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第396話 パルテポリスの再会

「シロッチ、スッゴイ評判になってるよ~、ほんとに勇者と聖女を目覚めさせたんだね。しかも婚約だとかって、マジびっくりだし!」


 いや、びっくりしてるのは俺らの方だし。


 特にサヤカやモモカは、初めて会ったケモミミギャルのいきなり軽いノリに目が点になってる。


 まだここは、パルテポリスの謁見の間を出たばかり。

 控え室とは言え、れっきとした宮殿の中だってのに。




 封印の地から、シクホルト-キヌーク-デーバ-ドゥルボル-アンキリウム、そしてパルテポリスへと、3日がかりで転移を重ねて、東方のパルテア帝国にやって来たのは昨夜のことだ。


 あらかじめ帝国の重鎮、ベハナーム教授と長距離遠話で連絡をとっていたから、新皇帝スマウディエスとの謁見はスムーズに進んだ。


 200年前の大戦では、新興のパルテア王国は人類連合に加わらず魔軍と近い立場にあったとも言われるけど、今回は連合への賛同を直ちに表明している。


 ベハナームたちが封印の地で魔王の復活を目撃し、その脅威を報告したこともあるし、仇敵であるイシュタール神国が魔王の使徒ゲルフィムに操られていると見られることもある。


 だが、決定的だったのは、使徒ダズガーンが復活し、魔物の大群を引き連れて帝国を蹂躙したことだ。


 総兵力20万、西のレムルスと並ぶ大帝国パルテアの国軍は、それまでのスタンピードにはよく対処し、イシュタールとの戦争を断続的に続けながらも魔物の跳梁を押さえ込んでいた。


 だが、1体の使徒がパワーバランスを文字どおり破壊した。


 大弩も大砲すらも、使徒に目に見える傷を負わせることが出来ず、国境の防衛網はひとたまりもなく突破された。

 魔法部隊の攻撃も児戯に等しいとばかりにお返しの魔法攻撃で粉砕された。


 パルテアの南から侵入した巨大な悪魔は、飛行することも出来るのに、配下の魔物たちに合わせるためか?あるいは人類を絶望に陥れることこそが目的だったのか?悠々とパルテア領内を“歩いて”通過したのだ。


 ダズガーンが通り過ぎた各地では、封印されていたはずの迷宮からも再び絞り出されるように魔物が湧き出し、たまたま進路上にあった城市や要塞は、そのまま踏み潰され、たたき壊された。


 使徒がなぜそのような行動をとったのかは、やがて判明した。


 ダズガーンがゆっくり歩を進めるに連れて、パルテア各地の山林や荒野から、誘引されるように多数の魔物や野獣が集まり、魔軍は膨れ上がっていった。


 しかも、付き従う魔物は、多くの街や村を蹂躙し住民を喰らうことでレベルアップし、力を増していることが報告されたのだ。


 ついにパルテア最強とされる、皇帝直属の魔法騎士団が投入された。


 彼らはようやく、ダズガーンに深手を負わせて進路を変えさせ、かろうじてパルテポリスが魔軍の蹄にかけられることを回避したが、その代償に半数を失った。


 そして、使徒は逃げたのではなく、無駄に力を消耗するのを避け、既に配下を十分に肥え太らせたことに満足して去るかのように見えた。

 魔法騎士団の生き残りは、立ち去るダズガーンの背に、確かに破壊したはずの翼がみるみる再生していくのを目撃していた。



 魔の嵐がかすめるように吹き抜けたパルテポリスでは、いま復旧と軍の再編を急いでいる最中だった。


 そして、使徒の軍は既にパルテアの北部国境を越えて、トスタン王国の領内を蹂躙しているらしい。


 亜人戦争でパルテアを奇襲したものの、帝国の反撃を受けて事実上降伏したトスタンは、現在はパルテア軍の進駐を受け入れ、退位した先王の王子がその“助言”によって名目上国政を運営している。事実上、パルテアの属領になっている状態だ。


 パルテアとしてはトスタンがどれだけ被害を受けようが意に介さない。

 だが、ダズガーンが魔王の下に合流し、魔王軍がさらに力を増してから再び南進を始めるのは何としても阻止したい。



 そうした思惑からだろう。


 対ダズガーン戦の佳境にあったため、チラスポリの戦いにはパルテアは兵を出せなかったものの、謁見の場でスマウディエス帝は、「今後は人類連合軍に加わろう」と、勇者サーカキスと聖女モカに約束した。


 さらに、魔王軍の力を少しでも削いでおきたいのも共通認識だから、俺たちがダズガーンを追う意志を伝えると、共同して戦うための軍勢と、現場まで案内するための小部隊も出す、と申し出た。



 で、まずは案内の方だが、帝国軍参謀本部の情報部隊が直接務める、ということになった。

 それで謁見後にすぐ引き合わされた士官たちの中に、いたのだ・・・ブッチが。


 以前、俺たちが護衛として雇われ、パルテアからガリスまで魔王の眷属についての調査行をマグダレアと共におこなった、あの猫人族のギャル、ブッチーニだ。


「やっほー、シロッチ、おひさー」

 第一声コレだし。


 ずっこけた。ずっこけるよね?うん。


 マジメ系のうちの女子たちの反応は、言わずもがなだった・・・



 最初は、情報部隊の責任者である将軍以下、今回の案内を務める部隊の隊長と幾人かの班長を順番に紹介されて、西方とは少し異なるもののまともな儀礼にのっとった挨拶を、勇者サーカキス、聖女モカに続いて俺たちも交わしていた。


 でも、列の最後に、アレ?見たことある顔がまさか・・・って思ったら相変わらずこうだったわけだ。


 意外にパルテア帝国軍って自由な気風らしい・・・と思いかけたけど、将軍の顔が引きつってたから違うようだ。多分、こっちでも問題児なんだろう。


 それでも、採用されて1年も経たないうちに、准士官から本当の士官に昇進してるようだから、活躍してるんだと思う。


 うん、ブッチーニはやれば出来る子・・・だったはずだ、たぶん。


 ちなみに、俺たちを案内してくれる情報部隊は、スレナス准将という<忍びLV20>の男が率いる30名ほどだが、これは魔法転移が出来る6名パーティー×5班の編制だ。

 移動スピード重視だと、こういう形になるんだろう。


 ブッチのような士官が5人いて、それぞれの班を率いるらしい。

 ブッチの部下とか、気苦労が多そうだな・・・




 謁見の間では、皇帝と話をしてたのはほぼサヤカとモモカだけなので、俺はまわりの重臣たちの様子を見ていた。


 歴史ある大帝国にしては偉そうな連中の年齢が若い気がしたのは、皇帝が代替わりしたことで大臣なども軒並みすげ替えられたらしい。


 一昨日エルザークの王都デーバに報告に寄った際、聞いてきた話によると、パルテアは典型的な専制国家で、西方のレムルスなどより皇帝一人に権力が集中しているらしい。

 大臣とかより、むしろ皇族に実権があることも多いのだと言う。


 スマウディエス帝は、皇太子時代から実質的に宰相のように国政を仕切っていたようだし、現在は帝の多数の妻妾が生んだ多数の皇子の中でまだ皇太子が定められておらず、熾烈な競争あるいは足の引っ張り合いが行われているんだとか・・・


 政争にサヤカたちが巻き込まれないようにしたいもんだ、とか思いながら、あのへんが皇子かな、って集団を眺めると、中に一人、気になる人物がいた。


 身分がそう高くない皇子の服装だがおそらく・・・いや間違いなく、女だ。


 事前に聞いてた情報では、皇女も沢山いるはずだけど、謁見の間に列席していたのはそのアメストリスという皇女だけだった。


 ステータスは秘匿がかかっていたようだけど、時間があったので新たに取得した“情報解析”っていうスキルを使ったら、不完全ながら見えるようになった。


<アメストリス 人間 女 23歳 召喚士(LV20)>

 

 召喚士は魔法使い系でも比較的珍しいジョブだし、23歳でLV20ってのも相当なレベルだ。

 先輩冒険者のイリアーヌさんがLV20になったのは30代だったんだから。


 最初に目を引かれたのは、そこじゃなかった。

 肌の色が浅黒く特に美人というわけでもなかったが、皇帝と顔立ちが一番似ているように見えたのが、多くの皇子たちよりこの皇女だったのだ。

 それも、造作が似ているというより、なにか策士めいた、皮肉屋っぽい表情とかがよく似ていた。


 そして、彼女の方も、最初は勇者と聖女をしげしげと眺めていた視線を、謁見が長くなるに連れてまわりの俺たちにも、いや特に俺に、探るように向けてきたのだ。


 これが、後に遊軍として戦うことになる、アメストリス皇女との邂逅だった。


 ***


 そして、早くも翌々日。


 スレナス准将率いる情報部隊(含むブッチ)と“座標共有”しながら転移を重ねた俺たちは、トスタン王国の領内で、使徒ダズガーン率いる魔軍の最後尾を捕捉した。

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