表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/503

第44話 迷宮四階層

地下三階層の最奥にいたアンデッドのパーティーを倒した翌日、俺たちはこれが迷宮で最後の階層じゃないかと予想される四階層に挑むことになった。

 日没からほどなく眠りにつき、夜明け前に起きる。

 そんな生活を自分がするようになるなんて、そもそも可能だなんて思ってもいなかった。


 ネットもゲームも無い、明かりもろくに使えない奴隷の身だからなおさら仕方ないんだが、睡眠時間は10時間近く取ってることになる。時計が無いから正確じゃないけどね。


 それでも、例の夢?の中のレベルアップを除けば熟睡してしまうのは、もちろん命がけで戦っている疲労のためだろう。


 信じられないと言えば、引きこもり同然だった俺が、既に体の痛みがあたりまえの肉体労働生活をしていることも、だが。


 けさ目覚めた時には、冒険者のジョブはLV12になっていた。やはり、そのことで得た新たなスキルは無く、代わりに<スキルポイント 残り2>になっていた。

 レベルアップ空間で、スキルへの割り振りも出来るようだったんだが、この間、リナに“残りスキルポイントの使い道はまだ考えなくていい”と言われたし、当面どうするのが有利かもよくわからないので、そのまま残しておくことにした。


 今回ジョブレベルのアップと同時に、<お人形遊び>と<粘土遊び>のスキルもLV9に上昇していたんだが、この2つには、<残りスキルポイント>を割り振ってLV10にしたりすることは出来なかったってのもある。

 神サマからもらったボーナススキルは、普通のスキルとは別の扱いのようだ。


 スキルのレベルについて、これまでわかってることをまとめるとこうなるな。


 ▼スキルレベルは、ジョブレベルとは別にあり

  そのスキルを使えば使うほど伸びる。


 ▼スキルにレベルがある場合、最高がレベル10

   

 ▼非魔法系ジョブは、ジョブLV10を超えると

  あまり新たなスキルなどを覚えなくなる。

  代わりに、スキルポイントを1ずつ得られる。

  別の機会に割り振って使えるようだ。

 

 そして俺は、「お人形遊び」と「粘土遊び」のスキルレベルが9だから、上限まであと1レベルまで来たことになる。


 ゲンさんがボーナススキルの<商い神の寵愛>がLV10でカンストしたのは、ジョブのレベルが20以上になってからだったそうだから、それに比べるとずいぶん早い。


 ステータス画面を読むと、お人形遊びLV9で得たのは、“お家に帰る”という、またふざけた名前の能力だ。


 リナによると、離れた所にいるリナを瞬時に小さくして召喚し、戻せるようになる、という。

「戻せるってどこに?お前のお家ってどこだよ」

「それはもちろん、あなたの心の中よ、なんちって」


 デコピンした。

「アタタっ、そこは照れるとこでしょーが」


 一応、あらかじめ設定しておけば、腰の革袋の中でも、アイテムボックスの中でも可能なようだ。犬のしつけで「ハウス!」って教え込むようなもんか。


 そして、粘土遊びLV9で得られたのは、“動かせる”というものだった。

「そっちは、文字通りだよ」


 うん。これまでは出した粘土を変形させたり、性質を硬化させたり、なんてことはできたが、こんどのは例えば、硬化セラミックの槍を飛ばしたり、粘土のロボットを二足歩行させたり、なんてことも可能なようだ。結構便利なんじゃないか?


 ・・・と思ったら甘かった。動かすのはかなり具体的に脳内でイメージを持ち続ける必要があって、例えば集中が切れると、歩かせていたロボットがすぐつまずいて転んだりしてしまう。

 自動じゃなく手動、それもスイッチを押しっぱなし、ってことか。戦闘中にそんな余裕があるか?生かせるのか微妙だ。


 まあ、元々クズスキルだからな、過剰な期待はしちゃいけないよな。



 ロープを使って四階層へと降りた俺たちが、この日最初に遭遇したのは、迷宮コウモリと呼ばれる巨大な毒を持つコウモリの群れだった。

 動きが速いので、矢を当てられるのは弓スキルが上昇していたラルークだけだった。だが、ベスが風の魔法で地に落とせることに気づいて、炎の魔法で焼き払った。


 その先の洞窟に広がっていたのは、地下とは思えない一種の「森」だった。

 三階層より壁の発光が強く、結構明るい洞窟に、蔓草やら天井まで伸びる樹木みたいなものが並んでうっそうとしている。

 だが、それが普通の植物でないのは明らかだ。うごめいてるんだから。

 その奥からは、魔獣の気配がプンプンする。


「魔物の森、だね」

 この朝、俺の他に唯一レベルアップして、スカウトLV9になっていたラルークが、気配を探り皆に伝えた。

判別スキルでは、目の前の蔓草も<吸血蔓LV5>、樹木みたいなのは<樹霊LV8>とか表示される。


 その中には、人間並みの大きさがある<毒ネズミLV6>や、そいつらをエサにしているような<魔狼LV9>、<魔熊LV12>などもいた。

 魔獣系を中心にした、一種の生態系みたいなものが出来ているようだ。

 さすがにこのまま中に踏み込むわけにはいかない。

 近づいた俺たちに、さっそく吸血蔓が伸びてくるのを、最初は剣で切り払っていたがきりがない。


 そこで、思わぬ役に立ったのが“粘土を動かす”スキルだった。


 硬化セラミックの車体に、車輪と車軸をつけてスキルで車輪を動かすと、自動車みたいに走らせられる、ってことだ。

 これなら単純な回転運動だから、そう意識を集中し続けなくても動かし続けられる。


 シミュレーション・ウォーゲームに出てくる、タイヤが沢山並んだ装輪装甲車と呼ばれる車のイメージで形成した。ディテールは適当だが、攻撃を防げる囲いがあって、走れればいいのだ。

 リナをあわせて7人が乗れるサイズ、ということでかなりMPを消費したので、あとは動かすことだけに専念させてもらい、戦闘はみんなに任せる。


 本当の装甲車だったら砲塔がある上部にベスと魔法使い衣装のリナを乗せて、二人の炎魔法で植物系は焼き払いながら進む。

 グレオンとセシリーが護衛し、襲ってくる魔獣がいれば迎撃した。


 この迷宮内は、天然の鍾乳洞みたいな大きな凹凸は無い。ワームが掘った穴だからかなり平坦に近い楕円形の断面だ。

 だからこそ、こんな車両で進むなんて作戦がとれたのはラッキーだった。


 おそらく徒歩でこの魔の森を攻略しようとしたら、途方に暮れたと思う。

 俺たちも移動自体は楽になったものの、森の魔植物を全て焼き払い、そこに隠れている魔獣の掃討を行いながらだったので時間はかかったし消耗した。ただ、それでも、レベルの高い魔物を相手にしながら、治せないほどの重傷を負う者は出さずに済んだのは、装甲車両に守られていたからって面が大きかった。


 そして、ついに森を抜けて、四階層の最奥部が見える所まで来た。


 おそらく、この迷宮の最後の戦いがそこにあるはず・・・俺たちは、装甲車の上でそう思いながら、携行食を口にしていた。

 皆、休みなしの戦いで疲れてきっていたし、俺もベスもMPがほとんど底をついていたので、とにかく燃料補給だ。


 皆かすり傷は絶えなかったし、素早い毒ネズミの攻撃をかわせないこともあったため、カレーナも“癒やし”と“治療”を連発し、珍しくMPの消耗が大きいようだ。“瞑想”スキルで回復している。


「今日はここまでにしますか?」

 この階層にもアンデッドが出るかもということで、きょうも銀レオタード装着のベスが、カレーナに訊ねた。


「そうね、皆どうかしら?」

「戦闘は限界だね。ただ、よかったら、結界内に入って探るだけ探ってみるかい?」

 ラルークの言葉になるほど、と思う。


 カレーナの“破魔”を使えば、迷宮の主の結界内に出入り出来るはずだから、迷宮ワームの近くにいって、索敵や察知で相手の情報を得られるだけ得ておいた方が、明日決戦に望むにしても有利じゃないか、ってことだな。


「そうしましょう」

 異論なく意見はまとまった。念のため、あらためてフル武装する。


 装甲車はさすがに入れないようなので、いったん粘土遊びスキルの“とっておく”でしまう。

 そして、光る霞の中に足を踏み入れ、結界を抜けた。


「え?」

 最初に声をあげたのは、ベスだろうか、だが、みな同じ気分だったと思う。


 目の前にはこれまでの階層と同じく、淡いオレンジ色に光るワームの殻・・・抜け殻だ。抜け殻、ってことは、ここにはまだワームの本体はいない?


「どういうことだ?」

 グレオンがつぶやくが、ラルークは目を閉じて一心に中の気配を探っている。


「ワームじゃない。これまでと違う魔物、高レベルで、たぶん複数だ」

「種類とレベルはわかる?」

 ラルークの報告にカレーナが気落ちした様子を隠せず訊ねた。


「魔獣系と、大きな人型の魔物。レベルは・・・あたしたちよりずっと高い、としか・・・おそらく20レベル近いと思う」

「だとしたらまずいぞ、向こうもこっちに気づいたんじゃ!?」

 セシリーが慌てたように小声で指摘する。


「戻りましょう」

 カレーナが再び破魔を唱え、俺たちは足早にその場を離れた。


***********************


 結界の前に戻った俺たちは、無言だった。


 連日の命がけの戦いを支えていたのは、もうすぐ終わりがある、と思っていたからというのが大きかった。

 段々強くなる敵に、ここまでなんとか作戦がはまって、犠牲者を一人も出さずに来られた。だが、幸運もあった。たまたま上手くいっていた面もあった。

 いつまでもこれが続けられるなんて甘いわけがない、と誰もが内心思っていたんだ。


 だから、まだこの先があるし、いつ終わりがあるかもわからない、という現実を突きつけられて、士気が落ちたのは否めない。


 

 ベスの魔法で迷宮の出口まで戻り、迷宮を封印して街へ帰る。

 俺もベスもほぼMP残量はゼロだ。


 トリウマの足取りも心なしか重く、夕暮れ近くに館に辿り着くと、セシリーがぽつりと言った。

「明日は新月ですね」


 俺にはどういう意味かわからなかったが、皆は神妙な顔をしている。カレーナがその様子を見ながら、考え込みながら口を開いた。

「そうですね。忌み日ですし、明日は一日休養としましょう。明後日の夜明けに再開します」

 そう宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ