表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
407/503

第378話 転進

 使徒レブナントが姿を消しても、アンデッドの大群は都合良く消滅したりはしなかった。


 ただ、突然糸が切れた凧のように、それまでの統制の取れた人間の版図に侵攻しようという動きは消えて、“単なる低レベルの魔物”が意志を持たず徘徊するだけ、になった。


 だから、数こそ多かったものの、僧侶系呪文と聖属性を付与した武器を持つレムルス軍の組織的な掃討によって、夜明けまでには全戦線でアンデッドの撃退に成功した。


 昨日の日中、前線を押し上げるように防柵が立てられて、それを守り抜いたことになるから、わずか十数キロではあったけれど、今回のアンデッド戦が始まって以来初めて、レムルス軍が反攻に転じて前線を押し戻すことに成功した、とも言える。


「勇者殿、聖女殿、そしてお仲間の皆様、本当に感謝致します・・・」

「レムリアからも皇帝陛下自らの御名で、皆様に心よりの感謝と慰労の言葉がございました」


 ヘンリク、ロッテルの両将軍、そして軍監のケンペス伯爵から謝意を伝えられたものの、サヤカとモモカの表情は晴れやかとは言いがたかった。


「アンデッドを撃退できたのは、レムルス将兵の皆さんの勇戦あればこそ、です。・・・それに、肝心の使徒は取り逃がしましたし」

 モモカの言葉にヘンリク将軍が首を横に振った。


「なんのなんの、これまであの首魁が現れた戦線は、情けないことにござるが、ひとたまりも無く崩壊しておったのです。それを真っ向から打ち払えるとなれば、兵らも勇気百倍ですぞ」

 自ら最前線でも戦ったヘンリクは、徹夜の疲労の色も見せず、満足げな様子だった。



 昨夜の戦いがなんとかなったのは、途中でレブナントの狙いが、兵力を長い前線に分散させておいて本拠地を突くことにあるんじゃないか、と気づいたからだ。


 俺たちは、その後はなるべくサヤカとモモカのMPを温存し、かつレブナントに二人の手の内を見せないことを心がけた。


 そして、東部の戦場でヤツが姿を消した直後、こっちもグラエボに即転移して戻り、ロッテル将軍と段取りを打ち合わせて待ち構えていたのだ。


 それでも城外の避難民などでゾンビに食われてしまった人たちが出てしまったけれど、かつてない大攻勢をなんとか撃退することは出来た。



 日中は再びレムルス軍が手分けして、防衛ラインを押し上げつつ、遺体の焼却や浄化を進めていく。


 俺たちは城で休息を取る。昼夜逆転生活だな。



 だが、休む前にパーティー内で得られた情報を共有しておく。


 俺とリナ、ルシエンは、城門を奪還しアンデッドの退路を断つ役目についていたから、レブナントと直接戦ってはいない。


 一方で城内で待ち構えていたモモカたちは、押し寄せるアンデッドの全体の規模とかは見えていなかった。


「レブナントは、やっぱり魔法無効化の能力を持ってるのはたしかね。それも、普通の“対魔法”の呪文とかよりずっと強力で、しかも無詠唱で行使できてた」

 直接戦ったサヤカの言葉に、みんな真剣に耳を傾けた。


 “飛翔”を破棄されたり、かかっていたバフも一瞬で消失させられたらしい。

 レブナントは強力なステータス秘匿の能力も持つらしく、具体的な保有スキルなどもほとんど読み取れなかったと言う。


「それと、結界を破る能力もあるみたいよ。直接見てはいないけど、最初にモモカの聖女結界に穴をあけて城門前に侵入したり、瘴気を吹き込ませたのは、レブナントの力だと思うわ」

 ルシエンも付け加えた。


「使徒の中でも謎が多いというか、何を考えてるのかわからない存在だったから・・・」


 モモカとサヤカによると、レブナントは使徒と呼ばれてはいるが、魔王に完全にコントロールされているとも言いがたく、ある意味で“気まぐれ”に見える行動を取る存在だったという。


 ハイエルフたちの伝承では、数百年、あるいは数千年前からレブナントと見られるアンデッドの王の話があり、おそらく現在の魔王より古くから存在していた。


 強力な聖属性の攻撃しか効かないことから、魔族・魔物同士の戦いではある意味無敵に近いとも考えられるが、一応は魔王に従っている。

 だが、魔王以外の魔族の言うことなどはまったく聞かず、自らの眷属たるアンデッドを操り、アンデッドの王国のような独自の勢力を築くことにもっぱら関心があるようだ。

 時に配下を増やすために大規模な“人間狩り”を始めることがあり、それはその時代の人間族にとって恐るべき災厄となってきた。



 どうすれば倒せるか?すぐには見通しが立たなかったが、ともかく徹夜で消耗しきった俺たちは夕方まで寝直した。


 ***


 目が覚めると、サヤカとモモカ以外、またレベルが上がっていた。


 俺は<賢者 LV17>になって、“対魔法”を覚えた。

 このあたりは魔導師ジョブと似ている。


 カーミラが<ワーロード LV14>に3レベルアップ。

 エヴァは<竜騎士 LV27>、ルシエンは<ハイエルフ LV28>と1レベルずつ上昇。

 

 リナは昨夜使ったジョブが<忍び LV18>、そして<修道士 LV20>になって、“領域浄化”を覚えた。対アンデッドで多用する“浄化”の範囲魔法版だから、これは助かる。

 きのうは城門で、俺とルシエンが“領域浄化”、リナは普通の“浄化”を連発してアンデッド狩りをしたからな。


 とは言え、一晩で何千匹というアンデッドを消滅させた割にはレベルの上がり方は少ないのは、やっぱりアンデッドは獲得経験値が少ないという法則のせいだろう。



 レムリアの宮廷から、俺たちを賓客扱いせよという指令が出ているから、食事や身の回りの世話は戦時下と言えども至れり尽くせりだ。

 

 元々のグラエボ領主の侍女たちが用意してくれた料理で腹ごしらえをしてから、武器や装備の点検、司令部で情報収集、と夜戦に備える。



 そして、日没と共に各地の戦線から、再びアンデッドが出没したとの魔法通信が司令部に入り始めた。


 俺たちもいつでも出動できるよう、待機していた・・・




 だが、その晩は予想していなかった展開になった。

 大規模な攻勢が、全く無かったのだ。


 それどころか、各地から入る連絡では、アンデッドの大群は組織的な動きをしておらず、数もこれまでより少ないと言う。


「どういうことだ?」

「昨夜の我らの反撃で、怖じ気づいたのではないか。良い傾向ではないか」

 司令部ではレムルス軍幹部らが、拍子抜けした様子で、それでも戦況を楽観する声が強かった。


「モモカ、どう思う?」

 司令部の一角、小さなテーブルに集まったパーティーだけに聞こえる声で、サヤカがそう尋ねた。


「うーん、そもそもレブナントはなぜ北方山脈を出て、レムルス帝国に侵攻したんだろうね?」

「え?それは・・・魔物だから、じゃないんですか」

 モモカの問いが予想外だったのか、エヴァが戸惑ったように答えた。


「レブナントがその気になれば、今で無くてもそれは出来たはず。つまり、魔王が復活してから、目的があって侵攻してきたはず」

「・・・手下を増やしたかったから、か?」

 俺が思いつきを口にした。


「・・・おそらくそうだと思う。だとしたら、なぜ今夜は現れないのか」

「えーっと、昨日みたいな戦いになると、新たなアンデッドを獲得出来るより消耗する方が多い、つまり収支が合わないってこと?」

 今度はサヤカが答えた。


「そういうことになるね。レブナントは良くも悪くも知恵が回る、だから無駄なことをするつもりはないんでしょう。それに、もうレムルス北部で何万、ひょっとしたら何十万っていう人をアンデッドに変えてしまって、これは魔軍の中でも一大勢力って言える規模になったはずだしね」


 ルシエンが眉をひそめた。

「待ってちょうだい。だとすると、あの使徒がこの後とる行動は・・・」


 モモカが頷いた。

「魔王が使徒たちに、既に“招集”をかけているはずだから・・・しろくん、オーリンさんに連絡はとれる?」

「ああ、リナ、頼む」



 そして、予想は的中した。


 ドワーフ自治領は北方山脈の南部にあるから、直接侵略を受けるルートからは幸い外れていた。

 だが、オーリンが各地に放っていたドワーフの斥候部隊によれば、北方山脈北部にその晩アンデッドが無数に現れ、西から東へと夜通し移動していったと言う。



 使徒レブナント率いるアンデッド軍は、既に十分な数を集め、魔王軍への合流を開始したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ