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第465話 神との邂逅 クリア・ボーナス

激戦の末にルシエンとエヴァが命を落とし、残された俺たちはついに魔王を倒した!!

 音楽が聞こえる。


 ゲーム音楽っぽいけれど、たしかそうじゃない。

 これはなんだっけ・・・えーっと、たしか、“主よ人の望みの喜びよ”とか、そんな曲名だったと思う。


 クラシックだけど教会音楽みたいなメロディーだ。

 で、たしかこれをゲームのメインテーマみたいに使ってるRPGもあったから、音楽にそう詳しくない俺にも刷り込まれてたんだな、きっと。


 そこまで考えてたら、目が開いた。


 闇の中に白い光が差し込む空間。


 久しぶりの、あのレベルアップ空間・・・とは似てるようでちょっと違う。


 これは、そうだ。

 転生したときに、最初に神サマ?と邂逅した、あの場所に似てる。



 そう認識したからだろうか・・・光の中にもやもやと、姿が浮かぶ。


 ああ、てことは、あの女神に再会するのか?

 ちょっと透けたローブ姿でエロかわいい系美女の、でもちょっとうさんくさい・・・


「ゴホンゴホン・・・シロー、これがあんたの神様のイメージなの?」


 えっ?


 振り向くとみんながいた。


 サヤカだけでなく、モモカとカーミラ、人形サイズのリナまで俺のそばに。

 その傍らに眠るように横たわったルシエンとエヴァ。


 さっきまで戦ってたはずなのに、みんな鎧姿じゃなく普段着だ。


 それもリナは、最初に手に入れたときのリ○ちゃんのドレス風。

 サヤカとモモカに至っては、なぜか元の世界の普段着だ。


 モモカはお気に入りのパステルカラーのノースリーブとミニスカートだけど、サヤカなんて自宅でくつろいでる時におなじみのジャージ姿だった。


「これが、しろくんのイメージなのね」

「どーゆーことよ!?」

 モモカがちょっと恥ずかしそうにスカートの裾をおさえ、サヤカが俺のほっぺたを餅みたいに引き延ばした。


 そう言う俺自身は、あのセンター試験の朝の服装だった。


<オホン、ではこれでいいですか?みなさん>


 エロかわ女神の声に、あわてて振り向く。

 だが横から注文がついた。


「異議あり。私たちのイメージも反映してもらいたいと思います」

 モモカだ。


 すると、女神の姿が少しずつ変わっていく。

透けてたローブは純白の上質な絹に。

 顔立ちはエロかわいいと言うより、美人だけど理知的で毅然とした、ギリシャ彫刻のような顔立ちに。


「・・・ミッション系女子高生としてもシローの婚約者としても、譲れないラインがあるからね。女神なのは譲るとして、このへんで手を打ちましょうか」

 サヤカがそう言い放つと、モモカも頷いた。


 どうやら、前に想像したとおり、この世界は俺たちの認識によって形作られている部分があるようだ。

 だから、今回は“俺たち”の「神」のイメージの最大公約数的なところに落ち着いたと。


 数の暴力に屈した気分だ。


(あほっ)


 リナになじられた。こーゆーとこは変わらないらしい。


<さて、汝ら・・・>


 しゃべり方まで変わった女神が、あらためて口を開いた。


 モモカとサヤカ、そしてリナまでもがその前に跪いたのを見て、俺とカーミラもあわてて真似をした。

 なんて言うか、本当の神前の儀式っぽいな。いや、本当に神様なのかもしれないけど。


<魔王を倒し世界を破滅から救ったこと、見事でした>


 やっぱり俺たちは魔王を倒すことに成功したんだ。

 最後に意識が消える前に見えたのは、幻じゃなかった。

 俺たちはやったんだ・・・ルシエンとエヴァを失ったけれども。


<最大のつとめを果たした汝らに、報いねばなりませぬ>

<生き残った者1人につき1つずつ、願いをかなえましょう>


 女神はそう切り出した。


 これってあれか?ゲーム的に言えば、クリア・ボーナスってやつ?


 サヤカも同じことを考えたらしく、俺の方を振り向いた。

 モモカはなにか、考え込んでいる様子だ。


<願いを申してみよ、まず勇者サーカキスよ>


「えっ、あたしから・・・あ、はい・・・・そうですね」

 名指しされたサヤカが考え込む。


 それからモモカを向いてアイコンタクトした。遠話で相談してるのかもしれないが、俺には聞こえない。


 そして、ひとつ頷くと、女神の目をまっすぐ見つめて言った。

「・・・この戦いで命を落とした全ての自由の民を生き返らせて下さい」


 なるほど。言われて見れば当然だが、これがベストの願いかもしれない。

 だが、女神の答えは“否”だった。


<人の子よ。世界のバランスを変えるような願いはならぬ>


 女神は、それが不可能だとも、単にそこまでの報償は与えられないとも、どっちともとれる答え方をした。

 けれど、その後で少しだけ補足情報をくれた。


 ただでさえ既に起きた事象の改変はこの世界そのものを不安定化させるし、その規模が大きくなればなるほどそうだ、と。


 死んだ者を“神の奇跡”で生き返らせることができるとしても、それはひとつの奇蹟で1人だけ。かつ、その生死が、既に起きた事象に無視できるほどの影響しか与えない場合に限られる、と。


 まわりくどい表現だったが、それはいわゆるバタフライ効果みたいなことを言っているのだろう。

 俺の脳裏に浮かんだのは、ゲルフィムに襲われて命を落としたアドリンのことだった。

 アドリンがあの時死ななかったとしたら、代わりにノルテがモーリアに向かうことはなかった。すると、リンダベルさんやリリスが助っ人を頼まれることもなく、それはその後の展開にも大きな違いを生んでいるだろう・・・そういうことはできないって言いたいのか。


 サヤカはしばらく考え込み、俺の方をちらっと見てから、こう女神に告げた。


「わかりました。では、今この時から、魔王の覚醒と復活に起因する、自由の民の不幸がこれ以上生じないようにして下さい」


<なるほど・・・>


 サヤカは実のところすごく頭がいい。

 モモカと同じ遺伝子を持ってるんだから不思議はないが、地頭力が高いとでも言うのか、こういうところは大したものだと思う。

 これなら、これ以上あの戦場の兵たちが死ぬことも、魔物に犯された女たちがオークの仔を産むことも無くなるだろう。

 各国が荒らされたことで飢え死にする人も、ほぼ無くせるかもしれない。


 女神は、なにか考え込んでいる―――― あるいは、これがモモカが以前言っていたような人工的にプログラムされた世界なら、システムのルールとか禁則事項に触れないか検索しているのかもしれない。


<・・・よいでしょう。“かくあれ”>


 やがて女神が右手を高く差し上げ、厳かに宣言した。

 その手の先から光の結晶が溢れだし、なにか大きな力が行使されたのを感じた。


 サヤカがほっとしたように、息を吐いた。

 どこまで願いがかなうのか、賭けだったんだろう。


<では、次は聖女よ、汝はなにを願うか?>


「いえ、私は最後で結構です」


 女神の言葉に、モモカが即答した。

 なるほど。

 みんなが望みを言った後で足りなかったもの、落とし穴があった場合を考えて、モモカは最後にカバーするってつもりなんだな。

 さすがだよな、モモ姉。


 モモカが俺にアイコンタクトを送ってきたのを見て、俺は頷いた。


<ならば次は誰が?・・・賢者か、よかろう。汝は何を願う?>


 俺はサヤカへの女神の最初の答えから、考えていたことを口に出した。


「エヴァとルシエンを生き返らせることなら、できるんですよね?2人が死んだのは、ついさっきの戦いだから、仮に2人が生き残っていても、その生死による違いは、まだ世界にはほぼ生じていないはず。生きていたとしても矛盾は生じないですよね?」


<・・・だとしても、ひとつの奇蹟は1人の命しか贖えぬ>


 だろうな。

 だから俺は途中から、カーミラを見ていた。


「ルシエン、生き返らせる!カーミラ願いっ!」

 親友を生き返らせることができると気付いた人狼娘が、大きく目を見開いて叫んだ。

「で、俺の願いですけど、エヴァを生き返らせて下さい」


<よいでしょう。“かくあれ”>


 女神は首を縦に振ると、再び右手を差し上げて唱えた。


 今度の光の結晶は、俺たちの傍らに横たわるルシエンとエヴァに降り注いだ。


 二人の胸がゆっくりと上下し始める。

 青白い顔に血の気が戻り始めた。


「ルシエンっ」

 カーミラが抱きついてペロペロ顔をなめ始めた。


 俺はエヴァの髪をそっとなでる。



 女神が穏やかな笑みを浮かべてから、モモカに視線を向けた。


<では、最後に>


「待って、最後じゃないよ」


 それをさえぎる声があがった。

 俺のすぐそば、視線の下から。


 リ○ちゃんドレス姿の人形サイズのリナが立ち上がって、なにかを決意した様子で、女神を恐れ気もなく見つめた。


「わたしの願いも、かなえてちょうだい!」

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