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第373話 ドワーフ王オデロンの遺産

「ようこそおいでなされた、勇者サーカキス殿、聖女モカ殿。亡きじいさまに代わって、このオーリン、心より歓迎しますぞ・・・」


 ドワーフと共に俺たちがプラトの盗賊団から奪還したシクホルト城塞は、もともと若き日のドワーフ王オデロンが、魔王軍を食い止めるために築いたものだったらしい。

 サヤカとモモカも、かつて逗留したことがあったそうだ。


 けれど、その当時は言わば新築の要塞だったから、連年の激戦や最近の天変地異を経て、歴史を感じさせるたたずまいになったシクホルトはまた印象が違うらしい。

 まわりの様子も地形さえも200年前と変わっていて、それで最初サヤカはここがシクホルトか確信が持てなかったそうだ。


 オーリンが子供の頃、晩年のオデロン王に勇者と聖女のことを尋ねたところ、オデロンは「とても勇ましく美しかった」と言葉少なく語ったものの、具体的なことは教えてくれなかったらしい。


 おそらくは、エルフの禁域に眠る二人の情報が漏れるのを恐れていたのだろう、と今なら察しがつくけど、オーリンはそれを聞いても二人が女だとは想像していなかったそうだ。


 ただ、サヤカのミスリル鎧をひと目見て、“間違いなくこれは祖父が作ったものだ”と見抜き、壊れた鎧を両腕に抱いてオイオイ泣き出した。


 そして、必ずや新品に負けないように修復する、と受け合ってくれた。


「わしはドワーフの長としてじいさまの足下にも及ばぬが、鍛冶の腕だけはそうそうひけはとらんと自負しとる。お任せいただきたい・・・」


 実際、マイン集落のビョルケンたちに聞いた話でも、オーリンさんはドワーフの歴史でも指折りと言われる優秀な鍛冶師らしく、俺たちが持ち込んだ鎧を見て、「これはぜひシクホルトに持っていってオーリン殿に直してもらうのがよいでしょう」と言われたのだ。


 そして、マイン集落では、俺たちが勇者探索に行っている間に採掘したミスリル鉱石を製錬済みで、それも今回預かって運んで来た。


 そのミスリルをオーリンさんたちに託して、次に来るまでに俺たち用の武具を作っておいてもらうことになった。


「勇者殿と共に前衛に立つことになるのは、エヴァ嬢ちゃんか?じゃあ、おまえさんもミスリルの全身鎧にするかね?」

「そうですね、ただ、私、ワイバーンに乗って飛ぶことが多くなりそうなので、あまり重くない方がいいかもしれませんが」

「なに、ミスリル鎧は鋼よりむしろ軽くできるからな、心配いらんぞ・・・で、シロー、おぬしはどうする?」


 ドワーフたちに採寸されながら、それぞれの戦い方のスタイルとか希望を聞かれた。


 俺とルシエンはどっちかというと後衛だから、モモカと同様、胸当てなど部分鎧を組み合わせることにした。




 それはそれとして・・・やっぱりオーリンにはゲンコツをくらうハメになった。


「わしがまだケッコンシキに呼ばれておらんのにノルテを妊娠させただと・・・まったくコイツめ、コイツめ!」

 うー、そんなこと言われたって・・・


「おやじ、それぐらいにしとけよ。事実上もう夫婦なんだし、めでたいことじゃないか」

「そうだよ、アルテ母さんも生きてたらきっと喜んでくれたと思うよ」


 オレンとアドリン、ノルテの異母兄たちが取りなしてくれて、やっとオーリンもおさまった。

 

 アルテさんというのはオーリンが後妻として迎えた人間の女性で、ノルテを産んだ人だ。

 まだ子供の頃に実母を亡くしたオレンとアドリンにとっても、共に過ごしたのは数年だったとは言え、実の母親同然に自分たちをかわいがってくれた女性として、今もはっきり記憶に残っているらしい。


 そして、次男のアドリンはまだ独身だが、長男のオレンにはメッセンという奥さんがいて、彼女も妊娠中らしい。夏には出産予定だそうだ。



「むうぅ、たしかにアルテの墓に報告せねばならんな・・・シロー、ついてこい」

 やっと機嫌がなおったオーリンたちと一緒に、アルテさんの墓参りに行った。




 そして、俺たち一行とオーリン、オレン、アドリンの身内だけになった所で、オーリンはもう一つ大事な話を切り出した。


「実はな、おぬしから預かった“静寂の館”の碑文じゃが、どうやらとてつもなく重要なことが書かれているらしい・・・」


 どうやら、ドワーフたちの間でさえおいそれとは話せないことだったようだ。


「古語で、直接はなんの意味も無い支離滅裂な言葉の並びじゃった。じゃがな、一種の暗号になっておって、ドワーフの間の神話やら言い伝えを詳しく知っておれば、それにあてはめてなんとか意味のある文にすることはできたんじゃ」


 モモカとサヤカの目がキラリと光った。

「さすがです、オーリンさん」

「・・・それで、内容は?」


「かなり抽象的な言い回しじゃから、正確な訳では無いかもしれんが・・・“魔王は魔神の器なり、魔王の真体は肉にあらず、肉の封印は解けるとも真体をなお封ぜん”こんな意味になった。だが、正直わしには意味がわからん。勇者殿、聖女殿、あなたたちならわかるじゃろうか?」


 オデロンが真剣な目で、自分よりかなり背が高い二人を見上げた。


「魔王は魔神の器なり、魔王の真体は肉にあらず、肉の封印は解けるとも真体をなお封ぜん・・・か」

「ある意味、魔王も竜王と同じということかもしれないわね」


 モモカがなんのことを言っているのか、俺にはわかった。

 白嶺山脈の竜族を束ねる竜王は、代々始祖たる竜神の魂を受け継ぐ器のような存在で、それによって他に無い竜王だけの力を得るのだ、という話だった。


 魔王もまた、魔神の魂の入れ物みたいなもので、それによって他の魔物・魔族と一線を画した存在になる、って意味だろう。


 だが、だとすれば“肉の封印は解けるとも真体をなお封ぜん”ってのは・・・


「オデロンさんは、いずれ私の封印も解けることを予見していた。私自身も永遠に保持できるとは思っていなかったけれど・・・それで、オデロンさんは、魔王の肉体は封印から逃れ出ても、なんとかその真体とも言うべき魔神の霊魂だけでも封じる必要がある、って言い残したのか?それとも、封じ続けるための仕掛けを残してくれたってことなのか・・・」


 モモカの言葉に、サヤカも同意した。


「そうね、これはやっぱり、魔王との決戦までの間に一度封印の地に行く必要があるわね。問題は今やそこは魔軍のテリトリーになってるってことだけど。いずれ、隙を見て潜入するしかないか・・・」




 シクホルト城塞の内側、北方山脈の盆地内には、この秋冬の間に新たな集落が作られ、広い耕作地も拓かれていた。


 夜はそこから得られた産物をふんだんに使い、ドワーフたちの素朴だけど味わい深い料理で歓待を受けた。

 顔なじみのドワーフたちが元気そうでよかった。


 とは言え北方のこのあたりでは、魔軍の先遣隊とも思われる統制の取れた魔物の群れが、今日のように頻繁に現れるようになっていて、ずっと戦時下と言える状況らしい。


 明日はアドリンが率いる部隊が哨戒に回るらしいので、俺たちも同行して魔物の駆除や結界の強化に力を貸そうってことになった。


「北の方でとんでもない化け物が出たらしく、しばらく前、山中の人間の開拓村から、こっちに逃げ込んでくる者がずいぶんいたんだ。それがあんたらの言う、魔王の使徒だったのかもな。その後、魔軍はいったん西の方、レムルスの方へ行ったようだが最近またこっちに魔物が増えてきた気もする。どういうことなのかわからんが・・・」


 最初、獣や魔獣がなにかに追い立てられるように山脈内を南下してきて、その後は北から来るのはアンデッドが多いそうだ。

 シクホルトに東側から来る魔物はオークなどが多いのに対して、はっきり違いがあるらしい。


「これはやっぱり、出元が違うっていうのか、率いてる眷属が違うのかもね・・・」

 サヤカとモモカには、ある程度目星がついているらしい。


 ドワーフたちは幸い、アンデッドに有効なミスリル製の武器を数は限られているものの持っているから、なんとかそれで北からの侵攻を防いでいるらしい。


「人類連合の話も聞いてる。いま、若いドワーフや人間の避難民の中からも義勇兵を募ってるし、訓練や武器の製造も進めてるよ。俺たちももちろん参戦するつもりだからな・・・」

 オレンは魔王軍との決戦にはドワーフも参戦する、と受け合った。




 その後はキヌーク村と遠話を結んで、ノルテとオーリン、オレン、アドリンが直接話せるように仲立ちした。


 兄たちは最初から、父親も結局は娘に激甘で、ノルテのオメデタを心から祝福していた。

 ノルテも今日は体調がいいみたいで、自分も一緒にシクホルトを訪ねたかった、としきりに口にしていた。

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