表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
444/503

第414話 地底からの信号

 前回のチラスポリの戦いの後、極北の“封印の地”を訪れた俺たちは、そこでモーリア坑道の地下へと続く、魔王が脱出するときに出来たらしい大穴を見つけた。


 モーリア坑道の最深部には、ドワーフ王オデロンやカテラの高僧が作り上げた聖なる鎖で、いまも魔王の真体=魔神の霊魂が拘束され、封玉の間と呼ばれる場所に残されていると考えられた。


 それを滅ぼすことはこの戦いに勝利するために必須ではあるけれど、そのためにはモルデニアで魔王と接触し、その身を守っている魔王の固有能力、“絶対防御結界”を破らなくてはならない。


 現実問題としても、地下百階層とも一千階層とも言われるモーリアの迷宮の最深部まで行くには、何か月もかかってしまうだろう。


 そこで、あの時俺は、坑道の地下に向けて、新たに作った粘土ホムンクルスたちを放ったのだ。



 魔物に発見されるのを避けMP消費も抑えるため、コモリンよりもさらに小型化した、戦闘力は皆無のホムンクルス。


 その代わり暗闇の中でもまわりを知覚し、特別なものがあれば“発見”“察知”する能力。

 “隠身”スキルも持ち魔物に簡単に見つからずに行動できる。

 さらに重要なのは、“地図”上に自分の位置をプロットし、それを“遠話”で俺に知らせる能力だった。


 錬金術の魔道具生成スキルで、これらの多くのスキルや魔法を詰め込んだのだ。


 数十匹の小型ホムンクルスに、“魔王の真体が残る封玉の間を見つけろ”と命じて、モーリア坑道の大穴の上空から放ったのは、2か月前のことだ。


 そして、その1匹から、微かな信号が届いたのだ。



「見つけたの!?」

「・・・本当かどうかはわからないけど、信号は届いてる。静寂の館周辺に残っていた魔王の魔力の波動の痕跡を覚え込ませて、それが一番強いところを探させたから、たぶん魔王が封じられていた場所か、その近くにたどり着いたんだと思うけど・・・」


 興奮した様子のみんなに、パーティー編成してスキル地図にプロットされるホムンクルスの位置情報を共有する。


 脳内地図にはごくごく微かな白い光点が、どこともわからない地下深くにあるように映っている。


「ちょっと待って、地下迷宮の地図データと照合するから」

 モモカはがそう言って、なにかスキルを発動する。


 静寂の館の地下の隠し部屋でオーリンたちが見つけたモーリアの迷宮の地図。

 それをモモカは、ボーナススキル“アクセス権”のLV1で得ている“メモ&キャプチャ”という能力で、丸ごとコピペしていた。

 なにげに役立つスキルだ。


 その照合によって、俺たちの脳内地図が急に鮮明になった。

 ホムンクルスのいる場所が、その迷宮地図と重なる。


「・・・間違いなさそうね。オデロンさんの残した迷宮地図上も、それらしい場所にたどり着いたみたい・・・っ!!」


 そのホムンクルスの“察知”スキルが、危機を感じたらしい。

 魔物に見つかったのか!?


「しろくんっ、いえ、リナっ、座標共有して!急いで、登録して!!」

 モモカが叫ぶ。


 なぜと考える前に、リナを魔導師に着せ替え、ホムンクルスの位置情報を“座標共有”し、転移ポイントに登録させた。


「!・・・消された!?」


 その直後、どうやらホムンクルスが魔物に襲われたらしい。

 存在感も、脳内地図に映っていた白い光点も、消えた。


 そうか!

 ホムンクルスが破壊されれば、その位置情報も消えてしまう。


 その前に俺たちの誰かが、転移ポイントとして座標を得ておく必要があったんだ。


 ・・・しかも、それが俺かリナであれば、魔道具生成で“転移門”の魔道具化が出来るってことか!?


「ええ、そういうこと。なんとか間に合ったわね。ギリギリだったけど」

 ふーっと緊張を解いたモモカが、理由をみんなに説明してくれた。

 さすがだよな。こういう回転の速さは、やっぱり天才モモ姉にはかなわない。


 さすがにモーリアの最深部には、今も魔物が多いようだ。

 それとも、魔物たちはそれとは知らなくても、強い魔力の波動に引きつけられているのかも知れない。


 とは言え、これでリナは、何か月もかけなくても封玉の間のそばに転移できるようになったはずだし、俺が“転移門”の魔道具を作れば、他の者にも転移可能になるはずだ。


 魔王の真体を誰がどう破壊するか?

 それについては、モモカとサヤカを中心に、ずいぶん検討を重ねてきた。


 200年前にも経験の無い戦いのパターンになるから、かなりの不確実性はあるが、基本方針はこう考えていた。


①モルデニアの魔王の本拠地、仮に“魔王城”と呼ぶことにするが、その内部に突入するのは、今後、諸族自由連合が魔王城まで進軍して、魔王軍との戦いが始まった時、隙を見て行うことになる。

 そのメンバー(仮称「チームA」)は、このパーティーから俺かリナのどちらかを除いた6人だ。


②俺かリナのどちらかは、シクホルト城塞に残るオデロンの次男アドリンと、他に何人か戦力になる味方を連れてモーリア坑道最深部、封玉の間へと飛ぶ。

 これが「チームB」だ。


③チームAが、まず聖女モモカの“魔王防御無効化”を行使して、モルデニアの魔王の肉体とモーリアの魔王の真体、両方を守っている絶対防御結界を破る。


④そうしたら、チームBのアドリンは、オデロン王が“子孫に託した”聖なる短剣を使って、魔王の真体を消滅させる。


⑤もし、聖なる短剣だけでは効果が不十分で魔王の真体が消滅しなかった場合・・・あの地下には“魔の山”の噴火の源泉となっているマグマ溜まりがあるから、そこに聖なる鎖に囲われた封玉ごと放り込む。

 聖なる短剣で弱らされた真体なら、それで消滅させられるだろう。


⑥これによって、モルデニアの魔王の肉体の方も初めて消滅させられるようになるから、チームAが魔王を倒す。


⑦魔王が滅びれば、直接その血を受けた使徒や眷属は消滅するし、魔王に強化された魔物たちは少なくとも弱体化するから、連合軍は勝利できるだろう。


⑧めでたしめでたし・・・だ。


 すげー簡単そうに説明したけど、ほとんど無理ゲーじゃね?って感じだな。



 この作戦では、チームAとチームBが直接連絡がとれることが必須だ。


 でないと、いつ互いの攻撃が通るようになるのかがわからないし、特にチームAはその間、無敵に近い魔王と側近たちの攻撃に耐え続けなくてはならないから。


 だから、俺とリナのどちらかがチームA、どちらかはチームBにいる必要がある。


 魔王城には間違いなく強力な結界があり、迷宮の「階層の主」が潜むワームの結界の超強力版、とも言える空間らしい。

 だからこそ、そこに入れるのはおそらく階層の主に挑む時同様、1パーティーに限られるが、魔王城内部と外部は魔法の遠話でも簡単につながらない。

 ましてや、遠く離れたモーリア坑道の地下深くまでは、普通の遠話では通じないと考えるべきだ。


 けれど、これまで何度も経験しているように、俺とリナは2人で1人、みたいなもので俺たちの“念話”は魔法の遠話がつながりにくい状況でもつながることが多い。

 というか、これで無理なら他に連絡手段は思いつかない。


 だから、俺たちのどちらかが、チームBなのだ。



 俺たちは連合軍に参加しているオーリンとオレンに状況を知らせてから、いったんシクホルト城塞に転移した。




「シロー!いよいよ、目処が立ったんだな」


 アドリンは父と兄が魔王軍との決戦に従軍しているのに、自分だけ留守居役を命じられたのが面白くなかったらしく、俺たちの訪問を待ちかねていた。


「アドリン、モーリア潜入組も危険な役目だぞ?」

「わかってるさ。同行するメンバーも、残留組の中じゃ一番高レベルの連中を人選しているし、武器も最高のミスリル製を用意している。いつでも行けるようにしているからな」


 モモカが“メモ&キャプチャ”したホムンクルスからの地理情報を、アドリンが預かっていた地下迷宮の地図の原本に書き加える。

「なるほど・・・このあたりになるわけですね、聖女様」


 新たに作ったモーリア最深部行きの“転移門”の魔道具も、念のためシクホルトに置いていく。

 ひょっとしたら、別行動で現地合流、というケースも考えられたからだ。


 だが、これが後に、思いもよらない運命へとつながっていったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ