の前後だけですし、その時は厳重な檻に入れておけば問題ありませんし・・・」

 やっぱり危険じゃん。檻とか持ってないし。


「人狼はレベル以上に戦闘能力も高く、種族固有スキルもあって前衛要員にはうってつけです。上級冒険者のパーティーが運良く捕らえたレアもので、本来なら市場で高く売れる希少種なのですよ」

「じゃあ、どうして売れ残ってんの?」


 ウドリオがちょっと迷ったようだが、口を開いた。

「紀元祭にあわせ全土から商人が集まって大きな市が開かれたのですが、その日はちょうど、ああいう有様でしたので、競りにかけることができなかったのです。ただ、本来なら小金貨40枚の値が付いてもおかしくない素材ですよ。そこを特別に今だけ勉強いたしますので・・・」


 とは言っても、ウドリオって「ふっかけ」とか、ヤバそうなスキルを色々持ってるようだから気をつけないとな。

「そんなに金の持ち合わせもないし・・・」

「でしたら、小金貨30枚でいかがでしょう。何でしたら反抗できないよう、誓約魔法もサービスでかけさせることもできます」


 小金貨30枚ならなんとか出せる額だが、今後のこともあるからな。

「まあ、ちょっとよそもあたってみるから、また来るよ」


「では、25枚で!これが限界です・・・」

 ここまで売却を急ぐってなんだろう?あんだけ暴れたり吠えたりしてたら、まわりの奴隷もオチオチ寝られないとか、エサ代がすごくかかるとか・・・


「・・・もう一度、そばで見てもいいかな?」

「は、どうぞどうぞ」


 そして、みたび俺はカーミラの檻に近寄った。

 カーミラは俺が近づく前からわかってたみたいに、四つん這いのまま檻にくっついてハァハァ言ってる。

 ノルテは怖がって離れて見てる。それが当然だよな、でもちょっと確かめてみたい。

「中に入れてくれる?」

「それは、きけ・・・」

「危険すぎるようなら、買い取ってパーティー組んだりできないんじゃ?」

「それはそうですが・・・」


 男の奴隷が鞭を持って、気が進まなさそうに扉のかんぬきを開けた。

 カーミラと目をあわせて決してそらさないようにしながら、静かに中に入る。猛獣は目をそらした途端に襲ってくる、ってのは俗説だっけ?


 後ろでいつでも鞭を振り下ろせるよう、奴隷男が構えてるが、中に入ろうとはしない。ノルテが覚悟を決めたみたいに檻のすぐ外に来て、見つめてる。

 

「カーミラ、俺はシローって言うんだ、俺の言うことがわかるか?」

 そっと、手を伸ばす。カーミラがふんふん鼻を鳴らして、匂いを嗅いでる。


「俺、お前を買ってもいいかな?」

 ・・・我ながらすごいセリフだ。でも、これは賭けだ。


 手の臭いを嗅いでいた動きが止まった。

 こくん、と狼少女が首を縦に振った。

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