第75話 お買い物
冒険者としての登録はできたと言っても、具体的な依頼をこなしたり宝探しでもしないかぎり収入は得られない。とりあえず明日からの仕事を探すため、ギルドに来ている依頼・クエストを見てみることにした。
依頼の掲示板は、上級冒険者に限定されたものと、それ以外の一般用に分けられているようだ。俺は中級、ノルテは初級の冒険者扱いなので、一般用の掲示を見る。
で、いきなり困った。
俺の読み書き能力じゃ、細かい条件などの記述はまだ読み取れない。ノルテも文字の読み書きは出来ないという。まあ、こっちの世界で子どもの頃から奴隷にされてたら、そうだろうと思う。
というわけで、ここはリナの出番だ。どうせここでは、等身大になったリナを大勢に見られているので、そのまま僧侶バージョンのリナに、一緒に掲示を見てもらうことにした。
「一番多いのは、護衛の依頼だね。隊商とか巡礼とかについて、“どこからどこまで約何日間でいくら”みたいなの。で、こっち側は、盗賊とか賞金首の一覧。それで、このへんは迷宮討伐の勧誘だね・・・」
迷宮討伐って、俺たちは領主自らのパーティーとして行ったけど、考えてみたらRPGとかではフリーの冒険者がよくやるイメージだよな?
「うん、領内にいくつも迷宮があるような地域だと、領主が直接兵を派遣できる所は限られるから、他は冒険者にいい条件を提示して解放する方が一般的だよ」
例えば、迷宮の外に、魔石を市価より高く買い取ってくれる店とか、割安な宿屋、武器屋などを建てて、冒険者が自然に集まるようにする領主が多いそうだ。
カレーナがこういう手を取れなかったのは、伯爵家の継承のため自ら討伐を行って実力を示す必要があったこと、に加えて、そもそもそういう環境整備が出来るだけのお金がなかったからだな。やっぱり貧乏はつらい。投資できる領主とますます差がつく格差社会だ。
一番稼げるのは迷宮討伐のようだが、もっと戦力が充実してからでないと危なそうだ。ノルテを連れていく以上、最初は危険が少ない仕事からだな。
それと、賞金首を狙うのも、返り討ちにあう危険もあるし、なにより犯罪者とは言え人を殺す仕事はしたくない。ノルテにもさせたくない。危険な世界のようだから、自分が襲われた時はもちろん別だけど。
とは言え、隊商の護衛ってのもな・・・いずれは世界中を回りたいと思ってるが、当面は王都近辺で生活の基盤を作りたいし、王都自体をまず知りたい。そのためには隊商について長期間ここを離れるのはまだ早そうだ・・・
「だったらこれは? “村の畑を荒らす魔獣の駆除”・・・場所は王都から3クナートだから、シローの世界の単位だと5~6kmかな?報酬は安いけど、寝る場所と食事も支給だって」
これはいいかもな。領兵をやめたことでトリウマとかも持ってない身だから、徒歩圏だと助かる。予想される魔獣は、「オニウサギLV1~2、または魔猪LV2~3」っていう初級者向けだから、ノルテの経験値稼ぎに良さそうだ。
俺はカウンターに行って、これをやりたいと申し出た。
窓口の若い男が、台帳を確認してから、大丈夫そうです、と言って、ギルドの印章の入った羊皮紙に俺たちの名前とかを書き込んだ。
「これを依頼主である、オザック村の村長のハメットさんに見せて下さい。ギルドがあなたたちを正式に派遣した、という書面です。期限は切られてませんが“なるべく早く”になってるんで、明日の朝にでも向かって下さい」
まだ夕暮れまでは多分2時間ぐらいあるから、その気になれば今日中に移動しておくことぐらいは可能だが、何も準備ができていないのに慌ててもかえってしくじりそうだ。
言われた通り、明日朝イチで向かうことにして、ギルドの宿舎を今夜一晩だけ使わせてもらうことにした。
MPをかなり消耗したから、あまり考えがまとまらないが、まずノルテの服と履き物だな。
今着てるのは奴隷のボロ服だから、ちゃんとした、できれば可愛い服を着せてみたい。それに、救出した時は裸足で、ベスがお古のサンダルをくれたんだが、王都はスクタリやドウラスよりずっと寒いし、明日は5kmも歩いて魔物退治だからな。
俺はギルドでいくつかの店を聞いて、地図スキルを頼りに向かった。
庶民向けの服屋なのにノルテは恐縮していたが、好きなのをなんでも選んでいいぞ、というと途中からは目移りしながら結構楽しんでいたようだ。
年頃の女の子だし、おしゃれに興味が無いわけではなさそうだ。
ただ、最初に選んできたのは、普通のズボンと貫頭衣の組み合わせだった。それはそれで旅と荒事用に必要なので、似合いそうな色合いのを2組キープして、他に店内にあった中では比較的かわいいチロリアンドレス、つまりアルプスの少女みたいなスカートにエプロンの組み合わせを1組、俺の趣味で見つくろい、あとはノルテに下着とかを選ばせた。こっちの世界の下着は今ひとつ魅力的じゃないんだけどな・・・
ついでに、ノルテが「ご主人様ももう騎士さまになったんですから」と言って、今の服の上から羽織れる、トーガみたいな一枚布の上着を選んでくれた。たしかに、重ね着するとあったかいしね。
次は武器と防具だ。
俺の粘土スキルでセラミックの剣とか鎧を作ることもできるけど、剣はともかく鎧は細かい部分を作るのが大変だって、リナのを作るとき実感した。加えてオリジナルのセラミック装備は、それなりに目立つ。人にいちいち聞かれてスキルのことを隠すのも面倒なので、一通り一般的なものをそろえておこう、ってのもある。
さすがに王都だけあって、小さな店も含めると数十件あるらしい。最初なので、俺はひとつの店で武器も防具も一通りそろえられる、という所に向かった。
本当は革鎧なら革製品専門の職人、剣だったら腕の良い鍛冶職人の所に直接行った方がコスパがいいはずだが、それはおいおい合うものを買い足す形でもいいし。
しかし、紹介された店は4階建てのビルみたいな大きすぎる店で、最初は目移りしてなかなか決められなかった。
そこで迷った末に、まず決めやすい必須のものから、ってことでノルテに革のブーツを選んだ。
あったかいし、多少ぬかるんだ道でも歩けるし、多少は防御力もあるだろう。サイズに合うのがあるか心配したが、意外に背の割には足のサイズは小さくなかったので、普通に小柄な女性用で履けるのがあった。
俺ははき慣れたスニーカーの方が足回りは安心なので、すねと膝をガードするプロテクターみたいなのを買った。
そこからは、これと合わせる感じで、革の防具で揃えることに決めたら早かった。
だいたいプレートアーマーみたいなのは、徒歩の俺たちには重すぎるし、冒険者はもうちょっと身軽なイメージだ。金属鎧は値段もすごく高いし。
そこで、2人分の革の鎧と帽子に手袋を揃えた。いずれは採寸してオーダーメイドで作った方がいいかもしれないが、最初は既製品でいいだろう。そして、ノルテには、まだ持ってない水筒代わりの革袋と背嚢も買う。
そして武器だ。
領兵の剣は西洋風の直剣だったが、俺的には日本刀みたいにちょっとそりのある方が使いやすい気がする。そう思って探すとアラブ風みたいなすごくそった曲刀はあるんだが、ちょうどいいのが無い。ただ、ずっとオークの持ってた剣というのも気が進まないので、とりあえず迷宮討伐の時に与えられてたような直剣を1本買う。いずれちゃんとした鍛冶屋で探してみるか、割り切ってセラミックで自作するか?
迷ったのはノルテの武器だ。
そもそも戦ったこと自体無いので、なにが向いてるのかわからない。ただ、スキルを見ると「鎚技(LV1)」ってのがある。
「鍛治師の見習いとしてハンマーで金物を打ったりしてたから、でしょうか?」
本人にもわからないようだ。
俺が「剣技」と「投擲」スキルを取得したのは、それでオークを倒した後だと思うが、別に魔物を倒さなくてもスキルを得ることがあるんだろうか?
鍛冶屋が長年ハンマーを振るっていれば、魔物と戦わなくてもスキルは向上するだろうから、おかしくはないんだが・・・
ともかくスキルがあるならそれを生かした方がいいよな、と思い、店員に相談すると、「鎚技」スキルが使える武器というのを幾つか教えてくれた。
ウォーハンマーと棍棒、そして僧侶が持っているようなメイス(鎚矛)だった。
棍棒はちょっと野蛮人的な感じだし、そんなに威力もなさそうだ。ウォーハンマーはさすがに重すぎると思うからメイスかな・・・と思ったら、ノルテが手に取って、これがいいです、と言ったのは片手持ち用?の小ぶりのウォーハンマーだった。
なるほど、これを両手持ちで使えばちょうどいいか。あれ?片手で振り回してるぞ。
「思ったより軽いんだな、俺もちょっと持ってみていい?」
お、重かった。
こんなに小さいのに俺より腕力あるのか・・・せっかくいいとこ見せた、って思ったばかりなのに、頼りなくてがっかりされそうだ。
あとは適当なサイズの弓を俺と2人分だ。ノルテは弓は使ったことが無いというし、俺もそんなにうまくないが、経験上、遠隔武器があると無いとでは大違いだから。
しかし、命を預けるものとは言え、武器や防具は値段が高い。
金属製のプレートアーマーとかに比べればずっと安いんだが、革製品中心でも防具があわせて小金貨1枚と銀貨10枚、武器は量産品っぽい剣とハンマー、弓2張り、矢のセットをあわせると小金貨2枚になり、衣類雑貨とあわせて一日で小金貨4枚近く使ってしまった。日本円だとたぶん30~40万円ってとこか。
カレーナから奴隷解放後の給金としてもらった額ではまるで足りなかったから、ゲンさんからもらった大金貨がなかったら、ほんとにヤバかった・・・
買い物は量的にもかなりものだったが、アイテムボックスのスキルは本当に便利だ。冒険者ジョブがLV15まで上がったことで、容量も増えているのか、二人の買い物がなんとか収まった。
そして、いざギルドに戻ろうという段になって、見たことがある紋章を掲げた立派な構えの商館が立っているのに気がついた。
あれはもしや・・・そうだ、ゲンさんの屋敷や石橋についていた紋章じゃないか。
「リナ、あの看板って?」
「・・・ヘンタイ商会、って書いてあるよ、よい子は寄り道しちゃだめだよ」
いやいや、「ゲンツ商会」でしょ? そこまで避けなくてもいいじゃん。
こっちの世界ではほぼ見ない、クリスタルガラス製とおぼしきショーウィンドーがある。その中には、なんと!各種メイド服のマネキンが並んでる。
古典的なゴシック調から、アキバメイドカフェ風、露出度高めなコスプレ風のまで・・・徹底してんな、ゲンさん。でも、売れるのかこれ?
ふらふら-っと思わず店内に入ってしまった俺を、戸惑いながらノルテが追っかけてきた。リナは腰の革袋にひっこんで無言を通してる。
店内には、こわもての黒服男と、ゲンさん好みのスレンダー美少女店員がそれぞれ複数。まあ美少女店員だけじゃ、へんな客に対応しきれないだろうしね。
「いらっしゃいませー」
声をかけられてから、なにも考えてなかったことに気がついた。
「あ、えーっと、ここってゲ、ゲンツ卿のお店?ですよね・・・」
「あらー、ご主人様をご存じですかぁ」
愛想良く対応してくれる美少女店員に、つい、口走ってしまった。
「あの、俺、シローっていいます。ゲンツ卿のダチ、いやいや、知り合いで、バーデバーデに遊びに行ったこともあるんですけど・・・」
最初は怪しい客だと思われてたようで、いつの間にか音も無くゴツい黒服たちが背後を半包囲しててびびったが、話しているうちに、この客は本当にゲンツ卿の知人で本部の客だと認識したらしく、下へも置かぬ扱いになった。
「では、シロー卿は弊社謹製メイド服にご関心をお持ちなのですね。さすがご主人様のお友達ですわ、お目が高いですぅ」
気がつくと、ノルテ用にアキバ風メイド服をオーダーしていた。男の夢だからな、当然だ。
「・・・ご主人様がお望みでしたら」
ノルテはもじもじしながら採寸されていた。
特注になるので仕上がりは十日後だという。あっという間に金貨がまた1枚飛んでいったが、これは必要経費だ、うん。




