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第76話 ノルテとリナ

俺たちは明日からのクエストに向けて必要な物をそろえ、宿に戻ってきた。



 ギルドの宿舎は食事付きで一人銀貨1枚と、王都では破格の安さだった。一日でずいぶん散財してしまったから、正直助かった。


 そして、思わぬプレゼント、いや違った、ハプニングだ。二人部屋しかあいてなかったのだ。


 いやね、個人的にノルテにそーゆーことをするのはまだ早いと、俺の鋼鉄の理性が言ってたわけですよ、ほんと。

 でも、部屋があいてなかったんですよ、もう夕暮れで他の宿とか探しに行くのも大変だし、こっちの世界じゃ15歳以上が成人で、16歳は普通に結婚できる年齢だし、最初から夜のおつとめも大丈夫です、って言ってたし・・・

 

(男らしくないねー、なさけないねー、だれに言いわけしてるのかな?)


 う・・・しかたないじゃないか。

 ほんとに、初日からがっつくつもりなんて、なかったんだよ。一月前のDTの俺とはもう違う、大人の男のヨユーってやつ?とか思ってた。


 けど、部屋に入って、湯桶に入れてきたお湯と古布で体を拭くために、一緒に服を脱いだら、ノルテはぜんぜん子どもじゃなかった。

 すみません、あなどってました、このボン・キュッ・ボンの破壊力を・・・

 それに、言い訳だってわかってるけど、ドウラスで会った時のこの子は、傷だらけで煤で汚れた顔だっただけじゃなく、人生をあきらめたような意思のない目をしていた。それが、この数日でみるみる表情が豊かになって、笑顔も見せるようになった。美形というわけではないけど、くりくりした目のファニーフェイスで雰囲気ががらっと変わってきたんだ。


 最初はノルテが「ご主人様、お拭きしますね」とか言って、「じゃあ、今度はお返しに俺が」とかやってるうちに、段々二人ともへんな雰囲気になってしまい、気がついたらそういう展開になって・・・ノルテのお腹がまた「きゅー」っとかわいい音を立てて顔を真っ赤にするまで、止まらなかった。


(・・・)


 なにも言わなくていい。言わないでくれ。

 リナは気を利かせてなのか?ただの“お人形さん”でいてくれるのが救いだ。


 ギルドの二階の食堂兼酒場で遅い夕飯をたっぷり取って部屋に戻ると、俺たちはまたせっかく2つあるベッドの1つだけに入った。


「ノルテには、かなえたい夢とかってないか?」

腕枕しながらそう聞くと、しばらく考え込んでいた。


「あの生活からいつか逃げ出したい、ってずっと思ってたんですけど、逃げ出した後のことは全然考えてなかったっていうか、知らなかったので・・・」

 そうだよな、3歳で母親と一緒に奴隷になって、5歳からはずっと最悪のひどい扱いを受けて、外の世界なんてほとんど知らないんだろうから。


「でも、かすかにお父さんの記憶はあるんです。お母さんが死ぬまでよく話をしてくれて、ドワーフの国で一番の鍛冶職人だったって。人間の国が攻め込んできて、お父さんとはぐれて、私たちはつかまって奴隷にされちゃったんですけど」

 ひどい話だ。こう聞くと人間なんて、一番たちの悪い魔物かもしれない、ノルテだって半分人間の血を引くのに、可哀想すぎる。


「・・・出来たら、いつかお父さんに会いたい。どこにあったのか、もう覚えてもいないんですけど、ドワーフの国に行ってみたいです」

 決めた。


「行こう、約束するよ。俺はこの世界中を旅したいと思ってるから、必ずドワーフの国にも行くよ。そこで一緒にお父さんを探そうな」

小さいけれど、はりがあって柔らかくて温かい体が、ぎゅっと押しつけられてきた。俺たちはお互いの体温を感じながら、眠りについた。



***********************


それでも夜明け前に目覚めることが出来たのは、夢の中でいつもと違うレベルアップを見たような気がしたからかもしれない。


「? リナか」


(起きた? レベルアップしたのは、わたしだよ)


 ノルテはまだ眠っているようだ。

 俺は自分のステータスを見てみる。


『シロー・ツヅキ 男 19歳 冒険者(LV15)

     スキル お人形遊び(LV10)    

     ・・・              』

 基本的には変わってないが?


(着せ替えさせてみて、きのう使った、魔法使いと僧侶に)


 言われるままに、頭の中でリナを魔法使いに着せ替えさせるよう念じた。すると、これまでは無かった、別のサブ画面が開いた。


『リナ - 魔法使い(LV5)

    呪文 火 水 地 風 盾 』


 なんだって?リナが成長してる、人間の魔法使いみたいに・・・「成長」?

 そうか、これが“お人形遊びLV10 成長する”の意味か?


(そう、“着せ替え”で“なりきった”ジョブで戦うと、経験値が得られるってこと。そのジョブごとに溜まっていくから、よく考えてね?)


 たしかに昨日イリア-ヌとの模擬戦で、召喚された魔狼や大鷲を、リナが魔法で「倒した」。いや、パーティー編成の考え方をすると俺とリナは常にパーティーみたいなもんだから、俺が粘土で倒した大熊の経験値もカウントされてるのかも知れない。俺と同じく成長率2倍が効くなら、いきなり4レベルアップもありえるか。


 だとしたら、僧侶はどうなんだ?続いて着せ替えさせてみる。

『リナ - 僧侶(V1)

    呪文 浄化      』


 あれ?こっちはレベル1のままだな・・・そうか、リナを僧侶にしてから倒したのはスケルトン1体だけだ。アンデッドは得られる経験値がすごく少なかったはずだし、まだ上がらないんだな。


「これって、他のジョブに着せ替えてもリセットとかされずに、そのジョブごとに溜まってくのか?」

「・・・ご主人様? おはようございます」

 しまった。ノルテを起こしちまったか。


「ごめん、うるさかったよな」

「いえ、そろそろ起きなきゃ・・・ひとり言、ですか?」

 あ、へんなヤツだと思われたか。いい機会だし話しておこう。パーティーで戦う以上、互いの力を知っておいた方がいい。


「リナと俺はね、声に出さなくても会話ができるんだ。俺はつい声に出しちゃってたんだけど、実は昨日の模擬戦でさ・・・」

 ノルテはリナのことを、スクタリからの野営の時などにラルークとベスからある程度聞いていたようだが、当然知らないことも多かった。色んな能力についても説明すると、途中からは信じられない、といった様子でやたら驚いていた。


今は人形サイズでカレーナ風の僧侶スタイルになっているリナが、

「あらためてよろしくね」

 と声をかけると、

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 と、かたい挨拶をかえしていた。


「かたいなー、あたしJCぐらいだし、タメでいーよ?」

「じぇ、じぇーしー?」

「うん、それかシローの愛人どーし? なかよくしよーね」

 それはダウトだ、人形とは全くそういう関係はない。なのにノルテは「・・・負けません!」って真剣に宣言して、一体なにを競ってんだよ。


 ともかくこれが、俺の冒険者としての最初のパーティーになるんだ。


***********************


 オザック村にたどり着いたのは、夜明けから3時間近く経った頃だった。


 いや、連夜の頑張りすぎ、ってわけじゃない。

 直線距離ならたしかに5~6kmってのは正しいんだろう。ただ、平地じゃなかった。

 王都からこれだけの距離で農村になるってのは、丘陵地に上っていくからだって気づいたのは、かなりへばってきてからだった。

 この一ヶ月の兵隊暮らしで鍛えられたはずだし、荷物はアイテムボックスにほとんど入れてるのに、それでもノルテの方が元気そうだ。


 しかし、たどり着いたオザック村は、農村なので城壁とかはもちろん無いが、人口で言ったらスクタリの街にそうそう劣らないんじゃ無いか、って感じの大きな村だった。さすがに王都近郊だ。斜面をうまく開発して、一面の畑と集落が広がっている。


 農作業の小休止なのか、畑のわきの木陰で、革袋の水かなにかを飲んでいる頭のはげ上がったおじいさんを見かけた。そこで、村長の家を尋ねると、自宅ではなく村庁舎にいるはずだ、と言う。ちゃんと庁舎があるんだな。


 地図スキルがあるから、場所を聞けば自力で行けそうだったんだが、近くだから、と親切にも案内してくれた。

 荷馬車がすれ違える広さがある農道を歩きながら、おじいさんは、オザック村は王都に野菜を供給する一大産地なんだ、と誇らしげに教えてくれた。

 若い頃は王都の市場で働いていたそうだが、30年ほど前にこちらで農業をしていた奥さんの両親が亡くなり、耕す者のいなくなった畑を引き継いだそうだ。脱サラ田舎暮らし、みたいな感じかな。


 5分ほど歩いてる間に、畑で見かけたのは老人ばかりだったが、「あれが村の庁舎」だと教えられたのは、二階建てのかなりしっかりした石積みの館だった。

 俺たちはおじいさんに礼を言って別れ、庁舎の入口を掃除していた雑役婦っぽいおばちゃんに、王都のギルドへの依頼を受けて来た者で、村長に会いたい、と伝えた。


 おばちゃんは何も言わず、入口を入ってすぐの広間に俺たちを案内すると、村長を呼びに行くのか、二階に上がっていった。木の切り株を加工した腰掛けがいくつかと、テーブルが置かれていて、壁には手書きの簡単な地図が貼られている。この村の地図だろうな。

 すぐにまた足音がして、日焼けした中年男と秘書風の若い女が階段を降りてきた。


「ギルドへの魔物討伐依頼の件ですか。あなたがたが派遣された冒険者さん?」


 そう言って挨拶したのは、若い女性の方だった。

「ようこそオザック村へ。私が村長のハメットです」

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