表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
492/503

第460話 最後の戦い⑥ キング・ワーム

魔王のパーティーの最後の1体は、地下に潜む迷宮ワームの最上位種だった。それをついに見つけ出した直後、ルシエンがキング・ワームに飲込まれてしまった。

「ルシエ――――ンッ!!」

 絶叫しているのが自分だと言うことも、自分が目の前の魔王と戦っていることさえも、その時、頭から完全に消えていた。


 ほっそりした美しいエルフの姿が、騎乗する粘土トリウマごと、ワームの巨大な口の中に飲込まれた。

 そして、スキル地図上の白い光点が1つ消えたことを、俺の頭も心も受け入れることを拒絶していた。


 何度凝視しても、狼化したカーミラの前を走っていたルシエンの姿は無く、直径数十メートル、長さは1kmぐらいありそうな、金色に輝く不気味なワームだけだ。


 距離が遠いから肉眼では見えないだけで、倒れているのかもしれない、と思い込もうとしても、判別スキルにも映っているのは<キング・ワーム LV50>だけだった。


 まさか、殺された・・・



「シローさんっ、よけてっ!」

 エヴァの叫びに、我にかえってトリウマを操る。

 振り下ろされた大剣の直撃を免れたのは幸運だったとしか言いようが無い。



 俺とエヴァ、サヤカとモモカのコンビで魔王を前後から交互に攻撃し、的を絞らせない。

 魔王の真体をノルテたちがモーリアの地下で葬ってくれるまで、こうして時間を稼ぐほかはないのだ。

 それはわかってる。


 けれど今、ルシエンが飲込まれ、カーミラも1人だけで巨大すぎる魔物に向かっている。

 このままではやられてしまうだろう。


 どうしたらいい?どうすれば・・・


《シロー、魔王は私たちだけで引き受けるから、なんとかあの化け物を頼むっ。あれが、“蓄電地”なんだと思う!》


 サヤカが遠話でそう叫んだ。


 無茶だと思うが、きっとそれしかないだろう。

 モモカの魔法収納には、まだ残量のある“魔力ボンベ”を渡してあるから、それを使ってなんとかしのいでもらうしかない。



 以前聞いたことがあった。


 迷宮ワームは卵から孵化し、地下深く龍脈の魔力が漏れ出しているところを目指して掘り進んでいく。

 魔力を含んだ土を喰らい、年に1度脱皮して殻を残しながら、ひたすら深く深く・・・


 もしも龍脈そのものにまでワームが至ることがあれば、その時は膨大な魔力や魔物が地上にまで溢れだしてしまう。各国が迷宮の討伐に力を入れているのは、それを防ぐためだと・・・


 つまり、おそらくここは、本当にワームが龍脈にまで到達してしまった場所なのだ。


 それも龍脈の支脈どころではなく、太い本流にまで。


 そんな場所を見つけた使徒ヴァシュティが、ここを新たな魔王城の立地に選んだ。


 そこには龍脈にまで到達し、無限の魔力を吸い上げることができるようになった迷宮ワームの親玉もいたってわけだ。


 迷宮ワームは地中の魔力を取り込んで、それを他の魔物や生物が利用しやすい形に変換して自らの体から放出する。湧き出した魔力によって、無数の魔物を迷宮内に生み出すことができる特殊な魔物でもある。

 膨大な魔力をその身に蓄えることもできるのだろう。

 しかも、ここにいるのは長い歳月をかけて龍脈そのものまで掘り進み、進化したワームの最上位種、キング・ワームだ。


 魔王はそれを自らの眷属として飼い慣らし、自分の魔力の供給役、外部バッテリーのように使っているのだろう。


 だからこそ、龍脈からの直接の魔力供給、言わばAC電源が壊されても、非常用電源のキング・ワームがいる間は膨大な魔力を使い続ける事ができる・・・謎は解けた。



「エヴァ、リナ、飛ぶぞっ」

「ええ」

「おけー」


 俺たちは、カーミラの所まで有視界転移で飛んだ。魔力嵐で位置がずれるのも慣れてくればある程度は予測できる。

 すぐに結界を張って身を隠す。


「カーミラっ」

「ハア、ハア・・・」


 セラミックアーマーから嫌な臭いの蒸気を上げて、肩で息をしているカーミラに治癒魔法をかける。


 ワームが口と尻の穴から噴出させる腐食液のしぶきを幾度か浴びたんだろう。

 “再生”スキルまで持つカーミラだから、単独でもここまで戦えているのだ。


 迷宮ワームには、そのレベル以上の者しか通常の武器攻撃は通用しなかったはずだ。

 キング・ワームも当然そうだろう。


 つまり、LV50のコイツに俺たちの通常攻撃はダメージを与えられない。


 だが、カーミラやリナには相手の防御力を無視できる“貫通攻撃”スキルがあるし、魔法での攻撃は通るはずだ。

 耐性は・・・普通の迷宮ワームは火耐性持ちだったはずだ。


「リナ、キング・ワームの耐性とか、わかるか?」

「もちよ・・・火・水・土・風、ね」

 検索をかけたようなちょっとした間の後で、リナが答えた。

 四元素魔法全部に耐性かよ。


 しかし、それなら雷や無属性は通る、とも言える。


 リナに尋ねながら、俺も“情報解析”スキルでワームを詳しく見る。

 こいつは特に秘匿とかはないらしい。


<キング・ワーム LV50

  スキル 魔力探知   魔力湧出

      魔物湧出   腐食

      結界     HP増加(大)

      物理防御力増加(特殊)

      再生     

      ・・・      

                   >


“物理防御力増加(特)”ってのが、同レベル以上じゃないと攻撃が通らない体質のことか?だが、他にもやっかいなスキルがあった。


「こいつも“再生”持ちだ。どれぐらいの速さかわからないけど、時間をかけてると回復されちまいそうだ。カーミラはできれば、アムートの時と同じように“スキル阻害攻撃”で再生を止めてくれ」


 エヴァとカーミラが頷く。

「わかったわ、短期決戦ね」

「カーミラやるよ。腹の中からルシエン助け出す」

 そうだ、結界のせいで腹の中で生きているルシエンの白い光点が見えなくなってるだけかもしれない・・・。


 魔王の豪雷が離れた所に落ちた。

 サヤカとモモカが魔王を挑発して引きつけてくれてるんだろう。


「やろう!」

 リナの転移魔法の詠唱が完成するタイミングで結界を解いた。


 キング・ワームの尻の側へ。


 迷宮ワームの親玉だとすれば、口か尻の穴から魔法を叩き込むのが基本だろう。

 口の方が大きく開けるから狙いやすいが、触手に狙われるし、普通は感覚器官も頭側にあるだろうから、腐食液を浴びやすくなるはずだ。

 だから、経験のある迷宮のワーム戦のように尻の穴を優先して狙う。


 迷宮ワームは尻側の地面に近い低い位置にあるが、こいつは直径数十メートルとサイズが桁違いだから、尻の穴も頭上の高さだ。

 だが、その方が少し離れた場所からはむしろ狙いやすい。


 まだ奴は俺たちに気付いていない。

 敵の存在は察知しているようだが、どこにいるか特定されてはいない。


 俺はまず、“粘土遊び”で2つのものを作り出した。

 ひとつはセラミックの大盾。

 もう一つは注射針みたいな、先の尖ったパイプだ。

 ただし、パイプと言っても直径は、キング・ワームの尻の穴のサイズを見て1メートルぐらいにした。下水工事の土管みたいだ。


 既にリナとエヴァが呪文の詠唱を始めている。


 カーミラがみんなの顔を見てから跳躍し、まずワームの尻にかじりつく。

“スキル阻害攻撃”が発動し、一時的にキング・ワームの“再生”スキルが効力を失ったはずだ。


「行きます・・・“竜槍”」

 まずエヴァが竜騎士固有の貫通攻撃魔法、竜槍を尻の穴に撃ち込む。


 ビクンッ!とワームが震えた途端、竜槍で広がった穴の中に、こんどはリナが流星雨を水平射撃で叩き込んだ。


 身もだえするような地響きが広がる。

 コホオオオオォォォォーッッ!!!


 低くかすれるような轟音。吠えているのか体から発しているのかはわかならい。


「タロっ、いや、シンタロス!やれっ!」

 俺は焦りながら粘土ゴーレムに指示を出す。すぐに奴が怒りの腐食液をひり出すはずだ。


 シンタロスが槍と言うより破城鎚のように巨大な土管を抱えて突進し、広がった尻の穴の中にブッ刺した。


 今度こそ、激怒と痛みでキング・ワームが身を震わせ、大地が大きく揺れる。


「来るっ!」

 なんとか噴出が始まるより先に“工事”が済んだのは、巨体の分、脳━━なんてものがあるとして━━の指令が尻まで伝わるのに時間がかかったのかもしれない。


 迷宮のワームとは比べものにならない、大洪水、いや土石流が一気に噴出した。

今日は2話公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ