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第33話 アンデッド

迷宮地下二階層の主を倒した俺たちは、続く三階層に降りる。しかし、そこには大きな壁が立ちふさがっていた。

 俺は大量の粘土を消して、MPを回収した。


「えっと、お人形さん?」

 皆、疑問に感じていることを切り出したのは、やっぱりベスだった。


 そりゃ気になるよ。

 支給された革鎧の上に、魔法使いのこだわりか、それとも何か魔法的な効果があるのか、複雑な紋様のついた緋色のローブを着込んだベスの姿。

 それとうり二つの格好をした女が、目の前に立ってるんだから。


 いつも以上に眉間にしわを寄せて、ガンつけてる、って言うよそれ。


「あー、なんて言うか、あのスキルが増えてて、なんか着せ替えるとそれに合った能力っていうか・・・」

 俺の説明能力に期待しないでほしい。


 集まってきた仲間たちに、しどろもどろになりながら、スキルレベルアップで得た“着せ替えでなりきり”という能力について、俺の想像を交えて伝えた。


 たぶん、特定ジョブの人の服装を真似して変身させると、そのジョブの能力もある程度得られるんじゃないか?

 そう思って、俺はあのとき、リナを一旦小さくして視界から消し、ベスをイメージして“着せ替え”し、そして。


「うまく奇襲が決まったのは、ラルークがあいつの魔法の盾の隙を狙って動くだろうし、奴もそれは予測しているだろうから、ラルークが動いたら逆方向に回り込んで魔法攻撃しろって」

 そう指示しておいたんだ。


 ちなみに、小型化したリナを着せ替えるとそれまで着ていたセラミック鎧とかはどうなるのか予想できなかったが、自動的に俺のアイテムボックスに収納されたようだ。便利に出来てる。


「よくそこまで考えたわね」

 カレーナが感心した声をあげる。

「エロいこと以外も考えられるんじゃないか」

 ラルークさん、やめて。せっかく好感度あがってたのに・・・


 ただ、魔法は使えたようだが、ベスのより威力は低そうだ。

「他にも呪文とか使えるのか?」

「無理、「火」の魔法だけしか浮かばない」


 思いついて、リナを判別スキルで見てみる。

<リナ 人形/魔法使い

    呪文 「火」   >


 情報が少ないな。


「火は、魔法使いがLV1で使える呪文です」

 ベスが考えながら口にする。

「そうすると、そのジョブのLV1になるってことか」

 セシリーが首をかしげる。


「レベル表示が見えないんで、そもそもレベルがないのかも・・・」

 俺は思ったことを告げる。


「だとしたら、そのジョブの初期に持っている能力だけある、ということかもしれないわね」

カレーナが納得したように頷く。

「だとしても、魔法を使えるメンバーが増えるのは頼もしいわ」


「あ、お姫さま、僧侶が最初に覚えるのって・・・」

 思いつきを口に出してみる。

「LV1の呪文?“浄化”よ。魔の穢れを清めるのが、聖職者の基本的なつとめとされてるから」


「僧侶にもなれるのか?」

 セシリーが聞いたので、“着せ替え”させてみた。一瞬裸になるのを忘れてた。

 みんな、どうして俺を非難する目で見るんだよ・・・


 カレーナそっくりの服装になったリナを、本人はちょっと複雑な表情で見てる。

「鎧のサイズが合ってない・・・」

 あー、特に胸囲がゆるそうだ。


 装備のサイズとかどう決まるんだ?

 僧侶に変身って言うより、カレーナを意識してたもんだから、華奢なリナにはサイズが合わなかったのか?謎だ。でも、俺のせいじゃないよね?

せっかくの好感度が・・・


「リナ、浄化とかできるか?」

「シローの心を? 無理じゃないかな」


 そうじゃない! てか、頼むから、みんな納得しないで。



 気を取り直して、リナにオーク魔法戦士の遺骸を“浄化”させてみた。


 カレーナがやるようにスムーズにはいかず、何度か淡い光が点滅するような感じになり、それからじわじわっとオークの体が霞んでいって、しばらく経つと魔石に変わった。


 それと共にまた、地響きと共に結界が破れる感覚があって、階層の地面が陥没していく。

 俺たちはあわてて魔石を回収し、入ってきた端の方に駆け戻った。


 息を整えながら、カレーナがリナの浄化の様子について説明してくれた。

「レベルの高い魔物ほど、浄化するのも大変だと言うわ」


 なるほど。やはりリナは、僧侶のジョブになってはいても最低限の力しかない、ということなんだろう。経験を積ませることで、レベルアップとかはできるんだろうか。


それでも、雑魚敵の浄化にはカレーナの負担を減らせる、っていう意味はあるか。もっとも、リナを働かせるには俺のMPを消費してるような気もするから、どっちが全体として得なのかはわからないけど。


*************************


 ラルークがまた宝箱を見つけ、カギをスキルで開けて、再びいくらかの砂金と、宝石を見つけた。

 迷宮の主を倒すと出る、ってのがお約束なのか。


 それから俺たちはまた、ロープを下ろして地下三階層へと降り立った。


 いや、降り立つ前から、イヤな空気が立ちこめている。

 これは・・・死臭だ。


 上層から陥没して出来た広間のような場所。また、その一角にこの階層の迷宮となる洞窟の穴が開いている。

 その奥から、多数の気配が近づいてくる。


「これは、アンデッドの群れだね」

 ラルークが索敵した情報を口にするより前に、皆それを感じていたんじゃないかと思う。

 RPGではお約束の、動く死体系のモンスターだ。ゾンビとかグールとか、スケルトン=骸骨戦士とかな。


 そいつらは、まるで無警戒に、ザザッザザッと足を引きずるようにゆっくり、穴から出てくる。

 次々と、つきること無く。

 一体何匹いるんだ?俺の地図スキルでは、洞窟の中は視認できたところまでしか表示されないが、その範囲外から途切れること無く赤い光点が現れてくる。


遠目にもわかる、腐敗した姿。ゾンビのたぐいだな。

<ゾンビLV3><ゾンビLV3>・・・その他大勢だ。


 ラルークが素早く先頭の奴に矢を射るが、見事に頭に突き刺さったまま、平然とこっちに向かってくる。


 ベスが範囲魔法にした炎の渦を放つ。火にまかれて何匹かが燃え上がるが、焼けた腐肉の悪臭が上がるだけで、そのまま歩いてくる。

 絞り込んで威力を増した炎を、なんどか外したが1匹に直撃させ、ようやく1匹、焼き尽くして灰に出来た。

それだけで、結構MPを消費したのか、ベスの息が荒い。


 グレオンが、試しにゾンビに向かって行き、素早く首を切り落としたが、それでも変わらず進んできてグレオンをつかもうとする。


「浄化!」

 その途端、ゾンビが痙攣して動きを止め、砂のようになって消えた。


「カレーナ様!助かりました」

 グレオンが後ろについてきたカレーナを振り向き、礼を言った。


「囲まれるとまずい!」

 セシリーの声に、俺たちはロープを下ろした所まで下がって半円陣を取る。

 相手の動きが遅いから、逃げることはできる。


 しかし、浄化の呪文にこういう使い方が出来るのは助かるが、射程が短く、すぐそばに行かないと使えないようだ。そして、一度に一匹しか消せない。


俺は全員を囲う、首の高さまでの粘土壁を作りだして、ゾンビの群れの接近を阻む。そしてカレーナだけでなくリナも、覚えたばかりの浄化を使い一匹ずつ消していく。

 壁を乗り越えようとする奴らは、俺たち前衛陣が剣で払い落とす。


 きりがない。多勢に無勢だ、防ぎきれない。


「撤退します! 最初にベスが上がって、上から魔法で援護を」

「はいっ、すみません」

 カレーナが浄化を連発しながら指示する。


 腕力の無いベスには、ロープ登りは時間がかかる。

「シロー、攻撃は考えなくて良いから、ゾンビが入って来られないように!」

「わかった」


俺はもう視界確保とかは無視して、一気に高さ4メートル以上の粘土壁を出して、再度まわりを囲んだ。

 きつい、MP枯渇だ。


 既に入り込まれたゾンビとグールがあわせて3匹。カレーナとリナがゾンビ2匹を浄化するが、残るグールはラルークの短剣に貫かれながらも、そのままつかみかかる。グレオンが蹴り倒すが、軽く腕を捕まれただけのラルークが膝を着いてる。

カレーナが立ち上がったそいつを消す。


「ラルーク!」

セシリーが抱きかかえるが、顔が土気色で瞳孔が開いてる。

「毒か?」


「いえ、“浄化”!」

駆け寄ったカレーナが、再び浄化をラルークに向かって唱える。青い光が体をゆっくり包み、明らかに顔色がよくなる。こういう使い方もするのか。

 さらに“癒やし”を唱え、体力を回復させる。


「・・・あー、ありがと、カレーナさま」

「アンデッドの攻撃は呪いの一種とも言われるから、浄化もしないと、衰弱が止まりにくいの」


 その時、先に上がっているベスが、上から壁の外に魔法を放つのが見えた。

 ベスの声がパーティーの脳内に直接届いた。“遠話”という新たなスキルというか呪文らしい。


(壁のまわりに、びっしりゾンビがとりついて、よじ登り始めてます。

 急いで上がって下さい)


「ラルーク、大丈夫?」

「ん、問題ないっすよ」

 少し憔悴しているものの、顔色が元に戻ったラルークは、そう言うと短剣と背嚢を身につけロープを片手だけつかむと、まわりを警戒しながら身軽に急斜面を登っていった。


 続いて、カレーナ、セシリー、リナを収納した俺が順番に登り、最後にグレオンが上がってきた。


 ロープを引き上げた所で、カレーナの合図と共に粘土壁を消し、MPを再吸収。

 それと同時に壁に群がっていたゾンビが、我先に押し寄せ、急斜面を上ろうとする。足下が崩れるし上れそうにないが、折り重なるように互いを踏み台にして段々上がってきてる。まじか。


 ベスがMPを使い切る勢いで炎をたたきつける。

 さすがにゾンビの先頭集団は焼き払われ、残りの動きが鈍った隙に、俺たちはワームの抜け殻の亀裂の所まで駆け戻った。


 ここが一番狭くなってるからな。

 回収したMPを使ってここに粘土壁を築き、ようやく一息つくことが出来た。

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