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第77話 オザック村

冒険者として最初に引き受けたクエストで、俺たちは王都近郊のオザック村を訪れた。そこで出会った村長はまだ若い女性だった。

「え? 村長さん? あ、シローっていいます、こっちはノルテ、とリナです」


 俺は意表を突かれて、内心、中年男の方を村長と思い込んで先に挨拶しなくてよかった、と思い、それから、あわててギルドで預かった書面を目の前の女性に渡した。その時にステータスを“判別”で見る。


<ケニス・ハメット 女 29歳 文民(LV16)

  スキル 統治(LV3)  交渉(LV3)

      人物鑑定(初級) 奉仕(LV1)

      言語知識(LV2)知力増加(小)

      信用       契約

      達筆       騎乗(LV1)>


 この年齢で村長って、「全国最年少の女性市長が誕生しました」とか現代日本なら選挙のニュースになりそうだ。

 それと、「文民」ってジョブも初めて見た。農村の村長なのに農民じゃないんだな。スキルも村長さんってより官僚みたいだ。


「ふむ、中級冒険者、そして騎士どのですか。お若いのに大したものですね。しかし、3人だけですか?」

 これは、冒険者パーティーだって6人まで組めるわけだから、3人だけで来たのは頼りないとか、やる気が無いように見えるってことだろうか。


「まったく、依頼から10日も経って、ギルドがやっと人を出してくれたと思ったら、こんな若いのと子供だけか」

中年男の方は、露骨にがっかりしてるようだ。こっちは農民だ。


<ガザック 男43歳 農民(LV11)

  スキル 農業(LV4) 植物知識(LV1)

      飼育(LV2) 御者(LV2)

      騎乗(LV1) 力増加(中)

      HP増加(中)       >


「おやめなさい、失礼ですよ?」

「・・・すみません」

 まあ、失礼なのはたしかだが。


「こちらは、農業担当のガザックです。ガザックさん、とりあえず被害が出ている主な場所を案内してあげてほしいのですが?」

「わかりました。では、一番ひどい東地区の長に使いを出してきます」

「お願いしますね、その間にシロー卿たちに概要をご説明しておきますから」


 年下の女性上司に仕える中年の部下の図か・・・おっさんが玄関から出て行くのを見守ってから、ハメット村長はこちらに頭を下げた。


「気を悪くしないで下さいね。かなり前から被害が出ているのに、王国会議に向けた警備があるからと、王都の警備隊も冒険者ギルドもなかなか人を出してくれなかったものですから。村の農民の間では不満が溜まっているんです」


 そういう事情があったのか。

 ハメット村長は、テーブルの上に壁に貼ってあるのと同様の、ただし色々書き込まれだ地図を広げた。


「ご存じかと思いますが、当村では丘陵地で王都向けの野菜の生産と畜産を中心に行っています。ところが、一ヶ月程前から、村の東側の山間から魔物が盛んに現れるようになったのです。この印をつけたところが、被害が出たり、魔物が目撃された箇所です」

なるほど、わかりやすくまとめてある。ただ、数が多いな。東側に集中してるのはたしかだが、1,2回の目撃情報はほとんど村全域って言えるぐらいだ。


「えっと、でも、なぜこんなに広がるまで・・・」

「言いたいことはわかります。一応、この規模の村ですから自警団もあるのですが、若い男はほとんどいないので、普通の獣ならともかく魔物となると・・・」


 知らなかった。

 このエルザーク王国は近年、周辺諸国と紛争が絶えないし、王都に出れば景気は良いから、こうした王都近郊の村からは、若い男は兵隊になるか王都で商売でもして一旗揚げようと、出て行ってしまう者が多いらしい。


 その結果、農村は老人と女子どもが中心になっていて、自警団も高齢者ばかりだから、1匹や2匹ならともかく多数の魔物狩りとかは難しいそうだ。


「ガザックのように、村で生まれ育ってそのまま村を支えてくれる男性は貴重なのです。私も王都の人事でここに配属された代官の身ですし・・・」


 なるほど、ハメットさんに農民っぽさが感じられなかったのは、元々王都の若手官僚で、地方自治体に出向してるような立場らしい。美人というわけではないが、頭の回転が速そうな人だしな。

 しかし、つてをたどって王都の治安部に頼んでも、なかなか討伐隊を出してはくれず、冒険者を頼むことにしたと言う。


 ともかく現場を見てみないと、どうしたらいいわからないな。

 ちょうどガザックが帰ってきたので、案内してもらうことになった。村長もわざわざ、最初だけですがご一緒します、と同行した。


 東地区のまとめ役だと紹介されたゼベットという老人は、最初にアカキャベツの畑が荒らされた、と近所の農家から聞かされたのは、2か月近く前だったと言う。


「最初は普通のウサギだろうと思って、罠でもしかけとけって話になったんじゃ」

 記憶をたどりながら訥々と説明する。


「それが、二度、しかけた罠が破られて、段々被害も大きくなった。わし自身の畑にも頑丈な箱罠をしかけたんだが、それがある晩、ガタガタ大きな音がするから、松明を持って見に行ったら、こんなにもあるオニウサギがもう半分箱をこわしとったんじゃ!」

 じいさんは手を広げて、角から尻尾までこんなにあった、という。


 その時は武器も無く、松明をかざして追い払うだけだったそうだが、次の晩、集落の男たちを集めて待ち受けていたところ、十匹以上のオニウサギが畑に現れ、男たちが取り囲もうとしたところ包囲の輪に向かって突っ込んできて、一匹だけは仕留めたものの、逆に農民の一人は大けがをさせられた、という。

 それで、簡単に手出しできない、ということで村長に訴え出たそうだ。


 ゼベットじいさんは、仕留めたというオニウサギの角と毛皮を見せてくれた。


 オニウサギなんてみたことがないから、魔石にせず残しておいてくれたのは助かるな。たしかに、ウサギみたいな格好はしてるけど、大きさは柴犬ぐらいはあるし、ナイフぐらいある角が生えてるから、これで突っ込まれたら相当危険だな。盾は買ってこなかったから、セラミックで作った方がいいかもしれない。

 こんなのが地下に穴を掘って群れで棲み着くらしい。


「魔猪も出たんですよね?」

と横から尋ねたのは、ハメット村長だ。


「そうじゃ、村長さま。そっちはとても捕まえられなんだが、わしも見たし、何人も見とるんで間違いねえです。でっかい奴が1頭、比較的小さいのが5、6頭で、半月前、芽が出たばっかりのクロコマメの畑を荒らしていきおったんじゃ」

 最初はオニウサギだけだったのが、段々大きい魔獣も来るようになってるってことか、まずいよねこれ。


「あの、被害が多い所を、なるべく広く見渡せるような場所とかって、あるかな?」

「ん?見晴らしのいいところか、なら物見台かのう・・・」

 じいさんに頼んで、なるべく被害の出たあたりを一望できる所に連れて行ってもらう。


 かなりの急斜面を登って、さらにそこに立っている「物見台」に上るのは結構怖かった。10mぐらいの太い木の柱が4本立って上に木製のカゴみたいなのが乗ってるだけで、そこに縄ばしごで上るんだ。風があって揺れるし、なるべく下を見ないように上がった。


 わざわざそんなことをしたのは、スキルで魔物の居場所とか、できれば巣をみつけられないかと思ったからだ。

 物見台の上からは、なるほど、かなり広範囲が見えた。村の南側は一望できたと言っていい。


 地図スキルで全体を把握して、そこでまず「察知」に全神経を集中する。

 すると、脳内の地図に赤い小さな点が次々浮かび上がってくる。わりと何カ所かに固まっているし、しばらく見てても動かないから、夜行性で今は巣の中とかで休んでるってことかな。

 それで、今度は無生物が対象の「発見」スキルを意識する。そうすると、やはり大体、赤い点が固まっている場所に、なにかあるのを感じる。


 うん、パーティーを組んでたときは、ラルークに頼ることが多かったけど、俺のスキルでもかなり役立ちそうだ。

 念のため、リナにも察知スキルを使ってもらい確かめたが、大体同じだった。


 縄ばしごを下りるのは上りよりもっと怖かった。足が震えてるのを、下で見守ってるノルテや村の人たちに気づかれてないといいけど、リナが平気でさっさと下りていったのが悔しい。


「なにかわかりましたか?」

 いぶかしむ村長に、なるべく堂々と告げる。


「はい、巣がある所がわかったんで、これから退治しに行きます」

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