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第36話 女王様といっしょ

ゲンツは俺と同じ日本人の転生者らしい。俺以外にもこの世界に転生したという人に初めて会った。

「お前も、転生者だな?」


やっぱり向こうも気づいてたか。


「おれは、秋山源一。お前と同じく日本から来た」


 ゲンツ卿こと秋山源一と名乗った男は、「コーヒー派か紅茶派か?」とたずねると、メイドに飲み物を持ってこさせた。


 そして、配下の者たち全員に退室を命じた。


 ほぼ全員がやせぎすでロリっぽいのが俺のタイプからは外れるが、美人・美少女ぞろいだったんで、ちょっと残念だ。


 しかし・・・俺は口をつけて感心した。駅前のチェーン店のとかより断然うまい。コーヒー道楽なんてほどじゃないが、これって本格的なコーヒーだよな?こっちの世界にもコーヒー豆の木とかがあるのか。


「コーヒーも紅茶もな、他の国まで探して似た植物を見つけて、契約農場に作らせてるからな」

 さらっと言う。どんだけのこだわり、ってか財力?


「別にコーヒーだけじゃない。衣食住全てを、おれが気持ちよく生きられるようにする、それがおれの目標でな。十年以上かかったが、まずまずのレベルまで来た」

 すげーな。


「で、お前は?どういう経緯で、この世界に来たんだ」


 俺は少し悩んだが、これはひとつのチャンスなんじゃないか?と思い、丸ごとこれまでのことを話はじめた。


 俺のコミュ力でも意外にすんなり伝わったのは、もちろん、相手がほぼ同じ経験をしていたからだろう。

 オタク同士思考が似てるから、ってわけじゃないはずだ。


「なるほどな。やっぱり、おれの仮説は正しかったようだな」

「仮説だって?」


「ああ、おれはこれまでに5人の転生者と会ってる。お前で6人目だ」

 ゲンツ卿、もとい秋山源一が語ったことは、俺の想像を超えていた。


 秋山は、やはり典型的なオタク趣味の男で、留年して大学生を人より長くやっていた13年前、大型トラックに轢かれそうになった老婆と孫娘を助けようとして死亡し、転生したらしい。


 それで、やはり神様に出会い、“世界一の大金持ちになりたい”と願った。その結果手に入れたボーナススキルで、あっという間に巨万の富をなした。

 今やどの国にも属さない自由騎士の身分で、金にものを言わせて領地を手に入れ、多数の私兵を抱えて、事実上は独立国の王のような立場なのだという。


「でな、これまで会ったやつらも皆、『複数の人間の命を救って、身代わりに死んだ』経験をしていた」


 そういうことか。


まあ、人の身代わりに死んだ、だけならともかく『複数の人間』の命を守ってという条件までつけば、そうそう多くはないかもしれないな。


 これまで会った5人の転生者のうち、現在も存命と思われるのは3人。

 ここは戦争も多くかなり危険な世界で(あの女神が言ったとおりだ)、転生者は大抵は強力なスキルを持っていて、物語の英雄みたいな役割を担わされがちなこともあり、その分、死亡率も高いようだ。

 秋山はそういうルートを徹底的に回避し、あくまで自分の利になることを追求した、と得意げに言った。


「で、お前の妙なスキルか、見せてくれよ」

 先人としての情報をもらうかわりに、こっちもやつの知識欲に応える、というのが条件だった。


 俺は、粘土の塊を出現させる。

 一応、高そうな絨毯の上じゃなく、テーブルの上だ。こっちも高価な調度品のようだが、まず陶器風の大皿を出して、その上に粘土の盛り合わせだ。


「ぎゃははは! 確かに妙ちくりんなスキルだな」

 笑われたよ。


「まあ、それじゃあ苦労したろうな」

「ユニークスキルって、普通もっと強力なもん?」

 うらやましくなる話を聞いてもしょうがないんだけどね。


「そりゃあな。俺の“商神の寵愛”はともかく、戦闘とか魔法とかで最初からこっちの世界の人間が束になってもかなわん才能があるとか、空を飛べるとか、まあチートだよ。制限はあるが、とりあえず“のぞみ通り”の能力をもらえるんだからな」

 やっぱ落ち込むわ。


「で、もう一つの“お人形遊び”ってのは、実際どうなんだ?」


「リナ、出てこいよ」

 俺は、ザグーが帰った後ずっと、俺の背中に回って気配を消していたリナに声をかけた。


リナはデフォルトのリ○ちゃん人形っぽいドレス姿で、なぜかすごく嫌そうにそろそろと歩き、テーブル上に現れた。


 秋山が眼鏡に手をやってその姿を凝視する。


 俺は、よく見えるようにと思って、「大きくなれ」と唱え、リナを等身大にした。テーブル上でファッションショーみたいな感じか?


 まあ、まだJCだからな。ファッションモデルなんて、おこがましいが。


 その途端、

 テーブルの下に、秋山がかぶりついていた。


「な、なんじゃこりゃあ!」


 え、なに?

 あ、高価なテーブルにヒール履いて立たせるとか、まずかったか?


<きゃっ、やだ!>

 リナがスカートの裾を押さえて、初めて聞く、年相応のかわいい少女みたいな悲鳴を上げた。


「未熟で凹凸のないフォルム、細い脚・・・完璧な造作だ、

 うぉーっ!!たまらん!!!」


 秋山がドレスに顔を寄せて、くんくん臭いを嗅ぎ始めた。 どん引きだ。


「おいおい、そりゃ大げさだろ?さすがに・・・」

 俺が一応、秋山の首根っこを押さえ、リナを下がらせる。


「はっ・・・」

 秋山が我に返る。


「す、すまん。いや・・・」

 今度は俺に脂ぎった顔を寄せてくる、やめてくれ!


「譲ってくれ!金はいくらでも出すぞ!」

 えっ?

「いやあぁーっっ!!ダメ、絶対!だめだからね。シロー、やめてよね!」

 えっ??


 そうだ。

 こいつが助けたのって、老婆と「孫娘」だったな。


 こんな“金がすべて”みたいな男が命がけで人助けなんて、俺も人のことは言えないが、合点がいかなかったんだ。


 こいつは、真性のロリだ。


 間違いない。


 リナは渡せん。

 いや俺がロリだってんじゃなくて、リナが怪我した時のことを思うと、俺とリナは何らかの形で生命がつながってる、はずだからだ・・・


 等身大リナは、俺の背中に隠れてぶるぶる震えてる。初めて見る姿だ。


「いや、これ神様から託されたユニークスキルだから、譲渡不可能なんだよ。で、こいつを失うと俺も死んじゃうって言われてるし、あ、俺に何かあるとこいつも消滅するって・・・」

 ほとんどでまかせだが、ゲンツの顔色が一瞬、こいつを殺して奪い取るか?ってぐらいヤバそうになったものだから釘を刺した。


 まじアブないやつだ。


「そ、そうか・・・」

 まだ、あきらめきれないようだ。


「で、着せ替えもできるんだったよな・・・」

 気を取り直したようにゲンツは、リナを見ながらゴクっとツバを飲み込む。


「あ、あー、例えばな」

 しょうがない、スキルについて教えてやるって条件だったからな。


 リナを前に出して、いくつか着せ替えさせてみる。


 セーラー服、体操服、戦士、魔法使い、僧侶・・・着せ替えスキルで一瞬まっぱになるたび、太った中年男がハアハア息を荒げてる。


 キモい。


 つるつるのなんにもないまっぱに、なぜ?


 リナはぎゅっと目を閉じて耐えている。 さすがに可哀想になってきた。


「まあ、こんなとこかな・・・」と終わろうとしたら、

「待ってくれ、もう一つだけ頼む!」


 いや、俺に寄るなよ。耳に口を寄せてきたゲンツがヤバい希望を告げる。

「・・・じゃあ、これが最後な。SMの女王さま?」


 等身大JCが、凹凸の足りないボディーラインにはとても似合わない、ボンテージ姿に変身する。

 ご丁寧に鞭まで持ってるが、誰得だよこれ?


「う゛おおぉぉーッ、最高だぁっっ!!!」

 はァっ??


「これだ!おれがずっと探していた、理想の女王さまァ!」


 その途端、プルプル震えながら立っていたリナが、キレた。


「いい加減にしろッ、このブタ野郎っ!!」


 鞭が打ち付けられる激しい音と共に、ヒールでゲンツの頭を踏みつける。


 あっ、待て、それは・・・



「いいイイっっ!もっと、もっと女王さまぁ!!」


 そーだよ、リナ。

 それはそーゆーやつ、喜ばせるだけだから・・・


 ビシビシ鞭打たれながら、ゲンツは俺に歓喜の表情で訴える。

「頼む!一晩、一晩だけでイイ、貸してくれぇ!」


**************************


 結局、すごく迷ったが、「イヤがるリナを傷つけるようなことは決してしない」という条件で、一晩だけ貸してやることにした。


 かわりに、カレーナが求める支援を全面的に受けられることになったからだ。


「メイ、武器庫から対アンデッド用の基本装備を10セットと無利子の大金貨10枚、借用証と一緒に、明日の朝スクタリに届ける準備をしとけ」


 ゲンツは「お前は心の友だ、ゲンさんって呼んでくれ」とか言いながら、呼びつけた末席の秘書らしい女に指図していた。


 そして、もう夕暮れだし、リナが一応は心配なんで、俺も一泊することになり、でもやつは、さっそくリナと二人になりたいとばかりに、俺のご接待?を秘書に丸投げして出て行った。


 ・・・リナ、頼むぞ。

(うらむから、うらんでやるから・・・)


 ぶつぶつと念話を残して、リナはドナドナの仔牛のように、太った牛飼いに連れられていった。


 ま、まあ、なんたってリナは動けるとは言っても人形だし。

 体もディテールのパーツがない、つるぺた真っ平らだし。

 だから、いくらドMで真性ロリで変態でも、あんなことやこんなことは物理的に出来ないわけだし・・・大丈夫だ、きっと、たぶん。


 でも、ちょっとだけ心配だ。 スマン、これもお国のためだ、耐えてくれ。



 ゲンツあらためゲンさんの館の中で働いているのは、全員が美女か美少女だが、特に身の回りに置いて重用しているっぽいのは、ロリ属性持ちばかりのようだった。

 ここは決定的に趣味が合わない。


 その中で、メイと呼ばれた秘書は二十代に見えるが、ここでは珍しく成熟した肢体の女性だ。もちろん、十人が十人とも認めるであろう美人で、ちょっと日本風な、欧米人とのハーフかクォーターっぽい面立ちでもある。


 わずかな時間の間に俺の好みを見破ったとしたら、やっぱりあなどれない。


「お待たせしました。シローさま、それではこちらへ」

 必要な手配をすませてくる、と一旦席を外してから30分後、胸空きの広い、それでいて派手すぎないドレス姿に着替えたメイが、控え室に戻ってきた。


「ここでしか味わえない、夢の一夜にご案内いたしますわ」

 そう、妖艶にほほえんだ。

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