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第399話 使徒ダズガーン戦③

 身長数十メートルありそうな巨大な悪魔ダズガーンが、粘土壁を踏み潰し、着地した。

 巨大な地獄の鎌を振り上げる、その視線の下にいたのはモモカ――――聖女モカだ。


 やっぱりコイツも、レブナントのように「まず最初に聖女を殺すべき」とか考えてるのだろうか?

 200年前にも戦ったことがあるなら、わかっている可能性はある。


 俺はみんなを連れて逃げようと“領域転移”の呪文を唱えかけたが、その瞬間、ダズガーンは鎌を止め、片手から強烈な魔の波動を放った。

“心の守り”や“聖女の祝福”のバフを受けていなければ、それだけで昏睡していただろう。


 放たれた魔の波動は、俺の呪文を吹き飛ばした。

 そればかりか、まわりは魔力嵐のような状態になって、他の魔法も使えそうにない。


 スレナス准将率いるパルテア情報部隊の連中が、勇敢にもダズガーンの側面から剣で足に斬りつけるが、全く効いていないようだ。

 うるさげに足を払うと、それだけでぐしゃっと嫌な音がして、真っ赤に染まった兵らが弾き飛ばされた。


「逃げてくれっ」

 俺はそう叫ぶと、粘土収納からみんなの粘土トリウマ=トリマレンジャーを取り出す。


 再びモモカめがけて大鎌を振り上げたダズガーンの足下をくぐり、モモカ、ルシエン、カーミラ、俺の4人は、粘土トリウマでかろうじて駆け抜ける。


 予想と反対の方向に俺たちが逃げ出したからだろう。

 一瞬遅れて包囲しようとする、ストーンゴーレムとゴブリンの群れの前で、俺たちは飛翔した。

 トリマレンジャーに錬金術で付与しておいた“飛翔”の効果だ。


 局所的な魔力嵐の中で、フラフラしながらかろうじて、だが、ストーンゴーレムの頭上を飛び越えられればいい。


 振り向いたダズガーンが配下の魔物を踏み潰すことなど気にもせず、追いかけてくる。


 その使徒の顔面に、サヤカが飛び込んできた。

 勇者の“光閃剣”だ。


 魔力嵐によって飛翔の軌道がずれ、致命傷を与えることは出来なかったが、ダズガーンのねじくれた角が一本、斬り飛ばされ、上級悪魔がよろめく。


「グオオオォォォーッ!!」

 憤怒の咆吼が轟いた。


 俺たちはその場をサヤカたち味方の空中部隊に任せ、トリマレンジャーを何とか目的の方向に向けた。


 いた!


<魔人 LV30>

 暗殺者や魔法職ら邪神教徒の人間たちの中に、一見そいつも人間のような姿だったが、禍々しい気配をまとった大柄な男。


 そいつは、予想通り“魔物使役”のスキルを持っていた。


 おそらく、元々は人間だったのだろう。

 だが、魔物の肉を喰らい続けたか?あるいは使徒の血液を与えられたか?なんらかの方法で魔人化し、さらに力を持った。

 こいつがダズガーンの側近として、魔物たちを動かしていたんだろう。


 粘土トリウマの上から、ルシエンが風魔法を放ちストーンゴーレムの動きを封じる。

 俺はその風に乗せるように、火炎を範囲魔法にしてばらまいた。


 炎の嵐が魔物たちを包み込む。


 ターゲットの魔人はその程度じゃ倒せないことはわかってる。


 ただ、魔物は足止めされ、邪神教徒の魔法使いも自らの身を守るために魔法盾を張るので手一杯になった状況で、モモカが“魔槍”を放った。


 魔人一体に狙いを絞って。



 それでも、魔人は自らも魔法の盾が使えたらしく、かろうじて魔槍の威力を減衰させた。致命傷じゃない。


 しかしその時、魔人の背後に気配が生じた。

 ミスリルの短剣が、無防備になった魔人の首に突き立つ。


 隠身をかけて粘土トリウマから飛び降りたカーミラだった。


赤い光点が、消えた。うまくいった・・・




 だが、相手の隙を狙っていたのは、俺たちだけじゃなかった。



 ダズガーンは俺たちを、正確にはモモカ=聖女モカを追っていた。

 そのダズガーンの足止めを試みていたサヤカ、エヴァ、リナが、俺たちが魔人をうまく仕留めたのを見届けたその瞬間、一瞬の隙があったのかもしれない。


 聖女を狙っていたはずのダズガーンは、その瞬間、反転した。


 追いすがっていたサヤカ、エヴァ、リナとの距離が一気に詰まった。


 巨石の砲弾が連射された。


 瞬間的に飛翔の軌道を変えたサヤカとリナに対し、大きなワイバーンに乗るエヴァの回避が遅れたのは仕方の無いことだ。


 それでも最後の瞬間、ワイバーンの体が盾になったようにも見えた。

 そうであって欲しい。


 肉片が飛散した――――



 目に映る光景が色彩を失い、俺は何も考えずに魔法転移していた。

 ただ、その場所へ。


 空中で、飛び散った肉片の中に、長い銀髪が見えた。

 顔は見えない。変形したミスリル鎧らしいきらめき。


 空中でさらに、そこに転移する。

 手を伸ばし、つかみ取る。血まみれの、ちぎれた体。


“領域治療”、俺が使える一番強力な治癒魔法。

 重ねがけする。

 重ねがけする。

 重ねがけする・・・頭が痛い、意識が霞む。


 激しい衝撃。

 地面にたたきつけられた。

 それでも、痛みだけで済んだのはモモカが信じられない精度で“重力制御”をかけてくれていたからだ、ってことがわかったのは、全てが片付いた後のことだ。


 手足の無くなった、半分潰れた体は、治っているのかわからない。

 生きているのか確かめる余裕も勇気も無かった。


 もどかしく、アイテムボックスから<万能治療薬>のセラミックボトルを取り出す。

 ファイアドラゴンを倒した後、血と魔石粉末を使って作りだした、部位欠損も再生出来る秘薬だ。

 死んでいなければ治せるはず、治せる、絶対に治る・・・液体をエヴァの全身にドバドバかける。


 シュワシュワと光の靄が体を包み、何かが生えてくる。

 それを見守る勇気も無く、今度は残った液体を口に含み、開かせたエヴァの口の中に、体内に流し込む。



 ズズンッ!!!


 巨大な何かが地に堕ちて山頂を崩し、地鳴りが響き渡った。

 爆風にあおられ、ハッと我にかえった。


 ダズガーンか!


 戦いの中で、俺は完全に自分を見失っていたことに、その時ようやく気付いた。


 

 その巨体の上に、サヤカとリナが着地した。

「ふーっ、やったね」


 そして、衝撃波と共に光球が降り注いだ。

 俺たちの眼下で、斜面に沿って魔物の群れが吹き飛ばされ、なぎ倒された。


 生き残ったゴブリンの群れが、逃げていく。



 その時、俺の腕の中で動く気配があった。


「シ、ロー、さん?」

「!! エヴァっ!」


 生きてた。生きていた。間に合ったんだ。


 ただただ、俺は気が抜けて、呆然と座り込んでいた。

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