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第306話 魔物あふれ出す迷宮

危機に陥ったロトトたちを助け、魔物に取り囲まれた商人と護衛を救出した2日後の朝。

「お館様、奥様方、くれぐれも無理はせんで下さいよ?」

「ん、そっちこそ。迷宮の方がずっと危険だしさ。あくまで調査メインだからな」

「わかってますとも、では」


 そう言うと、センテたち迷宮調査チームは、馬首を北に向けた。

 俺たちは、自警団と領民の中から募った有志を引き連れ、これからの配置を確認する。


 2日前、助けた商人のホジキン夫妻と、生き残った冒険者パーティーの3人に、キヌーク村まで連れて行ってくれないかと頼まれた。


 彼らの本来の目的地は王都デーバだったけれど、すぐに向かうのは到底無理そうだったから、とりあえずキヌークに連れて行き、翌日、ホジキン夫妻はセンテが転移魔法で送って行ったんだ。


 ホジキンは俺たちに約束していた礼金をポンと払っただけでなく、今後力になれることがあれば何でもする、と言い残していった。

 商人夫婦はまずはデーバの商業ギルドに行って今回の顛末を報告し、それから知り合いの貴族のところを頼るとのことだった。


 一方、トレバーたち3人の冒険者はキヌークに残った。


 自分たちにはホジキン夫妻のように命を救ってもらった礼を払えるほどの財産も無いし、受けた恩は自らの働きで返したい、というのだ。


 魔物があふれる現在の状況下では、戦力が1人でも増えるのは助かるから、当面うちの領兵みたいに働いてもらうことにした。


 そして、領内の結界の様子を再確認し、次にやる必要があるとみんなの意見が一致したことは2つ。


①西シゲウツ集落との間に囲い込んだ魔物の掃討

②西コバスナ山地の北側にあるとされる迷宮の調査


 ①はいつまでも放置できないのはもちろんだし、②はつまり、今回の魔物の大発生・スタンピードの原因が、各地の迷宮にあるのでは?という仮説の検証だ。


 トレバーたちに聞いた迷宮の中でここが一番近いし、西コバスナ山地までは俺の所領とも言えるから、討伐の責務が課される領主を挙げるなら俺ってことにもなるだろう。

 他の2つの迷宮は、ラボフカとかビストリアの統治者の責任範囲だ。


 王都からは各領主宛の魔法通信で、今回の魔物の大量発生がエルザーク全土のみならず、外交関係のある大陸の各国でも起きていることが知らされていた。


 そして、未確認情報として、その程度は北部ほど深刻な傾向が見られるとも。

だが、その原因についてはなにも情報が無かったし、いつ終わるのか?そもそも終わりがあるのか?なんてことも皆目わからなかった。


 だからこその調査だ。


 そして、散々議論した末に、領主と妻たち全員が連絡が取れない迷宮に入るのはさすがにやめてもらいたい、と家臣たちに説得され、迷宮調査隊はこうなった。


 センテ・ノイアン 魔導師(LV20)

 ヨネスク 修道士(LV19)

 アンゲロ 戦士(LV11)

 トレバー 冒険者(LV12)

 ネイズ  スカウト(LV12)

 ギヨーム 魔法使い(LV11)


 つまり、俺と女子たちをのぞいて領内で頼りになる3人と、今回助けた冒険者パーティーの生き残り3人だ。

 西シゲウツ救援作戦を通じてセンテとヨネスクのレベルが上がって、特にセンテがリナと同様、強力な範囲攻撃魔法“流星雨”を使えるようになったことは大きいから任せることにした。


 やや前衛タイプが少なめだけど、ヨネスクはボスコ率いる神殿パーティーで普通に前衛もこなしていた武闘派だし、全員のレベルとしても数階層の迷宮なら攻略可能な戦力だと思う。


 そして俺たちは、村人の中から戦えそうな者たちを30名ほど募って、西シゲウツとの間の魔物の掃討作戦を行うことになった。


 ちなみにうちのパーティーでも、ノルテが錬金術師LV15、エヴァが騎士LV19に上がり、リナは魔法戦士LV22になっている。


 俺がこっちの担当なら、王都とか領内の別の場所から緊急の魔法通信が入った時にもすぐ連絡が取れるし、この作戦はロトトのところと一応共同作戦の形になるから、こっちも領主がいた方がいいってのもある。


 作戦は割とシンプルだ。


 掃討すべき地域は10kmぐらいの範囲に及ぶけど、それをいくつかのエリアに分けて順番に攻略する。


 村人にはうちの女子やタロたちと共に魔物の追い込み役をしてもらう。

 そして、集まってきた先で待ち構えたリナの流星雨でまとめて駆除する。


 タイミングが合えば、ロトトの領兵たちにも追い込み役をしてもらう。


 その繰り返しだ。


 一番ネックになるのはリナの、つまりは俺のMP切れだから、ひとつの決断をした。

 これまで貯めてあったスキルポイントを5SP消費して、“MP回復(小)”ってスキルを習得したんだ。


 これで少しでも魔力の回復効率を上げて、1日に何発も流星雨を使えるようにしたい。MP回復薬は貴重だし、副作用も強いから1日1錠にするのが鉄則と言われる。

 

 MP回復スキルを得たことで、ちょっとだけ期待していた副産物もあった。

“魔道具生成”で、MP回復効果のついた道具を作れるようになったのだ。


 セラミックのリングを使って魔道具生成したら、<MP回復(微)の腕輪>なんてのができた!・・・あれ?「微」だよ。「小」じゃないんだ。


 やっぱり魔道具生成でできるのは、自分の持つ魔法やスキルの、ちょい劣化版らしい・・・この世界ってつくづくハードモードだよな。


 少し残念だったけど、でも自分が持つスキル“MP回復(小)”と“MP回復(微)の腕輪”をはめた効果が重複するなら、かなりの回復効率になるはずだ。

 2つ腕輪をはめたらさらに2倍!・・・なんてうまい話はないかもしれないが、ま、おいおい検証しよう。


***********************


 この日は、あえてうちの女子たちではなく、領民の中で今後のためにレベリングしておきたい連中を、交替で俺のパーティー編成に入れた。


 そして、休憩を挟みつつリナの“瞑想”と俺の“思索”も駆使してMP回復しながら、夕暮れまでに放った流星雨は10発以上。


 掃討した魔物の数は500匹は超えたはずだ。


 キヌーク-シゲウツ間の結界で囲ったエリアの半分近くは、きょう一日で掃討した。

 さすがに疲れた。


 素人の領民たちもよく頑張ってくれたし、それを率いたうちの女子たちの指揮ぶりも見事で、治療できないような深手を負った者は幸い1人もいなかった。


 パーフェクトゲームだな。


 掃討し終えた範囲にルシエンに結界を張ってもらい、再び侵入されないようにしておく。


そうして帰途についたところ、センテから遠話が入った。


「ん?おつかれさん、そっちは大丈夫か。誰か大けがしたりしてないよな?」


《はい、みな無事です。先ほど迷宮から出たところですが・・・予想通りでした。原因は迷宮の中にあります》


 いつになく深刻なセンテの声音だった。


***********************


 両チームは館で再合流し、広間で夕食を食べながら、きょうの戦果と得られた情報を共有した。

 内政担当のニコラスと、アポスト村長も同席している。


 迷宮組を率いたセンテの報告に、みんな耳をそばだてる。


「迷宮の入口は、西コバスナ山地の麓の灌木林の中にありましたので、西コバスナ山地自体を当家の所領とみなすなら、領内とも言える場所でした・・・」


 王都で拝領した巻物に書かれている俺の所領は、『キヌーク川周辺から以西で、南北はデーベル河から西コバスナ山地まで』って、ちょっと曖昧な表現だった。


そもそもちょっと前まではエルザーク王国の土地でさえ無かったんだから、適当といえば適当なんだけど、これだと、“西コバスナ山地は全く含まない”から“西コバスナ山地も丸ごと含む”までの解釈が可能だ。


 これまでは漠然と、西コバスナ山地の稜線より南側の斜面、つまり南半分はうちの領地って見なして開発とかをしていた。実際、村人も南斜面には住んでるし。


 その解釈なら、北側の平定は義務じゃ無いんだけど、まあどっちにしろ魔物が湧く場所が近くにあるなら叩いときたいよな。


「で、我々が到着した時、周辺には魔狼LV9が複数徘徊しており、さらに観察を続けたところ、魔熊LV11が迷宮から出てきました」

 魔狼も魔熊も、領地の周辺で見つかっている。


「それらを最小限駆除した後、洞窟内に入りました。およそ400エルドで壁面が橙色に微発光する、迷宮の特徴が確認出来ました」

 うん、自然の洞窟では無く、迷宮ワームの分泌物のために壁面が魔力を帯びて発光する、これがこの世界で“迷宮”とされる条件だよな。


「そして、さらに進むと、魔熊に続いて、複数のオーガLV9を率いるオーガロードLV13に遭遇しました・・・」

「ちょっと待ったっ、それ、一階層だよね?」

 センテの説明に俺が待ったをかけた。


 ルシエンとノルテも驚いている。

 オーガロードなんて、迷宮の5,6階層か、それより浅いなら「階層の主」とかでしか出現しない高レベルの魔物だ。


「間違いなく一階層です。幸い誰も負傷することなく倒せましたので、さらに進んだところ破れたワームの抜け殻があり、次の階層へとそのまま降りられる状態になっていました」


「どういうことでしょう?誰かが階層主の討伐をした、ということですか?」

エヴァが訝しむ。


 その可能性はゼロじゃない。

 階層主が倒され結界が破れれば次の階層とはつながった状態になるから、下の層の魔物が迷宮の出口から溢れて来るってことは実際ある。


 ただ、普通そういう高レベルの冒険者とかが奥に進んだなら、その途中の魔物を倒して行くから、これほど大量の魔物があふれてくる原因になるとは思えない。


 センテは猫人ハーフのスカウト、ネイズに目を向けた。


 ネイズは一度ごくっとつばを飲みこんでから口を開く。

「男爵さま、俺はレベルは12になったばかりですが、足跡とか人の痕跡を探すのは得意なんで・・・あの迷宮にはしばらく誰も入ってないです。それに階層主が倒されたような痕跡もなかったです」


「え?どういうことなんですか。迷宮って、階層の主を倒さないと奥に進めないって、聞いたことがあるんですが・・・」

 内政官ながら知識が豊富なニコラス・ハメットが確認するように尋ねた。


「・・・あれは人間が魔物を倒して結界が壊れた、というものではなかったのです」

 それまで口を挟まずにいたヨネスクだった。


 ヨネスクはおそらく、ここにいるメンバーの中で最も多くの迷宮戦を経験している。修道士であると共にベテラン冒険者なのだ。


 センテもベテランだけど、元軍人でその後は内務省の調査員だから、戦闘経験は迷宮の魔物相手より対人戦の方が多いタイプだ。

 だからなのか、そこからの説明はヨネスクに任せることにしたようだ。


「・・・我々は六階層まで到達しました。そこまで、一度として結界も階層主も確認されませんでした」


 ヨネスクはそこで一度言葉を切った。

 日帰りで六階層まで攻略って、このメンバー、すごい優秀だよなって思ったけど、重要なのはそこじゃあなかった。


「そして、六階層の奥で、真っ赤な色に染まって狂気に身を震わせているかのような迷宮ワームを目撃したのです・・・これまで両手の指に余る迷宮に入ってきましたが、このようなことは初めてです」

 ヨネスクは重々しくそう言った。

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