第64話 ドウラスの城市
俺たちの「任務その2」は、ドウラスに行くことだった。
騎士イグリに率いられた、俺とグレオン、スピノの一行はトリウマをドウラスに向けた。
目的はまず、今回の迷宮討伐で手に入れた魔石や砂金などを売り払うためだ。
スクタリの商工ギルドを通すのでなく、ドウラスの冒険者ギルドに直に持ち込む方が高く売れるから、ということだ。
たしか、俺がスクタリでギルドに登録したとき、「魔石はギルドに売れ」と言われたんだが、これはいいんだな・・・
もう一つ、マンジャニとレダさんが進める新農地開拓計画のために、必要な資材の見積もりとか農産物のドウラスでの相場の把握とか、こまごました用も言いつかっている。
奴隷仲間だったスピノが一緒に連れてこられたのは、農家の息子でそのあたりの知識もあるから、なんだろう。騎士のイグリが農業に詳しいとも思えないからな。
バーデバーデからドウラスまでは、トリウマで1時間足らず。約10kmしかない最寄りの街だ。
だからこそゲンさん、ゲンツ卿とドウラスを実効支配しているブレル子爵は、商売の権益などを巡って折り合いが悪いそうだ。
初めて見るドウラスの城壁は、スクタリのなんちゃって街壁とは違い、高さ10メートル近くありそうな、立派な石壁だ。ただ、古びて補修が行き届かないところも目立つ。
真新しいバーデバーデの方が勢いを感じるのは確かだ。
イグリを先頭に身分証を見せると、簡単に城門を通ることができた。
門の衛兵は、戦士LV7を筆頭に4人。スクタリよりはレベルが高めだが、これもバーデバーデにはとても及ばない。やっぱりゲンさんの所が、地方では異常にレベルが高いってことだろう。
街は・・・おー、いかにも中世ヨーロッパの街、だな。これは観光に来たかいがあった。いや、観光じゃなくお仕事だけど。
軒を連ねる沢山の店や、行き交う人たち。その色合いは全体に地味目で、フランスやベルギーではなく、ドイツとか東欧っぽい雰囲気だが、人口はかなり多そうだ。
グレオンに聞くと、周辺を合わせて5万人以上住んでるそうだ。スクタリより一桁多い。さすがは、このシキペール地方とやらの中心都市と言われるだけあるな。
きょうは公式訪問じゃ無いから子爵に挨拶に行く必要はない、とイグリは大通の向こうに遠く見える城を見て言っていたが、そもそもオルバニア家は、ドウラスの統治者をブレル子爵と正式に認めたわけではないから、というのが本音らしい。
そういうわけで、直接、冒険者ギルドに向かった。
石造りの見張り塔のあるかなり大きな建物で、裏手には馬をつなぐ場所がある。粗末な身なりの馬丁にチップをやると、世話をしておいてくれるようだ。ここでは馬とトリウマは半々ぐらいだ。
建物の中も、いかにも冒険者ギルドらしく、武器や鎧、大きな毛皮が飾られていたり、クエストの掲示板らしいものの前には、多くの男たちと少数の女たちが集まっていて活気があった。レベルは1から20近いのまでいて、目に付いたジョブは、冒険者が一番多く、ついで戦士とスカウト、ちらほら魔法使いや僧侶、狩人もいた。
他に見つけたジョブは、薬師、錬金術師、鍛治師、吟遊詩人、商人もいた。ゲンさんも昔、お宝を手に入れるのとレベル上げが目的で、冒険者としての活動をしてた時期があると言ってたな。しかし、鍛治師とか吟遊詩人も、魔物と戦ったりするとレベルが上がるのか?
ゲーム世界だとすると、ルールにはまだまだナゾが多いな。
魔導師とか忍び、ロードといった上級職は、ざっと見たところ見当たらなかった。
イグリがグレオンを連れて買い取り窓口に行き、迷宮で得た魔石をまとめて売る値段交渉をしていた。グレオンはドウラス出身と聞いたし、武器にも詳しそうだしな。
その間俺は、クエスト掲示板を眺めてた。まだ、ほとんど読めないが、左側に依頼の内容、右側の数字の並びがおそらく期限と報酬額なんじゃないかと思う。
銀とか金って単語は、例の絵本に載ってたからわかる。
そして、左端の数字はクエストの番号だ。カウンターに行って冒険者が引き受けたいクエストの番号を告げる、という流れらしい。
イグリは、思った以上の金になったらしく、上機嫌で戻ってきた。
その後、迷宮の宝箱から出た砂金や、オークから手に入れた武器とかも、それぞれ両替商と武器屋で売って換金した。
あとは、農産物の市場価格調査と、必要な苗や種などの見積もりだったか。
その時、グレオンが珍しく遠慮がちにイグリに切り出した。
「ちょっと寄りたい所があるんですが・・・」
「ん?あー、お前はこっちの出だったな。かまわんぞ。あとは農業組合だけだからな、スピノさえいれば。グレオンとシローも、今夜中に帰ってくればいい」
話のわかる上司、ってやつだ。
まあ、俺は今は一応、カレーナの客分扱いだし、グレオンも自由民の兵士になったわけだから、奴隷時代のように所有者や保証人が同行する必要もなくなってるわけだ。
スピノには悪いが、せっかくだし自由行動にさせてもらうか。
「よかったら、お前も来るか?」
グレオンに誘われたのは、やつの生家兼かつての父親の鍛冶工房だった。
かつての、というのは、グレオンが14の時に商売に行き詰まり、まもなく他人の手に渡ったからだ。父親は兵隊に取られてすぐに亡くなってしまい、母親は再婚して姉はそちらに引き取られたが、グレオンは父の残した借金のかたに奴隷として売られた、という。
さらっと聞かされたが、それって相当悲惨な話じゃないか。
「なに、よくある話さ。俺じゃなく姉貴が売られてたら娼館行きしかなかったし、俺は伯爵家に戦闘奴隷として買われたおかげで、鞭で打たれるようなこともほとんどなかったからな」
ただ、父親が借金を抱えたのは、同業者にだまされた結果らしく、その悪評の高い同業者が、かつての工房を引き継いで、当時の職人たちもひどい条件で働かされるようになったそうだ。
「もう当時の職人はほとんど残ってないはずだが、ちょっとだけ通りすがりの振りしてのぞいてみたくてな。俺ひとりだと目立つかもしれんから・・・」
ドウラスの職人街では、グレオンのことを覚えている人も少なからずいるようだから、俺たちは武器を探しに来た冒険者コンビ、って設定で通りがかることにした。
なつかしいぜ、とグレオンが口に出したのは、ハンマーで金属を叩いたり、木を削ったりする工房特有の音が響く通りに入った時だった。
せいぜい二階建ての小さな建物が多い、いかにも庶民的なエリアだが、その一階に様々な工房や店があり、二階に住んでいる、というスタイルが多いみたいだ。
店と行っても食べ物屋は見当たらず、木工、革細工、布製品、そして武器や防具など。
そんなに高級そうな店はまずない。
その一角に、剣を十字に組み合わせた絵の看板を掲げた、鍛冶屋があった。
グレオンの顔から表情が消え、足取りがわざとゆっくりになった。
俺はわざと、左右の店並みを交互にながめながら、「俺も両手持ちの剣を新調したいかな~」とか話しかけてみる。
(演技力、ひっくぅー)
うるさい、わかってるよ! バーデバーデではおとなしくしてたリナが、普段の調子に戻ってきた。
グレオンが一段と歩みを遅めたタイミングで、俺も店の中を見る。表が武器店、奥に鍛冶場がある作りだが、妙に雰囲気が暗い。
奥の方に何人かの男たちが働いている。かろうじて見えるだけだが、判別スキルを使うには十分だ。
<鍛治師(LV3)/奴隷(隷属:ズデンコ)>
<鍛治師(LV2)/奴隷(隷属:ズデンコ)>
<鍛治師(LV7)/奴隷(隷属:ズデンコ)>
・・・
え?
よく見ると、さらに奥で鞭を振り上げてる男がいる。小さな女の子が打たれてる!
<鍛冶師(LV1)/奴隷(隷属:ズデンコ)>
あんな小さな子も鍛治師、そして奴隷だ。
その店にいる者たちは、鞭を振り罵声をあげているズデンコという男一人を除いて、目に映った全員が奴隷だった。




