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第68話 脱出

いよいよ明日、王都に向け出立することになった日、ハーフドワーフの奴隷娘を救出する計画も実行に移されようとしていた。

「それでは、やはり当家に仕える気はない、と」


「・・・すみません、ほんとに。ひょっとしたらいつかまた、お世話になるかもしれないですけど・・・俺は転生したこの世界のことをまだほとんど知らないから、まず色んな所に行って、色んなものを見聞きしてみたいと・・・思ってるんです」


 セバスチャンが結構本気で残念がってくれてるのが伝わってきたから、すごく言い出しにくかった。これまで人から惜しまれたことなんて、ほとんどなかったから、はじめて自分の居場所にできる所が見つかったような気もした。

 でも、一晩悩んで悩んで結論を出して、どう伝えたらいいかも考えてきたおかげで、俺にしては、過去のどの面接よりちゃんと言えた気がする。


 カレーナは、俺の自意識過剰かもしれないけど、ちょっと寂しそうで、それを振り払うように明るい口調で言った。

「でも、王都までは護衛隊に加わってくれるのですよね。私も子どもの頃に一度行ったきりなので、楽しみですよ」


 そう、王都には領兵の半数が同行することになり、俺は行きだけ加わることになった。

 せっかくだし、この世界のこの国の中心を見てみたい、その上で今後の身の振り方を決めようと思ってる。


 ザグーとバタが、あーでもないこーでもないと王都行きの編成を議論し、いよいよ明朝出発という段階になったけさ、兵たちに通知された。


 カレーナを護衛して王都に上がるのは、「今生の晴れ舞台じゃ」と譲らなかったセバスチャン老を筆頭に、隊長格では騎士イグリ、冒険者ベリシャ、僧侶バロンら。迷宮討伐組からはセシリー、ラルーク、ベスが、俺と共に同行する。


 グレオンは、留守を預かるザグーが外せないと強く主張して残留組になった。ドウラスのブレル子爵の動きや、その息のかかったならず者とかが、領境にちょっかいを出さないかを心配しているようだ。


 ベスもマンジャニ老とレダさんが残すことを希望したんだが、珍しく本人がどうしても王都に行きたいとつっぱって、護衛組に入った。なんでも、王都の本屋巡りが一生の夢だったとか、夢が叶うのが早すぎるんじゃないか。

 それでも、雨の多い季節になる前にベスの魔法で開拓を進めるため、スクタリに戻ったら休みなしだと言われているらしい。たいへんだよな。


 そして、この編成がわかったことで、俺たちの極秘ミッションも、きょう決行されることが確定した。


***********************


 昼過ぎに俺は、またトリウマに乗ってドウラスの城門をくぐった。

 俺は今は一応フリーの冒険者だから、冒険者ギルドに向かうと言えば、誰も怪しまない。


 そして、市場の雑踏の中で、先に市内に入っていたベスとラル-クに合流した。

 二人は表向きの用を問われた場合は、明日の王都行きのための買い物、ってことになってる。グレオンは別の役割で城外に待機だ。

 ラルークは既に工房に忍び込んで、ノルテやボノじいさんと段取りを打ち合わせてあるという。さすがだな。


「もうすぐ午後の水汲みだよ」

 工房街の裏通りに向かい、ベスが弱い結界を張って、人目を引かないようにする。


 さほど待つことはなかった。

 この間のように鉄球を引きずった足で、大きな木桶を天秤棒でかついで、ノルテが出てきた。

 そこで結界を解いて、声をかける。


 突然現れた俺たちにちょっと驚いた様子だったが、ベス以外は既に顔をあわせてる。リナも等身大で力の強い女戦士モードにして、5人で水汲みを手早くすませ、裏口の前に桶を置く。

「あとは、ボノさんが運び込んで、私がいないことがばれるまでの時間を稼いでくれるって・・・」


 戻ってきた所で、人の気配を感じ、しばらくまたベスの結界で全員の姿を消してやりすごす。

 おけが置かれたままなのがまずかったか?と思うが、幸い、単なる通行人のようで、気にもとめずに通り過ぎた。


 人気がなくなったのを確認して、俺は素早くベスとノルテをパーティー編成する。

「後は頼むよ、ラルーク。さっき見た門衛は、判別(初級)しか持ってなかった」

 これを確かめるため、俺はギリギリ遅く入ったんだ。


「あいよ、念のため確かめてから通るさ。そっちもうまくやりな」

 リナが一瞬でベスそっくりの魔女っ子モードに変わり、ラルークと一緒に小走りで去る。


 びっくりしているノルテに、「後で説明するよ」と伝えて、ベスに合図する。

「じゃあ行きますね・・・心に刻みしわが帰るべき地へ、“帰還”」


 淡い光に包まれて、俺たちのまわりの景色がゆらぐ。

 そして、グレオンが待つ城外の木立の影に、立っていた。


「グレオンさま・・・」

「ノルテ、よかった」

 グレオンが自分の胸にも背が届かない少女を抱きしめる。


「足を出しな」

 それから、トリウマの背に乗せてきた道具を取り出した。ごつい金ばさみだ。細い足首と奴隷の足輪の間に刃を差し込み、渾身の力を込める。

 簡単に外せないように作られている金輪だが、LV13戦士の渾身の力に、鈍い音を立ててちぎれ落ちた。


「あ、ありがとうございます」

 ノルテがぽろぽろ涙を流し、それをまたグレオンがなぐさめている。


「ラルークさんたち、大丈夫でしょうか?」

「ベスの身分証明カードで通れるはずだし、問題があればリナからは念話が届くから・・・」


 そう、さっきベスの身分証明カードをリナに渡しておいた。

 ベスになりすましたリナが、ラルークと一緒に城門を出て帰ってくる、ってのがこの作戦のミソだ。

 これで、万一ズデンコが奴隷の逃亡を役所に届けて回状が回ったとしても、真っ先に怪しまれる魔法使いは、普通に城市に入り出た、ってことが証言される。


 細かい記録でも残していれば俺は入ったのに出てないことがわかるが、そうでなければ、冒険者ギルドがある人口5万の街で、ありふれたフリーの冒険者1人の動向が問われることは、まずないはずだ。


 それでも少しドキドキしながら、外れた金輪と鉄球を俺のアイテムボックスに格納する。

 ノルテはトリウマに乗ったことがないというので、体重が軽いベスが二人乗りして、俺たちはスクタリに向けて出発する。万一のこともあるし、二人乗りでスピードが落ちる、ってのもあるから、少しでも距離を稼いでおきたい。


 ほどなくして、リナから無事城門を出たと念話が入った。


「いいのか?」

グレオンがノルテに、あらためて覚悟を尋ねている。ノルテは幼い外見に似合わない強い意志を込めた目で、グレオンに答える。


「はい、あたしは王都に行きます。こうして救い出していただけただけで、お礼のしようもありませんし、これ以上、グレオンさまや奥さまにもご迷惑はかけられません」

 あれ、奥さま?

「い、いやまだ、奥さまってわけじゃ・・・」

 グレオンも焦ってるぞ。


「でも、ラルークさまは、グレオンさまが奴隷から解放されるまで、ずっと長い間お待ちになってたって伺いましたよ?」

 まじ?そうだったのか・・・考えてみたら、ラルークって25だもんな、こっちの世界では独身なのは珍しいのか。


 意外に純愛じゃん。ベスもこれにはちょっと驚いてるみたいだ、ってか、よだれ?

 視線が集中して、グレオンが思いっきり照れてやがる。


 リア充くたばれ!

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