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第333話 謎の追跡者

北方街道の交差点とも言うべきオアシス都市ラボフカを発ち、俺たちは勇者の探索のため北方旧街道を西へと向かい始めた。

「追跡されてるわね」

「うん、やっぱりずっとついてきてる」


 ルシエンとカーミラがそう頷き合ったのは、出発した日の午後まだ早い時間だった。


 なんかヘンだな、ってのはラボフカを出てまもない頃から感じてた。


 地図スキルには、魔物の残党はほとんど映らなかった。それも不思議ではあった。

 魔王の復活と共に、また魔物は質量共に増していたし、魔王の眷属が眠るパルテアやカテラのはずれでは一際猛烈な地震が起き、その復活も近いのでは?と両国が警戒を強めている状況だった。


 それなのに魔物が思ったほど湧いてないのは、前日までの掃討がそれだけ効果的なものだったのだと前向き考えてもいいかもしれない。


 けど、その割には魔物では無い野生動物はそこそこ多かった。

 大軍が数日間にわたって戦闘を行ったのに、ちょっと不思議には思ってたんだ。


“トリマレンジャー”(※粘土トリウマとも言う)に乗って一刻も進むと、ずっとつかず離れず同じ方向に進む小動物が何匹もいる、と気づいた。


 偶然かもしれない。


 俺たちは北方旧街道を南西に向かって進んでいたけど、この街道はわりと平坦な乾燥地帯の中でも少しだけ谷筋みたいなところを通っているから、野生動物が移動するのに、街道は通らないにしても並行してその谷間を進むってのはありそうなことだからだ。


 しかし、しばらくすると、北方旧街道は通れなくなった。

 水が押し寄せてきたんだ。


 びっくりしたけど、ああ、そうだったのかって納得もあった。


 先日の天変地異で、西コバスナ山地の一部が崩壊して地形が大きく変わっただけじゃなく、大河デーベルの水量がかなり減ったのだ。


 どうやら、大森林地帯から発した流れの一部が、西コバスナ山地より北に流れ出して、この北方旧街道が走る谷筋に新たな河を作っているらしい。


 俺たちが出くわしたのはその流れの先端部分で、ちょっとずつ東へと延びてくる。

 濁流と言うほどのスピードはなく、低地を少しずつ侵食しながら、巨大な水溜まりが広がってくる感じだ。

 だから天変地異が起きてからここまで水が至るのに、何日もかかったんだろう。


 でも、遠目に見えるだけでも膨大な水量だから、地下に流れ込んで消えてしまうとは考えにくく、やがてはどこかの別の河に合流するか、あるいははるか遠く濃紺の海にまで至るのかもしれない。


 旧街道はラボフカの手前で一度丘を越える所があったから、ラボフカの街自体が水没してしまうことは無いだろう。おそらくその手前で方角を変えるはずだ。


 ともあれ、進んでいた街道の向こうから迫ってくる水流によって、俺たちは迂回を余儀なくされた。


 で、問題はここからだ。


 位置的にはちょうど、テモール族居留地に近い西コバスナ山地の間を抜けて、キヌーク村に入れるあたりだったから、いったん領地に入ることにしたんだ。


 ところが、そこにまたぴったりと?ついてくるような動物がいたんだ。

 カーミラによると、キツネみたいな匂いがするらしい。直接姿は見えないけど。


 さすがにこれはあやしいよな。


 MP消費が増えるのを覚悟して、粘土トリウマたちを全力で走らせたら、ようやくまくことができた。


 けど、いつのまにか今度は、上空をつかず離れずの距離でついてくるものがいた。


 一度ひらけたところでルシエンが凝視し、なにか猛禽類らしいって言う。


 地図スキルでは白い光点。

 つまり、魔物でも敵でもなさそうだ。


 だから、領地の境界に設置した選択式結界装置でも排除できず、そのままうちの領空についてきた。


 いや、もちろん鳥一羽で領空侵犯だとか、心の狭いことは言わないよ?

 でも、気味悪いよな。


「なんでしょう、いったい」

 ノルテも心配そうだ。




 領地の北側を点検後、西へ向かい、その晩は、地震と噴火による被害からようやく復旧が一区切りついていたマイン集落に泊まった。


「ノルテちゃん、突然でびっくりしたけど嬉しいよ」

「うん、お邪魔するね・・・」


 アナとエイナの姉妹と仲良く話しているノルテを横目に、両親のビョルケンとアローラにこっちの状況を尋ねる。


「坑道の被害は幸いそれほどではないですが、まだ余震が時々起こるんで採掘は中断しとりますぞ」

「うん、無理せず安全第一でいいからさ・・・食糧とか魔物の侵入は大丈夫?」

「おかげさまで灰は畑側には降らなかったんで、冬野菜の収穫も出来てますよ。幸運でした」

「うむ、設置し直してもらった結界も働いとりますし、防壁も一応できあがっとりますわい」


 やっぱりドワーフの建設技術はすごいな。

 ほんの十日あまり前、俺たちが魔法で部分的に作っただけの西側の防壁を、突貫工事で完成させたらしい。


 ちょっとした見張り小屋も人間の大工、ラーティオたちが建てたそうだ。

 マイン集落では、俺が領地を離れていた間にも、人間とドワーフ、ワーベアの一家も含めた自治組織みたいなのが出来て、互いに協力して環境整備を進めてくれていたんだ。頼もしいな。


***********************


 翌朝、その新設の見張り小屋や西側の防壁を視察し、結界や警報の魔道具をさらに追加で設置してから、俺たちは西へと領地の外に出た。


 天変地異で、もっとも大きく地形が変わった部分だ。


 北西に今も噴煙を上げている火山が突然出現した代わりに、元々の西コバスナ山地西端の山々が崩れ、大規模な陥没によって低湿地と化している。


 そして・・・やっぱりそうだった。


 新たな川の流れが出来ている。

 それも二筋か?


 大河デーベルの流れの一部が分岐したのか、低湿地を抜けて北へと流れていく。

 その向こうには、さらに西側から来た流れがあり、それと合流しているようだ。


 先端は見えないけど、俺たちがラボフカから北方旧街道を西に向かっているときに出くわした水流に、おそらくつながっているんだろう。


 元々デーベル河を流れていた水の一部が、俺の領地の西側に分岐し、北上して北方旧街道のある低地に注ぎ込んでいる、ってことらしい。


 そうした領地西部の状況を、リナの遠話で領主の館の留守居役であるセンテに知らせる。

 センテからは俺がいない間の報告があったけど、とりあえず問題はないようだ。


 所領の東側のお隣さん、ロトト准男爵領ではまだ散発的な魔物の襲撃で苦闘しているようだけど、前に救援を求められたときのような危機的な状況は無いとのことだ。


 国軍部隊がビストリアからラボフカまでの北部国境付近を掃除していったから、新たに北からの侵攻とかが無い限り、持ちこたえられるだろう。


 だが、センテにはもうひとつ、知らせておくことがあった。


「なんですと?野生動物がついてくる?」


 そう。マイン集落の洞窟に泊まって夜が明けたらいったん追跡者の気配はなくなってたんだけど、領外に出たあたりから、また不審な鳥がついてくるようになったんだ。


「今のところ実害は無いけど、俺たちを追ってるのか、それともうちの領地を見張ってるのか、とか色々わからないことがあるから、そっちでも気をつけといてくれ」

「はあ、わかりました。自警団や狩人連中にも伝えておきます」


 そんなやりとりをしながら、再び北方旧街道に出ようと北西へと進んだ。


 新たに出来た河は幅がデーベル河に匹敵するほどあって、トリマレンジャーで渡れそうな所は見当たらなかった。


 そこでいったん粘土収納に“お片付け”してから、リナの転移魔法で越えた。


 その瞬間、ルシエンが結界を張った。


「え?」

「ちょうどいいから、このタイミングでね」

「あ、なるほど。気持ち悪いですものね」

 エヴァのリアクションで気が付いた。


 いま、俺たちは急に姿が消えた状態だ。

 あの鳥が追跡者なら探そうとするだろう。それではっきりすると。


「・・・案の定でしたね」


 結界越しだから少しぼやけた見え方だけど、鷲みたいな鳥が俺の目にも見えるぐらい近づいてきた。明らかに何かを探すように旋回しながら。


 ルシエンが弓に矢をつがえてから、結界を消した。


 ある意味、その鳥は優秀だったんだろう。

 すぐに俺たちの気配に気づいて、距離をとろうと舞い上がったから。


 でも、それは“黒”ってことだよな?


 ひゅんっと弓が鳴り、矢が過たず鷲を射た。


 かなり離れた所に落ちたその鳥は、召喚獣だったら消えるんじゃ?と思ったんだけど、そのまま俺たちが拾い上げるまで、そのままだった。


「見たところ特に魔物とかではなく普通の鷲のようだけど?」


 ルシエンが言うとおり、俺が鑑定しても普通に「鷲の死骸」とかしか表示されないな。


 けど、カーミラがくんくん匂いを嗅いで、やがて険しい表情を見せた。


「シロー、かすかに鷲じゃない匂いがある。この匂い、はっきりしないけど、この間の所で似た匂いがあったよ?」

「この間の所?」

「うん、せいじゃく、のやかた?」

「!?」


 鷲の匂い以外に付着しているかすかな匂い。それはひょっとすると、この鳥を俺たちに付けた何者かの匂いかもしれない。

 それが、静寂の館で嗅いだ臭いに似ている、と言う・・・どういうことだ?


スヴェトラナは奈落に落ち、魔人メトレテスは確かにリナが仕留めた。他にいったい誰が?何者が、俺たちに追跡の目をつけているのか?


 その時、ルシエンが再び結界を張った。俺たちの姿をまた何者からか隠すように。


 そして、口を開いた。

「魔王の耳目はあらゆるところに張り巡らされている・・・昔からそう言い伝えられているわ」

 

 ハッとする俺たちに、その何者かに聞かれることを恐れるように抑えた声で続けた。

「だから、私たちだけになるまで、私が心から信用できる者だけになるまで、何も言わなかったの。どうやら、杞憂ではなかったようね」

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