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第459話 最後の戦い⑤ 尽きぬ魔力の謎

魔王の“絶対防御”を破り、元勇者の亡霊を倒したものの、依然魔王との厳しい戦いが続いていた。

 魔王の巨体に生えた8本の腕。

 そのうち4本に、物質創造のようなスキルで生み出した雷を帯びた剣を握り、次々に振り下ろしてくる。


 剣と言っても1本が数十メートルはあるような代物だ。


 粘土トリウマを必死に操って躱すが、巨大な剣がたたきつけられる度に、地面が爆発したように飛び散り、土砂に巻き込まれて生きた心地がしない。


 つーか、何度も躱せるものじゃない。


 転移魔法で逃れたいが、魔王が放った魔力嵐のせいでそれもままならない。


 サヤカは、俺たちからはかなり離れた所まで飛ばされたらしく、<勇者の亡霊>ペンドラゴンと戦っているはずだが、そっちの様子はわからない。


 モモカとルシエン、カーミラは、魔王を挟んで反対側に飛ばされた。


 リナは人形サイズに戻って腰の革袋で魔力回復中で、今狙われているのは俺とエヴァだ。


《エヴァっ》

《だ、大丈夫よっ、くっ》


 もうもうと立ちこめる土砂の中、遠話で互いの無事を確かめながら、回避に徹すると、魔王の追撃が止まった。


「グオオォォッ!」


 憤怒の咆吼があがったのは、狼化したカーミラが“貫通攻撃”スキルを使って魔王に噛みついたらしい。


 既に聖女の“魔王防御無効化”で攻撃が通るようになっている。そこにワーロードのスキルを加えた攻撃なら、魔王と言えど無傷ではすまないはずだ。


《ゲージが減ってる、効いてるわ、しろくん、エヴァ、今のうちにっ》

 モモカの遠話が届く。


 俺たちはなんとかその間に距離をとる。魔力嵐の影響が少ない方へ。


「!」


 だが、そっちには湧出した魔物の残党が迫っていた。


 しかも厄介なことに、もう1体だけ残っているLV45の上級悪魔バルフェルも頭上から俺たちを狙ってきた。


 2人だけだし、こっちの方が倒しやすいと思われたのか?


 エヴァが“竜槍”の魔法を飛ばしてバルフェルの接近を阻み、粘土トリウマを走らせる。


 魔物の残党のうち、足が速く先に接触したヤツらは既に片付けたが、後から追いついてきたのはアイアンゴーレムとストーンゴーレムだ。10体以上いる。

 さすがに上級悪魔を防ぎながら片手間に倒せる相手じゃない。


 それに、魔王の注意を俺たちから引きつけるために攻撃したモモカたちも、今度は魔王のターゲットになっていて、3人だけでいつまで保つかわからない。

 どうしたらいい?


 ゴロゴロゴロ・・・と頭上から不自然な雷雲が湧く音が響く。

 上級悪魔バルフェルが、魔法攻撃を放とうとしているのだ。


《エヴァっ》

《そうね!》


 俺たちは死地に飛び込んだ。ゴーレムたちのただ中へ。


そこをバルフェルが雷撃を放った瞬間、短距離転移で包囲の外に飛んだ。


 まだ魔力嵐の余波で座標がかなりずれ、砂地にたたきつけられそうになったが、トリウマが持ちこたえてくれた。

 ぐらぐら揺さぶられてめまいがする。


「ゴーレムは?」

「半分やったわね」

 転移魔法で合流したエヴァが、闇の中でも見える視力で上級悪魔の魔法を俺たちの代わりにくらったゴーレムの群れを観察する。


 最も手強かったアイアンゴーレムは雷は弱点属性だから、うまく片付けられた。

 ストーンゴーレムも残りは数体だ。


「来るっ」

 だが、上級悪魔の方は俺たちを見逃してくれなかった。とどめを刺そうと飛んでくる。

 あいつは魔力嵐の中でも飛べるのか?それとも嵐が弱まってきたのか?


 俺は絞り込んで密度を上げた炎の魔法を放ったが、MPが残り少ないせいか、大した威力が無く、うるさげに片手で払いのけられた。

 その間にエヴァが再び“竜槍”を詠唱する。

 輝く槍が悪魔に向けて飛ぶ。


 だが、バルフェルも灼熱の溶岩の魔法を放つ。

 二つの魔法が中空でぶつかり、はじけた。


 相殺されて消えた魔法の爆炎の中、バルフェルはこちらに飛びかかってくる。

 魔法が相打ちでも、向こうには圧倒的な物理攻撃力もあるのだ。数十メートルある巨大な悪魔が大鎌を振り上げる。

 俺は再び転移を唱えるが、間に合いそうにない。


 ザシュッ!!


 鋭い切断音と共に、その巨体を光の刃が通り抜けた。


「ウゴオァァァーッ」

 上級悪魔が信じられぬ、というように赤く光る目を見開く。

 その体がずれ、2つに割れて地に落ちていった。


「サヤカっ!」

 ミスリルアーマーが、俺のそばに降り立った。 

 元勇者を倒してかけつけてくれたんだ。


「シローっ、無事ね?」

「ああ、サヤカこそよく・・・」

 肩で息をしている。現勇者にとっても大変な戦いだったんだろう。


「やばかったけど、ペンドラゴンとは決着がついたわ。急ごう、モモカたちが危ない」


 その通りだ。

 魔王とモモカたちが戦っているところは、ここから1kmぐらいか。相変わらず巨大な大剣を振るい、時に雷を放って攻撃を続けている。

 3人はよく躱しているようだけど、距離をとる余裕も無く反撃どころではないようだ。


 俺は傷だらけのサヤカを治癒すると、きょう2つ目の魔力回復薬を飲み込んだ。

 頭がガンガン痛み、心臓がバクバクと激しく暴れる。もう1日1錠までなんて“使用上の注意”を守ってられる状況じゃ無い。


 サヤカも、同じように薬を口に放り込んだ。


「魔力嵐が弱まってる。今なら飛べるわ」

「行こうっ」

 エヴァがファイアドラゴンのオラニエを再度召喚し、3人で飛び乗った。


 ドラゴンの羽ばたきなら、この距離は一瞬だ。


 魔王も当然俺たちの接近に気付き、こちらを振り向く。

 配下の元勇者も悪魔も失ったのに、魔王には何の動揺も無い。


 武器を持たない腕から、雷が放たれた。


 上級悪魔の魔法とも比較にならない、それだけで城一つを崩壊させ、千の軍勢を蹴散らせるぐらいの豪雷だ。


 既に龍脈からの魔力供給を断たれているはずなのに、魔王の魔力は尽きることを知らないようだ。


 俺は回復させたばかりの魔力で、賢者の魔法“障壁”をドラゴンの前に斜めに張って雷のエネルギーを大地にそらす。

 とても正面で受け止められそうにはなかったから、最初から方向をそらすことに徹する。大地へ、アースのように電気を逃がす。


 その間にオラニエが間合いに入り、ファイアブレスを放った。


 魔王は2本の腕に持つ漆黒の大盾をかざしてそれを防ぐが、その間にサヤカがオラニエの背から飛び立っていた。

 MPを回復したリナも再び等身大魔法戦士になってサヤカに続く。

 2人は炎とそれを遮る魔王の盾をもうまく利用し、死角に飛び込んだ。


「魔嵐剣!」

 リナの範囲攻撃、“魔嵐剣”は、扇状の範囲に魔法の刃を放つ、本来どちらかと言えば多数の弱敵に囲まれた時に効果的な魔法剣だ。

 魔王の防御力を貫いて大ダメージを与えられるものじゃない。

 だが、リナはあえて盾の内側に入り魔王の顔面にこれを放った。めくらましのために。


 魔王が視界を遮られ、うるさげにリナを払いのけようとした刹那、後ろに入り込んだサヤカが、魔王の延髄のあたりに最強の攻撃「光閃剣」を再び叩き込んだ。


 魔王の首は切断こそされなかったものの、光る刃はその半ばまで食い込んで消え、巨体が膝を着いた。

 エヴァが顔面に追い討ちで“竜槍”を叩き込むと、ついに地に倒れた。


 やったのか?

 いや、やることが可能なのか?



 やはりそれは、ぬか喜びだった。


 会戦の際と同じように、倒れた巨体はじわじわとわき上がった赤い光球に包み込まれる。


 前回と同じ無機的なシステム音声が響く。

《魔王ノ真体再生しすてむガ起動・・・》


「前より時間がかかってる?」

 俺のとなりでオラニエを操るエヴァが、なにかに気付いたように声をあげた。


 言われて見れば、その赤い光がまばゆく輝きながら膨れ上がっていくのが、前回よりはゆっくりににも見える。


 とは言え、ドラゴンブレスをぶつけたものの、その光の球体に阻まれてどうしようもなかった。


《・・・調整ヲ完了》


 そして再び、無傷の魔王が立ちはだかっていた。


「無限ゲーか・・・」


 魔王が咆吼を放った。


 またも膨大な魔力の嵐がたたきつけられ、オラニエが吹っ飛ばされる。

 本当に底なしのMPだ、チート過ぎる。

 

 砂地にたたきつけられる際にドラゴンの体がクッションになってくれなかったら、俺たちは戦闘不能になっていたかもしれない。


《しろくん!》

 モモカの遠話だ。

 魔力嵐でノイズ混じりで届いた声は、みんなも無事だと知らせる。

 サヤカとリナは、あっちに合流したようだ。


《一度はHPゲージがゼロになってから復活した、そこは同じだけど、フルじゃないみたい・・・》


 俺たちが魔王の注意を引きつけている間に、モモカたちは距離をとりつつ魔王の様子を観察していたらしい。


 そしてわかったことがあった。


 やはりノルテたちが魔王の真体を破壊してくれない限り、ここにいる魔王を滅ぼすことはできないのかもしれない。


 だが、龍脈との接続を断った今、魔王には無限の魔力供給が続いているわけでもないらしい。

 今回の復活では再生に時間がかかっただけでなく、充填されたHP、MPもこれまでより、ほんのわずかだが少ないらしい。


 とは言え、いまだに魔王にどこかからエネルギーが供給されている。

 でなければ、復活はもとより、この尽きることのない魔法攻撃や魔の咆吼の連発は説明がつかない。


 それがどこから供給されているのかは、まだわからない。


《探すしか無いわね。私たちがペアになって魔王を牽制して、その間にルシエンとカーミラで探してもらいましょう、“もう1体”を!》


 モモカはその“魔力供給元”が、まだ姿を見せていない魔王パーティーの最後の1体、だと考えているようだ。


 サヤカとモモカ、エヴァと俺が、それぞれ前衛と支援役のペアになって魔王を前後からはさみこみ、交互に攻撃して的を絞らせない。


 魔王は時折魔力嵐を起こして転移魔法が使えないようにしてくるから、自らの足と粘土トリウマの機動力だけで魔王との距離をとり続ける必要がある。オラニエも、むしろ的が大きくなるから帰還させている。

 キツイ戦いだ。


 サヤカとモモカの方が俺たちより戦力が上だから、リナは“お家に帰る”で回収し、こっちを手伝わせる。


 その間もルシエンとカーミラは、最大限の索敵能力を発揮してこの玉座の間全体を探し回る。

 俺たちは魔王の目と攻撃をルシエンたちからそらし続けるのが任務だ。


 “一発食らえば終わり”の魔王の斬撃をとにかく回避し続ける。


 集中力がすり減らされていく。


 こっちはエヴァが“竜槍”を時折放つ以外は、攻撃らしい攻撃もできなくなってきた。

 エヴァも既に2つめの魔力回復薬を飲んでいる。


 抜群の身体能力とHP回復力を持つバンパイア・ハーフだからこそ致命傷は避けられているが、既になんども魔王の斬撃がかすめたり爆風を浴びて、普通の人間なら死ぬようなけがを負っている。

 俺はその専属治療役だ。


 それに対し、サヤカとモモカはさすがに勇者と聖女だ。

 魔王の攻撃の7、8割はあっちで引きつけてくれている。それでも余裕がなくなってきているのがわかる。



《見つけたわ!・・・地の精霊が協力してくれた》


 待ち続けていたルシエンの声だ。


 こんな闇の版図でも、魔王に隷属せずルシエンの呼びかけに答えてくれた精霊がいたらしい。


 !?

 地下、なのか!


《・・・いるっ、あそこだわ》


 ルシエンの乗る白い粘土トリウマが、元々魔王が座っていた玉座のような氷の構造物の方へ駆けていく。

 狼化したカーミラが自らの脚でそれを追う。


ルシエンが何かを察知したことで、パーティー共有しているスキル地図上にも赤い光点がぼんやりと浮かんだ。


「で、でかすぎないか、これ!?」


 叫びながら俺は危険を感じる。


 その赤い光点?はぼやけているが円形で無く、長細い形をしているように見える。

 そして、魔王の近くから玉座のあたりまである?


《ルシエンっ》

 目の前の魔王の攻撃をかろうじて躱し、俺はルシエンに注意するよう伝えようとした。


 だが、遅かった。


 それまで俺にはまったく察知できなかった巨大な魔物の気配が、突如として膨れ上がり、玉座の間の砂地に地割れが走る。


 ルシエンとカーミラが向かっていた玉座の真下から、走る2人のところまで一気にその地割れが伸び、そこから信じられないようなものが飛び出した。


 金色に輝く殻に覆われ、無数の節に分かれた、あまりにも太く長い体。

 うねうねとした多数の触手に縁取られた、大きすぎる空洞。


 それが、「口」だと気付いたのは、地中から高く持ち上げられたその穴が、トリウマごとルシエンを飲込んだあとだった。


「ルシエ――――ンッ!!」



 俺の目に映るのは、その魔物のステータスだけだった。

《キング・ワーム LV50》


 自ら掘り進んだ穴が迷宮になるという、その迷宮の奥底にいるという魔物、迷宮ワーム。

 その最上位種とも言うべき巨大な魔物が、忽然と現れた。

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