第364話 竜騎士エヴァとそれぞれの成長
白嶺山脈の祖霊の谷で、俺たちは丸3日間、ドラゴンの闘霊たちと戦う荒行を重ねた。
夕暮れが近くなり、狩りに行ってたサヤカ、ルシエン、カーミラ、エヴァ、リナが帰ってきた。
「大猟大猟!」って、お決まり?のセリフはもちろんサヤカだが、狩りの成果にはみんな満足そうだ。
「ずいぶん獲れたわね~」
「このあたりの山の獣の習性も、だんだんつかめてきたから」
「ルシエンがハイエルフになって、感覚がさらに鋭敏になってるのも大きいよ」
俺とモモカ、ノルテの3人は、プレハブ宿舎の建設を終えて、ウェリノールでもらってきた野菜の下ごしらえを済ませたところだった。
3日間、俺たちは、粘土スキルで壁や屋根をパーツ化して作り組み立てるプレハブに寝泊まりしていた。
これまでの旅ではテント暮らしが多かったけど、モモカが俺のスキルを知って、「もう少しちゃんとした住まいも作れるんじゃないの?」ってアイデアを出したものだ。
ノルテが手伝ってくれて、デザイン的にも機能的にも、数人の仮住まいには十分なものが出来た。
特にこの白嶺山脈は標高が高いから、寒いし風も強く、テントだとつらいところだった。
「わー、魔猪じゃなく、ちゃんとした猪ですね!ありがとうございます」
ノルテが嬉しそうにしているが、実際ここは、自然が厳しい高山地帯にも関わらず、獲物が豊富だった。
竜族は普通の鳥や獣は食べる以上には殺さない。
それでいて、危険な魔物は見つけしだい駆除しているし、人間も入ってこない。
だから、野生動物の宝庫と言っていい環境で、シカやウサギ、キジやウズラみたいな動物が、低木林から高山植物帯にかけてたくさんいる。
おかげで食生活には不自由していなかった。
焼き肉パーティーの後は、久しぶりにドラム缶(風セラミック)風呂で汗と汚れを流し、プレハブ宿舎の中に寝袋を並べて、あれこれお喋りをした。
なんて言うか、合宿の打ち上げみたいだ。
子供の頃、モモカとサヤカに誘われて入った少年野球チームで、1回だけそんな経験をした記憶があるな・・・もうよく覚えてないけど。
翌朝、祖霊の谷での荒行の成果はそれぞれのレベルアップになって現れていた。
俺は錬金術師LV34、リナは魔法戦士LV33。
ノルテは錬金術師LV30の大台に乗り、一人後れを取っていたカーミラも人狼LV26に、2レベルアップだ。
「俺もそろそろ何か転職とかした方がいいのかな?」
とモモカに尋ねると、ちょっと考えてから首を横に振られた。
「もう一度ジョブチェンジしてるんだよね?だとしたら、もうちょっとだけ待って」
なにか考えていることがあるらしい。
サヤカとモモカも、この間の使徒ヌゴーズ戦では上がらなかったレベルがようやく上がり、勇者LV44と聖女LV44になった。
特にあらたなスキルや魔法を得たわけでは無いけど、2人にとって200年ぶりのレベルアップだ。そして、増えたスキルポイントをどう使うか2人で相談していた。
ルシエンは、ハイエルフになってからは初めての本格的な戦闘経験をこの白嶺山脈で積んだことで、この3日間で一気にLV21まで上がっていた。
<ルシエン ハイエルフ 女 34歳 LV21
呪文 「風」「植物」「水」「地」「結界」
「浄化」「癒やし」「治療」「静謐」
「大いなる癒やし」「心の守り」
「破魔」「封印」「慈雨」「精霊結界」
「領域浄化」「領域治療」「領域静謐」
「生命力促進」「精霊の祝福」
スキル 精霊の目 精霊の耳
精霊の声 観相
器用さ増加(中) 速さ増加(中)
弓命中率上昇(中) 隠身
瞑想 状態異常抵抗
判別(中級) 鑑定(中級)
弓技(LV8) 剣技(LV4)
カリスマ(LV1) 歌(LV8)
操船(LV2) 騎乗(LV4)
薬生成(LV1) 料理(LV1)>
人間のジョブだと聖職者系の上級職に近い感じだけど、名称だけではよくわからない特殊な呪文やスキルもあるな。
いつの間にか、サヤカやモモカが持ってる“カリスマ”ってスキルも付いてるし。
とは言え、この朝一番みんなが驚いたのは、エヴァがジョブチェンジしていたことだった。
<エヴァ・ベルワイク - 女 19歳 竜騎士 LV1>
「竜騎士・・・わたしが?神殿で祈ってもいないのに」
「うはっ、レアジョブキタ――――っ!!」
「さやか、勇者のあんたがそれ言う?・・・でも、驚いたわね。竜王様が昨日言ってたのはこのことだったのね」
モモカとサヤカも、竜騎士というジョブを実際に見るのは初めてらしい。
モモカの“アクセス権”というチートなボーナススキルで検索したところ、竜族と強い絆で結ばれた高レベルの騎士が転職できる、って情報が見つかり、だからルーヒトを命がけで守ったエヴァが竜騎士になったんだ、と納得した。
そして、竜騎士LV1で得たスキルは、“竜語(LV1)”っていう、いかにもなものだった。
これまで竜族とは自動翻訳が働いてるみたいに、半ば念話で意思疎通が出来ていたけど、エヴァは翻訳抜きで竜の言葉そのものが(LV1だから少しだけ)わかるようになったんだろう。
白嶺山脈を去るにあたって、再び竜王を表敬訪問した。
予想通りエヴァは、竜王の言葉がこれまでの自動翻訳とは違う形で理解出来ているという。
もっとも、割と古めかしい難しい言葉遣いをしているらしく、まだLV1の言語スキルでは、これまで通り念話に頼った方が楽なぐらいだそうだ。
けど、直接竜語でやりとりできて良いこともあった。
『かあさん、かわった?』
『ルーヒト、わたしのいうことがわかるの?』
『・・・かあさん、りゅうのことば、はなせる』
竜王の傍らにくっついているオレンジ色の幼竜――――ルーヒトと、俺たちにはわからない言葉で意思疎通が出来たのだ。
ルーヒトはこれまで、俺たちにはピヨピヨ言ってるだけにしか聞こえなかったけど、どうやら竜の幼児言葉みたいなので喋っていたらしい・・・
『えう゛ぁかあさん、るー、まだおやまにいるの』
『ルーヒトはりゅうおうさまのところにのこるの?』
『うん、かみさまとなかよしになるまで、しゅぎょうする・・・』
俺たちにはまるきりわからない会話だったけど、竜王によると、ルーヒトはもうしばらく、竜神の器としての力をきちんと習得するための修行が必要らしい。
エヴァは、ルーヒト自身もそれを望んでいるとわかったらしく、このまましばらく竜王の元に預けていくことを受け入れた。
なんでも、今のルーヒトは、魔王の勢力に竜神の器だと言うことが知られると、ぜひとも手中に収めて、それによって竜族を支配しようと狙われる存在なので、白嶺山脈の結界の外に出すのは危ういらしい。
そして、竜神のエネルギーの引き出し方、みたいなものを習得できれば、幼竜と言えども自分の身を守れるようになるので、急いでそこまで教育する必要があるのだとか・・・まあ、俺にはよくわらかない話だけど、モモカとサヤカが納得しているんだから正しいんだろう。
《竜騎士たる娘よ、そなたも成長し、竜との絆をさらに確固たるものにするが良い。さすれば我が後継の器も、そなた自身もまた災厄の中を生き抜くことが出来よう。時満ちれば必ずそなたらを再会させよう》
「・・・はい、心得ました。その時まで、ルーヒトをよろしくお願いします」
こうして、俺たちは雪の高峰をあとにして、再びファブニルの背に乗った。
入ってきたのとは逆の、白嶺山脈の北東端に向かって。
レムルス帝国の国境の街オステラや、クラウコフ開拓村に近い方角だ。
あえてこちらに向かうのは、いったんキヌーク村に戻り、エルザーク王国に勇者と聖女を連れて報告に行くためでもある。
そして、本当の目的はもうひとつある。
きょうは三の月の望月の日。今度こそ、使徒バシュティと決着をつけるためだ。
けれど、ファブニルに礼を言って別れ、白嶺山脈の結界をいよいよ出ようとした時、まったく想定外の出来事が待っていた。




