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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第五部 魔王大戦篇

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第366話 使徒ヴァシュティ戦③

 竜が住まう禁域として、人間ばかりか魔族さえ侵入できないと噂される白嶺山脈。


 そろそろ日が西の地平にかかり、東の空に満月が上り始めた頃、その真白い山々の麓に、突然数騎の大きな鳥のようなものにまたがった旅人たちが現れた。


 各地で魔物が跋扈する昨今、このようなところをわずか数人で旅する者がいるなどと、誰が思うだろうか?


 だが、まるでそれを待ち構えていたかのような者がいた。


 黒いローブに身を包んだ、遠目には女のように見える曲線を描く体。

 だが、人間の女にしては大きすぎる、オーガかトロルほどもありそうな巨体だった。


 そのローブに包まれた片腕が持ち上げられると、かぎ爪の生えた手先がのぞき、振り下ろされた。


 その途端、周囲の森から、そして地に開いた穴から、次々魔物が湧き出し、一斉に旅人たちに襲いかかった。


 魔狼、魔熊、そして蛇やトカゲ、巨大な蜘蛛のような魔物もいた。

 その数は数百か、それ以上か。


 旅人たちから魔法の炎が放たれ、先頭の魔狼を焼く。

 続く魔物たちも、矢や魔法で次々倒される。


 大群が殺到する直前、旅人たちを包む、土塁のような壁が突然出現し、魔物を阻んだ。


よく鍛えられた、熟練の軍人かそれとも冒険者パーティーか。


 圧倒的な数の魔物に囲まれてもひるむことなく、前衛は槍や剣で土塁に取り付く魔物を素早く排除し、その間に後ろに控えた者たちが強力な範囲攻撃魔法を放って、淡々と数を減らしていく。


 だが、魔物の群れを操る異形の魔女には、それも想定のうちだった。


 旅人たちが魔物の波を受け止めている間に、長い詠唱が終わり、突如上空には、赤黒い不気味な雲がわき上がると共に、そこから灼熱の隕石群が繰り注いだ。


 轟音と共に、大地はもうもうと爆煙に包まれた。


 それでも、魔女に油断はない。

 この程度で仕留めたとは思っていない。練り上げた魔力は、いつでも第二第三の強力な魔法を放てるようになっていた。


 そして、土煙の中から、予想していた姿が現れた。


 鳥形の騎獣にまたがった、輝くミスリルの全身鎧とフルフェイスの兜。


 200年前の世界で、各国の王侯貴族や武勇で名をはせた者なら、知らぬ者はいなかっただろう。

 勇者サーカキス。


 男であればどのような猛者であれ容易に傀儡化出来る魔女にとっては、宿敵とも呼べる“女の勇者”だ。


再び放った灼熱の岩塊は、勇者の守りを貫き、乗っていた騎獣を破壊した。


 だが、勇者の姿はその時既に宙にあった。

 “飛翔”の魔法であろう。


 斬りかかってきた剣を魔力で強化された杖で弾き飛ばし、すれ違いざま、魔法弾を放つ。

 猛火を帯びた岩石が鎧の一部をえぐり取るように脇腹までも貫き、血が噴き出す前に傷を焼き尽くす。


 即死ではないとしても、ひ弱な人間の体では致命傷であろう。とどめを・・・!


 しかし、地に転がった勇者の体は、信じられぬことに見る見るうちに回復していく。

 えぐられた鎧はそのままに、生白い肌が再生する。


「!」


 あり得ぬ様子に一瞬隙があったのだろう。

 気付いた時には、背後を取られていた。


 振り向いた先には、信じられないことに、もうひとりの勇者が剣を振り下ろしていた。





 隠身をかけたサヤカが、ヴァシュティの背後から一撃を加えた瞬間。


 俺たちは短距離転移で、すぐそばに飛んだ。


「・・・領域静謐!」

 既に詠唱済みの魔法封じの呪文が発動した。


 今度こそ、逃がさない。


 タロたち3体の粘土ゴーレムを出現させ、三方から突撃。


 だが、使徒バシュティは、ねじくれた杖を振るって巨漢のゴーレムたちを文字どおり粉砕した。

 鈍い音がしてバシュティの杖もへし折れる。


 その一瞬に、今度は四方から剣と槍が襲いかかった。


 勇者サヤカと魔法戦士リナ、竜騎士エヴァ、そして、壊れかけたミスリルの鎧兜に身を包んだカーミラ。


 武器を失ったヴァシュティは、それでもかぎ爪を振るって応戦しようとしたが、ルシエンの矢と俺の錬金術の炎で牽制され、反応が遅れた。


 魔女の巨体を、剣と槍が貫いた。


《マサカ、アリエヌ・・・》


 不死に近い体の再生力が働かず、開けられた穴から魔力が抜けて行く。

 モモカがみんなの武器にかけた、“滅魔”の効果が働いているのだろう。


 やがて、巨体がゆっくり地に倒れ、スキル地図の赤い巨大な光点が、消えた。


「・・・やった、わね」


 サヤカが冷静さを取り戻して、低い声をもらした。


 モモカが残された魔物の群れに“流星雨”を叩き込むと、操り手を失った烏合の衆は、バラバラに逃げ散っていった。




「カーミラちゃん、大丈夫?」

 隠れていた場所から出てきたノルテが、壊れた鎧の穴から、もうかなり再生した肌に“生素”をかけて治癒を後押しする。


「うん、痛かったけど、もう大丈夫。カブト、カーミラ好きじゃないよ」

 そう言いながら、フルフェイスのヘルメットを脱ぐ。


「カーミラ、よくやったな。それに、意外に似合ってると思ったけどな」


 前回あれだけ苦戦したヴァシュティを倒せたのは、きょうが三の月の下弦一日、つまりほぼ満月だったから、ってのも大きい。


 元々身体能力抜群の人狼の力がさらに強化された今なら、“偽勇者”が務まるってことから思いついた作戦だった。


 結局、ヴァシュティの攻撃を躱しきれず、カーミラが大けがを負って“HP回復(大)”のスキルに助けられたから、きわどいところだった。

 それでも、あれで一瞬の隙を作ることが出来たから、倒すことができた。


“飛翔”に見えたのは、カーミラの跳躍力に加えて、モモカが重力制御でサポートしていたんだ。


 粘土トリウマ1頭、そしてゴーレムもタロ以外の2体は完全に破壊されてしまったけれど、それはまた新たに創ればいい。


 パーティーの誰も犠牲にならず、使徒を倒せたことで良しとしたい。



「あー、このミスリル・アーマー、オデロンさんに作ってもらった秘宝級のものなんだけどなー。オーリンさんだっけ、ノルテのお父さんに修理してもらえるかな・・・ま、カーミラを守る役に立ったんだから、いいんだけどさ」


 サヤカのボヤキに、ようやくみんな、緊張から解放された。

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