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第379話 北方山脈の浄化部隊

激闘を繰り広げた翌晩、使徒レブナントは現れなかった。アンデッドの群れをいくらかレムルス領内に残し、レブナント率いるアンデッドの主力は魔王軍に合流すべく東へと向かったと判明した。

「勇者殿、聖女殿、そしてツヅキ子爵。あらためて帝国をあげて御礼を申し上げる・・・」

 グラエボの城で、ケンペス伯爵と二人の将軍が頭を下げた。


 使徒レブナントが率いていると見られるアンデッドの大軍勢が、北方山脈を東へと向かっている、というドワーフ自治領からの受けて、俺たちはレムルス軍とここで別れることにした。


 ヘンリク将軍が率いるレムルス北方軍は、首魁を失ったアンデッドを帝国領から一掃すべく、新たな作戦に入る。

 数の上ではまだ数万、ことによると十万匹ぐらいのゾンビやらグールやらがいると見られるから、容易な任務ではない。日数はかなりかかるだろう。


 だが、既に魔王軍の集結が始まったと見られているから、時間の猶予は無い。


 帝都レムリアではグレゴリ・バイア元帥率いる中央軍が、人類連合の主力たるべく既に進発体勢を整えたという。

 北方の援軍として派遣されてきたロッテル将軍の部隊は、掃討作戦が軌道に乗り次第、バイア元帥の中央軍に合流予定だ。


 そして、俺たちパーティーはオーリンたちドワーフ自治領のシクホルト城塞に飛び、そこから北方山脈北部を東進中のレブナントを急襲できないかと考えている。



 レムルス軍は、俺たちに十分な食糧や矢弾を提供してくれたのは当然として、さらに100名ほどだが魔法転移で俺たちと共に急行できる小部隊もつけてくれた。


 率いるのはロッテル女将軍の参謀の一人で、ヤロスワフという30代の無口な男だった。魔導師LV25とかなりのレベルだ。

 100名の部下は、魔法使い1、僧侶系2、前衛型2、3名という5~6人のパーティーを十数班、という、帝都から応援に来た“浄化部隊”の一部だった。


「レムルス軍としては、使徒の情報も私たちの実戦情報ももっと欲しいんでしょうね」

「それに“使徒を倒したのはレムルス軍・・・が参加した作戦だ”って実績も欲しいのかもね」

 モモカとサヤカは、彼らの意図をこう裏読みした。


 まあ、戦力が多い分には困らないし、“ヤバイ使徒は勇者様にお願いします”って丸投げされるより好感は持てるしな。

 初代レムルス帝の遺言もあって、本当に勇者サーカキスと聖女モカに手厚く遇しようって厚意だと受け取っておこう。



 そして俺たちは、先日滞在したばかりのシクホルト城塞へと転移した。


 レムルス軍部隊も同伴することは遠話で伝えてあったし、もともと数千人の兵力が拠点に出来るよう作られている要塞だから、百人やそこら増えても、受け入れに問題はなかった。


 むしろレムルス兵の方が、初めて見る城塞や、そもそも初めてドワーフ族を見る者も多く、戸惑いながら、あれこれ案内してくれたドワーフたちを質問攻めにしていた。



「アンデッドの大軍は今朝未明の段階では、おそらくここからこのあたりにいたようじゃな・・・」


 俺たちとヤロスワフらレムルスの隊長格の数名は、オーリンたちが広げた地図で最新情報を聞いた。


 広大な北方山脈で、アンデッドの大軍に気付かれないように偵察するのは簡単なことではないけど、ドワーフたちにとってこの岩山は自分たちの庭だ。

“岩同化”スキルで隠れられる者も多いし、そこここにドワーフ族しか知らないトンネルもある。

 さらに暗闇でも見える視力があるから、かなり詳しい状況を調べてくれていた。



 明け方までに、大軍の先頭は北方山脈北部を西から東へ3分の1ぐらいまで横切っていたらしい。

 動きが緩慢なアンデッドの大軍が山道を徒歩で、と考えるとかなりのペースだ。


 もちろん、転移魔法が使える使徒レブナントや空を飛べるドラゴンゾンビらだけなら、こんな時間もかからないわけだが、モモカが予想しているように軍勢を魔王の元に集結させるための行動であるなら、なるべく多くのアンデッドを引き連れていこうとしているのもわかる。


「魔王、なぜ魔物集める?いったん集めて、また攻めてくる?」

 ふと、カーミラが疑問を口にした。


 言われてみればそうだよな。


 人類や亜人の世界を支配したいなら、わざわざ一度、北の果ての魔王の元に魔物を集結させなくても、そのまま各地の使徒に手勢を暴れさせておいた方が、人類側に時間を与えずに済むし、手っ取り早いんじゃないの?って気もする。


 サヤカとモモカが、ああそうか、って顔をしたのは、どうやら俺たちにまだ話していないことがあったから、らしい。


「この時代の人たちには、まだ知られていなかったのね・・・」

 サヤカは地図を囲むオーリンや、ヤロスワフらレムルス軍の隊長たちを見回して続けた。


「魔物に個体名をつけると、“ネームドモンスター”になって能力が底上げされる現象は知ってるでしょ?魔王の影響下に集まった魔物たちは、すべてがネームドモンスターになったかのように、一斉に進化するの。一種のバフと言ってもいいけど、効果は永続的だからやっぱり進化って言う方がしっくりくる。200年前は全てのオークがオークリーダーになるぐらい、大体3レベルから5レベルぐらい一斉に強くなったわ」


 みんな絶句した。

 魔王が目覚めた前後でもモンスターのレベルアップがあったけれど、さらにそれ以上の進化が起きるという。

 今でも各国の軍が手こずるような強力な魔物が増えているのに、だ。


「なんとしても、その前に叩く必要がありますな・・・」

 ヤロスワフが硬い口調でみんなの思いを言葉にした。




 北方に展開しているドワーフの偵察隊には、先日俺たちが訪れた際に、“携帯遠話”の魔道具と、モモカが聖属性を付与した武器を持たせてある。


 各偵察隊の数はせいぜい数名ずつだけど、昼夜交替しながら各地を巡回していた。


 その連絡を受けて座標を共有し、俺たちはレムルス軍の浄化部隊と共に北へ飛んだ。

 昼のうちに、なるべく多くの「屍体」を見つけて浄化するためだ。



“アンデッドは昼間どこでどうしているのか?”


 RPGとかでは具体的に描かれてないことがほとんどだけど、この世界では、朝日が昇る前に洞窟や木陰・岩陰などの日の当たらないところに隠れ、日中はそこで“腐り方の遅い屍体”になっているらしい。


 アンデッドにされたばかりの屍体は、ちょっとした日差しが差し込んだだけでも本当に腐敗して消滅してしまうらしいけど、(長生き?ってのもヘンだが)アンデッドになってから長い期間を経たものは、だんだん強力になって日光にも耐性がつき、日陰程度の所でも存在し続けるようになる。


 そして、レブナントのように百年、千年と齢を重ねたハイアンデッドと呼ばれる連中は、日中でもその気になれば屍体に戻らず行動も可能らしい。

 もちろん能力的には夜の方がずっと強力だが。



 ともかく、そんなわけで、昼間はレムルスの浄化部隊や、聖属性の武器を持たせたドワーフたちと手分けして、偵察隊が見つけてくれた岩陰や木陰で、片っ端から屍体を浄化して回った。


 あるわあるわ・・・不自然な屍体が山中にゴロゴロしている。


 なにしろ少なくとも10万匹以上のアンデッドが、レブナントの配下にはいるはずなのだ。 

 人間の屍体だけではなかった。ウサギや鹿、熊や狼の屍体もあった。


 樹上や岩棚には、鳥の屍体も多いという。

 これまで気付いてなかったが、アンデッドの鳥もいるらしい。



 浄化魔法ばかり使い続けるとMPが枯渇してくるので、そうなるとしばらく、聖属性武器で突き刺して消滅させて回る。これは結構グロいが、なるべく意識しないようにする。とにかく成仏してもらいたい・・・


 隊列を組むように一か所の岩陰にまとまっていたヤツらは、一気に浄化できたから効率的だけど、もちろんそうそう都合良くはいかない。

 大半は、低密度に散らばっている。


 だから、一日かけて浄化できた屍体は、レムルス軍やドワーフたちの手によるものを合わせても、全部で1万か2万だろう。


 その大軍と戦うことを考えたら大きな成果ではあるけれど、全体の中ではほんの一部に過ぎない。


 重点的に潰したのは、東へ向かう先頭集団だ。


 そして、大物が見つかればそれを優先的に、と思っていたけど、レブナントはもちろん、ドラゴンゾンビとか人外の強力そうなヤツは見つからなかった。


 きっとどこか簡単にひと目につかない場所に、昼間は潜んでいるんだろう。



 それでも、いくつかの仕掛けはした。


 そろそろ夕方という頃合いになって、俺たちはHPとMPを回復させるため、山中のドワーフたちが利用してる洞窟で仮眠することにした。


 今夜が勝負だ、という予感はみんなが抱いていた。

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