第72話 旅立ちの朝
カレーナたちを見送った朝、俺はいきなり二度寝してしまった・・・
「ご主人さま、起きて下さい」
ぱふぱふと柔らかい感触が押しつけられ、耳元にまだ少し幼いが優しい声が響く。
「んー、あと5分だけ・・・」
「さっきもそう言ってましたよ、もうお昼近いです」
「あー、こいつ、甘やかすとダメだから」
別の声が混じった、なんだか聞き覚えがある。
ぺしぺし、バシバシ、ガツガツ・・・い、痛っ
目の前に白ぱんつ・・・リナが俺の顔の上に仁王立ちしてた。
「踏むな、しかもピンヒールかよっ」
容赦なさがレベルアップしてる。
「大丈夫ですか、ご主人さま」
となりからノルテが心配そうにのぞいている。いい子だな。半グレのJCとは大違いだ。
そして、もしやあのぱふぱふ感はこのロリ巨乳か。素晴らしい。ぜひ近いうちに、この魅力を最大限に引き出すメイド服とかを手に入れたい。
「あんた、二度寝するって言っても限度があるでしょーが・・・」
リナになじられる。まあ、さすがに否定できない。
夜更け過ぎまであーゆーことがあって、夜明けにはみんなを見送って城門まで行ってきた。
その後で俺は、もうもぬけの空になった、宿舎にしていた貴族の別邸で二度寝しちまってたわけだ。
「激しかったもんねぇー、もうケダモノっていうかー」
やめろ、やめてくれ。
ノルテが表情を消してるが、詳しく聞きたそうにしてるのが見え見えだ。
「あの、アンティバ卿の執事の方には、先ほどカギの確認などはしていただきましたので」
俺が二度寝している間に、ノルテが借りていた宿舎を返す手続きの残りも終えてくれたようだ。大半は昨日のうちにスクタリの将兵が済ませていたが、実際に撤収完了したのはけさだからな。
「あ、ありがとう。すぐ支度するから・・・」
まったく、最初からノルテの有能さと、俺のダメっぷりが好対照だ。
ノルテを連れて、三泊した屋敷を後にする。餞別にもらったスクタリの領兵の平服を来て、腰にはオークの剣をつるしている。アイテムボックスがあるから背嚢には大した物は入ってない。
ノルテもお仕着せの侍女の服をもらっていたのだがサイズが縦に余って歩きにくかったらしく、俺が着替えてる間に、鍛冶屋を逃げ出した時に着ていたボロボロの貫頭衣とズボンに着替えていた。きょうはこれも何か買ってやらないとな。
そう、きょうから俺とノルテは、「職なし」「宿なし」「身よりなし」の三拍子そろった王都の立派な浮浪者だ、このままでは。
そこで、第一にやらなきゃいけないのは、冒険者ギルドに行って登録すること。つまり職につくことだ。
ノルテは物心ついてからずっとドウラスで鍛冶工房の奴隷として育ってきて、戦いなんてしたことはない。だが、俺が冒険者として暮らしながら旅をしたいと思ってる、と明かしたら、「私も連れてって下さい」と言ってくれた。
カレーナから迷宮討伐の実績と、昨日得たばかりの騎士身分を証明するサイン入りの羊皮紙をもらっているので、それを持って行けば登録は問題ないはずだ。
もっとも、冒険者になっても給料が出るわけではなく、依頼を受けてこなしていかないと報酬は得られないから、それまでは昨夜もらった給金と、ゲンさんからもらった大金貨の残りで食いつなぐ必要がある。
第二に、今夜からの寝床の確保だ。王都には宿屋は山ほどあるから、空き部屋を見つけるのはそう難しくないはずだ。だが、毎日それなりの宿に泊まってたらあっという間に持ち金がなくなりそうだし、長く王都に住むなら部屋を借りるとかも考えなきゃならない。
その情報も集めないとな。
その上で、ノルテの着る物や冒険者として必要な装備とかも手に入れないとな。領兵の武器や防具は昨夜返却したから、こっちの世界に転生した初日にオークから奪った剣だけが唯一の武装だ。
もっとも、粘土スキルで硬化セラミックの剣とか鎧なら作り放題ではあるが、剣はともかく防具は形が複雑で手間がかかるため、今のところリナ用しか創ってない。
そんなことを思いながら、地図スキルで登録しておいた冒険者ギルドに向かっていると、きゅー、と可愛くおなかがなる音がした。
「ご、ごめんなさい」
「い、いや、こっちこそ気が利かなかったな」
俺が二度寝しちゃってる間、起きて掃除や片付けをしてくれてたノルテは、腹が減って当然だ。まだ育ち盛りっぽいし。
(ドワーフは人間より食べるのが好きだし、大食漢が多いって言うから。女の子が自分からは言い出せないと思うから、気を遣ってあげなさいよ)
さんきゅー、リナ先生。
通りの屋台は撤収を始めてるものも多いが、まだやってる所は、売れ残った物をさばいてしまおうとしているのか、投げ売り状態だ。
いい匂いをさせている、まんじゅうと串焼きの屋台でそれぞれ二人分買って、半分をノルテに渡すと、
「ありがとうございます!」
と、嬉しそうにぱくついていた。
俺も串焼きをかじってみる。うん、本物の肉だな、スクタリの安い屋台みたいに魔獣とか得体の知れない肉じゃない。タレもうまい。さすが首都だ。
気がつくと、ノルテの分は一瞬で消えていた。口は小さそうなのに・・・
「半分食べるか?」
「そ、そんな・・・いいんですか?」
結局、俺のまんじゅうも半分ノルテに分けてやった。俺は寝てたからそんなに腹は減ってないし、この嬉しそうな表情が見られれば十分だよね。
冒険者ギルドは、昨日冷たくあしらわれた鍛冶ギルドの隣りの通りにあった。
こっちの建物は基本石造りだな。4階建ての立派な建物だ。
扉は開放されていて、中は先日訪れたドウラスのギルドよりさらに数倍広い。
昼間だからかそれほどの人数はいないが、目に入る連中のレベルが高い。基本二桁だ。冒険者や戦士といった定番のジョブだけでなく、騎士や魔法使い、僧侶も多いし、魔導師とかロードまでいた。
登録窓口はあれだろう。俺の前には一人だけ、戦士LV5という若い男で、これがきょう見かけた中では一番低いレベルだな。
俺がスクタリでもらったような青銅っぽい板をもらい、初級冒険者としての説明を受けていた。
「次の者・・・新規登録か?」
窓口の職員は、頬に深い傷のある、いかにもどっかの反社会勢力構成員です風のおっさんだった。冒険者LV18と表示されるから結構な実力者ってことだろうか。当然、“判別(中級)”持ちだな。
しかし、頬の傷は高位の僧侶に治してもらえるんじゃないの?とするとやっぱり、これは威圧感を出そうとわざとやってるのか?理解できん。
「いや、ああ、この子は新規登録だけど、俺はよそで登録しててレベルも上がったし、こっちで更新手続き、っていうのかな・・・」
俺はノルテを近寄らせ、俺自身のスクタリで作った初級冒険者カードと一緒に、カレーナからの証明書を出した。
「そもそも子供は・・・それとスクタリだと?どこだそれは」
いきなり感じが悪い。わるかったね、田舎で。
「地方の登録だけでは、そもそも冒険者資格自体、試験をしないと認められんぞ?で、こっちは?」
カレーナのサインしてくれた羊皮紙を広げ、ざっと目を通す・・・
「なんだと?迷宮討伐の完遂証明に、騎士身分だと!?」
おっさんが大声をあげたせいで、まわりの注目を集めちまった。
「迷宮討伐だって?嘘だろう」
「騎士さまあ?」
ざわめきが上がる。
「おい、王都のギルドをなめるな、駆け出しが一足飛びに箔をつけようなんて甘えんだよ!」
大柄で、片眼が塞がった大男が後ろから俺の肩をつかんできたので、内心びびった。
片眼か。これぐらい大けがになると呪文でも治しきれないのかな。
<ゾッグ 男 33歳 戦士LV21>と表示される。
「ゾッグ、やめな。一応、この書面は本物らしい。オルバニアってのは、昨日爵位継承を認められて話題になってたとこだ。だが、いくらなんでも・・・」
疑いは消えないようだが、一応は受付の男が制する。おっさんの言葉にゾッグと呼ばれた男は手を離した。が、あとが面倒だった。
「おい、バルトン、主要都市ギルド以外の冒険者は試験するんだよな?」
ゾッグはかわりに受付のおっさんに問いかける。
「ああ、それが決まりだからな」
「じゃあ、その試験相手、俺にやらせろよ」
なんか、けんかをふっかけられてる気がするんだが?
「いいぞ、やらせろ!」
「おー、やれやれ!」
冒険者ギルドって、こんな血の気の多い奴らばっかなのかよ?
「ゾッグ、編入試験の相手は、同等レベルの者が行うのが基本だ。この男はLV15だ」
「だからよー、そんな奴が迷宮討伐とか完遂できるわけねぇだろ?、そんな寸詰まりの子供まで連れて、冒険者でございますたぁ、なめすぎなんだよ!二人がかかりでもこっちは構わねえが、オシッコちびんねーうちにママの所に帰んな!」
こいつ、ノルテまで馬鹿にしやがって。
受付のおっさん、バルトンはふむ、とため息をついてから俺に説明した。
「シローだったな。ひと言で冒険者ギルドと言ってもピンキリでな、王都のギルドカードは他国にも通用する格の高いものだから、よそで冒険者だったというだけではここでの登録は認められん」
そういうことか、とやっとわかった顔の俺におっさんは続けた。
「今回、お前さんは地方の初級冒険者から、一気に王都の中級冒険者に昇格する申請って扱いだから、認められるには、こちらが指定する相手と二回模擬戦をして、対等以上に戦って見せるのが合格の条件になる。どうする?ゾッグはレベル違いだから、もう少し下の相手にしてもいいぞ」
ノルテが心配そうに見ている。だが、これは大事な最初の一歩だからな。
「いいよ、やる。ノルテ、下がってろ」
おおっ、と荒くれ者たちの歓声が上がった。




