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第386話 ミスリルの武具

「勇者殿、さっそく身につけて下さらんか」

 オーリンが目を輝かせながら、修復したミスリル・アーマーを示す。


 次男のアドリンをはじめ、作業を手伝ったドワーフの鍛冶師たちもずらりとそろって注目している。


「え、ええ・・・その、そんなに見てられると、ちょっと恥ずかしいな」

 サヤカが婉曲的に訴えても、まったく通じてないみたいだ。


 鍛冶の腕になにより誇りを持つドワーフたちにとって、自慢の逸品を使用者に引き渡すのは、まさに晴れ舞台なんだろう。しかも、その相手が伝説の勇者だ。


 一方でサヤカは、子供の頃から美少女でスポーツ万能でまわりの注目を集めていたけれど、実は本人は目立つことがあまり好きじゃないのだ。

 こっちの世界でもフルフェイスの兜を好んで身につけていたのは、単に防御力のためだけじゃない。


 だからこの時も注目を避けるように、視界が悪くなるのに先に兜を被り、それからヴァシュティ戦で穴を開けられて修理を頼んでいた鎧を装着した。


「「「おおっ」」」

 ひげもじゃのドワーフたちの歓声があがった。

「う、動いてみて、どこか不自由ないか、試してみて下されっ」

 オーリンが興奮を隠さず口にする。


「え、はいはい・・・」

 サヤカは軽く体を動かしたり、剣を演舞みたいに振ってみたり、色んな動作をする。


「み、見事じゃ・・・」

 オーリンが感極まったようにもらしたけど、いや、見事も何も、元々サヤカの体格に合わせてオデロン王が作ったのを修理しただけだし・・・


 ただ、不思議なことに、みんなの熱気を反射して、ミスリルの白銀の輝きが一段と増したような気もする。


 勇者とミスリルの武具、ドワーフたちにとってはこれだけでご飯を何杯もおかわりできるごちそうらしい・・・ふぇちだよな。



 もっとも、オーリンたちがここ数日で行ってくれたのは、サヤカの鎧の修理だけじゃない。

 俺たちにも新たな武器と鎧を作ってくれていたのだ。


 竜騎士となったエヴァには、全身鎧とワイバーンや竜の背から使えるようなミスリルの長槍。

 ルシエンには軽めのミスリル鎧と細剣。ミスリルの鏃付きの矢も少々、ただしこれはさすがに普段使いではなく、いざって時用だな。


 俺にも、日本刀っぽいそりのあるミスリル刀とブレスト・プレートを中心にしたミスリルの防具を用意してくれた。


 これから魔王軍との戦いが本格化する中でありがたい。

 アンデッド系の魔物に有効なのはミスリルだけで無く銀の武器でも同様だけど、ミスリルはそれだけでなく魔物全般に効果が高く、特に高位の魔物・魔族ほどミスリルを忌避する傾向が強いらしいから。



 一方で、人型から狼に変化するカーミラ、人形サイズと等身大に変わるリナには決まった形の鎧や武器を用意するのが難しい。


 だから相変わらず俺の粘土スキルで工夫を重ねていて、「ホムンクルス化」したセラミック鎧と武器を用意した。

 これは姿形を変える機能を持たせた、一種の粘土ゴーレム、生体鎧だ。


 例えばカーミラの鎧は、普段は人型のカーミラにあった軽量の靴、籠手、鎧、兜だが、カーミラが狼に変わるのを検知すると、体型に合わせて形を変える。


 しかも、狼型になった時の靴と籠手は、単に足の形に合わせて変形するだけでなく、硬化セラミックの鋭い爪を備えてそれだけで武器になるようにした。

 兜も、狼の頭部を多うと同時に衝角のような短い角を持つ形になる。

 つまり、攻防一体型ってことだ。


 そして、錬金術の“物質転換”スキルで素材の強度を上げながら軽量化し、さらに“魔道具生成”スキルで、賢者として覚えたばかりの“障壁”魔法を仕込んで防御力を嵩上げした。

 “生素”を仕込むことで、自己修復能力もある程度持たせてある。


 俺的には、ミスリル鎧にも総合力でそうそうひけはとらないんじゃないかと思う。


 ドワーフたちにも造形面で色々手伝ってもらったから、武具の知識が無い俺が我流で作ってたのより、ずいぶん美的にも機能的にもいい形になったと思う。


 リナの方は大きさが変わればいいだけだから、これまでもそういう機能の鎧を着せていたけど、カーミラと同様、色々なギミックを仕込んで強化した。



 この日は、新しい武器や防具がそろったことで、使い勝手を試したり、武器の方だけ木剣とかに変えて模擬戦もした。



 昨夜、俺が寝落ちするまでモモカに聞いた話は、みんなには話していない。


 特に、この世界がどういう存在かって部分については。


 複素物理学とか並行世界とか、理解してもらうのは難しいだろう。

 それにあの理論が正しければ、この世界は俺たち転生者の精神活動の集合体として出来たとも言える。

 だとすると、ルシエン、カーミラ、エヴァも、オーリンたちもRPGで言うNPC、この世界の付属物として生成された存在だってことになっちまう。


 かつて、俺がジェラルドソンに、みんなをモブキャラ扱いするなって怒ったことがあったけど、結局ヤツの言ってたことがある程度正しかったとも言えるわけだ。


 そんな話はできない。


 ただ、レブナントがおそらく1千年かそれ以上前から存在する転生者だったってことや、やはり魔王は数百年おきに現れ勇者と戦ってきたこと、とかは話した。


 みんな俺たちが入手した“日記”になにが書かれているのか気にしていたし、魔王と使徒についての知識は、なるべく共有しておくべきだと思うから。




 レムルスの帝都からは、俺たちとここまで行動を共にしてきた浄化部隊のヤロスワフ隊長の所に遠話が入っていた。


 プラト公国内で、以前から魔物の大群と戦っている前線に、東のモルデニア方面、つまり今や魔王の本拠地となっている方面から、続々と強力な魔軍の増援が送り込まれてきたという。

 このままではプラトに駐留しているレムルス軍が長くは保たない状況だ。


 こうした中、あさっての四の月・新月の日には、レムルス軍主力の第一陣5万がシクホルトに到着し、そこでドワーフ部隊も合流する。


 エルザーク王国などからも、これに合わせて軍が行動を開始しており、プラト国内で魔王軍と戦うことになる見込みだ。



 俺たちはあくまで独立行動を取る遊撃隊の立場だけど、この大きな会戦に参加することになると、しばらくは帰れなくなりそうだ。


 そこでこの日の夕方、いったんキヌーク村に帰ることにした。

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