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第49話 船

迷宮地下五階層の奥は水が溜まっているらしい。そこを越えるために、俺は新たな粘土細工に取り組んだ。

「これに乗るのか?」

 夜明けと共に街門を出た一行は、迷宮に向かう脇街道から少し寄り道をして、その近くを流れるヴェラチエ河の支流にやってきた。最初にオークと戦った河原を流れていたあの小川だ。


 昨日、街に帰り着く前に、俺は思いついたことがあって、この小川で「船」を作ることを試してみた。

 五階層の奥に見えた水たまり、あれは先に行くほど深い池とか地下水路とかになる可能性がありそうだったからだ。

 魔物がうようよいるだろう迷宮の奥で水泳するわけにもいかない。


 粘土を“動かす”スキルでは車輪を回すことはできたが、例えば粘土を空中に浮かせ続ける、なんてことはできないようで、いやすごくMPを消費すれば短時間ならできるのかもしれないが、飛行機やUFOを作って乗る、というのは不可能だ。


 だから、船だ。

 この世界に軽量のFRPとか布製のカヌーとかがあれば、ひとり一艘ずつ担いでいくこともできるんだろうが、それより俺のスキルでなんとかできないかと思った。


 船と言ってもモーターボートぐらいのサイズだが、薄い強化セラミックの板を成形して船型を作り、後部にやはりセラミックのスクリューをつけて、粘土を動かすスキルで回転させる、というものだ。

 スクリューを取り付ける軸受け部分の加工とか、そもそもセラミックは重いので、浮力を得るにはかなり薄く作る必要があって、色々試行錯誤していたら昨日は夕暮れになってしまった。


 奴隷の監督者として付き合ったセシリーは、お腹が減った、と不機嫌をまき散らしながらも一応はリナと一緒に手伝ってくれた。

 ただ、そもそも船という物自体、かろうじてベラチエ河本流で見たことはあったものの、乗ったことはなかったそうで、浮力の確認に乗せたら、揺れる小舟に真っ青になっていた。


 そこで、実戦に使う前に、全員乗っても大丈夫か(浮力的にも心理的にも)確かめておく必要があると思ったんだ。

昨夜“とっておく”しておいた試作品を小川の上に出し、流されないよう即座にスクリューを回して、流れと相殺する。ここまでは昨日練習していいタイミングで出来るようになった。


 しかし、順番に乗り込んでみてくれ、と声をかけると、セシリー以上に腰が引けていたのはグレオンだった。

「でかい図体して情けないねぇ」と、器用に飛び移ってバランスを取っているラルークにからかわれながら、おっかなびっくり、揺れる船に乗り込んでいた。


 ベスは駆動の仕組みに関心があるのか、船縁からスクリューをのぞき込んで落ちそうになったりしてた。こっちの世界には動力機械とかがないからな。


 しかし、6人、リナを等身大にすると7人が乗ると、喫水が下がって浮力的にちょっと余裕がない。これで魔物と戦って揺れたり攻撃されたら、簡単に沈みそうだ。

 仕方なく、船長を伸ばしてみた。こういう時、スキルでできるのは便利だ。


ただ、そうすると、強度に目をつぶって素材を薄くしても結構な重さになり、スクリューを大きくしたり、複数つけても、あまり速度が出ないな。


「帆をつけたらどうでしょう?」

 ベスの発言に意表を突かれた。迷宮内で帆?


「あまり大きくなくても、風魔法で動かせると思うから・・・」

 なるほど、盲点だった。


 俺の粘土スキルで作った物体を、ベスの魔法で動かす。その手があったか。

こっちの世界の人たちには、船と言えば帆船か手こぎ船だろうから、むしろ自然な発想だったかもしれない。俺のMP的にもその方が楽だ。

問題は帆を何で作るか?だが・・・


「野営用のテントを切り開いたらどうだろう?」

「それなら、迷宮の番小屋に2,3個備えてあるはずだ」

 グレオンとセシリーが解決策を思いついた。


 船長が伸びた分、迷宮の幅を考えるとUターンとかは難しそうで、本当に前進あるのみ、になりそうだ。魔法や遠隔攻撃持ちの魔物と出会ったら厄介だな。

 それでもなんとか、先に進める目途がたった。

 俺は船を再び“とっておく”で収納し、一行は迷宮へと向かった。


***********************


 昨日の戦闘の結果、俺以外のメンバーは、全員がレベルアップしていた。


 俺だけ上がらなかったのは残念と言えば残念だが、“成長率倍増”のおかげで先に俺だけレベルが上がっていたから、ということなんだろう。

 成長率倍増はあくまで、次のレベルになるのに必要な経験値が半分になる、という意味で、レベルが倍になったりはしないようだ。さすがにそれはチート過ぎるし。


 現在のパーティーはこうなってる。


 シロー  冒険者 LV13

 グレオン 戦士  LV12

 セシリー 戦士  LV11

 カレーナ 僧侶  LV11 新たに“心の守り”という呪文

 ラルーク スカウトLV11 

 ベス   魔法使いLV10 新たに“魔力強化”という呪文


 全員二桁だ。以前は、セバスチャン老だけだったのに。


 朝、船のテストで余分な時間をとられたことで、地下五階層まで降りた時には昼近くなっていた。

 そして、

「止まれ。かなり湧いてるみたいだよ・・・」

 ラルークが警戒を呼びかける。


 このあたりは、昨日大量の蟲やら蔦やらを焼き払った場所だ。それが一晩で、またスライムが湧き、発光する苔も生えてきている。

「これは・・・」

「ベスが想像したのが当たってたみたいね」


 カレーナとベスが交わるがわる説明してくれた。


 この階層はおそらくできてさほど時間が経っていない空間で、魔力がとても濃い。たぶん迷宮ができて魔力が湧くと、最初にこうした原始的な生物が発生するのだろう。

 そして、時間が経つに連れて、上の階層のように段々高等な?というか、俺たちに近いような人型の魔物も生まれてくるのではないか、と。


 そうするとやはり、魔力の元を絶たない限り、この階層の魔物は湧き続けるということか。


 よくわからないが、迷宮内も地球の歴史みたいに段々高等な生き物に進化するのか?それとも食物連鎖みたいなものがあるんだろうか?


 ただ、そうすると、

「この階層が最後、という可能性も高そうですね」

 ベスの言葉に、みな気を引き締める。ぬか喜びは禁物だが、それでも終わりがある、というのは明るい展望だ。


 物理攻撃が効く蟲などは少なく、大半はまたベスとリナが炎で焼き払った。

 幸い昨日よりはずっと少ないので、酸欠ってことはない。


 そして昨日進んだ所まで歩を進めると、ちらっと見えていた水たまりが、やはりずっと先まで続く水路になっているのがわかった。


 いや、水路と言うより、これはもう細長い形をした地下の湖だ。

 

 洞窟の壁面も、そして水自体も、魔力を帯びて淡く発光している。おかげで地図スキルでかなり先まで把握出来る。


 水面より上の空間には、壁や天井に、びっしりと

<肉食蔦LV2>とか<魔ヒルLV1>とかが張り付いていて、判別表示が重なって見にくいぐらいだ。


 一方で、湖水自体が魔法結界のような働きをしているのか? 水面に<迷宮蛙LV4>とか<魔クラゲLV1>とかがちらほら見えるだけで、水面下はわからない。

 だが、察知スキル的には、むしろ水中に強い魔力を感じる。


 ラルークの索敵スキルでも情報は限られるようだ。

「水中の方が危険だね。水には極力落ちないようにしておくれ」

「ダメですね、結界みたいになってるんですが、解除はできないです・・・」

 ベスが結界の呪文で、湖の結界を相殺できないか試したようだが、ある意味、迷宮自体の魔法力で生み出されている湖水の結界は相当に強力なようだ。


 俺は収納していた、セラミック帆船(スクリュー付き)を湖水に浮かべた。


 途端に、異物に刺激されたか、小さな魔物がわらわらと群がってくる。


 真っ先に船縁をつつきはじめ、岸に立つ俺たちにも気づいて向かって来たのは、<迷魚LV2>と<真怪魚LV4>。


 大きさは真怪魚の方が大きいが、どっちも魚のような流線型の体はしているが、口だけしか見当たらず感覚器などは発達していないようで、魚類とは別種の原始的な生き物のように見える。


 続いて、<魔クラゲLV1>がふわふわと漂うように集まってくる。こいつが船に触れるたびに、かすかな電撃みたいなのが走る。大した威力ではなさそうだが。

 リナが火球を飛ばすが、水の中にいるのであまり効果がない。

 ベスが、「水」魔法で水流を作り遠ざけるが、すぐにまた群がってくる。きりが無い。


 ベスは今度は、先ほどまでと違う詠唱を始めた。どうやら、新たに覚えた“魔力強化”らしい。詠唱を終えると、一度呼吸を整え、目を閉じて集中しているようだ。

 それから再び、水魔法を唱えたようだ、が?


 ! ベスの指先から強い魔力がほとばしった、と思うと、指さした方向の水面が一瞬で凍り付き、船に群がっていた魔クラゲたちが氷漬けになってプカプカ浮かんだ。

 魔力強化は、見たところ、魔力を蓄積して次に使う魔法の威力を飛躍的に高めるもののようだ。水魔法が冷凍魔法になるのを単純に強化と言うのか、わからないが。


 浅瀬に足を取られながら船に乗り込むのは危険なので、俺は岸からセラミックの板子を渡して、その上を歩くことにした。


 俺の方もまだMP的には余力がある。

 やっぱり、レベルアップと共に少しずつMPも増えている感じがする。


 ただ、船の移動はとりあえず魔物が現れるまでは、ベスの風魔法に頼ることにした。

 船首には弓を構えたラルークと、まだ腰が引け気味だが盾を構えたグレオン。その後ろに、火の魔法を放てるようリナが控える。

 

 水というより油のように粘りけの強い濁った湖面は、その下に潜む魔物の姿を隠している。

 カレーナが、“守護”と“心の守り”の呪文を続けてパーティー全体にかけ、防御力を高めたのを合図に、俺たちは意を決して岸を離れた。

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