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第446話 奴隷牧場

 倒しても倒しても、尽きることなく新たな魔物の群れが現れる。


 魔王城の防衛隊とでも言うべき魔物との交戦を始めてから、既に何時間経つだろう?


 飛行能力を持つ悪魔族などは真っ先に倒したし、不思議なことにその後は使徒クラスの強敵は現れていないから、油断さえしなければ上空から攻撃を放つ俺たちに、危険は少ない。


 ただ、騎乗するエヴァのドラゴン、オラニエに交替でHP回復の魔法をかけ消耗を抑えてはいるが、本当に魔王城から魔物が湧き出るように現れ続けるから、終わりが見えない。


 いや実際に湧き出ているのかもしれない。

 使徒ユーディが言っていた通り、魔王城の地下深くにこの世界の魔力の供給厳たる龍脈が通っているのなら、それを汲み上げて魔王なり“魔物湧出”などの特殊な能力を持つ眷属なりが、次々魔物を造りだしている可能性はあるだろう。


 人海戦術ならぬ魔物海戦術だ。

 いずれこちらのHP、MPが尽きてしまうだろう。


 だから、俺たちは戦略的撤退を選んだ。


 上空から魔王城に攻撃を加えながら周辺の状況を見て回り、北東の一角に広大な“あるエリア”を見つけたからだ。


 そこを狙っていると気取られないよう、城の反対側の上空にまわり、これを勝負所と見たかのように猛攻撃をかける。


 結界をルシエンが“破魔”で破り、モモカとサヤカが続けざまに流星雨を撃ち込み、魔王城の尖塔を2本、崩壊させる。その下で右往左往する、オーガの上位種たちをオラニエがブレスで焼き払う。

 魔法盾を張って防いだヤツがいたから、俺は密度操作で絞り込んだ雷撃を撃ち込んでとどめを刺した。


「反撃来るよ!」


 防衛拠点でもある尖塔を無数に備えた魔王城は、その何本かを破壊されたぐらいではびくともしない。


 残った尖塔から、一斉に巨人族の投石が放たれた。


 接近を阻まれたオラニエは、反転し高度を上げた。


 そして最期にもう一度、首を後ろに向けて一際激しいブレスを放ち、魔王城の上空を紅蓮の炎で覆うと、元来た南の空へと飛び去った ―――――― 魔王軍はそう見て取ったはずだ。



 ブレスを放つと同時に、俺たちは転移魔法で飛んだ。

 そして、しばらくオラニエだけを視界の彼方まで飛ばせてから、エヴァが“竜帰還”の呪文で回収した。




「みんな、大丈夫か?」

 腐臭に満ちた岩陰に現れた俺たちを、カーミラが迎えてくれた。


「ああ、カーミラこそ。いい場所を見つけてくれたな」

「うん、ここなら目立たないよ」


 魔王城のまわりを戦いながら飛びまわり、目をつけておいた場所に、少し前に“隠身”をかけたカーミラがドラゴンの背から飛び降り、潜入していたんだ。


 そこでカーミラに、俺たち全員が突然出現しても目立たない場所を探してもらい、“座標共有”してから魔法転移をしたってわけだ。


 魔軍が俺たちが攻略をあきらめて去ったと信じ込んでくれるかはわからないが、こうして潜入したことをすぐに気付かれなければとりあえずOKなのだ。



「けど、想像はしていたけど、ひどい臭いね」

「そうね・・・亡くなった人はそのままだろうし、食事を与えられているとしても低位の魔物の肉か、それ以下の、言うもおぞましいものでしょうし・・・」

 鼻をつまんだエヴァにモモカが沈んだ表情で答えた。


「それでも、今は騒ぎを起こすわけにはいかないから」

「そうね。ここから、どうやって魔王の居場所まで入り込むか・・・」

 サヤカとルシエンがまわりの気配を探りながら、このあとの行動に思考を向ける。


「魔王、生け贄、毎日食べるって言ってたよ」

「でかした!カーミラ」

 カーミラは短い間に、ここにいる連中の会話を聞き込んできたらしい。


 既に鎧を脱いで半裸のカーミラは、仮に隠身をかけていなくても、そう目立たずに行動できたかもしれない。


「やっぱりそうね。200年前もこういう場所があったから・・・だとしたら、チャンスはこの夜か明日の朝か」

「そこまで、連合軍がなんとか持ちこたえていてくれることを祈るしかないわね」


 モモカは、かつての魔王城にもこうしたエリアがあったという。

 だから、この作戦を思いついたんだ。



 俺たちは岩陰から覗きながら、段取りを話し合う。


 魔王城の最外周の結界と氷の壁よりは内側だから、既にここは魔王城の領域内だ。


 だが、ここでは結界と壁は外敵の侵入を防ぐためではなく、逃亡を防ぐためのものだった。


 多くの者が痩せ衰えうつろな目をして、泥と汚物にまみれ無気力に座り込んでいる。

 おそらく、魔王城の建設の際には労働力として酷使されたのだろう。

 体中に傷跡のある者も多い。


 だが、今やその役割はほぼ終わり、それほどしょっちゅう工事にかり出されることはなくなっているだろう。

 だから、ここにいる者たちの立場も変質した。


 労働者から、食糧へと。



 獄吏のようなオークリーダーやオークロードが、剣や鞭を持って我が物顔で闊歩し、特に理由もなく奴隷たちをむち打ったり足蹴にして嗜虐的な表情を浮かべている。


 倒された者たちの中には、痩せた体にそこだけ不釣り合いな、大きく膨らんだお腹をした女たちもいる。


「あいつら!」

「サヤカ・・・」

「わかってる」


 ここは、魔軍に捕らえられた人間の奴隷を囲っている場所なのだ。


 既に完全に魔軍の勢力圏に入ったモルデニア王国。そして、一部にはおそらくゲオルギアやプラトから連れてこられた者たちもいるだろう。


 その数は万、いや少なくとも十万はいるはずだ。

 魔王城が建つ岩山の陰にあたる岩場と湿地が広がる陰鬱な谷間を埋める、疲れ切った人の群れ。


 粗末なボロ切れだけをまとい、日々一定の数が魔王やその眷属のエサにされるために飼われている。


 ここは言わば、魔王城の奴隷牧場だった。

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