第81話 戦力強化
王都の調査隊に、発見した迷宮を案内して確認してもらった。
きょう何度も通った森の中を抜けて、オザック村の庁舎に帰り着いた時には、もう日が暮れる間際になっていた。
ハメット村長も馬車で戻ってきているようだ。
「シロー卿、お疲れ様でした。調査の皆さんは?」
「先ほど、迷宮の入口から直接転移して帰りました・・・」
俺は、迷宮であることを中に入って確認したこと、すぐに王都に報告すると言っていたことを伝えた。
状況がはっきりしたことで村長もとりあえず安心したようだ。
「ありがとうございます。そうすると、国軍が動くかギルドに依頼を出すかはわかりませんが、かなりの人員が村に来られることになりますね。受け入れ体制を考えないと・・・」
なるほどな。迷宮討伐にはそれなりの人数が動くことになるから、宿泊とか食料・物資の供給とか、受け入れ側で考えなくちゃいけないことも色々あるんだ。
「・・・あの、もう日が暮れちゃうんで、今夜も旅籠に泊めてもらっていいですか?」
そんな考え事に耽り始めたハメットさんにそう切り出すと、慌てた様子で頷いた。
「もちろんです、今回は本当にありがとうございました。それに、依頼の報酬もお支払いしないと・・・」
お待ちかねのお時間です。ま、このクエストの報酬は安いけど。
ハメット村長が隣りの大部屋で仕事をしていた出納係らしい男に声をかけると、しばらくして、男が革袋を持ってきた。
ずっしり重みはあるけど、中身は銀貨だからね。このクエストの報酬は銀貨50枚、小金貨に換算すると2枚半にすぎない。日本円だと、どうだろう?20万円ぐらいかな?もちろん2日間の仕事で得た収入としては安くはないよ、こっちの世界の庶民なら月収以上だろう。
でも、ノルテが大けがをしたり、命の危険と引き替えの冒険者の仕事としては、決して高収入とは言えないよな。
今回は最初のクエストだから、わかってて取ったわけだけど、やっぱりこの世界で思い描いてるようないい暮らしを実現しようとしたら、もっとわりのいい仕事をする必要がある。
とは言え、きょうは長い一日だった。旅籠で夕飯を食って寝よう、考えるのはまた今度だ。
俺は村長に挨拶して庁舎を出た。
旅籠の食堂では今夜もたっぷりうまい料理が出た。これは村の名物って言っていい。そして、亭主おすすめの麦酒も堪能した。仕事を終えた後の一杯が喉にしみる、すっかりおっさんだ。
気がつくとノルテも飲んでるけど、いいのか?16歳だよね、いやこっちでは年齢制限ないのか、そもそも俺だって19だから現代日本的には本当はアウトだけど。
「あ、すみません、勝手にわたしまで・・・」
赤くなってるが、全然酔ってるわけじゃない。そういえばドワーフは大酒飲み、なんて設定がゲームやファンタジー小説の世界にはあるよな。ハーフドワーフの女の子もそうなのか?・・・飲み比べしたりはしないぞ。
しっかり働いて飲んで食べて、あとは寝るだけかってところで部屋に向かい、そうだった・・・ここの旅籠は二部屋とってくれちゃってるから、俺は一人部屋だ。うん、寂しくなんかないよ、きょうは疲れたし。
その時コンコン扉が鳴って、ノルテがお湯の布を持って入ってきた。
「あの、体を拭くお湯をお持ちしました」
そう言ってもじもじしてる。
「昨日はおつとめしてませんし・・・」
疲れてなんかいないよ、うん。お互いにきれいにしよう、せっかく広い部屋だし・・・
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久しぶりに夢の中であのレベルアップ空間が現れた。
数字がゆっくり動き「16」になる。
さらに、“粘土遊び”のスキルもついにLV10になった。さんざん使いまくったからな。
それだけじゃなく、きょうはステータスのいくつかの部分に光が灯っているみたいだ。例えば・・・
『スキル 残りポイント5』
残りポイントがまた1つ増えた。レベルアップしたからだな。
スキルの表示をタッチすると、色々浮かび上がった。
黄色い太い文字で浮かんだのが、
『経験値倍増』『HP回復』『MP回復』『上級職』『魔法職』の5つ。経験値倍増とかはわかるが、上級職とか魔法職ってのはどういうことだ?ジョブチェンジできる、ってことか。どれも強力そうなスキル?だな。
その下に白くそれよりは細い文字で浮かんだのは、いっぱいある。
『筋力増加(小)』『速さ増加(小)』・・・こっちはそれぞれの能力値をちょっとかさ上げするとか、そういうのかな。
ためしに白い方を触ると、文字が点灯して代わりにスキルの残りポイントが1つ減って4になる。二度続けて早押しすると、『力増加(中)』とかに変わるが、残りポイントは一気に2に減った。それ以上は反応しない。これはつまり、1+2+4とか、より強化しようとすると累進的に必要ポイントが増えるってことかもしれないな。
いったんキャンセルして黄色い文字をタッチすると、こっちは一気に残りポイントが0になった。
つまり、白い方は1ポイントで上げられるスキル、黄色い方は5ポイント消費するスキルってことだ。だから黄色い方は強力そうなのが並んでるわけか。
いったんスキルの部分を離れ、他に点灯しているところを試すことにした。
ジョブの『冒険者』って部分も点灯している。これはジョブチェンジできるってことか?
触れてみると・・・
『ジョブチェンジ:スカウト 戦士 騎士 商人 薬師 文民 ・・・・』
と、かなりずらずら浮かんだ。ただ、今度はスカウトから騎士までは黄色く、それ以降は白い文字だ。
これはどういう意味だろう?
試しに、スカウトの表示に触れると、『スカウト(LV8)』と表示が変わった。
なぜレベル8なんだ?そうだ、前に聞いたっけ、基本的に今のレベルの半分になるとか・・・じゃあ、他の白い文字のジョブはどうなんだ?
今度は、商人の表示に触れてみる。すると、『商人(LV1)』と変わった。
こっちはレベル1なのか?商人の方が難しいジョブなのか?いや、ちがうだろう。多分これは、今冒険者である俺の適性が生きるジョブかどうかなんじゃないか。
だが、よく知ってるジョブの中で、魔法使いとか僧侶とかは見当たらないな。
もしかして?
俺は、スキルの方にあった『魔法職』ってボタンを思い出した。
スキルポイントを残りゼロにして、『魔法職』のボタンを押す。
それからジョブチェンジ画面に戻ると、やっぱりそうだ、『僧侶 魔法使い 錬金術師』って3つが白い文字で加わっていた。
魔法が使えるジョブになるのは、なかなか大変だってことだな。スキルポイントを5ポイントも使った上で、レベルは1に戻っちまうんだからな。
次は、スキルポイントを魔法職でなく『上級職』って方につぎ込んで見る。
すると、ジョブリストには『忍び』と白字で加わっていた。タッチしてみると、レベル1の忍びに転職できるようだ。
ヨナスの活躍ぶりを見たから、ちょっとひかれるな。だが、それぞれのジョブの特徴はこれだけだとよくわからないな・・・
そんなことを考えて、結局何も決められずにいるうちに、俺の意識はまた眠りに落ちていってしまった。
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「おはようございます、ご主人様」
目覚めると、ノルテのくりくりした瞳がそこにあった。腕枕してたらしい。誰だこのリア充?俺のはずはない、こっちが夢に違いない。
だからしゃべったら消えるはずだ、と思いながら、おそるおそる
「おはよう、ノルテ」
と返してみる。まだ覚めないようだ、よくできてるな。
ノルテは下着姿だ、俺は裸のままだ、それはいいけど、いや、ノルテが下着姿なのも全然いいけど、今度なにかパジャマとかネグリジェとかネグリジェとかネグリジェとかを買ってやらなくては・・・ご主人様の務めだこれは。
旅着を着込み出したノルテのボンキュッボンなボディーラインに目を向けていると、意識しないのにステータスが浮かぶ。
<ノルテ - 女 16歳 鍛冶師(LV4)
スキル 鍛冶(LV1)
工芸(LV2)
料理(LV2)
御者(LV1)
鎚技(LV3)
筋力増加(小)
HP増加(小) >
レベルが上がってる。そして、鎚技ってスキルも上がってるな。これはハンマーで魔物を大量に倒したからか。やっぱり当面、スキルのあるハンマーをノルテの武器として使っていくのがよさそうだ。
しかし、鍛冶師ってジョブで、鍛冶仕事ではなく魔物と戦ってもレベルが上がるってのはやっぱり不思議だよな。まあ、鍛冶スキル自体は上がってないから、これで仕事が上達するわけではないってことだろうけど。
でも、鍛冶師レベル4って、どれぐらいの戦力なんだろう?
戦士LV4とかなら、スクタリの仲間たちのイメージでなんとなくつかめるんだが・・・
昨日少し考えたように、今後もっとわりのよさそうなクエスト、例えば迷宮討伐とかに挑むなら、いきなり6人とは言わないが、もうちょっとパーティーを増強したいな。
もちろんメンバーは美人限定だ。それは必須だ。せっかく一度死んで転生したんだし、ハーレムは男の夢だ・・・いや、もちろん戦力増強のためだ。
「・・・あのさ、ノルテ」
俺は、思い切って聞いてみることにした。
「はい?ご主人様」
愛し合った後だからか、地味な旅装に着替えても何だかかわいく見える。
「俺は冒険者として、これからもっと大きな仕事をしようと思ってる。そのためにはパーティーの戦力強化が必要だ」
「はい」
「ノルテの成長ももちろんあてにしてる。そしてメンバーも増やしていこうと思ってるが、大丈夫か?」
「え?もちろんです。ご主人様のお考えに従います」
それが美女や美少女でも、問題ないはずだ。うん、まったく問題ない。
ノルテだって十分かわいいし、メンバーが増えても変わらずかわいがってやらなくちゃな・・・俺はそう心に決めた。




