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第67話 スクタリのゆかいな仲間たち

カレーナは父伯爵より爵位の落ちる女子爵の地位を示され、オルバニア家の継承と所領安堵を認められた。その翌朝、俺は思わぬ来客を迎えることになった。

「おい、起きな」

 突然背後に生じた張り詰めた気配に、マジにびっくりした。


「へ・・・えっ!」

 ラルークが枕元に立ち、俺を見下ろしていた。


「え?・・・夜ばいっ!?」

 カレーナとかセシリーでも驚くけど、一番予想外だ。


「アホかっ!」

 どつかれた。思いっきりどつかれた。二日酔いの頭がスイカみたいに割れそうだ。


 ああ、そうだよね、俺もないと思ったよ、うん。

 でもじゃあ、なんだろ?


「訊きたいことがある」

 冷たい目、と言うより、珍しく困った様子の目?なのかな。


 それにしても、俺はいま一応、館の中に部屋をもらってる。身分の高い客人用の立派な部屋ではなくてその付き人クラスのための簡素な部屋だが、領主の館の中の一室だ。

 そこにこうも簡単に忍び込めるって、その気になったら暗殺とかし放題じゃないの?


「きのう、グレオンと一緒だったろ、ドウラスでなにがあった?」

 ラルークの問いかけは思ってもみないものだった。

 なんでそれがラルークと関係あるんだ?てか、なにかまずい話だったのか?


 俺はそう聞き返そうとしたんだが、ラルークの妙な迫力に気圧されて、問われるままに昨日、ドウラスを四人で訪れてからの出来事を、順番に話した。

「えっと、まず・・・その、イグリが魔石を売るっていうから・・・」


 ただでさえコミュ力ないのに、ずっと至近距離で女ににらまれて説明する、って状況でしどろもどろだ。

 ラルークもきつめの顔立ちだけど美人と言っていい。それがイライラを隠しもせず、俺の要領を得ない話の先を促して聞いていたが、グレオンの父親の工房の話になった途端、身を乗り出してきた。

 ち、近いです、ラルークねえさん。

 

 普通ならちょっと嬉しいシチュエーションかもしれないが、まったくそう言う空気じゃない。結局、俺は一方的に説明させられて、なにもこっちの疑問は解消されず、用は済んだ、みたいな顔をされ、また突然ラルークの姿は消えた。


 なんだったんだ、いったい・・・


 兵舎の食堂で遅い朝食を出してもらってると、館の中がなんだかざわついてる。そうだった、王都に行く準備だ。


 昨日、酔っ払う前に聞いてた話じゃ、カレーナが紀元祭までに王都に上がって爵位を受けるってことだった。今日は上弦の8日だから、望月の日って言うと、あと7日しかない。その前の日にはもう、内々の行事とか手続きがあるような話だったし、そもそもグレオンの話じゃ、王都まで徒歩だと7、8日かかるとか言ってなかったっけ。

もう間に合わないじゃん。


 つまり、騎馬編成かせいぜい馬車を連ねて軽装で行かなきゃならないってことで、護衛兵の編成とか必要な物資の手配とか、たいへんそうだな・・・



 そんなことを思いながら部屋に戻ると、なんと、ラルークがまたいた。しかも、グレオンとベスまで、なぜか一緒だ。

 状況が飲み込めずにいる俺を、部屋に引っ張り込むと、ラルークが合図し、ベスがいきなり結界を張った。


「え?」

「これで盗み聞きされることはないね、ぼーやがたまたま個室をもらっててよかった」


「すまんっ」

 グレオンにいきなり頭を下げられた。

 なんなんだ?話についてけてないんすけど・・・


「まったく、あんたがこんな厄介ごとを持ち込んでくるから、遠征間際でみんな忙しいってのに・・・」

 ラルークになじられて、グレオンはますます小さくなってる。ひょっとして、ノルテの救出の話か?


 ベスが心配そうにこっちを見る。

「わたしはお手伝いするつもりですけど、シローさんはいいんですか?」

 やっぱりそうだ。

「え、と、俺はさ、あの子が鞭で打たれてるとこや、ひどい扱いを受けてる証拠もこの目で見たし、なんとかしてあげたい気持ちはあるよ。けど、どうやって・・・」


「そこだよ」

 ラルークがため息をついた。

「まったくコイツが考えなしに安請け合いするから。ドウラスで荒事なんておこしたら、姫さんがまずい立場になるんだよ。ただでさえ、今、微妙な時期だってのに」

「いや、それはわかってるって、俺だって迷惑かけるつもりはないさ、ただ・・・」


「ただ、どうしても助けたい、でも知恵はない、だからどうしていいかわからない、誰かなんとかしてくれ、って?」

「うぅ・・・面目ない。俺は考えるのは苦手だし・・・」

 ラルークの容赦ない追求に、大男がここまで小さくなれるんだ、ってぐらいグレオンはへこまされてる。


「なんとかその子を工房から連れ出せれば、わたしが“帰還”を使って連れて帰れるんじゃ?シローさんがいればパーティー編成で一緒に飛べますし」

 なるほど、魔法を使えば少女誘拐も完全犯罪にできるとか、異世界こえぇよ。


「・・・ダメだね、その娘が奴隷身分なら、所有者からすぐに回状が回っちまう。間違いなくスクタリとかまで照会が来るし、逃亡奴隷は打ち首だ。それにまず、ベスの帰還だと、門衛の出入りチェックから足がつく可能性が高い」

 ちょっと考えていたラルークに、否定された。


「あたしもよく門衛の当番になるからね。ドウラスでも多分、普通一人一人の出入りまで記録は取ってない、身分証を見て確認するだけで通れるはずだ。だが、門衛は珍しいやつが通ったら覚えてる。魔法使いなんて街に入ってきたらまず忘れないし、それだけは記録にも残す可能性もある。だから、ベスがドウラスに市門から入って出た記録がなければ、それで逃亡奴隷の回状が回ったりしたら、十中八九バレるね」


 そうか、ノイアンの転移と違い、ベスの帰還では一方向だけ、一回しか飛べない。救出に使うためには、ドウラスの城外に目的地を刻んでから普通に城門から入市して、ノルテと一緒に壁内から魔法で出ることになる。つまり、ベスがドウラスから出た記録は残らないことになるのか。厄介だな。

 あ、でも・・・


「あのさ、最初の方の問題なんだけど、昨日、ノルテのステータスを見たときに、奴隷は奴隷なんだけど、所有者表示がなかったんだ・・・」

 俺は、(隷属:- )だったことを伝える。


「俺もセシリーの奴隷だった時、ステータスで(隷属:セシリー)だったし、他の鍛冶職人は(隷属:ズデンコ)になってたのに、どういうことなんだ?」

「それは・・・でかしたぞ、シロー!」

グレオンが何か思いついたように叫んだ。声がでかい、ってラルークに叱られてまたシュンとしてたが。


「所有者がそのズデンコって男でないのなら、回状を公式に回すことはできないね。逃げ出せれば、奴隷身分はそのままでも、とりあえず主を選べる立場にはなる、か。しかし、どういう事情なんだか・・・」

 ラルークもちょっと前向きな反応だ。グレオンが考えて口を開く。


「たぶん、ズデンコがうちを乗っ取った時、ノルテはまだ幼児で、奴隷契約を本人が行うことはできなかった。所有権を持ってた親父が死んだことで、隷属先が消えたままなんじゃないかと思う」

「だとすれば、あとは脱出手段しだい、ってことですか・・・」

 ベスが眉間にしわを寄せて考え込む。


「うーん・・・シローさん、いい方法ないですか?」

「そーだな、ぼうやの悪知恵を頼む」

 ひとを悪の陰謀家みたいに言うのはやめてくれ、うー・・・、あ?


「ラルーク、衛兵のチェックの時、名前とか年齢とかまで確かめてるもん?」

「ん、厳密には確かめてないね。身分証とかギルドカードには名前とジョブが乗ってるけど、持ってるのがその本人かどうか?がわかるわけじゃない。そしてカードを持ってる奴には、衛兵は普通ステータス開示まではさせないからな。判別(初級)スキルではジョブとレベルぐらいしか見えないし、中級まで持ってるやつは少ないからな」

 なぜそんなことを?という顔でラルークが答えた。

 なら、行けるかもしれない。


 俺は、思いついたアイデアを3人に説明した。


「さすがです、シローさんって、ほんとに鋭いですね~」

 さっそく準備に取りかかったグレオンとラルークを送り出してから、ベスが帰り際にそういって尊敬のまなざしを向けてきた。いー雰囲気だな、これは。


「いや、ベスこそ、自分がある意味、犯罪者扱いされるかもしれない危険を冒すわけじゃん?なのに、グレオンをそこまで手伝ってやろうっていうの、えらいと思うよ」

「だって、ラルークさんとは同室だし、あの二人を見てたら応援してあげたくなるじゃないですかぁ」


 え?どういうこと?

 俺の顔に浮かんだ疑問符に、ベスの方が、え?って顔になった。


「あの、まさか、気がついてないとか?」

「え、と、なんのこと?」


 ベスの顔から一瞬で尊敬の表情が消えた。

「シローさんって、ほんとに鈍いですね・・・」


あれ、さっきと逆のセリフなのは気のせいかな。なんつーか、あきれられてる?


「ラルークさんとグレオンさん、ずっと付き合ってますよ?」

 聞いてないよ、それ。


***********************


 夕方、レダさんが娘を連れて家庭教師に来てくれた。


 あの日手ひどくフラれた気がするし、実際そうなんだろうけど、今やレダさんは女官兼内政官補佐として、わずかだが給金をもらう立場になったそうで、昨日から、館の別棟にある女官部屋に娘と一緒に入って住み込みで働いている。


 そして、立ち上がったばかりの農業振興策の具体的な計画作りで、すごく忙しそうなのに、よかったんだろうか?


「約束したじゃないですか。それに、ディーナのためにもなりますから」

 うん、そうなんだ、絵本を開いて三歳児と一緒に読み書きを教わってます・・・同レベルなんだよ、大きなお友達だよ。


 レダ先生は教え上手だ、幼児プレイもいいかもしれない。

「集中して下さい、シローさん」

 甘い声で叱られるのもいいな、インテリ眼鏡をかけさせてみたい。


「もう、シローさん・・・マンジャニさまに私のことを話してくれたのもシローさんですよね」

 口調が変わった。


「あんなひどいことを言った私を、こんなに気にかけてくれて。本当にありがとう、それに、ごめんなさい。優しくされると疑っちゃう性分だから」

 レダさんは俺の背に回って、文字の書き方を文字通り手をとって教えてくれながら、耳元に唇を寄せてささやいた。

ディーナがいなかったら、どうしてたかわからない。でも、きっとそういう状況だからこそ、だよね。


「おにいちゃん、字がへたっぴだよー」

 隣りからディーナが、ぐしゃぐしゃになってしまった俺の文字を見て言う。ああ、そうだね、この時間をずっと大事に覚えておこうと思う。


 ディーナが疲れてしまったところで、きょうの授業は終わりだ。


 夕食に向かおうとするレダさんに、ふと、きょうのラルークとグレオンの話をちらっとしてみた。そしたら、やぶ蛇だった。

「ひと目見てわかりましたよ。シローさんは男と女のことも、もうちょっと勉強した方がいいですね」


ぐーの音も出ない。

「レダさんにそっちも教えてもらえたらなー、とか? いや、レディアナ先生って呼ばなきゃだめだっけ」


「馬鹿ですねぇ・・・シローさんには、いつでもレダでいいですよ」

 そう言って、ちゅっとお姉さんっぽくキスして行ってしまった。それは結局どっちなんだろう?

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