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第330話 つかの間の帰還

多くの犠牲を払い、封印の地の調査隊の面々はそれぞれの母国へと帰っていった。



 夜明けと共に、合同調査隊は解散し、各国代表と再会を約して別れた。


「シロー、本当に感謝しています。帰国したらすぐに、王家に伝わる勇者の記録を洗い直すから、なにかわかったら知らせるわ。・・・お礼もしたいし、ぜひメウローヌに来てね」


 神降ろし中の“馬乗り事件”のことをルイフェから聞いたらしく、頬を染め目をそらしたままそう言うマリエール王女がかわい過ぎる、年上だけど。


(・・・エヘンゴホンっ)


 リナにうながされてようやく礼儀正しく挨拶をし、なにか不満げな王女と別れを惜しんで、それぞれパーティー転移した。




 俺たちはミコライを経由し、シクホルト城塞へ。


 ミコライは目に映った範囲だけでも市街地が半壊と言ってもいい惨状だったから、堅牢なシクホルト城塞が変わらずそびえているのを見て、少しだけほっとした。


 けど、城塞に隣接し人間たちが暮らす城下町は半壊どころではなく、廃墟と化していた。

戦乱と、それに続く魔物の大発生、そして今回の地震とさらなる魔物の襲撃。


 ほとんどの者は既にシクホルトに逃げ込んでいるらしい。



 シクホルト城塞より内側、北方山脈内のドワーフ自治領はまだしもマシな状況と言うべきだろう。


 オーリンによると、北方山脈の中央から北部にある火山が次々噴火を起こし、山中の人間の開拓集落(ノルテの母親もそちらの出身だ)はいくつも溶岩に飲まれたり灰に埋もれて壊滅したらしい。

 そして、未確認だがなにか特別に強力な魔物か魔族が出現しているふしもあると言う。


 ドワーフ自治領のある山脈南部でも、山崩れや鉱山の落盤が起き、数十名の犠牲が出ているが、これまでの所、大規模な魔物の侵入は食い止められ、なんとかまだ秩序は維持されている。


 周辺の人間の集落からの避難民を大量に受け入れているため、今後食糧がいつまで保つかなど不安もあるが、亜人戦争後にシクホルトからビーク砦までの山間の平地の開拓を急ピッチで行ったことで、春にはなんとか収穫も期待できる。


 もともと山に閉ざされ孤立した地域であったことが、見方を変えれば自給自足ができていたと言うことで、今回に限っては幸いした面もあるようだ。



 だが、魔王復活の話を伝え、ルセフ伯爵から託された資料を見せると、オーリンたちの様子は一変した。


 年かさのドワーフたち、そして偵察に出ていたオレンも急遽呼び戻され、集落で保存されてきた古い資料が引っ張り出された。


「間違いない、これはじいさまが、亡きオデロン王が残されたものだ。そして、どうやら封印の地には、魔王復活に備えてなんらかの仕掛けも施されていた、とも読み取れるが・・・あの頃じいさまに聞いた話に手がかりもあったと思うのだが・・・」


 オデロン王はオーリンがまだ子供の頃に亡くなったが、魔王の呪いで病身となっていた王から断片的に色々なことを聞いた覚えがあるという。

 大半は冒険譚にあこがれる子供に聞かせる武勇伝のようなものだったらしいが。


 ルセフ伯爵は、封印の地で調べたことをまとめた詳しい資料をニルドナに託し、そのポイントを抜粋した写しを俺に渡した。その中には、俺には全く読めないドワーフ古語を筆写した部分もある。

 ルセフ伯爵には、意味はよくわからないまでも書き写せるだけの知識はあったわけだ。

 

 明日の王宮への報告、そしてあさっての王国会議には、ニルドナさんも同行して調査部分についての詳しい説明をしてくれることになっている。

 だから、俺がもらった写しの方をオーリンに託して、ドワーフの古老たちと解析してもらうことにした。


 午後になって、ニルドナさんと護衛の魔導師は、王都デーバにある伯爵家の別邸へと飛んだ。


 そして俺たちは、キヌークへ帰還した。


*********************** 


 変化した地形に、まず言葉を無くした。


 見慣れた西コバスナ山地が、明らかに変わっている。


 いくつもの山が崩れ、緑の木々が失われ、赤茶けた山肌が剥き出しになっていた。


「「「シロー」さんっ!!」」


 結界の外まで出迎えに来てくれたノルテとルシエン、エヴァに抱きつかれ、カーミラがその輪に加わって、ひとしきり互いの無事を喜び合った後、ニコラスから詳しい報告を受けた。


 前回のスタンピードは死者ゼロで乗り切った俺の領地でも、今回の天変地異とより高レベルになった魔物の暴走で、12名の犠牲者が出ていると言う。

 これは領民だけの数で、ザーオ集落のワーラットや、山の北側に拠点を設けたテモール族の被害は含まれていない。


 大河デーベルにそそぐ村境のキヌーク川は、一部が土砂で埋もれた。

 そのため水が村内にあふれ出して、けさようやくその最低限の普請が済んだところらしい。


 その間、結界の隙間から魔狼の群れが侵入し、村人が襲われたのだ。 


 そして、デーベル河の本流は水量が見てわかるほど減っていた。

 大河デーベルに何か起きているのはたしかだ。


 アポスト村長が半農半漁の南集落の連中に聞いた話では、水棲の魔物も出没しているという。


 最も深刻なのは、西側のマイン集落周辺だ。


 そちらでは火山の噴火が起き、北の乾燥地帯と俺の領地を隔てていた山塊が大きく崩壊した。

 それによって北と西からアンデッドの大群が押し寄せ、現在、センテが自警団の半数とヨネスクも連れて行ってるらしい。


「まずそっちかな」

「出来ればそうしていただけますか?東側はルシエン様たちのおかげで結界も張り直せましたし、当面はアンゲロたちがいれば大丈夫だと思われます」


 ニコラスが済まなそうに言うのは、俺やリナのMPを心配してるんだろう。


(シロー、きょうはMP回復薬をまだ使ってないよね?)


 そうだな、薬を使えばなんとかなるだろう。

 久しぶりに女子たち全員とパーティー編成して、西へと飛んだ。




“あれ?リナが登録ポイントを間違えたのか?”って最初は思ったぐらい、西部は完全に姿を変えていた。


 山塊が大きく失われて地割れが走り、遠く平原地帯まで見通しがきくようになっている部分もある。


 その先で、激しい戦いの気配がある。


 そして逆に標高を増した場所もある。

 北西方向には、見覚えの無い、噴煙を上げている山があった。あれが今回噴火したところか。

 温泉地や鉱山地帯のずっと奥の方にあたるようだ。


「シロー、魔物がいるわ。アンデッドね」

 この辺は硫黄臭が強烈だし、今は火山の臭いも色々混じってるから、カーミラの嗅覚よりルシエンの精霊による察知力が上回ったらしい。


 西側の、領地境の方で戦ってるのはセンテたちとアンデッドの群れだと思うが、それより内側にも平原地帯のアンデッドが既に入り込んでるらしい。


「みんな、武器を出してくれ」

 錬金術の“効果付与”で、アンデッドに効果的な聖属性を全員の武器に付与する。

 タロたち粘土ゴーレムのセラミック剣にもだ。


 コモリンとワン、キャンを探索に放って、地図スキル上で散らばる群れを把握する。


「レベルが高めね。ゾンビでなくグールが中心、もっと上位のものも混ざってるわ」

「うん、強そうなの、3匹いると思う」


 以前、北方街道で夜営した時に襲ってきたアンデッドは、レベル3ぐらいのゾンビが殆どで、スケルトンとグールが少し混じっているぐらいだった。


 今回押し寄せて来たのは、LV6ぐらいのグールが中心で、もっと高レベルのアンデッドロードとかが混じってるようだ。

 これが魔王復活の影響なのか、魔物が全体に2,3レベルは上昇してるような印象だ。


 だが、わかっていれば今の俺たちの敵じゃない。


 封印の地への過酷な調査行を通じて、俺は錬金術師LV27、カーミラもLV23、リナは僧侶としてもLV19まで上がっている。ちなみに魔法戦士はLV24、今回集中的に育てた忍びも一気にLV17だ。


 そして俺がいない間、こっちで魔物の掃討にあたってくれてたルシエンたちも、かなり経験値を稼いだようだしな。


 最初にリナの流星雨を一発だけ、群れの密集しているところにぶち込む。

 それから二手に分かれ、挟み込むようにしながら聖属性の武器で駆逐していく。


 アンデッドは仲間がやられても“逃げる”って行動をあまり取らないから、まとめて始末するにはやりやすい。


 30分ほどで領内に入り込んでいたやつらを駆逐し、センテたちの所に合流する。


 数の多さは厄介だったが、日が暮れきる前に、なんとか領地の西側の防衛ラインを再構築出来た。




「お館様、助かりました。そして、魔王の封印の地でのことも・・・ともかくご無事で何よりです」

「うん、みんなもお疲れ様。とりあえず、結界も張り直したし、明日は王都に行かなきゃならないから、後は任せるよ」


 センテとヨネスクたちは、やはり領外から押し寄せたアンデッドの大群と戦っていた。

 連れてきた自警団の者たちと、マイン集落の男たちに何人か負傷者が出ていたけれど、治療可能な範囲だった。


 彼らはこの3日間で数百匹ものアンデッドと戦ったらしい。

 しかも、日ごとに相手の数が増え、強さも増している印象なのだと言う。


 ルシエンに結界を張り直してもらい、噴火や地震で失われた魔道具も設置しなおしたから当面の心配は減ったとは言え、今後さらに高レベルの魔物が現れると見るべきだろう。


 だから、明日、センテとルシエンらに残ってもらい、地魔法である程度の防壁作りも行ってもらうことにした。


 侵入のメインルートになりそうな所だけでも魔法で急いで壁を作り、後は石細工が得意なドワーフたちを中心に、集落の住民を動員して物理的な作業で壁作りを進めていくことにする。


 ハルドルやビョルケンらベテランのドワーフは、かつてオーリンの下でビーク砦の建設に携わった経験もあるそうで、簡易的なものでよければ防御拠点も作れると請け負ってくれた。


「シロー殿、魔王の復活のこと、聞きましたわい。我らドワーフ族には、200年前の戦いのことは代々語り継がれております。我らは魔法も使えぬし奇蹟も呼べぬが、地の穴に潜み、決してあきらめず、生き抜くための戦いを続ける術は知っております。だから、恐れることはありませぬぞ」


 ビョルケンがそう自らに言い聞かせるように話すのを、無事を喜び合っていたノルテとアナ、エイナも神妙な顔で聞いている。


 どれだけ時間の余裕が残されているのか?

 そして、本格的に魔王の軍勢とかが襲来したら、高さ2,3メートルの防壁とか簡易の砦とかがどの程度役に立つのか?

 それはわからない。

 悲観的な予想ばかりが浮かんでくる。


 けれど、何もしなけりゃ滅びるだけだ。あきらめたらそこで試合終了なのだ。




 その晩は、集落の者たちが仮住まいにしている岩盤が安定した洞窟に泊まった。


 俺と女子たちは奥の方で固まって藁を集めた粗末な寝床に入り、パーティー編成した遠話で、今後のことをひそひそ?話し合った。


 ルシエンには、マリエール王女の神降ろしの時の言葉を詳しく聞かれた。


 かなり長い言葉だったから俺も全部正確には覚えてはいなかったんだけど、その時思い出したのが、あの時、脳裏に流れたログ画面みたいなものだ。


 ステータス画面を意識すると、俺の保つスキルの中に、ひとこと<ログ>って謎表示が増えていた。

どうでもいいけど、<残りSP>が記憶より1ポイント減っている。

 これってつまり、自分の意志によらずスキルを得てスキルポイントが消費されたってことか。


 そのログって表示をタッチするみたいに意識を向けると、あの時、マリエールが、あるいは彼女に憑依した何者かが発した言葉が、そのまま記録されていた。


 パーティー編成しているみんなにも見えるようだ。

 不思議なことに、文字の読み書きがまだ苦手なカーミラにもちゃんとわかるらしい。これは物理的な文字では無く脳内の記録だからか、それともパーティー編成で俺たち他のメンバーが読解できているからなのかはわからないが。


*時ハ満テリ

*魔ト聖ト転生者ト、合スル時ハ満テリ

*転生者ハ闇ト合シ闇ヲ覚醒セシメ世ヲ滅ボサン

*転生者ハ闇ト対峙シ光ヲ覚醒セシメ闇ヲ祓ワン

*勇者ヲ探セ

*勇者ヲ目覚メサセヨ

*ソレナクバ百年ノ暗黒ノ王国ガ到来セン

*王ハ墜チ、最モ暗キ道ニノミ光アラン

*小サキ者ハ力ナキニアラズ

*愚カナル許シハ常ニ過テルニアラズ

*三者再会シ諸族結集ス

*竜ノ巣ヲ、深淵ノ朽チヌ木ヲ、死セヌ骸ヲ求メヨ


(どういう意味なんでしょう?勇者を探して目覚めさせろ、ってことはわかりますけど・・・)

(後半は手がかりなのかしら?リリスに聞いたら何か知ってるかしら、何百年も生きてるはずだし・・・)


 ノルテとエヴァが感じた疑問はみんなが抱いたものだ。


 そして、ルシエンは何も言わず、じっと考え込んでいるようだった。

いよいよ次話で、第四部完結予定です。

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