表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
431/503

第401話 マジェラ王国解放

五の月・下弦10日。使徒ダズガーンを斃してからおよそ1か月後、俺たちは魔軍の勢力圏となったマジェラ王国を攻略していた。

 群れ飛ぶ下級悪魔をものともせず、炎を吐くドラゴンが城壁を飛び越える。


 それとタイミングを合わせてついに城門を破った兵団が、二回り大きな魔人兵の群れに恐れること無く突入していく。


《城へ!まだ人間の王族がいればなるべく確保っ》

《了解っ!》


 遠話が飛び交い、ドラゴンと共にいくつかの小さな姿が飛翔して城市の奥へと急行する。


 マジェラ王国の首都エステルグムは、既にあちこちで火の手が上がり、連合軍と魔人との戦いの喚声、逃げ惑う市民の悲鳴に包まれていた。

 さすがに全ての民が魔人化しているわけではなく、一般市民の多くは人間のまま奴隷化されているようだった。


 だが、今は優先すべきことがあった。


 マジェラ族は東方から来たと言われるのがわかる、独特のデザインの王宮へ、防空隊とも言える悪魔族を魔法と矢で排除しながら飛ぶ。


「エヴァは制空権確保を頼む」

「ええ、気をつけてね、みんな」

 俺はエヴァが操るドラゴンの背で、素早くパーティーの編成を変えた。


「“破魔”!・・・開いたわっ」

「“転移”!」

 城を包む結界に穴を開け、即座に有視界転移で宮殿の上階のテラスへと飛ぶ。


 ドラゴンと並んで飛んでいたサヤカもすぐに着地する。

 カーミラが宮殿内の気配を探る。

「あっちっ、人間の臭い」

「行こう」

 

 王宮警備兵らしい高価な鎧の残骸を巨体にまとわりつかせた魔人が、10体ほどテラスに駆け出してきた。

 リナとモモカが、それを魔法でなぎ払う。


 カーミラとサヤカを先頭に突入すると、案の定、ここは既に高位の王族の居住空間らしかった。

 親玉がここにいるかはわからない。戦闘指揮をとっているなら内宮にはいないかもしれない。だが、すぐに駆けつけてくるはずだ。


「人間の気配は、あっちの方ね」

 ワンとキャン、コモリンを捜索に放ちながら俺たちも駆ける。


《マジェラの王族の皆さん、勇者サーカキスと聖女モカです。救出に来ました》

 モモカが“神の言葉+”のスキルを使って周囲の空間に発信した。


 この“神の言葉+”は本来、巫女ジョブが持つ“神の言葉”と同様に一種の預言を得るスキルだけど、もうひとつ「不特定多数の人々に言葉を届ける」という機能もある。

 そしてモモカは、そっちの機能だけを使って、神託では無く自分の言葉を宮殿内にいるであろう人々に送ったのだ。

 魔法の“遠話”があらかじめ精神の波長合わせをした特定個人向けの「通信」であるのに対し、これは言わば精神波による「放送」だ。


 そして・・・

「反応があった!助けを求めているわ、おそらく偽装じゃ無い」

 モモカはそう口に出しながら、パーティーに遠話を中継してきたから、途中から俺たちにも聞こえた。


 女の声、だと思う。かなり衰弱しているようだが。


 元々は豪華で美しい宮殿だったはずだけど、魔人が闊歩するようになり壊れ、汚れた廊下を走る。


 内宮を急襲されるとは思っていなかったのか、警護の魔人兵は数も少なくレベルもせいぜい10~20だから、今の俺たちの敵じゃない。


 しかし、物陰に潜んで時間稼ぎのような戦い方に変わった、と思ったその時、魔法転移の波動が生じた。


 ひときわ豪華そうな扉の前に、この先には通さぬ、と言うかのように出現したそいつは、これまでの魔人や下級悪魔とは桁違いの魔力と存在感を持っていた。


 俺が“情報解析”をかけるより早く、モモカが“真実の鏡”のスキルでステータスをみんなに見えるようにした。


<ユタシュ・アルパダ 上級悪魔 LV18>


 この名は、マジェラの国王のはずだ。


 だが、人間の面影など全く無い。既に魔人化しているどころか、使徒たちと同じ上級悪魔族だと表示された。


 パーティーのみんなが息をのんだ。


 何者かに操られたのか、操ったのか、なりすましたのか・・・何があってこうなったのかはわからないが、マジェラ国王自身が既に魔王の手下である可能性は、いくつかの予想の中にあった。


 高い天井に頭がほとんどついているから、身長は5メートルぐらいありそうだ。

 それでも、ダズガーンやゲルフィムよりはずっと小さいしレベルも低い。


 とは言え人間ではありえないサイズだが、身につけているのはこの体に合わせて新たに作らせたらしい、場違いに豪華絢爛な衣装と宝冠だった。


 まわりには側近とおぼしき、下級悪魔と魔人が併せて4体。

 国王とその護衛、か。

 ステータスからして肉弾系2体、魔法系2体だ。


「・・・まわりの連中を頼んだ」

 一言短く言い放つと、サヤカの姿が消えた。


 護衛から放たれた雷撃魔法は“対魔法剣”で切り払ったのか、一瞬で上級悪魔の懐に飛び込んだ。


 王だった「それ」の赤い両眼が光り、口から黒い瘴気が放たれた。

 だが、サヤカを包む“勇者結界”が阻んだようだ。


 光を放つ剣が一閃する。


 まわりの護衛たちが、サヤカに襲いかかろうとしたが、その前にサヤカの背後に陰のようについていたカーミラが1体、ルシエンの矢が1体、リナと俺の魔法がさらに1体ずつを倒していた。


 モモカは背後を振り返り、廊下を追いかけてきた魔人の群れを範囲魔法でまとめて片付けていた。


 サヤカが残心の構えを解くと、上級悪魔の胴体が斜めに切断され、上体がゆっくり廊下に落ちる。


 その途端、王城を包んでいた魔力が霧散するのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ