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第372話 毎日連絡するから

身重のノルテをキヌーク村に領主代行として残し、俺たちは再び魔軍との戦いへと旅立つことになった。

「絶対連絡して下さいよ、なるべく毎日ですよ?」

「うんうん、ノルテ、体を大事にしてな。とにかく無理しちゃダメだよ・・・」

「ごはんもちゃんと食べて下さいよ?わたしがいないと料理は面倒くさいとか言って、適当になっちゃいそうだから・・・」

「うん、ちゃんと食べるから」

「ほんとのほんとに連絡して下さいよ、シローさん・・・」


 家臣団に見送られて結界の外まで出て、そこでノルテに泣かれながら何度も何度も抱きしめた。


 カーミラやルシエンとは笑顔で別れの言葉を交わしてたのにな・・・


 それから俺たちは魔法で転移した。


 北へ。

 最初の目的地である、シクホルト城塞へ。


 まわりの景色がゆがんで、光に包まれて・・・転移したのは城塞の外、門の前100メートルぐらいのところにリナの転移登録をしていたはずだった。



 そこは、戦場だった。


 ***


 いきなり魔物の群れのただ中に出ちゃったものだから、俺はとっさにみんなを囲む粘土壁を出現させていた。



 冷静に考えれば、結界で身を隠しながら策を考えた方が、魔物に気付かれずによかったかもしれない。

 かえって、“なにごとか!?”と魔物たちの注意を引いちゃったことになる。


「いえ、味方に知らせるためには、これで正解かもしれません、ほらっ」

 エヴァが前方を指す。


 城塞の壁面にいくつも設けられた矢狭間や迎撃用の拠点に、ドワ-フの戦士たちの姿がある。


 俺の視力だと直接詳しい表情まではわからないけど、何人かがこっちを指して何か反応しているようだ。


「おいっ、あれはひょっとしてシロー殿たちじゃないか!?」

「そうだな、あのヘンテコな粘土の壁みたいなのは、シロー殿の魔法みたいだぞ」

「だとしたら、味方だ!援軍だっ!!」


 パーティー編成のおかげで、ルシエンやカーミラの聴力でとらえた声が脳裏に聞こえたような気がする・・・あんまり褒められてる気がしないけど。

 でも、これで士気が上がるなら、たしかに正解だ。



「シローっ、あれがドワーフたちの城塞?つまり守ってるのは味方ねっ?」

 サヤカの声に、現実に引き戻された。


 そうだ、シクホルトは今、激戦の最中にある。


 俺たちの回りにはオークの大群。


 そして、前方のそびえ立つ石造りの壁面に、デカい魔物が体当たりしている。

 地竜、アースドラゴンかっ!?


 そいつを戦車みたいに前面に押し立てて、その後ろからオークの群れが押し寄せてるんだ。


 さすがにシクホルト城塞はドラゴンにぶつかられても壊れたりはしないが、ズシンズシンと体当たりされる度に、壁面が揺れて、矢狭間からオークを狙い撃とうとしていた弓や弩も、照準が定まらないらしい。


 その間に、長いハシゴをかついだオーク兵や、さらに首長竜みたいな見たことの無い魔物の背にも大勢の軽装のオークが乗って、そいつらが壁面に取り付いていた。

 

 低い位置にある矢狭間や拠点には既にオークが上りかけていて、それをドワーフたちが斧やハンマーで迎え撃っていた。


 ギリギリの状況だ。


 俺たちの回りにいるのは、後続のオークの部隊だった。

 隊列を見ると、指揮を執ってるヤツはおそらくもっと後ろにいそうだ。


 統制が取れた動きで、軍隊みたいだ。ただの魔物の群れじゃない。


「サヤカ、ドラゴンを頼むっ。エヴァは上空から支援を。カーミラ、ルシエン、ドラゴン以外の一番強そうな奴がどこにいるかわかるか?あっちの方だと思うんだが?」


「おーけー、行くわ!モモカ、バフ頼むっ」

 サヤカが、“飛翔”で飛び立った。


 ドラゴンとは言え、遠目に判別スキルで見たところ、レベルは20台だし飛べないタイプのやつだから、サヤカが行けば抑えられるだろう。


「・・・亜竜召喚っ・・・できた!」

 エヴァが召喚魔法を詠唱すると、粘土壁の内側にぼんやり虹色の影が浮かび、一瞬後、ワイバーンが出現していた。


<ワイバーン LV13>


 じっとエヴァの方を見つめておとなしくしている。

 前に俺がイリアーヌさんに乗せてもらったのよりは小ぶりに見えるが、一人で乗るなら十分なサイズだろう。


 エヴァが竜語でなにか命じると、おとなしく頭を下げて背中にエヴァを乗せようとする。


 俺は粘土スキルで、ワイバーンの首にきつすぎないリングみたいなのをはめて、握りを取り付けた。

 そのうちちゃんとした鞍とか手綱とかを用意した方がよさそうだ。

「ありがとう、行くわっ」

 

 初めて竜に乗るとは思えない板についた態度で、エヴァがワイバーンにまたがり、サヤカを追うように飛び立つ。



「シロー、あっち、固まってるけど・・・匂いが違うよっ」

「シロー、オークだけじゃない。指揮を執ってるのは、おそらく魔人だわ」

 カーミラとルシエンが、続けて叫んだ。


「そうね、ここはサヤカがいればしばらくは持ちこたえられる。私たちは頭を潰しましょう」

「リナ、飛べるか?」

 モモカの言葉に、俺は素早く編成を変えた。


 粘土壁を吸収してMPを回復しながら、俺とリナ、カーミラ、ルシエン、モモカの5人で、カーミラたちが察知した方へ1kmぐらい、有視界転移で飛ぶ。


 モモカの“重力制御”で、みんなきれいに軟着陸した。


 案の定、2、300メートル先に、隊列を組んだレベルの高いオークの一団がいた。

 シクホルトの城下町だったあたりの端の方だ。廃墟になった家々の残骸を利用して、本陣のようなものを作っている。


 外側を囲んでいる兵士みたいなのがLV8前後のオークリーダー、さらに内側にはもっと大柄なヤツらがいるが、陰になっててすぐには判別できなかった。


 そいつらが俺たち出現に気付き、騒ぎ出した。


 20体ぐらいのオークリーダーが向かって来るので、俺はまた粘土壁で回りを囲んだ。

 詠唱の時間稼ぎが出来ればいい。


 カーミラは隠身をかけて姿を消した。


 俺は修理したばかりのタロ、そしてコモリンも出現させて上空に放った。

 コモリンの視界が広がるにつれて、本陣の中にいるヤツらの情報が得られる。


 あれか!?


 大柄なオークロードクラスを何体か引き連れて、さらに大きな、ゴツイ鎧を着込んだ悪魔みたいな姿がある。


<魔人 LV25>


 ステータスを見ると、魔物を使役するスキルとかを持っているようだ。

 やはり、この集団を操ってるのはこいつだろう。ヴァシュティとの関係はわからないが。


 魔人の指図で、本陣に詰めていた魔物の一部も、オークリーダーたちに続いてこっちに向かう。

 本陣からは魔法の火球も幾筋か飛んできた。オーク・メイジもいるらしい。


 先発したオークリーダーの一団が粘土壁に取り付いてくるのを、タロが大剣を振り回してなぎ倒し、こぼれてくるヤツらをルシエンの矢との錬金術で攻撃する。


 モモカの詠唱が完了した。


 上空から“流星雨”が降り注ぎ、轟音と共に本陣を光球で包んだ。



 こっちに向かって来たヤツらが、その衝撃に動きを止めた。



 土煙が晴れると、ただ一体、ボロボロになりながら生き残った魔人が、憤怒の形相でこっちに突進して来る。

 そこを死角から飛びかかったカーミラがとどめを刺した。



 さらにリナが、粘土壁の内側からもう1発の流星雨を水平発射し、向かってきていたヤツらをまとめて吹っ飛ばすと、残るオークは統制を失って逃げていった。



「あっちも終わったようね」

 ルシエンが何かに耳をすませて口を開いた。



 たしかに、離れた場所から、鬨の声みたいなものがかすかに聞こえてきた。


 サヤカたちがドラゴンを片付け、オーク軍が敗走に移ったらしい。


 こうして、シクホルト城塞に200年ぶりに勇者と聖女が入城した。

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