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第403話 おみやげです!

 ダズガーンを斃した段階で、他に各地を蹂躙している魔軍のうち、使徒がいる場所として有力視されていたのは、マジェラ王国かゲオルギア王国、イシュタール神国、次いでアルゴル王国、都市国家のイスパタ共和国だった。


 その中で、俺たちはイスパタとマジェラを転戦することを選んだ。


 これは、アルゴルにはメウローヌ軍に加えハイエルフの精鋭が向かったこと、イシュタールを拠点の1つにしていた使徒ゲルフィムは転移魔法で各地を転戦し捕捉が困難だったこともある。

 だがそれ以上に、もう一つ有力だったゲオルギアの北部には、転移魔法が使えるポイントが近くに無かったことがある。


 もはや魔王軍の勢力圏に取り込まれたゲオルギアからプラトにかけては、パルテアやレムルスが密偵を送り込んでいたものの、誰一人帰らず、情報が全くと言っていいほど得られていなかった。


 行くとすれば、大連合軍が結成され進軍するのに合わせて、潜入するしか無いだろう、ということで後回しになったのだ。


「でも、マジェラにも使徒はいなかったから、裏目に出たことになるかな・・・」

「どうかな?あの上級悪魔をここで斃せていなかったら、新たな使徒になってた可能性もあるし、私たち抜きだとかなり犠牲が増えたと思うよ」


 首都エステルグムの王城の一室でサヤカとモモカが振り返ったのは、マジェラよりゲオルギアを優先すべきだったか?って話だ。


 この1か月間、使徒を新たに斃すことは出来なかったから。


 ただ、それは結果論だろう。それにここを征圧した効果も決して小さくない。


「これで各国の軍が北へ向かえるようになったわけですし・・・」

 エヴァも同意見だった。


 マジェラが魔軍勢力に抑えられたままだと、東西南北に隣接するモントナ、カテラ、都市国家、そしてエルザークは魔王軍との決戦に向けて主力の軍を北上させるのが難しかった。


 使徒を一体見逃して魔王の下へ行かせてしまったとしても、収支は黒字じゃないだろうか。


「そうね、すんだことを言っても仕方ないしね。大事なのはこの先どうするか、だね」

サヤカも気持ちを切り替えたようだ。



 モントナ公国軍と、遅れて首都エステルグムに入ったエルザーク軍が、残敵のうちの魔人、魔物は掃討し、意に沿わずに従っていただけの人間の兵らはいったん武装解除した。


 そして今後の施政方針と、連合軍の戦略を確認するため、王宮の一室におもだった幹部が招集された。


「シロー!」

「イグリ、グレオン、ベス!」


 俺はなじみの顔を見つけて駆け寄った。


 エルザークの軍は今回、国軍からの3千に加え、南方諸侯の計5千が参戦し、カレーナが治めるオルバニア伯爵領からも1千名あまりが派遣されていた。

 それを率いるのが、准男爵になったイグリと騎士身分を与えられたグレオン、そしてベスだったのだ。


 イグリは以前から騎士ジョブだったけど、グレオンは今や<剣匠>に、ベスは<魔導師>にジョブチェンジしていた。


 亜人戦争の時はオルバニア領の総兵力は300人でしかなかったのに、今や南部を代表する大貴族のひとつなのだ。


 もっとも兵の大半は、新たに所領になった旧トクテス派貴族の領兵や新領民からの志願者で、はっきり言って寄せ集めの軍だが、マレーバ伯爵やルセフ新伯爵(封印の地に調査に行った故ルセフ侯爵の息子だ)などと協力して、北からマジェラ領に侵攻した。


 兵力が多いエルザーク軍がマジェラを支配する魔軍を北に引きつけておいて、東から5千のモントナ軍が首都エステルグムを急襲するって言うのが今回の作戦で、その首都急襲の切り札として、俺たち勇者パーティーもモントナ軍に途中参加したわけだ。


「おいしいところを持ってかれたな・・・いや、これは失礼しました。勇者殿ですな、お初にお目にかかります」

 イグリが俺に目配せして、勇者サーカキスと聖女モカに紹介を求めてきた。


 イグリは一応責任者だし元々騎士の息子らしいから、こういう所は意外にきちんとしているのだ。


 サヤカとモモカに儀礼に則った挨拶をすると、これまでの使徒との戦いや、もっと昔のことなどを不躾で無い程度に水を向けて、ふむふむ感心しながら聞いていた。



 その点ベスとかは騎士身分になったとは言え、もとが俺と変わらないコミュ障のオタクだから、最初はすごく硬かった。

 唯一顔見知りのノルテがいなかったこともあるし、俺が引き連れてたのが、びっくりするような美女揃いだったってのもあったみたいだ。


「まさかシローさんが本当に美人の婚約者を連れてくるなんて、ありえない・・・」

ブツブツ言いながら、“納得いかない”ビームを飛ばしてきた。


「まあまあ、ベスだって最近はロリックと仲良くしてるじゃないか?」

「え!?」

 そこにグレオンが爆弾を投げ込んだ。


「な、な、なにを言ってるんですかっ、ロリック君とはそんな関係じゃぜんぜんないですからっ」


 なんと、あの白鷹隊の太っちょの薬師ロリック少年が最近ベスにべったりで、噂では二人は付き合ってるんじゃないかって言われてるらしい・・・ベスの方が3つも年上だし、領軍の中での地位や実績も比較にならないけど、見た目はベスよりロリックの方が大きくて年も同じぐらいに見えるよな・・・


「ないから、ぜったいないですから、ロリック君には色々教えてあげてるだけですからね!誤解しないでっ」

「そうか、色々教えてあげてるんだ・・・おねーさんが」

「ち、ちがうからっ、バカバカバカーっ」


 真っ赤になってポカポカ殴ってきたベスの方が、手が痛くなったとかって文句を言う。


 ようやく他の首脳陣が集まってきて、ぐだぐだの内輪話は立ち消えになった。




 王が悪魔化して討たれ、成人した王族が皆無になったマジェラ王国は、当面エルザーク王国とモントナ公国が共同統治するらしい。


 実際の統治は、今回エルザーク軍の事実上の司令官を務めたマレーバ伯爵が暫定的な代官になって、エステルグムに南部諸侯軍の兵を駐留させるそうだ。


 その代わりと言うのもなんだが、ゾフィア王女ら生き残った幼い姫たちは、モントナ公国が預かることになった。



 そして、エルザークの王都デーバからの魔法通信によると、マジェラとアルゴルの動乱が収まったことで、ついに大連合軍が動き出すと言う。


 断片的な情報しか得られていないが、魔王軍もついに本格的に動き出したらしく、戦場を有利な場所に設定するためにも一日も早い結集が必要なのだ。


 大陸西部の集結目標は、再びあのチラスポリの城市に六の月の上弦10日だという。

 現在は五の月・下弦の10日だから、ちょうど半月後だ。


 距離が遠いアルゴル、メウローヌの軍は、既に進発したらしい。

 

 ルシエンがリンダベルさんから遠話で聞いた話では、エルフの部隊も近く出発すると言う。


 今回は、「人類連合」ではなく「諸族自由連合」なのだ。


 前回もドワーフ自治領からの部隊が参戦はしたけれど、今回は本当の意味で、自由世界と魔王軍の大決戦になる。

 大森林地帯の亜人たちも参加してくれるだろう。


 西方諸国で参戦を表明しているのは、他にレムルス、エルザーク、モントナ、カテラ、アダン、イスパタ、テビニサ・・・つまりほぼ全ての国だ。


 さらに東方の軍もタイミングを合わせ、トスタンの首都トスクに集結する予定だ。

 こちらはパルテア帝国とアンキラ王国が参戦を表明しており、まだイシュタールの動向がはっきりしないこともあり、どれだけの軍が動けるかは不明だが、東西から魔軍を挟撃することが出来れば、200年前にはなかった形になる。



 そして、王都デーバからは、もうひとつ連絡があった。


 これは勇者と聖女に、ではなく、俺にだった。


《ツヅキ子爵は北部諸侯連合軍の一翼として、定められた数の兵を出すように・・・》


 つまり、今回オルバニア伯爵カレーナやマレーバ伯爵など南部諸侯がマジェラ攻略の軍を出したように、次の魔王軍との決戦に向けては、中部および北部の諸侯に軍役が命じられた。

 俺にも領主貴族として兵を出せってことだ。


 これには心の準備をしていなかった。

 既に俺と婚約者たちが勇者パーティーの随行者を命じられているわけだから、これで役目は果たしているんだと思っていたから、この上さらに?ってのが率直な気持ちだった・・・


 だが、あわててキヌークに遠話を飛ばすと、ノルテを補佐するセンテ・ノイアンは、まるであらかじめ聞いていたかのように、落ち着いた返事をした。


《おそらくそうなると思っていましたよ。既にテモール族の騎兵を含め、領軍の訓練も出兵準備も進めておりますのでご安心を》


 今回の出兵はまさに人類の生存をかけた大戦だから、一兵でも多く欲しいのだろう、と言うことだった。

 マジェラ攻略には国軍をあまり出さなかったのも、この北伐のためらしい。


 招集までは少し日があるから、俺たちもいったんデーバを経由してキヌーク村に戻り、遠征のための準備をすることにした。


 グレオンたちとはここでお別れだから、最後の晩は一緒に飯を食ったんだけど、別れ際にベスが、思わぬお土産をくれた。


 これって、ベス謹製「魔力回復丸」だよな。


 でも、緑色の女性の絵が描かれたキレイな木箱に詰められていて、高級感がハンパない。

『シキペールの魔女印 森の秘宝シリーズ』とかって銘が書かれてるし・・・どうやら特産品として絶賛発売中らしい。


「今回の戦役では領内で作った分をありったけ持って来ていて、使わなかった分は、全部シローさんたち勇者パーティーに差し上げて、って、カレーナ様から言われてたんです。なんでも、シローさんには返しきれない借りがあるから、少しでも役に立てたら嬉しいって・・・」


「どういうこと?」

 疑問を呈したのはサヤカとモモカだった。


 そうだった・・・2人には、俺がこっちに転生してすぐ、カレーナとセシリーに騙されて奴隷にされたって話は、かなり端折った話でしか伝えていなかったな。


 あれはまだほんの、1年何か月か前のことなんだ。

 その後に色々ありすぎて、なんだか、ずっと昔みたいな気がする。



 いずれにしても、この薬は助かる。


 うちの領内ではまだ長期戦に十分なほどは薬草が採れていないし、ベスの薬の方が俺が作ったものより何となく効果が高いような気もしていたから。


「ロリック君に作り方を教えたら、彼のみこみが早くて教え甲斐があるって言うか、こないだなんか二人で徹夜しちゃいましたよ・・・」


 アレ?作ったのロリックなの?

 てか、やっぱ仲いいんじゃん。


 まわりの生暖かい視線に、ベスはさっぱり気付いてなかったけど。

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