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第307話 原因究明

センテたちから西コバスナ山地北側の迷宮で起きている異変について報告を受け、翌朝、俺たちは現場に向かった。

 迷宮ワームが狂乱状態になり、迷宮の階層ごとの結界が破れて、多数の魔物が地上へとあふれ出している――――どうやらそれが、今回のスタンピードの原因らしい。


 とは言え、王都に公式な報告をするには、領主貴族が自らの目で事実を確認する必要があるだろう、ということになって、翌朝夜明けと共に俺も迷宮に向かった。


 メンバーはきのう迷宮調査に入ったグループからアンゲロをはずして、代わりに俺とリナが入った形だ。


 きのうは情報収集優先で、センテたちはやり過ごせる魔物はスルーして進んだこともあるが、前日に攻略したばかりの迷宮とは思えないぐらい、この日も大量の魔物と出くわした。


 やっぱり、普通の迷宮の魔物の湧き方じゃない。


 ただ、一階層からいきなりオーガロードとかLV10以上の大物が出るわりに、下の階層に降りても出くわす魔物は変わらなかった。


 これは、既に階層を隔てる結界が完全に失われていて、深い層の魔物が地上までどんどん上がって来る状態だからだろう。


 そう言う意味で、俺たちの領地付近に今のところ徘徊しているのがオーガの上位種クラスまでってことは、近隣の迷宮が地下何十階層もあるようなハイレベルなものではなさそうだとも考えられるわけだ。


 これは、幸運だったと言えるだろう。


 例えばパルテアで潜ったヘラート迷宮は少なくとも二十数階層あって、アースドラゴンとかと戦った。

 あんなのが地上に次々あふれ出て来たらたまらない・・・って言うか、もし俺たちの考えている通りなら、そんな惨状が起きていることになるのだ。


 そんなロクでもない予感に戦慄しながら、それでもどんどん進む。


 流星雨まで使える高位の魔法職が二人もいるし、壁役としてタロたちゴーレムも惜しみなく投入したから、攻略は早い。


 昼前には六階層にたどり着いた。


 五階層まではどこも似たような状況――――今やこの迷宮の支配種となっているらしいオーガやその上位種が中心で、そのエサになっているような魔獣系の魔物が点在する状況だったが、六階層だけは違った。


 迷宮最下層に特有の、スライムとか蔓草などの植物系魔物が多い原始的な生態系だ。


 そして、聞いていた通りだった。


 最奥に進むと、こっちに直接見えているのは尻側だけだが、殻を真っ赤に染めた巨大な迷宮ワームの体がビクビクと痙攣するようにふるえていた。

 その震えが迷宮全体に絶えず小さな地震を引き起こし、時折バラバラと天上から小石が落ちてくる。


 ふるえと共に、赤と言っても色合いは明滅するように変化している。

 ワームの体液は赤くはないから、これは一種の警戒色みたいなものか・・・


 センテの“透視”魔法で、ワームの全体像も確認する。


 全身が苦痛にのたうつように蠢き、殻がひび割れ、そこから体液が漏れ出している。

 それとともに、普通の状態の迷宮ワームとは比較にならないほど多くの魔力があふれ出しているのを感じる。


 その魔力は俺たちの足にもねっとりと絡みつくのを体感するぐらい濃密で・・・そして、見る間に、地面や壁に、新たなスライムが生まれ出している。


 しばらく、身を守るための結界を張って観察する。


 まるで植物の成長や、受精卵から生物が誕生するまでを早回しで見ているみたいに、みるみるうちに、魔力溜まりの中からスライムが、目の無い蛇やミミズのような魔物が生まれ、魔力に満ちた蔦が伸びていく。


 気が付くと、カエルやらネズミみたいな魔物も湧いている。


 もう間違いないな。


 こうして、通常の何十倍、何百倍ってペースで魔物が生まれ、それが次々地上へとあふれ出しているんだ。


 これが魔王の力とかによるものなのか?直接的なことはわからない。

 ただ、多分あの魔力地震で迷宮各階層の結界が破られたんだろう。


 そしてさらに、迷宮ワームは見えない力で暴走させられて、おそらくは自分の生命力を犠牲にするように、無理矢理大量の魔力を絞り出している、そんな様子に見える。


「討伐しますか?」

 ヨネスクが尋ねた。


 問題はそこだ。


 魔物の大量発生の原因は間違いなくこいつだから、迷宮ワームを倒すのが水道の蛇口を閉めることになるはずだ。

 けど、それでなにかまずいことが起きたりしないだろうか・・・


「崩落の危険は高そうですな」

 センテが冷静に言う。


 迷宮ごと崩して埋めちまう、って考えも浮かんだけど、実際問題、安全な地上に戻ってから迷宮全体を完全に潰して埋めるってのは、なかなか簡単じゃないだろう。


「やっぱり倒すしかないだろうな・・・やったら即転移ってことで」

「それしかないでしょうな」


 この迷宮ワームはLV24だ。

 ワームの物理結界を単純に武器で傷つけられるには同レベル以上が必要とされるから、この場ではLV25の俺だけってことになる。


 まあ、馬鹿正直に剣で倒す気なんてないよ?俺の剣で倒せるとも思えないし。


 役割分担を決めて、カウントダウンする。


 ワームが腐食液を噴出する、そして最大の弱点でもある“尻の穴”。

 そこにセンテが、魔力強化で練り上げた貫通力特化の“魔槍”を叩き込む。


 巨大なワームの体がはねるように、ドンッ!と揺さぶられた瞬間には、魔槍で開いた穴の中にタイムラグ無く放たれたリナの流星雨がぶち込まれた。


 爆発するような衝撃が迷宮を揺るがし、俺の粘土壁とギヨームの魔法壁が、飛び散る体液と崩れ落ちる岩を数秒だけ持ちこたえる。


 そして、センテが多重魔法のスキルで準備していた転移を発動した。


 崩れ落ちる六階層の天井や壁が視界から消えた時には、地図スキルに映っていた最大の赤い点も消えていた。



 いったん、地下一階層の迷宮出口まで転移で避難した俺たちは、落盤が収まるのを待って、再び半壊した六階層に戻った。


 今度はセンテとリナの地魔法で、落盤を一時的に防いだり、なんとか通れる穴を掘りながら迷宮ワームの遺骸のところまで進み、ヨネスクに“浄化”と“封印”を唱えさせる。


 猫人ハーフのスカウト、ネイズがかろうじて巨大な魔石を回収し、今度こそ完全につぶれかけた迷宮から、再び転移で逃れた。


 かなり危なかった。


「魔石の回収や封印は、最悪あきらめるべきかもしれませんな」

「魔石はともかく、封印はしておきたいところですが・・・」

 迷宮を出たところで、肩で息をしながらセンテとヨネスクがそう意見を交わす。


 そうだよな。

 これだけのメンバーで、しかもたかだが6階層の迷宮でこれだけ苦労するんだから、他の地域ではもっと大変かもしれない。


 ただ、これで今回のスタンピードを食い止める一応の策は見つかった。


 俺たちはキヌーク村に戻るとすぐに、王都に遠話をつなぎ報告した。


***********************


「魔物の大発生の原因は迷宮にあるのでは?」


 当然と言えば当然だけど、そう思いついたのは俺たちだけじゃなかった。


 俺たちと前後して、同じように考え調査した領主や軍の指揮官、そして奇特な冒険者もいたらしい。


 数日のうちに、エルザーク王国とレムルス帝国など友好関係にある国々の間で魔法通信が飛び交い、そしてあらためて領主貴族らに指示が与えられた。


《至急、領内の全ての迷宮を調べ、可能な限り討伐・封印すべし。

 手に余る場合は速やかに国軍に出動要請をして、魔物の湧出を止めよ》――――と。


 通常は領地の治安確保は領主貴族の責務だが、今回ばかりは国軍が全面的に支援することになった。


 大量のドラゴンとかが国土にあふれたら、国が滅びるしかないんだから。


 階層の深い迷宮を幾つも抱えるような地域では、とうてい簡単に実現はできず、未だ壁に守られた城市に避難し、救援を待つしかない地域も多いらしい。


そして、国によっては主要都市が高レベルの魔物の群れに襲われ、無政府状態になってしまっているところさえあるらしい。


 事態はまだ、全体として見れば悪化の一途を辿っているのかもしれない。


 だが、とりあえず、俺の領地はいったん落ち着きを取り戻しつつある。


 ロトトが治めるシゲウツ集落との間の魔物は駆逐され、とりあえず高レベルの魔物の侵入は無い。


 そして、この掃討作戦を通じて、うちの領内で俺が目をつけた者たちのレベルもかなり上がっている。

 流星雨で魔物の群れを始末する際に、こまめに編成を変えていたからね。


 戦闘向きじゃないオリハナも、自警団と一緒に魔物の追い込み作業に参加してもらい、魔法使いLV9まで上げた。


 これで、一種の転移魔法である“帰還”や、“結界”の呪文も覚えた。

 俺たちが不在の時に、領内を守る結界の張り直し作業とかを任せられるのは大きい。

 自分の魔法がみんなの役に立つって自信を持てるようになってきたのか、以前みたいなおどおどした雰囲気が無くなってきたのもいいことだと思う。


 マイン集落からワーベアのおっさんやドワーフの若手たちも何人か呼んでレベリングしたから、西側の守りも少し強化できたと思う。


 実はマイン集落には、ロトトのところから新たに移民を受け入れることになったんだ。


 正確にはロトトの領民ではなく、スタンピードで魔物に飲み込まれてしまった東シゲウツ集落の住民だけど。


 あの時、東シゲウツのホラン准男爵という領主は、領民を見捨ててビストリアに逃げたらしい。

 それで、壊滅した集落から、かろうじて2~300人の民が西シゲウツに逃げこんだんだ。


 ロトトのところには俺が作った結界装置を幾つか追加で貸してやったから、西シゲウツ集落全域で復興が始まってはいるんだけど、さすがに全部の避難民は養いきれないってことで、こっちでも引き受けることにしたのだ。


 キヌーク村の西部ではまだまだ未開発の土地が広いし、冬野菜の収穫も始まって、なんとか食糧も足りそうだったから。


 北集落と、デーベル河沿いの小さな西集落に2,30人ずつ。そして大半はマイン集落へ。


 これで領内人口はざっくりこうなった。


・中集落(領主館のある集落)500人

・北集落(すぐ近く)    400人

・南集落(中集落の南1km)300人

・西集落(領地のほぼ中間点)100人

・マイン集落(新設の鉱山他)200人


 合計約1500人と、わずか1,2か月で1.5倍に増えている。

 内政担当のニコラスの負担が増えているけど、そこを補佐する人材も物色中だ。


 そんな感じで魔物への警戒を続けながら、領内の立て直しを進めていたとき、王都から再び連絡が入った。


 それはこれまでのような、各地の領主貴族への一斉連絡じゃなかった。


 名指しで、デーバへと呼び出されたんだ。

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