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第381話 時の狭間の部屋

「カーミラじゃなくても、これだけ死臭が強ければわかるわね。レブナントはここを拠点にしていたんでしょうね・・・」


 迷宮の入口の前でルシエンが顔をしかめたけど、気持ちはみんな同じだ。

 嗅覚が鋭すぎるカーミラにはもはや拷問だな。


 


 使徒レブナントとの死闘を制した後、リナから念話が入った。


 サヤカ、エヴァとリナの3人は、やはりドラゴンゾンビごとレブナントの魔法で強制的に転移させられたらしい。


 そして飛ばされた先には迷宮とおぼしき洞窟の入口があり、そこからまた多数のゾンビやらより上位のアンデッドが殺到してきた。

 ヤツらの住み処に侵入してきた外敵を排除しようとするように。


 3人はドラゴンゾンビとアンデッドの群れをまとめて片付けたものの、その場所では地図スキルも転移魔法も使えず、俺たちと遠話も通じなかったから、途方に暮れていたらしい。


 しかし、しばらくすると突然、まわりを覆っていた瘴気の霧が晴れ、残っていたアンデッドたちも糸が切れた操り人形のようにバタバタ倒れて、“ただの屍体”に変わった。

 そして、ようやく遠話や転移魔法が使えるようになったので、帰ってきたと言う。


 どうやら、モモカがレブナントを消滅させたことで、ヤツがかけていた術が解けたってことらしい。


 俺たちの方でも、まだ十万匹単位で残っていたはずのゾンビの大軍が、一斉に屍体に戻ったから、おそらく同じタイミングだったんだろう。




 俺はMP切れで昏睡寸前だったし他のみんなもボロボロだったから、その後はドワーフの洞窟で昼まで休ませてもらうことにした。


 ルシエンとカーミラも、モモカの治癒魔法で無事回復した。


 瘴気の直撃を受けたように見えたルシエンだったが、なんとか俺の“対魔法”が不完全ながらも間に合っていたようで、思ったよりダメージは軽かったのが幸いした。


 山中の数え切れない屍体は、レムルス軍の浄化部隊とドワーフたちに始末を頼んだ。


 外に出ている屍体は陽を浴びれば消滅するか、“本当の屍体”として朽ちていくだろうけれど、ちょっと日陰にあるヤツとかは日中に浄化したり焼いたりしないと、またゾンビ化するかもしれない。


 主たるレブナントが消滅したとは言え、その影響がはっきりわからない以上、できる限りのことはしておいた方がいいだろう。




 そして、昼になって仮眠から目覚めると、俺たち“モモカ組”で戦った4人だけがレベルアップしていた。


 どうやら、強制的に魔法転移された際にパーティー編成が外れてしまい、サヤカ、エヴァ、リナには使徒レブナントの経験値が分配されなかったらしいのだ。


「うー、モモカにレベル差つけられたよー。ここでの1レベルは大きいわ」

サヤカが半ば本気で悔しがったように、モモカは聖女LV46に上がっていた。


 そして、ルシエンはハイエルフLV29になり、カーミラはワーロードLV24まで一気に10レベルも上がった。


 それによって新たにカーミラが得たのは、“狂化”と“急所看破”というスキルだった。


“急所看破”は、サヤカも持っているけど、敵に弱点とか苦手属性とかがあればそれが感じ取れるというもので、実戦的にはなかなか有用なようだ。


 一方の“狂化”は200年前の狂戦士レムルスも持っていたスキルで、まあゲーム的には時々ある「バーサーク状態」になって、一定時間だけ身体能力が格段に強化され攻撃的になる、というものらしい。

 代わりに理性的な判断が出来なくなったり、HPの消耗が激しいとかのペナルティーもあるそうだ。



 俺は賢者LV27まで10レベルアップ。

 新たに取得したのは、“範囲魔法化”っていうスキルと、“障壁”っていう魔法だった。


“障壁”は一種の魔法盾だが、かなり巨大な壁サイズまで瞬時に形成できるようで、これまで粘土スキルで壁を出していたのに代わる使い方が出来そうだ。


 そして“範囲魔法化”ってのは、どうやら「火」とか「風」といった他の魔法を、集団攻撃に使えるよう大規模化出来るというものらしい。

“流星雨”みたいに決まった属性の範囲攻撃じゃなく、自分が使いたい魔法を範囲化できる、ってことらしいから、MP消費は多いものの使い方次第では強力かもしれない・・・




 そして俺たちは、夜中にサヤカたちが飛ばされた、レブナントの拠点とおぼしき洞窟前に転移して来たわけだ。


 キツイ腐臭が漏れ出してくる内部に入ると、そこは予想通り、アンデッドだったらしい屍体がゴロゴロ転がっている迷宮だった。


「さっさと浄化しながら奥へ進みましょう」

「一応警戒は欠かさずにね」


 粘土トリウマに騎乗して並足で進みながら、目につく屍体をどんどん浄化していく。


 今やモモカだけでなく、ルシエンと俺、そして修道士にしたリナも“領域浄化”が使えるし、モモカが乗るトリマパープルは聖属性を付与してあって浄化が使える。


 だから、転がってる屍体程度はトリウマの速度を緩めるまでもなく、走りながら浄化してゆけるのだ。



 ただ・・・迷宮は深かった。


 主が消滅したからかそれ以前からなのか、既に階層ごとの結界は破れて奥底までひとつながりになっていたものの、その階層が、実に地下五十階層以上あったのだ。


 そのため1日だけでは浄化し終わらず、いったんドワーフたちのところに帰り、最深部にたどり着いたのは2日目の午後だった。




 そして迷宮最深部で、俺たちは不思議な“小部屋”を見つけた。


 おそらく迷宮ワームがいた空間であろう場所に、レブナントが残したと思われる結界があったのだ。


 結界に穴をあけて内部にはいると、そこは迷宮には全く場違いな、貴族の書斎のような部屋だった。


 アンティークな家具と何やらよくわからない魔道具類、そして壁にはめ込まれた棚を埋めるのは膨大な書物だ。


「これがレブナントの部屋?読書家だったのね・・・っていうか、どういうこと、これ?」

「・・・普通、すぎる、よね」

 サヤカとモモカが口々にもらした。


「普通って・・・こんな迷宮の奥底に、十分異様だと思いますが?」

 エヴァが突っ込んで来た。


 けど、俺には二人の言いたいことがわかった。


 ここは、元の世界の西洋の貴族の書斎、そのものなのだ。


 いや、もっと正確に言えば、“俺たちが思い浮かべる西洋風貴族の書斎に”だ。

 普通ってのはそういう意味だ。


 このニュアンスは、こっちの世界の人たちにはなかなか理解されないだろう。


「エヴァ、ここって貴族の館の一室だとしたらどう思う?」

 俺はそれを確かめるために聞いてみた。


「え?そうですね・・・かなり身分の高い貴族が趣味にこだわって作らせたなら、こういうのもあるかもしれません。でも、ちょっと異国的というか、私の知るどの国ともちょっと違うかな・・・」

「ルシエンは?」

「そうね・・・1つ1つはレムルス帝国の家具とかにありそうだけど、全体として見るとどこの様式とも言いにくい感じね」


 やっぱりそうだ。

 そのやりとりをサヤカも真剣に聞いていた。


 その時、書棚をあさっていたモモカが、ハッとしたように振り向いた。

「もしかして・・・ごめんなさい!一旦ここを出ましょう」

「どうしたの?」

「あとで説明するから」


 サヤカの問いかけに答えることもなく、一旦結界の部屋の外、迷宮内に戻る。

 そこでモモカは、魔法収納の中から思わぬ物を取り出した。

 砂時計だ。


 なにをするんだろう?と思ったら、砂を落とし始めたそれを地面に置いた。

「しろくん、リナを貸してくれる?」

「え、リナ、いいけど・・・」


 俺が腰の革袋を渡すと、手に取って再び今度は1人だけで結界の中に入った。


 なかなか出てこない。


 リナに念話をつなごうとしたが反応が無い。こんなことはこれまでなかった。

 サヤカが魔法の遠話でモモカと結ぼうとしたが、それもつながらなかった。


 砂時計はおそらく5分計ぐらいだと思うけど、それが落ちきる寸前に、ようやくモモカが出てきた。


「モモカ、どうしたの?大丈夫?」

「サヤカ、いま何分経った?」

「え?・・・4分半ぐらいかな、ほら」

 サヤカが指さす前から、モモカは砂時計を凝視していた。


「やっぱり・・・」

 それから、何かを納得したように大きく頷いた。


「私とリナは、入ったらすぐに、何もせず戻ってきたの」

「なんですって?まさか」

 ルシエンが驚きの声をあげる。

「うそじゃないよ、ほんとにすぐ出てきたわ」

 革袋から人形サイズのリナが顔を覗かせて証言した。


「どういうことでしょう?」

 エヴァの問いに、モモカは即答した。

「あの部屋は、時の流れが止まっている。あるいは体感時間が極端に遅くなってる・・・おそらく、レブナントが“暇つぶし”をするために作った部屋なんだと思う」

「「「暇つぶし!?」」」

 俺もサヤカも今度はびっくりした。


「ええ、だとしたら、中で余り時間はかけられないわね。私たちには時間は有限なんだから・・・みんな、これから手分けしてある物を探して欲しいの」


 そして俺たちは再びモモカに連れられて、謎の書斎に入った。



 せかされるように、みんな目当てのものを探し始めた。


 ほとんどの書物は、こっちの世界の古代の言葉で書かれたものらしく、俺の言語力では読解不能だったが、目当てはそれじゃない。



「・・・あった!!これだよね!?」

 やがてサヤカが、それらを見つけた。


 書棚の隅の方に何冊も固まって、わざと古めかしいこっちの書籍の背表紙みたいなのをカバー代わりにかけて、簡単に見つけられないように擬装していた。



「なんなの、これ?私には読めない文字だけど・・・」

 ルシエンが戸惑ったように言う。


 そうだろうな。

 けど、俺もまさか、ピンポイントで大あたりだとまでは思わなかった。


「・・・やっぱり」

 モモカだけは予想していたようだ。



 それは、日本語で書かれた何冊もの日記帳だったのだ。

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