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第408話 集結・諸族自由連合

六の月・上弦10日

 俺たちにとっては約2か月ぶりとなるチラスポリの城市。


 この間に、城壁の補修だけでなく、さらに外側に二重の防壁や堀が作られ、単なる地方都市ではなく要塞都市と言える様相を呈していた。


 言うまでもなく、前回の戦いの後に駐留したレムルス軍が突貫工事で作り上げたものだ。


 既に公都ミコライを含むプラト公国北部は、魔軍の手に落ちている。


 プラトの南東部に位置するここチラスポリは、今や人類側にとっての最前線の拠点であり、魔王の本拠地に侵攻する上では最後の補給拠点でもある。


 だからこそ、この2か月の間も何度も十万匹規模の魔物の襲撃を受けながら、拠点の強化と物質の蓄積を行ってきた。

 使徒クラスの侵攻はなかったのが幸いしたようだが、それにしてもよくやれたもんだと思う。


 六の月・上弦10日。

 このチラスポリに、“諸族自由連合”と名付けられた人類と亜人族の各勢力が集結した。



 

“原初の蛇”の異名を持つ巨大な使徒アムートを見つけることは出来なかった。

 一度はその姿を目視し、地図スキルに反映できるはずの都市国家連合のスカウトたちにも、既に近くにいないということしかわからなかった。

海の中では痕跡も臭いも辿ることが出来ないし、それ以上の追跡は難しかった。


 艦隊を襲った目的も不明で、戦力を削ぐよう魔王が命じた可能性ももちろんあるが、モモカとサヤカによれば“単にエサを狩りに来ただけだったかもしれない”と言う。


「アムートは、ヌゴーズ以上に原始的な魔獣だし、レブナント以上に独自路線で行動していたから・・・」


 なんでも、アムートはその異名通り、この(ゲーム的な)世界が誕生した当初から存在し、つまりは魔王と関わりなく世界の災厄のような存在として各地に伝承が残っているらしい。


 いずれにしても、それ以上手がかりも無く、いったん俺たちは領兵やエレウラスたちの所に戻り、当初の予定通りチラスポリに入場したのだ。


 


 この地に集結した連合軍は、前回の魔軍の尖兵との戦いの際を質量共に大きく上回る規模になった。



◆まず、エルザーク王国軍、総兵力10万。


 プラトの南に位置し、主要国では最も補給路が短く済むエルザークは、前回の2万をはるかに超える兵力を投入している。


 国軍5万に加え、北部・中部の領地持ち貴族に広く軍役を課して5万をかき集めた。その中にはうちのキヌーク村からの百名あまりも含まれている。

 国軍は魔法兵力も多く装備も充実しているが、諸侯軍は玉石混淆というか、練度も装備もまちまちなのが不安材料ではある。


 前回はコルネリス王太子が率いていたが、今回は弟にあたるヤレス第二王子、つまり冒険者ギルド長でもあるヤレス殿下が司令官を勤めている。

 軍務での俺の上官にあたるミハイ将軍によると、これは各国が同格の王族を出して自己主張すると、指揮系統の一本化が難しいという前回の反省から、主要国間で内々に調整が行われたらしい。

 だが、見方によっては、今回の戦役が生きて帰れない公算の高いもので、王太子を温存しようとしたとの考え方もあるそうだが。



◆モントナ公国軍、1万。


 エルザークの南、共同でマジェラ王国を攻略したモントナからは、前回に続いてタクソス公子が指揮を執り、前回を上回る1万の兵が送り込まれた。

 小国モントナにとって最大動員数に近いが、隣国マジェラの脅威が除かれた結果、可能になったと言える。

 伝統的に狭隘な土地で弓を使った戦いを得意としている。



◆都市国家連合軍、1万8千(予定)。


 3万の兵力を海路で北上させたアダン、イスパタ、テビニサ他の都市国家群だったが、使徒アムートの襲撃により船団が大被害を受けた。

沈没を免れた軍船のうち、一部は濃紺の海の小島に投錨して今も修理作業中だが、動ける船に兵を移してチラスポリの東に位置するザトカの港に向かっている。

 まもなく、1万8千の兵が上陸し、その後合流する予定だ。


 都市国家軍の内訳としては、最も数が多いのがアダンの7千人。弓歩兵主体で魔法使いのレベルが高いことで知られる。

 次いで多い、イスパタの6千人は、屈強な歩兵団の肉弾戦における圧倒的な強さが有名だ。力が正義、の気風が極端なイスパタの男は、1人で他国の兵3人に相当すると言われる。

 他にテビニサをはじめ中小の都市からあわせて5千人。


 装備も特徴もまちまちだが、都市間の抗争が長年絶えない地域なので、兵のレベルは高めだ。

 連合と言いつつ統一した1人の指揮官がいないことが最大の弱点だろう。



◆カテラ万神殿、1万5千


 南の動乱が終結し兵力を送り込めるようになったことで、聖騎士団をはじめとする主戦力が投入されている。

重装騎兵中心の聖騎士団、平民主体の歩兵団共に、信仰の強さから劣勢でも容易に崩れない粘り強さが知られている。



◆メウローヌ王国、5万


 アルゴル内戦が平定されたことで後顧の憂いが除かれ、補給路の長さにも関わらず5万の兵が送り込まれた。

 騎兵と歩兵の連携による柔軟な用兵がメウローヌの持ち味とされる。

 率いるのは前回に続いて、実質的な国王とも言われるシャルル王太子。



◆アルゴル王国、3万


 前回の魔王軍との戦いには内戦中で参加せず。

 使徒ゲルフィムに使嗾されていた前王が除かれ、長年緊張関係にあったメウローヌとウェリノールに助力を求め、国内を跳梁していた魔軍勢力をようやく討伐した。

 本来の国力はメウローヌと同等だが、現状動員できた兵力は多数の徴募兵を含め3万だった。練度・装備共にかなり不安がある。



◆ウェリノール 2千


 やはり前回の“人類連合”には参加しなかったエルフの秘境から、今回の“諸族自由連合”には、ルシエンの父ルネミオンらハイエルフ10名を含むエルフの精鋭が参戦した。

 装備は比較的軽装ながら全員が魔法と優れた弓の腕、索敵能力を持つ。



◆大森林地帯 3千


 精霊王の御子とハイエルフのエレウラスが率いる、亜人各種族の義勇兵たち。

 数が多いのは猫人族と犬人族、次いでリザードマンと蛙人。エルフや妖精族、ワーベア、ワーラットらの人獣族もいる。

 装備は軽装で能力はまちまちだが、迅速な展開力と優れた察知能力を持つ集団。



◆ドワーフ自治領 2千


 ドワーフ王の孫オーリンが率いる、小柄だが屈強なドワーフたち。北方山脈周辺からの人間の避難民も受け入れ、義勇兵として加わっている。

 斧やハンマーによる近接戦の粘り強さ、岩陰に身を隠してのスリングや投石による戦いも得意だが、鍛冶や攻城兵器の加工など工兵としての資質が高い。



◆そして、今回もおそらく連合軍の主力となる、レムルス帝国軍、総兵力20万。


 大陸最強と呼ばれるレムルスからは、チラスポリに駐留していた部隊に加え、帝国軍主力の増援とガリス公国を含む各地の領主の軍も召集された。

 100門近い大砲を遠路はるばる引いてきた他、魔法戦力も充実している。

 そして、他国にその名を最も轟かせているのは、鍛え抜かれた重装歩兵の集団戦。いわゆるファランクスだ。


 これで、総兵力は43万にものぼる。


 集結地チラスポリの城下は、とてつもない熱気で比喩で無くむせかえるほどだった。


 元引きこもりにはツラい環境だが、おかげで先日から試みていた“魔力ボンベ”にはたっぷり魔力が貯められたように思う。

 まだ戦闘が始まっておらずMPを魔法で消費することが少ない分も、みんなムダに気合いを大気中に発散してるってことだろうか・・・。



 この他さらに、東方でもパルテア帝国を中核とした連合軍が、北上を開始している。


 200年前の大戦では東方諸国は統一行動を取れなかったし、大連合が結成された時には既に大陸各国に今回よりはるかに大きな犠牲が出ていたと聞く。


 だから、おそらく大陸史上でも最大規模の軍勢だ。




 そして、前回のレムルス軍はジークフリード第二皇子が指揮をとっていたが、今回の司令官はアルフレッド「皇太子」、そう顔なじみのアル殿下だ。



 先日、大陸各国に驚くべき知らせがあった。


 レムルスの皇帝レオンハルト2世が突然退位し、皇太子へと帝位を譲ったのだ。まぎわらしいが皇太子も同名なのでレオンハルト3世と呼ばれる。そしてこの結果、皇孫のアルは皇太子となった。

 たしかにレオンハルト帝は高齢だったけど、先日謁見した際はまだ元気そうだった。

 だから、この譲位の理由のひとつは、今回の絶対に負けられない戦いでの指揮系統の一本化にあるというのがもっぱらの噂だった。


 最大兵力を出すレムルスの皇太子ならば、他国の王族を抑えて全軍の最高司令官とするのに異論は出にくいというわけだ。



 実際、チラスポリの城館で行われた最初の軍議では、前回はジークフリート皇子が総大将となることに反対したメウローヌのシャルル王太子が、今回は自ら“アルフレッド皇太子を総大将に・・・”と提案したのだ。

 どうやら主要国間では事前に根回し?ができていたらしい。


 メウローヌは前回の戦いで大きな損害を出したから、その轍を踏まぬとの思いもあるのだろう。


 そして、重要な軍議は各国から2名ずつがテーブルにつくことや、相互に補給物資の融通をすることなど、いくつか実務的なことが確認された。


“2名ずつ”ってのは、各国の司令官は王族とかだから、その参謀と言うか実質的な指揮官である元帥とか将軍も発言資格を持つってことだ。


 エルザークでは国軍トップのネジミエ・スカンデル元帥という、スキンヘッドで年齢不詳の男がその立場になるようだ。

 俺は王宮でちょっと言葉をかけられたことがある程度で、あまりよく知らなかったが、ステータスを見ると、<50歳 魔法戦士LV30>だった。

 

 どうでもいいことだが、スカンデル侯爵家はエルザークではミハイ侯爵家と勢力を二分する武門の家柄で、ネジミエ侯爵は次期軍務大臣が確実なんだとか。



 で、俺はしがない地方貴族だから軍議に出なくていいか、と言うとそうではない。

 メインテーブルの後ろに随員者席が設けられるからだ。


 俺はエルザークの領主貴族であると同時に、勇者サーカキスに王国から貸し出された随行者でもある。

 勇者はそれ自体が一国の軍に相当する独立した立場だから、軍議には2人、つまり勇者サーカキスと参謀である聖女モカが出席。

 その後ろの随員席に、エルザークのミハイ将軍らと並んで座ることになる、ってわけだった。



 とは言え、チラスポリでの公式な軍議は、一度しか開かれなかった。


「魔軍の勢力拡大を食い止めるため一刻も早い進軍を」と、最初の軍議で方針が決まったからだ。

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