第82話 転職相談
新たな迷宮を発見した俺は、今後のためにパーティーの戦力強化を考えていた。
リナのことをすっかり忘れてた。
昨夜はノルテと寝落ちするまで楽しんで、目が覚めてからもノルテのステータスに注目してたからな、ボディーラインにじゃないよ。
“お家に帰る”で召喚する。
「あら、おはよう、捨てた女になにかまだ用かしら?」
捨てても拾ってもいねえよ。そんな芸風、どこで覚えた?
「い、いや、リナのステータスもアップしたかなー、とか・・・」
「もちろん、そちらのロリ巨乳さんとは比較にもならない未熟な体でよかったら、いくらガン見してもいいのよ?」
「・・・ごめん、放っておいて」
こういう戦いに勝てるスキルは俺にはない、降参だ。
「・・・まったくなにこの放置プレイ? ノルテが帰ってこないなぁ、と思ったらあんなことやこんなことを。言っとくけどあんたの頭に浮かんだことは、念話でリナには筒抜けだからね?」
うわ・・・エロ事自動中継っ、考えたくないぞ。
気を取り直して、リナをネグリジェから魔女っ子に変え、ステータスを見てみた。
『リナ - 魔法使い(LV7)
呪文 火 水 地 風 盾 遠話 麻痺』
レベル7まで上がってる。これでかなり戦術の幅が広がるな。
リナも一人とカウントしてノルテと三人で経験値を割ってると考えると、リナのレベルの上がり方は、ベスの時より明らかに速い気がする。俺と同様「成長率二倍」って女神サマの恩恵があるんじゃないだろうか。
経験値は一人分消費されるにしても、自由にジョブを変えられるのはやっぱりすごいメリットだ。
僧侶の方はレベル2のままで上がっていない。僧侶モードは浄化の時ぐらいしか使っていないからな。カレーナが以前、魔物を倒した時の1割ぐらいの経験値だと言ってたし。
“癒やし”が使えるようになったのは、みんなの命を守る上ですごく大きいけど、先のことを考えると、リナを今後どのジョブメインで育てるかとかも、よく考えないと・・・それは俺のジョブやスキルの取り方とも関係してくるな。
旅籠の食堂で朝食を取りながら、リナに夢の中で見たジョブやスキルのことを相談してみることにした。
リナは食事の必要はないから、フルーツジュースを飲んでるフリだけしながら、でも体内に消えてくように見えるのが不思議だが・・・色々教えてもらう。
ジョブチェンジには、基本的にレベル10以上になってること、上級職などでは15や20以上が必要な場合もあるらしい。また、ジョブチェンジには限度があり、せいぜい2,3回しか出来ないらしい。
そして、ジョブチェンジでレベルが下がると、「力」とか「速さ」みたいな特性数値は、やはり目に見えないけれど低下するそうだ。
だから、上級職へのチェンジでもレベル1とかになると総合力は一時的に落ちる。
そういう意味でも、色んな能力を得ようと何度も転職しようとは考えない方がいいようだな。
ノルテも関心があるのか真剣に聞いてる。
「俺がジョブチェンジするとしたら、どうなんだろう?上級職では『忍び』になれるみたいだけど、パーティーの戦力を考えたら、俺もなにか呪文とか使えた方がいい気もする。『錬金術師』ってジョブもあったけど魔法使いとはどう違うんだ?」
「錬金術師はね、魔法使いに似てるけど僧侶みたいな治療魔法も少し使える。ただ魔法の威力とかは同レベルの魔法使いや僧侶より低め。最上級職のひとつ『賢者』は魔法使いと僧侶の上位互換的だけど、錬金術師はそもそも上級職じゃないからね」
中途半端ってことか?だとすると素直に魔法使いとかになった方がマシか。
「ただ、錬金術師の最大の長所は“魔法の呪文じゃない”ってこと。一種のスキルとして呪文に似た効果が得られるから、例えば“静謐”がかかってても使える。粘土スキルみたいな感じね」
なるほど、そういうメリットがあるなら、やっぱり候補の一つではあるな。上級職はどうなんだろう?
「まだジョブチェンジせずに、レベル20とかその上まで冒険者で頑張るメリットもあるかな?」
「それもありだよ。気づいたと思うけど、『魔法職』『上級職』を取るのにそれぞれスキルポイントが5SPずつ必要だから、10SPたまれば、『魔法職』の『上級職』に直接なれる。例えばロードとか魔法戦士とかね」
うすうすそんな気がしてた。
多分、魔法使いから魔法戦士とかはもっと簡単にチェンジできるんだろうけど、関係のない?冒険者から魔法の使える上級職になるのは大変なんだ。つくづく俺、スタートで恵まれてないよな。
けど、SPを10溜めるには計算上レベル22までかかるはずだ。レベル20の時は何かのスキルをもらえる分、残りSPは増えないはずだからな。
レベル22まであげるのは大変だ・・・いっそ今、5SP使って経験値倍増を取りたいが、そうするとSPを10貯めるのはさらに困難になるし・・・
「結局、どうしたらいいんだ? リナ先生のオススメをよろ」
「それはダメ」
ぴしゃっと言われた。
「リナが持ってる知識は教えられる、アドバイスも許される範囲でしてあげる。でもね、シローの二度目の人生を選ぶのは、シローだけの責任なんだよ」
なんだかJCに説教されてるみたいだけど、きっとその通りなんだよな。
リナは神様とかこの世界のシステム管理者みたいな存在と、なんらかの意味でつながってる気がする。
どうせ一度死んだんだし、思い切ってやりたいことを選ぶのもありだよな、ってあらためて思った。
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村を出る前に、ハメット村長にもう一度挨拶に寄った。
既に朝イチで王都からサルガドたちが転移してきて、迷宮討伐のためのインフラ整備をするようにと、内務省の指示を伝えていったそうだ。
明言はされてないものの、国軍が直接討伐するのではなく冒険者とかに討伐させる方向じゃないか、というのがハメットさんの見立てだった。
俺は前にギルドで、王都の城壁内に住居を構えるより郊外の方が安い、って話を聞いたのを思い出して、オザック村に部屋を借りることはできるか聞いてみた。
「シローさんなら歓迎ですけど、うちは農村なんで王都のような部屋貸しというのはあまり聞きませんね。古民家とか小屋のようなところでよかったら、安く借りられるかと思いますが」
興味があれば住民生活担当の部署に話しておく、と言ってくれたので、検討させてもらうことにする。
そして、今度は自分たちの足で王都に戻る。ギルドに報告しなくちゃいけないからだ。
やっぱり、転移魔法が使える仲間が欲しい。それかトリウマとかを買うかな、でも普段の飼育とかが大変そうだ。俺、ペットを飼ったこともないんだよな。
そういえば、粘土スキルがLV10でカンストしたけど、なにが出来るようになったか確認してなかった。
歩きながら、ステータス画面を浮かべてタッチすると、「自動で動く」ってのが加わってた。最後に加わった能力がこれか、強力なんだろうか?
LV9で「動かせる」てのが加わって、迷宮で舟や車両もどきを使ったけど、自分でMP消費しながら細かく動かさなきゃいけないのが結構たいへんだった。それが「自動で」動かせるってことか?
足を止めて、ノルテが「?」を浮かべてる前で、昨日乗せてもらった村長の二人乗り馬車を、ただし馬と御者ぬきで、イメージして見る。
だいたいこんな感じか。
セラミックの車輪4つ、セラミックの四角い台車に簡単な二人がけの椅子と、その前には御者席だ。御者席はいらなかったか。
「ご主人様がこれを?すごいです」
そういやノルテにはまだ見せてなかったか。
俺は先に馬車もどきに乗り込んで、手を引いて二人がけの椅子に座らせる。
「動け」
声に出していって見る。大事なのは脳内で具体的なイメージを浮かべることなんだけどね。
ゆっくり車輪が回り出す。
「王都まで街道をはずれずに進め、ひとがジョギングするぐらいの速度で」
これも声に出すことで具体的にイメージする・・・動いてる。
思考を止めて別のことを考えてみる、昨日のノルテとか・・・いやいやそういうことじゃなくて、うん、大丈夫、馬車は止まってないぞ、そのまま進んでる。これは、いけてるのか。馬車じゃなく、もはや自動運転車だな。
「すごい、魔法?じゃなくて、ご主人様の粘土のスキルですか?」
「うん、まだどれぐらいのことが出来るかはっきりしないから、試してみたい」
「はい、楽ちんですね」
好評だ、よしよし、あとはMP消費がどれぐらいか、だな。
このペースなら王都までは15分か20分ぐらいで行けそうだが、歩いたりジョギングするより疲れるようじゃ、本末転倒だからね。
二の月の風はちょっと冷たいが、異世界ドライブへGOだ。




