表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/503

第80話 王都への報告

オザック村に出没する魔物を追跡した俺たちは、森の奥に新たな迷宮らしきものを見つけてしまった。

「まことに迷宮なのか、単なる洞窟に多少の魔物が棲み着いておっただけでは?」


 何度目かの質問に、俺とハメット村長がイライラを押し隠しながら説明を繰り返す。


 あのあと、俺は迷宮の入口を粘土スキルで封じてから急いで村庁舎に向かい、ハメット村長に見たままを伝えた。


 “村の責任者として直接この目で確かめないと”と言うのはもっともだったので、ハメットさんとガザックの二人を連れて再び迷宮の入口まで行き、封印した粘土を片付けた。


 察知と地図スキルで俺にはあらかじめわかっていたが、中から出て来たコボルドに、二人は絶句していた。オニウサギや魔猪といった獣に近いものだけならともかく、コボルドとなると低レベルとは言え紛れもない魔物そのものだ。


 逃がさないよう外側にもう一重、粘土壁を作っておき、二人に確認してもらってから、リナの魔法と俺の弓で攻撃した。珍しく矢が当たったけれど、結局魔物は迷宮に逃げ込んでしまい、俺はまた入口をできる限り分厚く粘土でふさいでおいた。


 穴を掘る魔物がいるからいずれは突破されてしまうけれど、少しでも時間を稼ぎたい。王都に報告して対処してもらうための時間だ。

 さすがに俺一人で迷宮討伐なんてできっこない。

 それにこれはこの地を治める者の役目のはずだし、もし冒険者として迷宮討伐のクエストを受けるなら、もっと戦力になるパーティーを組む必要があるだろう。


 ハメット村長も、明らかに村で対応できるレベルを越えた事態だということで、村長用の馬車を用意させ、俺も一緒に乗せてもらって王都に急行することになった。


 村長用の馬車は、一頭立てで御者一人に客席は2つしかないものだったので、ノルテにはリナと一緒にオザック村に残ってもらった。

 リナがいれば察知スキルで魔物に動きがあればわかるし、念話で俺と連絡も取れるからな。


 そうして、王都まで30分程でたどり着いて、最初はハメットさんの元々の職場らしい内務省の地方部と言うところに駆け込んだんだが、さすがはお役所、内務省内の別の部署やら軍務省の治安維持部やらなんやらにたらい回しにされ、何度も同じような説明をさせられている、というわけだ。


 夜中に起きてオニウサギを退治し、また夜明けから魔物討伐と迷宮の封印でHPもMPも使いまくってることもあって、ほんとに疲れてるし気力も萎えてる。ウツだ。どこかに引きこもって寝たい・・・


「シローさん、シロー卿、しっかりして下さい・・・」

 ハメットさんに呼びかけられて、われに返った。


 ようやく政府も調査員を派遣することになったそうだ。そりゃそうだろう。

 知られていない迷宮が本当に見つかったんだとしたら、放置しておいたらどんどん魔物が増えて、そこら中に広がっちまいかねない。さっさとしてくれよ。


 結局、担当は内務省調査部、と言うところになったそうだ。


 そもそも、俺たちが伝えた情報がガセで、単なる「村に魔物が出て荒らして困ってる」レベルの話なら、内務省地方部と村自体で対処すべき問題。

 でも、本当に未知の迷宮だった場合は、その規模や魔物のレベルによって、

  ①冒険者らに討伐依頼を出す

  ②その地域の治安を担当する貴族にゆだねる

  ③国軍が出動して直接討伐する

といった選択肢になるそうで、これは内務省の上の方が軍務省と協議して決めるらしい。


その判断のため内務省の調査部から人を出すから案内しろ、ってのが結論だと、俺の思考停止した頭にわかるように、ハメットさんがまとめてくれた。

えらいな、この人。


 で、半刻後に調査メンバーと合流することになったので、それまでに一度、冒険者ギルドに報告に行ってほしい、と頼まれた。

 たしかに、オザック村の魔物討伐は元々ギルドに来た依頼だったから、どうなったのかは俺が報告する義務があるんだな。ハメットさんはわずかな間に、ギルド長宛ての書面を用意してくれていた。


 初めて入った王城の中庭とかをゆっくり散歩でもしたいが、それはお預けと言うことで、俺は徒歩十分ほどの冒険者ギルドに向かった。昨日の朝、ここを出たのにもう随分前のことみたいだ。

 受付で事情を話してハメットさんの書面を渡すと、一人が階段を駆け上がっていき、すぐに最上階である4階に連れて行かれた。


 そこには一昨日の模擬戦で立会人をしたアトネスクだったかな、副ギルド長と、もう一人、思ったより若い貴族っぽい身なりの男がいた。これがギルド長か?


<ヤレス・カラジアーレ 男28歳 ロード(LV26)>

  

 ロードとしてはこれまで見た中で最高レベルだが、LV31魔導師のアトネスクよりレベルが下なんだな。ぱっと見、体格も普通だし特別な威圧感とかはないが、なんていうか“雅びな貴公子”風で俺とは無縁のタイプだ。


 アトネスクの方が先に口を開いた。

「シローだったな。先日は面白いものを見せてもらった」

 模擬戦のことだよな、これは。


「ちょうど、ヤレス殿下がおられる時でよかった」

 殿下だって?それって、王族とかってことか?


「初めて会うな、シローとやら。ギルド長のヤレス・カラジアーレだ。迷宮を見つけたとな?詳しく聞かせてくれ」

 俺はちょっと戸惑いながら、当初のクエストのことから迷宮に辿り着いて封印した話まで、かいつまんで話した。


 いつものことで、上手な説明じゃなかったと思うが、二人とも、特にヤレスの方は興味を引かれているようで、細かいことまであれこれ聞かれた。俺のスキルのことは、アトネスクに見られているから今更隠しても仕方がない。


「面白いな、冒険者というのは実に刺激的だ」

「殿下、恐れながら今は・・・」


「ああ、わかっているとも、アトネスク」

 なんて言うか、若君様とお守り役みたいな二人だな。

 若い王族がギルドの名誉総裁みたいな立場で、実質的に運営を担っているのがアトネスク、みたいな感じだろうか。


「この後、調査なのだね?」

「あ、はい、もうすぐ調査部だっけ、いえ、調査部です。そこの人を連れて案内しろ、と言われてます」

 

「ふむ、国軍の案件になる可能性もあるか・・・」

 少しつまらなさそうな顔になったぞ。アトネスクが後を引き取った。

「シロー、ご苦労だが調査の案内の任が済み次第、こちらにも報告を頼む。ギルドとしての対応も決めねばならぬのでな」


「それは構いませんけど、今回のクエストってどうなるんですか?」

 心配なのはそこだよ、クエストを完了したことにならないと報奨金ももらえないわけだよね?今のとこ無収入なんすけど。


 アトネスクがわかっている、とばかりに笑みを浮かべた。

「心配せんでいい。村長の手紙には、畑を荒らしていた魔物は討伐済みとも書かれておったから、これでクエストは成功だ。この後、もう一度オザックへ行くのだろう。その時に報奨金が払われるはずだ・・・それに」

 それに?


「迷宮を発見したことが確認されれば、国からずっと高額な報奨金が出るだろう」

 マジっすか!それを先に言ってよ、ウツになってる場合じゃないじゃん。


 ヤレスギルド長の方は、そんな俺の様子の変化がピンとこなかったようで、そりゃ、エライ人にはわからんのですよ、庶民の生活が。

「では、報告を楽しみにしているよ、精を出してくれたまえ」


***********************


 そのまま王宮敷地内の内務省にとんぼ返りすると、まもなくハメット村長が4人の男たちと一緒に部屋に入ってきた。

 そのひとりに見覚えがあった。


「ん、シローだったか? 今回の報告をした冒険者ってのはお前さんか」

 黒装束の意外に気さくな男は、スクタリの迷宮で模擬戦を戦った忍び、たしかヨナスだ。


「あれ、ヨナスのおっさん?もしかして、今回の調査に?」

「あら、ふたりはお知り合いでしたか」

 ハメットさんも驚いたようだ。そうか、巡検使の仕事も調査のひとつだよな。


 他の男たちもヨナスの同僚だそうで、互いに挨拶をした。

<サルガド・バイア 男 44歳 文民(LV21)>

<レンドロス    男 35歳 魔法使い(LV20)>

<マニテス     男 27歳 冒険者(LV17)>


 サルガドという男は戦闘系のジョブではないが、彼が調査班のリーダーで報告をまとめる立場らしい。

「レンドロスの転移でさっそく向かうことにしたい。マニテスのパーティーに入ってくれ」


 そろそろ夕暮れだが、一刻を争う、ということらしい。

 だから、役所のたらい回しなんてさせなきゃいいのにね。


 レンドロスという魔法使いは、王都近辺のほとんどの街や村に一度は足を運んで転移できるようにしているという。そういう仕事を専らにする転移呪文使いが、王都には沢山いるみたいだ。こっちの世界の高速鉄道とか定期航空便だな。

 パーティー編成は俺にもできるから、別に冒険者を連れてく必要はないんだが、そこは素直に従うことにした。

 

 ハメット村長は行政上の手続きなどがまだあるそうで、後で馬車で帰るらしい。


 編成を終えると、すぐにレンドロスが転移呪文を唱え、俺たちはオザック村庁舎の前に現れた。

 なるほど、各地の庁舎に飛べるようにしてるんだ。ここからは森を抜けて歩かなくちゃならないが。

 

 リナを念話で呼ぶと、すぐにノルテと二人で庁舎の中から出てきた。ここで待ってたんだな。

 二人を調査班に紹介し、封印しておいた迷宮に向かう。リナに顔を焼かれた記憶があるヨナスも、苦笑いしながら普通に挨拶していた。


 村の耕作地を離れ、森に入ると、うっすら魔物の気配がある。地図スキルで確認すると迷宮の方角だが、迷宮の外のようだ。あまりよくないね、これは。


「魔物がうろついているな」

 ヨナスは当然のように気づいていたが、文官のサルガドは緊張した面持ちだ。

「うん、けさ、粘土をたっぷり詰めて封印してきたんだけど、穴掘りが得意な魔物がいたから、破って出てきてるのかも」


 そのまま警戒しながら迷宮の入口に辿り着くと、案の定、粘土の壁に子供ぐらいなら通れそうな穴が開いている。

「けど、これなら大物は外に出てないよね?」

「ああ、オニウサギが2匹だ」

 ヨナスにはそこまでわかってるんだ。さすがだな。


「どうするかね?ヨナス」

 サルガドが訊ねる。荒事は自分の専門ではない、とわきまえているようだ。


「とりあえず、外に出てるのを片付けて来ますよ」

 あっさり言ったぞ。


 その言葉と同時にヨナスの姿が消え、1分もしないうちに、地図スキルに映ってた赤い二つの点が消えて、黒装束の忍者が戻ってきた。両手に一匹ずつオニウサギの遺骸を抱えている。

「マニテス、アイテムボックスに入れといてくれ」

 すごいな、こんな奴と戦ったんだ、俺たち。ノルテは目を丸くしてる。


 それから、ヨナスの指示で俺が粘土壁を消す。

 マニテスのパーティー編成に、サルガド、レンドロス、俺、ノルテ、リナが入る。リナは編成人数外で連れて行けるんだが、それとは無関係に、ヨナスは編成に入ろうとしなかった。そのわけはすぐにわかった。


 パーティーを組んだのはレンドロスの結界に入るためだった。

 結界に身を隠した俺たちは、そのまますたすたと洞窟の入口から入っていく。魔法使いのレベルが高いと、こういう使い方もできるのか。半透明な膜ごしに景色を見ているようだ。

 一方のヨナスは結界の恩恵を受けず、高度なスキルで姿を消してそばにいるようだ。察知スキルでも居場所が正確にはわからないが、そう離れていないと感じる。


 洞窟の入口からしばらく入って、暗くなってきたあたりで、紛れもない魔物の気配が幾つも捉えられた。地図スキルには、十個以上の赤い点が浮かんでいる。


 最初に姿を見せたのは魔猪だ。洞窟の横穴を巣にしているようで、大きな牙のオスが1匹、メスや子供たちを何匹も引き連れている。そのそばを気づかれずに通り過ぎ、さらに進むと、奥の方にコボルドが何匹かいるようだ。

 そのあたりから、迷宮の壁や天井がほんのり明るく光っているのが見えてきた。

 もう間違いない。迷宮ワームの分泌物がついた壁面、迷宮がここから始まっているってことだよな。


「なるほど、確かにワームが掘った迷宮だな」

 サルガドも納得したようだ。

「確認した。戻ってよい」

 やつの合図で、一行はまた出口に戻った。


 間もなく音もなく隣りにヨナスが出現した。

「少なくとも二階層以上だ」

 ヨナスは一階層の一番奥まで行ってきたらしい。そこで、迷宮特有の例の結界があって、そこには迷宮ワームではなく、その抜け殻があることまで確かめたのだという。


 驚いたことに、抜け殻の破片まで手にしてる。あんな硬いのを切り取ったのか。

「あれ?あんた、一人で結界を抜けられるんだ?」


「・・・するどいな、だが、それは業務上の機密事項だ」

 そうなのか、いや、口に出してるし・・・あいかわらず優秀なんだか抜けてるんだかわからんおっさんだ。

 これは高レベルの忍びのスキルなのか、他になにか裏技でもあるのかな。


「サルガドどの、よろしいかな?」

「うむ、間違いなく迷宮だな。報告するには十分だろう」

 ヨナスとサルガドの間で、結論が出たようだ。


「そうすると、一刻も早く報告する必要があるな」

「うむ」

 やはり迷宮と確認された以上は、被害が出ないようすぐに対策を講じることになるようだ。


「レンドロス、頼む」

「承知」


 魔法使いが再び呪文を唱え、迷宮の入口に結界を張ったようだ。

 なるほど、これで魔物が出られないようにするわけか。でも、それでいいなら、全国の迷宮を結界で封じたらいいんじゃないのか?


 俺がそんな質問をすると、レンドロスはやれやれ、という顔をして

「結界の効力もしばらくしか続かん。伝説の大魔導師とかでもなければ、ずっと封印などできんさ」

と教えてくれた。なるほど、魔王を封印する賢者、とかってのもいつかは破られるってことだよな。


「シロー、我々はここから直接、王都に戻るがどうする?」

 ヨナスが一緒に連れて帰ってやろうか?と聞いてくれた。


 俺は礼を言って、でも村長が戻ってきたら依頼解決の報酬をもらう大事な仕事があるから、と告げると、それまで愛想が悪かったサルガドが、思い出した、といった風情で口を開いた。

「シロー卿、今回はお手柄だったな。あす午後以降、王都に戻ったら内務省の窓口に顔を出してくれ。迷宮発見の報奨金が受け取れるようにしておく」

 やった!いくらもらえるんだろう?ワクワクする・・・


 俺はご機嫌で、転移する4人を見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ