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第38話 メガネっ娘オーバードライブ

ゲンさんからアンデッドと戦うための装備を借りた俺たちは、再び迷宮地下三階層に挑む。

 俺がバーデバーデから戻った翌朝、つまり迷宮三階層のアンデッドの大群に阻まれた2日後、パーティーは再び夜明けと共に迷宮に向かうことになった。


 いつもと違い、まず領主の館の広間に集められたメンバーに、銀の武器が支給された。ゲンさんから貸与されたものだ。

 戦闘歴の長いグレオンやラルークも初めて扱うらしく、物珍しそうに、そして真剣に自分の得物を選んでいた。


「シローがゲンツ卿の所から借りてきてくれたものです。武器は消耗品とは言え、討伐が終わったら残ったものは返却しますから、なるべく買い取りにならずに済むよう大事に使って下さい」

 カレーナが貧乏領主らしい残念な説明をする。


 ゲンツの名を出すときに露骨にイヤそうな顔をしてたのが、ちょっと可哀想だな。一応、親切にしてくれたのに。過去になにがあったのか、ゲンさんには聞けなかったが。


「相手がアンデッドだけとは限らぬから、普通の武器も持っていく前提で選ぶのだぞ。銀の剣はそれほど丈夫ではないからな」

 昔アンデッドと戦った経験があるというセバスチャンが、アドバイスしている。


「あたしは重いのは増やしたくないし、メインは弓だからね」

 ラルークは銀の鏃のついた矢を多めに、あとは銀製の短刀を腰に下げ、さらに投擲用に小さめの刀子を数本手に取った。


 グレオンとセシリーは矢に加えて、銀の長剣と銀張りの盾を持って行くようだ。

 俺は細身の剣を2本、1本はリナ用だ。盾は重いのでパス。後は矢を少々とせっかく投擲スキルがあるので刀子も2,3本持って行く。


「こ、これでいいんでしょうか・・・」

 その時、別室で着替えていたベスが、全身を真っ赤に染めて入ってきた。


 う、これはっ!


「やっぱり恥ずかしすぎますっ」


 しゃがみ込んでしまったベスの格好は、銀のノースリーブ・レオタードとでも言うのか?

 それに銀のブーツと肘まである銀の手袋という、ニュースビデオで見たことがあるバブル時代の鈴鹿のレースクイーンみたいな格好だった。

 子ども体型なのが際立って、なんだか倒錯的なエロスをかもし出している。


 ゲンさんが馬車に積ませた装備の中に、女性メンバー専用として入っていたのが、このナゾ防具?だった。


 説明書によると、“世界の叡智を集め、対アンデッドの防御力を極限まで追求したもので、パーティー全体の魔力の増幅効果もあるため、特に呪文を使う女性メンバーでは最低でも1名は必須” と書かれていた。

 銀はメッキだと思うが、レオタードも手袋も特殊な防刃繊維で織られ、軽量ながら防御力はプレートアーマー並みだと書かれている。


 だが、寸法がゲンさん趣味のロリサイズなのと、そもそもカレーナ、セシリーに加えて、リナまでが、「死んでもいや!!」と口を揃え、ラルークに至っては目にした途端、本気の隠身スキルで姿を消してしまった。

 どんだけ嫌がられてんの?ゲンさん・・・


 消去法でベスが着る羽目になったのだった。


 薄情にもリナが、「よくお似合いです」とか棒読み口調で言い放つ。

 あわてて、カレーナも自分が押しつけられてはたまらない、とばかり

「そうよ、ベス、素敵よ!」

 とか力説する。


 いや、そもそも姫さんはサイズ的に無理だから、いくら伸縮性はあるとは言え、特に胸部が・・・


 そうだ、大事なことを忘れてた。

「ベスに俺からもあげたいものがあるんだけど・・・」

「?」


 ゲンさんの所でもらってきた包みを取り出すと、ベスは恥ずかしそうに両手で体を抱きしめながら立ち上がる。おー、ハイレグだ。その下にはやはり防刃・対魔法力があるというタイツを着けているが、半透明の素材でナマ足みたいに見える。

 視線を必死にそらして、

「えっと、バーデバーデのお土産、みたいな?」


「え、わ、わたしに?で、ですか」

 キョドってる。


 なんか注目が集まってる?


 え? セシリーの目が怖い。

「あたしの下僕なのに、あたしを差し置いて・・・」

 とかブツブツ言ってる。なんか勘違いしてないか?


「いやいや、そういうんじゃ・・・」

 俺は必死に打ち消して、包みを開ける。

「これを・・・」


「?」

 ベスは意味がわからないようだ。

 そりゃそうか、こっちにはないものだからな。


 俺が“それ”を手に取りベスの顔に近づけると、一瞬ビクッとするが、何か覚悟を決めたように、目をつぶって心持ちあごを持ち上げ、唇をちょっと突き出してくる。

 誤解されそうなポーズだ。


 セシリーさん、不機嫌オーラを飛ばすのはやめて。


「目をあけてみて」

 俺がそう言うと、ベスはおそるおそる薄目をあけて、ハッと大きく見開く。

「これはっ!?」


「よく見えるようになった?」

 ベスは一瞬驚きに固まって、それからぶんぶん頭を振って回りの様子を見回す。


「な・・・なにこれ!?」


 やっぱりこの世界では知られてない物なんだ。たしかルーペ、虫眼鏡までは存在しているようだが、それで視力矯正ができるってのは、ベスぐらい知識がある子でも知らないんだな。


「これは眼鏡って言ってね、俺が元いた世界では、目が悪い人は普通に使ってた道具なんだ」

 そう、前から気になってたんだ。


 気が弱いのに眉間にしわを寄せて、ガンつけてくるみたいに人を見つめる仕草。

 魔法の威力はあるのに、妙に低い命中率。

そして、照明の乏しいこの世界で、無類の本好き。


 ピンときた。この子は、近眼なんじゃないか、と。


 そこで、ゲンさんが銀縁眼鏡をしているのを見てこれだ!と思い、きのうの朝食の時に詳しく聞いたら、やっぱりこっちの世界には眼鏡ってものはまだ知られてなくて、ゲンさんが金にあかせて専属の職人を抱え、自分で理屈を教えてガラスの加工から試行錯誤して作らせたらしい。


 それで、ゲンさんが山のように試作したという近眼用のレンズの中から、何セットか分けてもらったわけだ。

 昨日午後こっちに戻ってきてから、独房で粘土スキルを使って、セラミックのフレームをあーでもないこーでもないと、加工していた。顔の横幅とかは記憶と、リナをモデルにして調整したんだが、大体あってたようだ。


「レンズ・・・ってこの透明な部分、で見えやすさが変わるんで、何種類かあるから、どれがあうか試してみて。たぶん、これで魔法の命中率も上がると思う」


 ベスの魔法の命中率が上がる、というセリフで他のメンバーも真剣に見入っている。


「これは、ゲンツ卿のヤツが顔に乗せてたものじゃないか?」

 セシリーが訊ねてきた。


「うん、これ、眼鏡って言って、視力矯正・・・ってわかんないか。目の見えやすさを補正してくれる道具なんだ」

「そ、そんなことが可能なの!? あれって、ただのイヤラシイおもちゃじゃなかったんだ・・・」

 カレーナさん、イヤラシイおもちゃ、ってなに? キミたち何をされたのかな?


 ベスも微妙に嫌そうな表情を浮かべたんで、俺は必死に否定した。


***********************


 迷宮に入った俺たちは、再び2時間ほどかかって地下三階層に続く粘土壁の所にたどり着いた。


 途中、2、3匹のコボルドを見つけて退治した。いったん掃討した迷宮内に再び魔物が湧く、っていう仕組みは謎だが、やはり迷宮そのものを制覇して根を絶つ必要があるんだな。


 メガネっ娘レースクイーンというレアジョブにチェンジしたベスを除く全員が、銀の矢をつがえた弓を構える。

 それを確認して、俺は粘土壁を吸収した。


 予想していたし察知スキルでもわかっていたものの、背筋がぞっとする。


 ウジャウジャとゾンビの群れが、眼下の三階層を埋めていた。奴らも少し前から俺たちの気配を察していたのかもしれない。

 壁がなくなると同時に、二階層とつながる急斜面にわらわら群がって登ってくる。

 

 一斉に矢が放たれる。

 ゾンビが普通の兵のように倒れていく。確かに効いている。


 だが・・・数が多すぎる!

 眼下を埋めるゾンビの群れは、100や200では効かないだろう。どうやったらこんなに湧いてくるんだ?


 焦燥感を覚えた俺たちの動きが鈍りかけた所で、ベスの詠唱が完了した。


 これまでと違い、細く絞り込まれたレーザービームみたいな炎の帯が、ゾンビの群れをなぎ払っていく。銀のステッキを通して魔法を発動していることで、浄化の効果も加わっているかのように、ゾンビの胴を両断すると共に発火させていく。


 圧倒的じゃないか。


 まず急坂を登ろうとしていた連中が駆逐され、ついで下層の広間を埋めていた連中の前列から順番に焼き払われていく。


 それを見たゾンビの群れは、ある程度の知性を持っているらしく、やがて潮が引くように第三層の洞窟の中に逃げ去っていった。


「たいしたもんだ、レベルは上がってないんだろ?」

 射撃戦ではあまり活躍できなかったグレオンがうなる。


 実際、一昨日の戦闘の結果、ジョブレベルが上がっていたのは俺だけで、他のメンバーは変わっていなかった。ベスもレベル6のままで、魔法の種類もこれまでと同じだ。

 ちなみに俺がレベルアップで得た能力は、<パーティー経験値増加>というものなので、今後はみんなのレベルアップに貢献しそうだが。


「はい、自分でもびっくりです。相手がはっきり見えるから、範囲魔法でも威力を集中できて、すごく強力になった気がします」

 ベスが俺の方をキラキラした上目遣いで見る。


「本当にありがとう、シローさん。わたし、生まれ変わった気がします!」

やべ、かわいい。


「これまでは、ろくに見えてない相手に、適当に撃ってたってことかい」

 ラルークがあきれ顔で言う。


***********************


俺たちはまたロープを下ろして、慎重に地下三階層に降りる。


 第一波を撃退したとは言え、奥の方にはまだまだ多数の魔物の気配、しかもレベルの高いやつもいるようだ。油断はできない。


ラルークと俺のスキルで探知した情報をパーティー連携で共有しながら、洞窟を用心深く進んでいく。

 上の層に比べて、壁の発光が弱くてかなり暗い。

 カレーナは、大量のアンデッドがいることで、迷宮にわき出す魔力の多くが消費されているからかもしれない、という。


「いったん止まって」

 ラルークが指示する。そろそろ、遭遇があるようだ。


 前方の闇の中から、また大量のアンデッドの気配がする。だが、妙に組織化されている?


「ゾンビだけじゃない。レベルの高いやつがいて、それが群れを動かしてるっぽい。飛び道具にも注意しておくれ」

 さすがだな、ラルークはかなり詳しく把握出来ているらしい。


 そこからさらに20歩ほど進んだとき、闇の中から一斉にゾンビの群れが躍りかかってきた。

 例によってそれほど速さはない。グレオンとセシリー、俺とリナの4人が剣を振れる間隔で横一列になると、洞窟の幅は大体埋まる。その間からラルークたちが遠隔攻撃する、というシンプルな形を取る。


 俺とリナも、ザグーの指導と銀の剣の効果で、動きの鈍いゾンビなら問題なく片付けられるようになった。

 後から後から寄せてくるアンデッドの群れを集中して迎え撃っていると、不意にヤバイ気配がした。


「矢だ!」

 ラルークが叫んだときには、反射的に粘土壁を出現させていた。

 前列4人の幅で高さ約3メートル、即席なんで厚さはあまりない。

 かろうじて間に合って何十本という矢が粘土に突き刺さった。


 敵味方お構いなしだ。というか、こっちは被害がないから、ゾンビたちの背中にだけ突き立っている。だが・・・

「あいつら平気だからか」


 敵が打ち込んでいるのは、「普通の」矢だ。俺たちは当たればやられるが、アンデッドには効果がない。だから、いくらでも巻き添えを恐れずに放てるわけだ。

 面倒だな。


 そんなことを考えている間にも、粘土壁のこっち側に既に入っていたゾンビや、横の隙間から入り込んでくる奴らを、斬り伏せていく。

カレーナも、MPの節約を考えてだろう、ここは浄化でなく銀の剣を振るう。


 やっと少し攻撃の波が収まってきたところで、俺は粘土の壁にのぞき穴をいくつか開ける。

 そこからベスが、再び細く絞り込んだ炎のビームを放ち、胴ぐらいの高さで洞窟の幅を何往復もなぎ払う。

 ようやく弓の攻撃が止んだ。だが・・・


「たぶん、横穴に入って身をかわしてるね」

 ラルークが言うとおりだろう。敵の気配はあまり減ってない。


 直進性が高い高威力の炎では、横穴に潜んだ奴には当てられない。


 五感を研ぎ澄ませて索敵スキルを全開しているラルークに、視線を向ける。矢を射てきたのはゾンビではないだろう。相手の力がわからないのに踏み込むのはリスクが高いが。


 やはり、防衛ラインを引くだけでなく、こちらから仕掛けなくてはならないようだ。

GW明けまで、一日2話公開をめざします。

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