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第62話 模擬戦

カレーナを侮辱し俺たちの迷宮討伐を信じない巡検使たちは、実力を信じて欲しければ自分たちを倒して見ろと、模擬戦を提案してきた。

「模擬戦だ。貴女方が我々のパーティーを倒すことができれば、その主張を認めましょう」

 メイガー卿はそう言い放った。


 カレーナは思わぬ成り行きに言葉を失って、俺たちを振り向く。

 セシリーは間髪おかず「やりましょう!」と即答だが、グレオンとラルークは、冷静に相手3人の実力を見極めるかのように見つめている。


 そして、俺とベスは、こっそり目配せをした。ベスの“遠話”がパーティーを結ぶ。カレーナがびくっとして、それからゆっくりと頷いた。

 

「・・・それは巡検使としての、公式なご提案ですか?メイガー卿」

 怒りを抑え込んだ、努めて平静な声だ。いいぞ、姫。


「む?・・・ああ、公務で参った巡検使に刃を向けては、それ自体が反乱、ないし罪に問われることを懸念しておるのですか?そもそも、貴女方が我らに傷一つ負わせることなど困難ゆえ、その心配は無用ですが。そうです、貴家に自らこの迷宮を討伐しただけの実力があるのか、それを見極めさせていただく、と申しておるのです」

 

「条件は?」

 もう落ち着きを取り戻したように見えるカレーナが続けて問う。


「互いに相手の命は取らぬ、という誓約を交わしましょう。その上で、互いのパーティー同士で戦い、その主たる貴女と私、いずれかが戦闘不能になった段階で決着とする。もし貴女方が勝てば、そのようなことは万が一にもあり得ぬが、私は疑念を取り下げ、貴家がこの迷宮討伐を完遂したと、王都に報告しましょう」


「6対3でよいのですか?」

「・・・人数が多ければ勝てるとでも?この場にいる互いのパーティーで構いませんよ。ただし」

 そこでメイガーは言葉を切った。


「貴女方が敗れた場合、私は、“オルバニア家に迷宮討伐の実力無し、虚偽の申告の疑いが強い”と報告することになります。それは、オルバニア家の取りつぶしのみならず、名誉を失い再起の機会もなくすことを意味します。一方で、ここで討伐の報告を取り下げ王都の寛大な措置を求めるなら、隣接する貴族の寄騎となってスクタリの代官の地位を認められるか、せめて騎士身分ぐらいは保つことも可能でしょう。それでも無謀な賭けをしますか?」

 やつはカレーナに翻意を促したつもりなのだろう。


「それは、ブレル子爵の家臣にされる、という意味ですか?父を裏切り、ドウラスを正当な資格も無く奪い取った、あの卑劣な男の側室にでもなれと」

 だが、かえってそれは、カレーナに覚悟を決めさせてしまったようだ。


「メイガー卿、あなたも貴族であるなら、その言葉の責任は負っていただきますよ」

 これまで彼女からは聞いたこともない、冷たい声だった。


***********************


「みんな、許して」

「謝ったりしないで下さい、カレーナ様」

 カレーナは、家臣たちを路頭に迷わせかねない挑発に乗ったことに罪の意識を感じている様子だったが、セシリーがそれを遮った。


「あそこまで馬鹿にされたら、引っ込めないさ、そうだろ」

「ええ、やりましょう」

 珍しく、いつも斜に構えたラルークも腹に据えかねたようだし、戦いがきらいなベスまでやる気になって、よそ行きモードをやめ眼鏡を取り出した。

 もちろん、俺もメイガーたちの言いなりになる気は全くないぞ。


 それに、さっきベスの遠話で、皆にわかっている限りの情報は共有している。

「で、どう勝つ?」

 グレオンが戦闘モードに入って、戦い方を確認する。


 この世界の常識では、レベルが2倍上の相手には2倍以上の人数がいても勝てないものらしい。だからこそ、奴らはこの模擬戦をふっかけてきたのだろう。


 敵パーティーは、前衛寄りのジョブから順に挙げると、ロードLV23、冒険者LV19、魔導師レベル18、ということになってる。


 対するこっちは、戦士LV13、戦士LV12、冒険者LV15、僧侶LV12、スカウトLV12、魔法使いLV11だ。


 もちろん、そう額面通りにはいかないさ。そう、お互いに。



「よいですかな、カレーナどの」

「ええ、お待たせしました」

 水辺を離れ、足場のよい五階層から四階層に上がれるあたりに戻っていた、メイガーにカレーナが応じた。


「では!」

 メイガーが合図と共に、パーティー強化の呪文を唱えだし、対抗してカレーナも物理防御、魔法防御強化の詠唱を重ね、戦いが始まった。


 既にラルークは隠身で姿を消している。

 パーティー連携で俺たちには位置はわかっているが、相手にどれだけの察知力があるか、まずはそれで展開が変わる。


 突然、敵の魔導師ノイアンの背後にラルークが出現し短刀で斬りかかった、だが、それは予想されていたかのようにかわされ、追撃は魔法の盾で弾かれる。冒険者デラシウスと挟み撃ちにされそうになって、ラルークは慌ててかわし、距離をとった。

 やはり正確に察知されてるな。俺の予想はこのとき確信に変わった。


 相手の魔導師が受け身に回ったことで、攻撃魔法はこちらが先行した。


 ベスの炎の渦が相手三人をまとめて包み込もうとするが、ノイアンは素早く広域の魔法盾を張り直してそれを防ぐ。それと同時に、向こうから吹雪が押し寄せる。

 同時に2つの魔法を行使しているように見えるぞ、これが高レベル魔導師の力か?


 ベスは魔法を唱え直す余裕がない。俺は粘土の防壁を肩の高さまで出現させ、みんなその下に身をかがめて、吹雪をやり過ごす。

 向こうは、これで決着だと思っていたらしく、突然出現した防壁に驚いている。粘土の使い方は船しか見せてなかったからな。


 判別(中)スキルでは、「お人形遊び」や「粘土遊び」といったスキル名は見えるが、その中で具体的になにができるかまでは表示されない。以前ゲンさんと話した時にそれを知っていたから、なるべく手の内は隠してた。最初からメイガーは信用してなかったからな。


 相手の魔導師が複数呪文を同時に使えるのはやっかいだが、こっちは俺が守備を担当をすれば、ベスは攻撃に専念できる。防壁内に戻ってきたラルークも含め、皆が弓で一斉射撃する。命のやりとりはなし、の取り決めだが、頭に当てなければ致命傷にはならないだろう。


 それに対して、向こうはノイアンが魔法盾を張り、その脇からメイガーとデラシウスが弓を使ってくる。

 この打ち合いなら、レベル差はあっても数でこっちが有利じゃ無いのか?と思った途端、吹雪の魔法が再び発動した。やはり同時行使だ。


 しかも、防壁で防げる、と思っていた相手の吹雪が巻き込むように軌道を変えて、壁の裏の俺たちに正確に襲いかかってきた。

 俺はセラミックの大盾を出してパーティーを守るが、どうして位置がわかるんだ?


「高レベル魔法の“透視”かも」

 ベスが指摘する。それもありうるか。だが、もっとやっかいな可能性もあるな。

 ラルークに目を向けると、わかってる、という表情で気配を探っている。こっちは任せるしかないな。

 

 ベスが再び、得意の絞り込んだ炎の魔法で掃射する。まともに当たったら殺してしまう威力だが、相手もそれほど間抜けじゃないのがわかってるからな。

 ノイアンが魔法盾の威力を上げているんだろう。まったくダメージは与えられないが、その状態では向こうも攻撃呪文との併用は難しそうだ。


 すると、突然、向こうは魔法盾を維持したまま、3人そろって突撃してきた。

 しかも、メイガーが何か唱えている。 これは、“静謐”か?


 俺たちの陣内を魔力の凪が覆った。

 ベスが詠唱しかけていた炎の魔法が霧散する。


 だが、相手の魔法の盾はそのまま維持されてる?カレーナとセシリーの矢が弾かれる。

「あれはもっと高度な、領域指定した静謐だわ」

 カレーナが驚きを見せる。


「レベルが上がると、場所をしぼって魔法を押さえることができるって聞いたことがあります」

 ベスも動揺している。それはまずい。


 でも、場所で指定なら、この位置から移動すれば魔法が使えるようになるってことだ。

「こっちも動こう!」


 俺はセラミック大盾を2枚作りだし、1つをグレオンに渡す。

 3人ずつに分かれて盾の陰に入ったのを見て、粘土壁を吸収し、メイガーたちを挟み込むように二手になる。


 右に俺とセシリー、カレーナ。左にグレオン、ラルーク、ベス。


 向こうは当然のように、カレーナがいるこっちに向かってくる。こっちは重いセラミックの大盾なのに向こうは魔法盾だから、当然向こうの動きの方が速いが、ベスに自由に魔法を使わせるためにはしかたがない。


 むしろ、俺たちはおとりだ。

 ラルークとベスが、弓と魔法で相手を背後から狙う。それをノイアンが2枚目の魔法盾を後ろに出して防ぐ。だが、これであっちは攻撃魔法までは使う余裕がないはずだ。


 透明な魔法盾は中が見える。それを逆手に取り、ベスが炎の魔法を風に乗せて隙間から送り込む。ノイアンは魔法盾を広げて防ぐのに手一杯になる。それを見てグレオンが盾を捨て、一気に攻勢に出た。

 それをLV19冒険者のデラシウスが迎撃して、簡単に受け止める。が、一瞬隠身で視界から消えていたラルークが、その横合いから短刀で斬りつけ、ついに血飛沫が飛ぶ。デラシウスは身をひねってかわしたものの、肩を切り裂かれていた。


 だが、メイガーはそれを放置してこちらに突進してきた。

 勝利条件は「メイガーかカレーナが戦闘不能になること」だからな。


 セシリーが迎え撃つが、一合で剣を飛ばされてしまった。さすがに強い!

 セシリーの鎧を横なぎに斬ろうとするところを、頭上に粘土の塊を降らせて、体勢を崩させ、俺も盾を収納して斬りかかった。カレーナが一人になる。

 

 その瞬間、気配が生じた。

「きゃっ!」


 カレーナの背後からにゅっと腕が伸び、頭を押さえて、ナイフが首元に突きつけられる。どこにもいなかった黒装束の男が突如現れ、「動くな」と抑揚の無い声をあげた。


 剣を拾い上げたセシリーと俺に対峙しながらメイガーが、満足げに笑みを浮かべる。だが、それは一瞬だった。


 カレーナの肩越しにのぞいた忍者男の顔面に、小さな火球が炸裂した。

「うがぁッ」

 顔面を焼かれのたうち回る男を、カレーナが剣の腹で容赦なくたたき伏せた。


 そのあり得ない状況に、呆然として一瞬動きが止まったしたメイガーを、俺はありったけの粘土壁で囲い込み、動けなくする。

 あわてて逃れようとする奴の首に、素早くセシリーの剣が突きつけられた。

「覚悟を」

「くっ、そんなバカな」


「・・・これはやられたな。うむ、我々の負けだ」

 ノイアンが持っていた杖を地に落とした。


「お認めになりますか、メイガー卿」

 黒装束の忍者男を女王様のように踏みつけ、そののど元に剣を向けながら、カレーナがメイガーに問う。


 カレーナの胸元には、人形サイズで魔法使い衣装のリナが、顔をのぞかせていた。

 やつらが最終局面でカレーナを狙うのはわかりきってたからな、そのために胸の谷間に潜ませておいた、忍法“巨乳隠れの術”だ。忍び合戦はこっちの勝ちだったな。


「まさか・・・これは、どういうことだ?」

 屈辱にぶるぶると肩をふるわせ、納得がゆかぬというメイガーの首に、セシリーの刃がさらに押しつけられる。


「わ、わかった、認めましょう・・・我々の負けです」

 頬をゆがめながら、悔しげに、それでも敗北を認めた。

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