第350話 プロポーズ大作戦!!
勇者と聖女となった如月姉妹と再会した俺だったが、修羅場が待っていた・・・
「しろくん、そこに座って。ちがう、正座」
「・・・は、はい」
“針のむしろに座る”ってこういう意味だったんだなー、って俺は現実逃避ぎみに考えた。
「ももかお姉ちゃんはね、しろくんだって男のコだから、えっちなことに興味があるのを責めてるんじゃないの」
モモ姉の口調が、子供の頃に戻っちゃってる。
サヤ姉は無言の不機嫌オーラで場を覆い尽くしてる・・・
「こんなキレイでカワイイ娘たちと一緒に旅してたら、我慢できなくなっちゃうのもわかるよー・・・でもねぇ、4人も一度に?それも結婚してるわけでもないんだよね?」
「・・・そ、それは色々あったり、なかったり、とかしまして・・・ですね」
ナニ言ってんだかわからない、コミュ障に逆戻りだ。
突然現れた伝説の勇者と聖女の思わぬ追求に、俺だけでなく、ルシエン、ノルテ、カーミラ、エヴァ、4人の婚約者もたじたじになっていた。
勇者と聖女を目覚めさせ、リンダベルさんと共に生還したことで、ウェリノールの里は歓喜に包まれた。
秘密を知るハイエルフの長老たちは、200年前の戦争で二人と共に戦った間柄でもある。
比較的若いエルフたちは、ルシエン同様この地に二人が眠っていることは知らされていなかったけれど、人間と違いエルフ族の間では魔王大戦の伝承は誰もが詳しく聞いて育っているから、その伝説の勇者と聖女が再びエルフと共に立ち上がると聞いて、奮い立たない者はいなかった。
そういうわけで、ちょうど俺たちが天樹の中に入った後、各地で魔王の使徒による侵略が始まったらしいという最悪の事態を察知して絶望しかけていたエルフたちは、まさに神々の意志に他ならないと、この復活劇を心から慶んだのだった。
で、サヤカとモモカは、長老たちから下へも置かぬもてなしを受けて今後の方針を詰めた後で、もう夜だしお二人は目覚めたばかりで体力も精神力もまだ回復しておらぬだろう、あとは明日・・・と寝所を案内された。
リンダベル夫妻の住まい、つまりはルシエンの実家にほど近い、瀟洒な木造の客用コテージのような所だった。
大きくはないが凝った意匠の、あきらかにあたりで一番上等な建物に見えた。
そして、その近くのそれよりは少し簡素なコテージに、俺たちは案内されかけた。
「あれ?しろくん、よかったら私たちの所に泊まらない。昔みたいに添い寝ってわけにはいかないけど、積もる話もあるしね」
「「「「「!・・・」」」」」
俺と婚約者たち4人のまわりに、突然エアコンの急冷房スイッチが入ったらしい。
ノルテが戸惑ったように、俺とルシエンの顔を交互に見た。
「えっと・・・ルシエンさん、お話ししてくれたんじゃ?」
ギクッっと、ルシエンが滅多に見せない動揺した顔を、プルプル小刻みに横に振った。
「ん?どうしたの、このコたち。珍しいわね、ウェリノールに別の種族のひとたちがこんなにいるのって・・・あ!そっか、このコたちがシローの言ってたパーティーメンバー?ずいぶん、かわいい子に囲まれてたのね。あたしたち以外の女子とはロクに口もきけなかったあんたが、なかなか成長したわね~」
サヤカがあっけらかんと言い放った。
続けて、俺が全く心の準備をしてなかったセリフを・・・
「よろしくね。勇者サーカキスと聖女モカなんて呼ばれてるけど、緊張しなくていいよ?あたしたちシローの未来の奥さんだから、パーティーのみんなとも仲良くしたいな」
「「「「「ええええええぇーっ!!!」」」」」
どうしてこうなった・・・
何回目か自問するけど答えが出ない。
ルシエンとリンダベルさんが、ルシエンをはじめ4人が俺の婚約者だって打ち明けた途端、魔王が目覚めた時みたいな魔力の嵐がエルフの里を吹き抜けた。
なにごとか!とおののく長老たちに、モモカが一言“今後のことはイチからじっくり考え直したいから、今夜は自分たちだけにしてほしい”と言い放ち、みんなを文字通り追い払ってしまった。
リンダベルさんも世界樹の試しの時よりもっと青い顔をして、夫のルネミオンに支えられて家に入ってしまった。
そして、二人に与えられた立派だけど小さめのコテージは、深海みたいな圧力ではち切れそうになっていた。
無言で圧力をかけ続けるサヤカと、ニコニコしながら目だけは全く笑わずお説教を続けるモモカ。
ひたすら座禅を組んで警策で打たれ続けてるような終わりのないループに、勇気を振り絞って声をあげたのは、最年少のノルテだった。
「そ、その・・・お二人とシローさんがお互いに大切な存在だってことはよくわかります。で、でも・・・でも、わたしだってシローさんが大好きな気持ちは負けませんっ。それに、ちゃんともう婚約もして指輪ももらってるんです・・・ぜったいに譲れませんっっ」
サヤカのこめかみがぴくっと動いたけど、何も口は開かない。
それに勇気づけられたのか、エヴァが言葉を重ねた。
「そ、そうですよね。私だってシローさんに命を救われて、こうして一緒になろうってちゃんと意思表示されて、まだ正式な手続きこそしてませんけど、婚約してるのは事実です。お二人は・・・そもそも婚約者でもいらっしゃらないのでは・・・ひぃッ!」
魔王の使徒ゲルフィムを前にしてもひるまなかったエヴァが、二人の放った殺気に押されてよろめきながら、ちょっと下腹部を抑えてる。ちびったのか・・・
「シロー」
「うっ」
サヤカが獲物を逃がさない肉食獣の視線をこっちに向け、ひとこと発した。
「忘れたんじゃないでしょうね?」
・・・え?
キランっ、とサヤカの目が光った。
「待ちなさい、サヤカ。わたしにまかせて」
相変わらず見た目だけは穏やかな笑顔を絶やさないまま、モモカが俺にターゲットスコープをロックオンした。
「しろくん、私たちいっぱい一緒に色んな経験してきたよね。覚えてるかな?あの、グリフィンズの最後の試合」
「?」
あれか・・・二人に誘われて入った草野球チーム。
6年生の二人の最後の大会で、最終回、ライトの俺は飛んできた打球をバックホームを焦ってトンネルして、負けた・・・それが二人の最後の試合になった。
思い出したくもない黒歴史だ。
「大泣きしたしろくんをうちに連れてって一緒にお風呂に入ってキレイにして・・・」
覚えてる。
もう六年生の二人は出るとこが出てて、俺は初めてドキドキしたのだ。
そしたら二人から、“一緒にお風呂に入るのももうこれで卒業にしましょうね”って言われて、この世の終わりだ!と思ってさらに大泣きしちゃったのだ・・・
「しろくんももう小さな子供じゃないんだし、いつまでも下を向いていないでって。さやかも、“シローなら強くなれるよ”って言ったの、覚えてる?」
「うん、そうだった」
「じゃあ、その時、しろくんが私たちになんて言ったかも?」
え?
あの時・・・そうだ、急に女っぽくなった二人に慰められて、そんな言葉をかけられたのはよく覚えてる。
それで俺は元気になったんだ。
でも、俺はなんか言ったっけ・・・
「まさか忘れてないよね」
「さやか・・・しろくん?」
問い詰めようとするサヤカを制して、モモカはあくまであの頃のように優しく、俺に記憶の扉を開けるよう促した。
・・・っ!!
あれか!?・・・思い出した。
「・・・う、うん・・・お、おぼえ、てるよ?もちろん」
今の今まで忘れてたとか、ゼッタイ言えねー。
6人の美少女の12の瞳が、俺を凝視してる。
神さま、ハードル高すぎですってば。
「言ってみて、しろくん。私、もういちど聞かせて欲しいな」
モモカがハートマーク付きの甘い声で、退路を断った。
「え、と・・・その・・・“うんわかった。ボク強くなるから、大きくなったらモモちゃんもサヤちゃんもボクのお嫁さんになって”って?」
「「「「!!!」」」」
4人の婚約者たちから、非難ゴウゴウのビーム攻撃が放たれ俺を焼いた。
「はい、よく言えたね、しろくん。(にっこり)」
児童に花丸をつけた女教師のような笑顔だ。
「私はこう答えたわ。“うれしいよ、しろくん。約束だよ”って」
モモカに続いて、サヤカも頬を赤らめてぼそっと口にした。
「あたしも、“待ってるからね、ずっと”って言ったよね。それがこうして、20歳になって迎えに来てくれるなんて、これがあたしたちの運命なのかなって・・・」
絶句している4人に向き直って、モモカが高らかに勝利宣言した。
「わかったかしら。プロポーズされたのは私たちが先よ?ほーんの、210年ぐらいね」
「「「「・・・」」」」
沈黙。
「・・・ちょ、ちょっと待ってよ!いくらなんでも、そんな、子供の頃のことでしょ」
気を取り直したルシエンが抗議する。
「だからなに?年齢が何歳以下だと、約束なんて意味がないって誰が決めたの?ショックだわー、そんなこと言われたら、悲しくてもう生きてく気力もないわ。モモカ、もうなんかどーでもよくなっちゃった・・・こんな世界ほっといて、シローをつれてどっか無人島にでも行こっか」
「そ、そんなっ!!」
黒い、黒すぎる戦いだこれ・・・
「ちょっとシローさん、誰のせいだと思ってるんですかっ!」
うっ・・・エヴァに叱りつけられた。
気持ちの抑制が効かないのか、目が赤く光って口元から覗く犬歯がリリスみたいに長く伸びてる・・・こわっ。
「まあ、あなたたちもしろくんを大事に思ってくれてることはわかるから、話し合う余地はあると思うわ」
モモカがそう切り出した。
「そ、そうね・・・話し合いましょう」
ルシエンがそう応じる。
「シロー、あんたはあっちに行ってなさい。そうね、話がついたら呼ぶから、それまで覗かないこと」
サヤカに問答無用でそう命じられ、俺はこんな騒ぎにも関わらず既に船を漕いでたルーヒトを抱いて、となりの元々俺たちにあてがわれたコテージへ追いやられた。
永遠のように長く苦しい、でももしかしたら一瞬だったかも知れない空白の時間の後で、フルマラソンを完走したような表情の6人が、こっちのコテージにやってきた。
そして、やっぱりモモカが代表して口を開いた。
「しろくん、みんな仲良くわかり合えたわ」
5人がそれぞれあさっての方を向いてる。
そして、モモカが元気よく言った。
「おめでとう、しろくん。きょうから6人も婚約者がいるよっ、それもこんな美人ばっかり、この幸せ者ぉ~っ」
「・・・」
6人の紳士的、いや淑女的なって言うのか?話し合いの結果、先に俺と婚約していたモモカとサヤカがノルテたち4人も受け入れることで、6人全員が俺の婚約者、ということになった。
ただし、妻としての序列はあくまでモモカとサヤカが上だと。
そして、俺たちの間だけでは済まない重要なことが告げられた。
魔王の結界を破り倒すには勇者だけいてもダメで、同時代に1人しか存在できない聖女ないし聖者がいなければならないらしい。
だが、聖女は巫女と同様、処女性を失えばその資格が失われるから、その時点で文明世界の破滅が決定づけられてしまう・・・そのため、俺たちの正式な結婚式は魔王を倒した後で!!行うという。
「ま、魔王を倒した後でって、そんなサラッと言うっ!?」
「しょーがないでしょ。シローはあたしたちに協力してくれるわよね?」
「そ、そりゃもちろん・・・」
元々の俺たちパーティーだけで魔王と戦えとか言われたら、バカも休み休み言えって感じだ。俺は正義の味方なんかじゃ決してない。
けど、モモカとサヤカが魔王と戦うから一緒に来てくれっていうなら話は別だ。
俺はあの灰色に染め上げられた元の世界で、二人には返しきれない恩がある。
事故以前に二人がいなかったら生きていなかっただろう。
それはいくらダメダメな俺でもけっして忘れたりはしないし、二人のためなら2度目の命をくれてやってもいい、って本気で思ってる。人には言わないけどさ。
「一緒に行動しても、モモカとあたしは結婚まで、まあ要するに魔王を倒して聖女のジョブが不要になるまでは、シローとそ、そういうことする気はないから・・・ま、その、き、き、キスぐらい?ならイヤじゃないけどね」
サヤカは俺たちパーティーの“日直”のことを誰かに聞いたようだ。
それから、ベッドに並んで座った6人の美少女に向かって俺は片膝を着き、あらためてこう宣言させられた。これもひとつのケジメらしい。
「モモカ、サヤカ、ノルテ、カーミラ、ルシエン、エヴァ・・・俺とケッコンしてくださいっ!!」
一体どんなプレイだよ、これ・・・
6人が互いに顔を見合わせた。
「嬉しいよ、しろくん。ふつつかものですが、どうぞ末永く慈しんで下さい」
「シローがオトナになるのを待ってたわよ。一緒に運命を切り拓こうね」
モモカとサヤカに続いて、パーティーの4人も次々に答えてくれた。
「シローさん、死が2人を分かつまで私の気持ちは変わりません」
「シロー、カーミラ、ずっと一緒だよ」
「ヴァラの神々に、永遠の愛を誓うわ」
「・・・喜んでお受けします、シローさん」
こうして、1年ちょっと前まで、年齢=彼女いない歴だったDTオタクが、6人の婚約者を持つことになったのだ。




