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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第五部 魔王大戦篇

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第349話 (幕間)使徒襲来

【エルフの秘境ウェリノールの禁域にて】


 落雷のような激しい光に包まれたにも関わらず、ハイエルフたちが我にかえったときには草が焼けた跡も無く、天樹がいつもの静謐で厳かな威容をたたえてそびえているのみだった。


《姿が無い・・・遺体も》


《これは、成功したのでしょうか?》


《《《おお・・・ついに》》》


 “天樹のためし”を受け、まさに稲光の直下にいたはずの、歌姫リンダベルらの姿はどこにも無かった。

 それは彼女らがついに、天樹の胎内に眠る勇者と聖女のもとに導かれたことを意味するのだろう。


 心の動きを抑える修行を重ねたハイエルフの長老たちの間にも、大きな驚きと歓喜の波が生まれた。



 だが、その直後だった。


《《《!!!》》》


 禍々しい波動が、ウェリノールを包む結界の外から押し寄せてきた。


 それは高い魔法資質を持つごく一部の者にしか感じることのできぬものだったが、この秘境の指導層たる、数百年を生きたハイエルフたちにはまごう事なきものだった。


中ではまだ年若い、しかし重要な“星読み”の役割を担う女が、ただちに森の奥へ、星読み台へと姿を消した。


 だが、長老の幾人かにはその結果を待つまでも無く明らかに思われた。


《現れたか》

《まぎれもなく魔王の使徒でしょう。それも1体ではありませぬな》

《魔王の波動が強まっておる。それに刺激され、ついに使徒らが一斉に各地で、力を振るい始めたのであろう・・・》


 しばしの沈黙の後、一人のハイエルフが念話の声をあげた。

 ルシエンの父、ルネミオンだった。

《魔王の元に集結されてはもはや手出しは不可能になってしまいましょう。その前に吾等の力で、せめて使徒の1体なり2体でも・・・》

《ならぬ!》


 長老のひとりが、強く否定した。

《吾等だけが突出しても、かつての二の舞。返り討ちにあってさらに吾等エルフ族の衰亡を早めるだけぞ》

《・・・》


 いまから35年前――――


 何体かの魔王の眷属が復活し、再び暗躍し始めたことが明らかになってきた。


 当時、人間族の諸国は魔王への警戒感を既に薄れさせており、エルフとの関係も疎遠だった。

 かつて共に戦ったドワーフ族もプラトの軍閥の侵食によって力を失っていた。


 そのため、ウェリノールは単独で討伐隊を編成し、使徒の復活が確認されたガリス公国へと派遣した。


 そして、誰一人帰らなかった。


 当時、リンダベルは妊娠中で討伐隊に加わることが出来なかったとはいえ、魔王大戦を経験した熟練のハイエルフが幾人も加わっていたにも関わらず、使徒1体を倒すことが出来ず、生還者なしという結果に、長老たちは顔色を失った。

 以後、ウェリノールは急速に内向き志向を強め、外界への関与を避けるようになったのだった。


《勇者と聖女が目覚めれば・・・》

 誰かがぽつりと漏らし、長老たちの目は、天樹へと向けられた。



***********************


【レムルス帝国 北東部辺境地帯】


 枯れ葉を積み重ねて遺体を焼く煙が、異臭と共にいくつも立ち上る。


 村人たちは疲れた体にむち打って、なかば廃墟と化した集落をまわり、同胞の遺体が残されていないか調べていく。


「急げ、夕暮れまでに残らず焼いてしまわねば、カウナス村のようになってしまうぞ」

 指図する領兵もボロ布を包帯代わりに片腕を吊った手負い姿だ。


 それでも、今はとにかく新たなゾンビの発生を少しでも減らさねばならぬ。


 数日前、北方山脈方面からあふれ出してきたアンデッドの群れによって、既に近郊の村までは完全に飲まれ、このブレストの城下でも昨夜の襲撃で多くの命が失われた。


 だが、そのこと以上に人々の恐怖と絶望を煽り立てているのは、襲ってくる魔物の多くが、見知った近隣の村の老若男女の変わり果てた姿だということだった。


 アンデッドに噛まれて命を落とした者たちが、夜になると今度は新たなアンデッドと化して同胞を襲う。その繰り返しで、今や腐敗した歩く死体は数えきれぬほどに増え、この地方を覆いつつある。


 領兵だけでなく領内の神殿や修道院からかき集めた数十人の聖職者程度では、到底浄化できるような数ではなく、彼らの中からさえ既に一部は魔物と化した者が出ている始末だ。


 残された者たちに出来るのは、日があるうちにできる限り遺体を焼き、魔物の増加を少しでも食い止めながら、どこからか救いの手が差し伸べられるのを待ち望むことだけだった。

 それが、はかない望みであると誰もが内心思っていた。



 ゴーン、ゴーン・・・やがて城市の神殿の鐘が、早春の北の地平に響き渡る。


 夕暮れの鐘だ。


「おーい、引き上げだぁー、いそげぇー」

「走れ、壁内へ入るのだ。男衆は遅れている女子供がおらんか、手分けして確認しろ。けっして壁外の村に留まってはならぬぞっ、城内の避難民区へ行くのだっ」

 領兵と城外の集落の自警団の者たちが声を掛け合い、遺体を焼いていた者や家畜に草を食わせるために壁外に出ていた者たちを、急いで城門へと追い立てる。


 薄曇りの空は、常よりも速く昼から夜へと移り変わっていく。


 既に東の空、魔物が現れた北方山脈の方角は、宵闇に包まれている。


 自警団の最後の者たち、そして鳥や獣を狩って糧を得ている狩人の男らが、ようやく城門をくぐった。


「急げっ、これで全部か?城門を閉めろっ」

「守備隊長どのっ、ジャビカ村に向かった小隊がまだ戻っておりませんっ」

「なんだと!」


 領内のそれぞれの村へ、生存者の捜索と言う名目で実際は遺体の焼却に向かった各騎兵隊のうち、もっとも遠い村に向かった30名の兵がまだ戻らないと言う。


「あれだけ口を酸っぱくして、2つめの鐘で作業を終えろと言っておいたのに・・・」


 日が落ちると共にやむなく城門を閉じ、壁上にかがり火を焚いて物見の兵を配置する。


「うろたえるな。みな今夜の襲撃に備えるのだ」


 残照も消えかけ、さすがにもうダメだろう、今夜はどれほどの襲撃があるのだろう、と守備兵たちが意識を切り替え始めた頃、騎馬の蹄の音が聞こえてきた。


「あれは・・・おおーいっ・・・戻ってきましたっ」


 物見の兵が声を張り上げる。


 森陰から騎馬の一団の黒いシルエットが現れ、怯えるように駆けてくる。


「門を開けろっ」


 慌てていったん閉ざされた城門が開かれ、そこに30騎から少し数を減らした鎧姿が駆け込んできた。


 後続がいないことを確かめ、門衛の兵が城門を再び閉じようとしたところ、身分の高い兜をかぶった騎兵が手振りでそれを制した。


「まだ、何人か遅れているのでありますか?」

 衛兵の問いかけに、兜姿が頷く。


「ちょっと待てとのことだ・・・しかしキツイ匂いだな。一体何百人焼いてきたことやら・・・」


 衛兵がこっそり愚痴る。騎兵たちの鎧に染み付いた腐臭は耐えがたいほどだった。


 常歩になった馬が衛兵の横を通り抜けた時、ボトッとなにかが落ちた。


「んっ・・・!」


 地に落ちたのは腐肉だった・・・目の前を通り過ぎた馬の腹から落ちたのだ。

そして、そこには、血まみれのあばら骨がむき出しになっていた。


「な、なんだっ!?」

「グオォォーンッ」


 兜をかぶった騎士、だったもの、の体が不意に一回り大きく膨れ上がり、そしてミチミチと音をたてて、鎧の間から腐肉が盛り上がった。


 そして、騎兵だったものたちは一斉に、目を赤く光らせた人と馬のゾンビとに姿を変えていた。


「ひいいぃぃっ! ば、化け物だあぁぁーッ!!」


 叫んだ途端、衛兵の喉を血塗られた槍が貫いた。


「グアッ、グアオオォン」


 一体のゾンビが、背後の森を振り返り雄叫びをあげた。

 そこから、わらわらと数え切れないほどのアンデッドが湧き出してきた。


 人の姿をしたものだけではない。


 猪や狼、そして熊まで、北方山脈に住まう野獣たちまでアンデッド化したのか、あるいはそもそも魔獣なのか、それはもうわからぬ。


 開け放たれた城門から、腐臭に満ちた魔物の群れがどっとなだれ込んだ。


 ピ――――ッ!!


 城門に詰めていたわずかな衛兵に出来たのは、呼び子を吹き鳴らすことだけだったが、その音さえすぐに消えた。



 そして、城内が大混乱に陥った頃、魔物の群れの後ろから、“それ”が現れた。

 

 巨大な骨と皮だけの竜――――ドラゴンゾンビ。

 そして、その背に立つ――――人影?


 巨躯を揺すり地を震わせて進む不安定なドラゴンの背に、まるで重力など存在しないかのように悠然と立つその姿は、けっして普通の人間のものであるはずが無かった。

 なにより人間にはあり得ぬ大きさだ。


 その頭部には3つの目と2本の角をそなえ、まるで嘲笑を浮かべているような薄く開いた唇からは、細長い真っ赤な舌がチロチロとのぞいていた。


 だが、その姿を正確に帝都へと伝えることが出来た者はいなかった。

 それを見た者は誰一人、生き延びることがなかったからだ。



***********************


【カテラ万神領北西部 ムニカ郊外】


 大地震によって北の山塊が崩れても、海辺の街に住む人々は当初さほど重要視していなかった。


 それよりも、津波に襲われたムニカ市街の被害が甚大だったからだ。


 なんとか生き残った肉親や知人と共に海辺に戻ると、街は無残に姿を変え、木造の家はことごとく流失していた。


 領主である伯爵家から食糧こそ配給されたが、今度は魔物の群れが押し寄せて来た。


 ギルドやイスネフ教会など、一部の堅牢な石造りの建物に逃げ込むことが間に合わなかった者たちは、ことごとく魔物の餌食となった。


 だがやがて、オークや魔狼といった普通の魔物は単なる前座でしか無かったことがわかった。


 “あれ”が姿を現したからだ。


 再び激しい地震と共に崩れた北の山塊から、まるで新たな山のように見える巨大なものが出現したのだ。


 溶岩のように黒く、しかし鈍い光を放つゴツゴツとした体。

 それは巨大な、一枚が岩ほどもある黒い鱗に包まれ、何対もの脚を持ち、地底から這い出してきた。


 その体からは、もやもやと黒い瘴気のようなものが湧きだし、しばらくするとその瘴気の中から、スライム状のものや蛇のような形をしたものなど、様々な原始的な魔物が現れ、主のまわりに広がっていく。


 グボオォーッ、と吠えているのか、単に呼吸しているのかわからぬ轟音と共に、暴風が生じ、それとともに湧き出した魔物が吹き散らされ、あるいは主の開いた口の中に呑み込まれてゆくものさえいた。


 巨大な口、と言って良いのかわからぬ魔物の口は、突き当たる全てをかみ砕き呑み込もうとしているように、ただ貪欲にあらゆるものを喰らい、のたうつように前進を始めた。


 どんな悪魔の意志によるのか?あるいは、何も考えずただ空腹を満たそうとしているのか?


 街の人々はただ怯え、地獄の災いとしか見えぬその巨躯が、自分たちの方に向かってこぬことを祈るばかりだった。


 まだしも救いと言えたのは、その動きはさほど速くは無かった。


 数日後、山の中を這いずり回ったそれが幸いにもムニカの港街ではなく東へと進路をとった頃には、ようやく万神殿から差し向けられた聖騎士団が、この地に姿を見せた。


 だが、彼らはムニカの街を守るために来たのでは無い。


 ムニカの伯爵は万神殿に帰依するものの独立した領主でもあり、直接的には聖騎士団の庇護を求められる立場ではなかったのだ。


 聖騎士団は、ムニカの東、万神領の本領との境と言えるロイアー河の東岸、ベルナルドの街に布陣し、巨大な魔物をロイアー河の線で食い止めるために使わされたのだ。


 だが、それは戦いとは到底呼べぬものになった。


 山のような巨体のそれは、300エルドを超える川幅があるロイアー河をまるで行水でもするかのように難なく渡り、対岸から放たれた大弩の矢も投石器の投じた岩も、その鱗の1枚すら剥がすことさえ出来なかった。


 巨獣がひと吠えすると、暴風と共に聖騎士団の人馬が吹き散らされ、生き残った軍馬は恐慌に駆られて騎士を振り落とし、泡をふいて自ら河へ身を投げた。


 そして主たる巨獣から湧き出した大小の魔物が、まるで増殖する菌のように対岸の街へとなだれ込んでいった。


 川向こうに終末の地獄の魔物の姿を仰ぎ見た国境の街の民らは、恐怖に震えながら聖句を唱え続け神々の加護を祈った。

 だが、翌日にはその祈りの声も消え、ベルナルドの街そのものが消滅した。



 兵力を半数以下に減らし、もはや抵抗とも呼べぬ敗走を続ける聖騎士団の指揮官から入った魔法通信が、万神殿の聖職者たちを恐慌に陥れた。


「復活した魔物は十三使徒が一、“魔王の蹄”ヌゴーズと思われる。その侵攻する目的地は依然不明なれど、進路は東から南東。このままでは、カテラまで十日で至ると見込まれる・・・」




 レムルスやカテラだけではなかった。


 遠く東方のパルテアで、ゲオルギアで・・・恐るべき魔の勢力による人類の版図への侵攻が始まった。

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