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第347話 勇者と聖女②

ウェリノールの天樹の中で眠っている勇者と聖女。俺は聖女にキスして蘇生させることに成功した。続いて勇者にもキスしろ、というリンダベルさんは初めて勇者サーカキスが女だと打ち明けた。

 勇者が絶世の美女だって聞いたからじゃないよ?


 世界を救うタメにはキスして目覚めさせるしかないのだ、これは浮気じゃないのだ、おかーさん公認なのだ!


(・・・)


 ルシエンの視線がイタいけど、心の中で再び自己正当化の呪文を唱えて・・・いや違う、心を落ち着かせて、だ・・・俺は真っ白より少しだけ空色っぽいまばゆい光に包まれた、勇者サーカキスの繭へと近づいた。


 まばゆい光の繭が少しずつ薄れて、目を閉じた美しい女性の顔が浮かび上がる。


「え?」


 俺は思わず、となりの聖女の繭を振り返る。

 

 全く同じ顔立ち。

 勇者の方が髪が短いかもしれないが、それだけしか違わない、うり二つの美貌。


 俺の動揺がルシエンにも伝わったらしく、どういうこと?という思念が流れ込む。


 けれど、リンダベルさんは、湖底から引き上げた2つの繭を維持するため、祈りに全力を注ぎ込んでいるのだろう。答える声は無かった。


 俺は、疑問を後回しにして、勇者の顔に身をかがめ近寄る。


 200年前、世界を滅びから救うために、あらゆる人々の期待を背負って魔王と死闘を繰り広げた勇者サーカキス。

 それがこんな、俺より背も低く華奢な、年齢だって実質今の俺と同じぐらいの女性だったなんて・・・


 その彼女に、再び世界を守るために命がけで戦ってもらおうと蘇らせる。

 俺たちはすごく身勝手なことをしようとしてるんじゃないだろうか?


 この大陸にだって、この世界にだって、猛者はたくさんいるだろう。

あのレムルスの猛将バイア将軍とか、パルテアのベハナームとかハトーリ・ハンツとか・・・なのに、こんなまだ少女と言ってもそうおかしくないぐらいの若い女の人に世界を背負わせるとかって・・・


 けど、リンダベルさんはもうあまり保たない。俺は今できることをするしかない。


 お願いだから、目覚めて欲しい。

 聖女の時も思ったけど、俺なんかでなにか手伝いぐらい出来るなら、がんばるからさ。出来れば死ぬほどつらくはない範囲でお願いしたいけど。



 そう心に念じながら、聖女とそっくりの整った顔に、またどこか懐かしい気持ちを覚えながら、ゆっくりと口づける。


 再び感じた、凍えるような冷たさと、雷に打たれたような衝撃。


 それとともに、先ほどは無かった、結界が砕け散るような幻音が聞こえた。


「「「!」」」


 俺もルシエンもリンダベルさんも、それをたしかに感じ取った。



 激しい衝撃、でも今度は俺の意識はかろうじて切れなかった。


 勇者の光る体の上に倒れ込みそうになるのをなんとか堪える。


 ビクッと勇者の身が痙攣して、それからゆっくりとその胸が上下し始めた。


 成功したのか・・・


「あ・・・ああぁ・・・勇者さま、聖女さま・・・」


 詠唱を止めたリンダベルさんが、かすれる肉声を絞り出した。


「とうとう、成し遂げたのね・・・また、会えるのですね・・・モカさん、サーカキスさん」


 がっくりと頽れそうになった母親をルシエンが抱き留めた。



 その俺たちの眼前で、光る2つの繭は徐々にその光を薄れさせていく。


 薄物のローブ1枚をまとっただけの、二人の女性の姿になっていく。


 樹液の湖水の岸辺に、横たわる二人。


 光が消えていくとともに、色と形が戻ってくる。


「?」


 違和感に気付いたのは俺だけだったかもしれない。


 相変わらず洞窟の壁面は淡く緑色に輝いているから、この場所で見えるものは全て薄く緑色を帯びている。


 でも、なんとなく元の色合いもわかる。

 だから気が付いた。


 二人の髪の色は濃く、おそらく俺と同じぐらい黒髪に近い。


 目を閉じたままだから瞳の色はわからないけど、美しく整った肢体の肌の色もなんとなくわかる。


 彼女たちは、日本人なんじゃないか。


 もちろん、東アジアっぽくても中国系とか韓国系ってこともありうるし、プロポーションは日本人離れした外人モデルみたいだから、確信はない。


 ただ、2人もたしか転生者のはずだ。



 そんな俺の思いに気付いたか気付かなかったか、リンダベルさんはよろよろと二人に近寄り、その顔に愛おしそうに触れた。


 最初はきわめてゆっくりと上下していた二人の胸は、やがて普通に呼吸する速さになり、そして意識を取り戻したようだ。


 ルシエンが聖女の傍らに座り、上半身を抱きかかえるようにしてリンダベルと向き合わせる。


 それで俺は、残された勇者の傍らに寄って、同じように膝の上に抱きかかえる。


 薄物一枚だけだから、まだひんやりした体の柔らかさをばっちり感じる。



 あらためて、すごい美人だ。

 それもやっぱり、白人と言うより日本人っぽい、でも芸能人だってこんな美女はほとんどいないだろうってぐらい整ってる。


 呼吸するにつれ上下する胸は・・・かなりあるな。完璧だ。彼女の上半身を抱える姿勢の俺の左腕には、横にはみ出したプリプリした感触が・・・


「シロー」

 不機嫌そうなルシエンの声に、びくっとして真面目な顔を取り繕う。


 その腕の中の聖女は、勇者よりさらに少しだけボリューミーで柔らかそうだ、なんてことは思ってないです、うん。


その時だった。


 俺の腕の中の勇者が身じろぎして、目を開いた。


「えっ?」


 ばっちり目が合った。


 最初はびっくりした様子で、俺を見つめたきれいな目は、キリッとして意思が強そうな、そしてどこかよく知っているような目力のある黒い瞳だった。


 ばちんっ!!


「っ!!」


 ひっぱたかれた・・・


「えっ・・・」


 絶句したのはリンダベルさんとルシエンだ。


「誰よあんたっ、そのエロい手を離しなさい。しばくわよ」


 うはっ、いきなり勇者に罵倒された・・・勇者、だよな?

 でもこの声って、どこかで・・・


「・・・あ・・・リンちゃん?」


 けれど、俺の思考が具体化する前に、となりからもう一つの声があがった。


 勇者とよく似た、けれどもっと優しく理性的な声音。


「モ、モカさんっ、モカさん!わかりますかっ、ええ、リンダベルですっ!」


 リンダベルさんが聖女にすがりついて嗚咽し始めた。


「やっぱり、リンちゃんね・・・ああ、目覚めたのか、わたしたち」

 聖女は200年の眠りから覚めたばかりだってのに、どこか全てわかっているような、落ち着いた様子だった。


「さやか?さやかも無事ね。よかった」

 そして、勇者の方を振り向いて微笑んだ。


この笑顔・・・それに、“さやか”って・・・


「でも、さやか、乱暴はダメよ。あんたが本気で手を上げたら、ふつーの人は死んじゃうからね?それにリンちゃんたち、私たちを守り続けて目覚めさせてくれたんだと思うよ?そっちの人も多分協力してくれたんじゃ・・・」


 そう言いかけて不意に目を見開き、俺の方をじっと見つめた。


 覚えている・・・この瞳と表情。


「ねえ、もしかして・・・あなた、しろくん?」


「えっ!?」

 大声をあげたのは俺ではなく、腕の中の勇者だった。


「まじっ!?・・・シローなの?うそっ!」




 この声は、この表情は・・・


《勇者と聖女は深い絆で結ばれた者の訪れにより目覚める》


 その星読みの言葉の意味が、ようやくわかった。



 そうだ、俺はよく知っている、この二人を。

 あたりまえだ!

 忘れるはずがない・・・


 なぜ気付かなかった?


 二人が“事故死”した時、俺は中2だった。

 二人は2コ上だから高1で15歳だったはずだ・・・もちろん、あの時だって美少女だって知ってた。二人に優しくされてるだけで、さらにひどいいじめの対象にされるぐらいの。


 けど、あの頃の二人はまだ、目の前にいるようなオトナの美人じゃなかった。

 こんな・・・元の世界でテレビやグラビアのアイドルにだって、ほとんどいないぐらいの。

 あれから何年経ったんだろう・・・




 あの灰色の世界で、ただ二人だけ、ずっと俺の味方をしてくれていた存在。


 俺にとって、たった2人の親友であり、姉であり、母であり、最愛の人、恩人 ―― その全てでありそれ以上の二人。




 如月桃香と如月清香 ―――― 幼なじみの双子の姉妹だった。






お待たせしました。勇者と聖女の復活、そして――――


最終章にしてついに真ヒロイン登場です。


ここから怒濤の伏線回収へ・・・

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