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第305話 魔物の津波③

魔物の波に飲み込まれた隣領に救援に赴いた俺たちは、そこで襲われている一行を見つけた。

 俺たちが駆けつけた時、男たちは壊れた荷馬車を盾に、必死に魔物の群れを防いでいた。


 ロトトが治める西シゲウツ集落から、北に3、4km。山が迫り平地が狭くなっているあたりだった。

 前方の敵だけを魔法攻撃で排除しながら速度優先で馬を疾走させ、コモリンの情報を元に10分ほどで発見した。


 そこで粘土収納の中にストックしてあったゴーレム全て、タロを含め5体を出現させる。


 センテが遠話で男たちに呼びかける。


 助けに来た、今から突入するのは味方だから攻撃するな、身を守ることに専念しろ、そういう内容だ。


 ここまで来ると、魔物はオークだけじゃなかった。

 数は少ないけど、魔熊とかマダラオオヘビとかLV10ぐらいある魔獣系が混ざっている。


 これはやっぱり、より高位の魔物が後から来てるってことだろう。


 だが、セラミックの大剣を振るうゴーレムたちにはかなわず、血路が開かれる。


「こ、これは・・・」

 眼前の光景が信じられない様子の男たちと、ついに合流した。


「助けに来た、何人いる?」

「あ・・・6、いや、5人だ」

 血まみれの革鎧を着た中年の男が、気落ちした様子で答えた。


<トレバー 人間 男 35歳 冒険者(LV11)>


 足下には同じような革鎧を着た遺体が転がっている。既に何人か仲間を失ってるらしい。


 魔熊を相手に弓で応戦しているのが、スカウトLV11と魔法使いLV10。魔法攻撃をしていないのは、既にMP枯渇なんだろう。レベル的にMPがあれば“帰還”とかで逃げられたかもしれないんだし。

 スカウトの方は片脚を引きずり、返り血では無い血に染まっている。


 そして荷馬車の陰でブルブル震えている男女、こっちは商人だ。

 商隊と護衛の冒険者か。


「センテ、5人を編成してシゲウツに飛べるか?」

「可能ですが、お館様たちは?馬はどうします?」

 センテの疑問は当然だけど、たぶん2組に分けるしかないと思う。


「俺たちは来た時と同じように魔物を駆除しながら戻るよ。いざとなったら馬は捨ててリナの転移で帰るから。じゃないと、“領域転移”で全員と馬まで運ぶのは厳しいんじゃないか?」

「・・・たしかにそうですな。申し訳ありません」

「いや、ヤバくなったら呼ぶから」

「了解しました・・・おぬしは冒険者だな?そちらの5人と私をパーティー編成してくれ」

「なに、わ、わかった」


 センテの“領域転移”は、描いた魔方陣の上に立った人間や物資をまとめて転移させられる便利魔法だけど、MP消費が格段に多い。

 ここまでにもかなり魔法を使ってるから12人と馬までまとめて運ぶのは無理だし、戦いながら地面に魔方陣を描いてる余裕も無い。

 だから、足手まといになりそうな連中だけ、負担の軽い普通の“転移”で連れ帰ってもらう。

 

 そうすれば残りは6人、リナを含めても7人の1パーティー分だから、俺が編成できる。

 馬で戻るのが難しそうな状況になったら、人間だけリナの転移で帰れるって寸法だ。


「じゃあ、また後で」

「くれぐれもご無事で、では・・・“転移”」


 ゴーレムたちにまわりを守らせている間に、センテと商人・冒険者たちがシゲウツへと飛んだ。


「ヨネスク、またしんがりを頼む」

「はっ、お任せを」


「ルシエン、あそこの山と山が迫って一番狭くなってる辺りに結界を張れるかな?」

「・・・なるほど、侵入を防ぐ壁を1枚作るわけね?まかせて」


 既に北から侵入した魔物を囲い込んじゃうことになるけど、さらに高レベルの魔物が侵入してくる可能性をとりあえず潰しておきたい。

 そういう意図で、西コバスナ山地の切れ目にあたる部分に結界を張る。


 リナを等身大魔法戦士にしてセンテの残した馬にまたがらせ、俺と女子たち、そしてヨネスクの7人は一団となって、来たルートをとって返す。


 今度はタロたちにまわりを護衛させ、その走る速度に合わせてだから、魔熊やオークの群れが集まってくる。

 それこそが狙いだ。


 リナが長い詠唱を始める。


 俺たちはなるべく多数の群れが俺たちから見て一方向に固まって追ってくるように、馬の進路を変える。

 魔物が散らばりそうになったら俺とノルテ、ルシエンの魔法で牽制し、なるべく密度を上げる。


 百匹以上は集まっただろう。


「行くよ・・・“流星雨”!」


 この日2発目の強力な範囲攻撃魔法が発動する。


 光球がきらめき、衝撃波を伴って魔物の群れをなぎ倒す。


 赤い点がまとめて消えていく。


 MP枯渇でぐったりしたリナに馬を寄せ、片手を握って俺の魔力を吸わせる。

 段々俺の頭痛がひどくなるけど、ギリギリまでMPを渡す。


「・・・帰投しよう、全速力で」

 それだけみんなに伝えると、後は無言で馬を飛ばす。


 シゲウツに戻りつくまでの間に、仲間たちはさらにかなりの数の魔物を葬ってくれた。


***********************


「このたびは何とお礼を申し上げてよいか。このご恩は一生忘れません・・・」


 ロトトの館で、救出した商人たちと再会し事情を聞いた。


 このホジキンという40代の男は、レムルス帝国から仲間の商人たちと4台の荷馬車を連ね、自由都市ラボフカを経由してエルザーク王国に向かっていたそうだ。


 護衛はガリス出身の中級冒険者パーティー5人。よくある商隊と言えるだろう。


 けれど、ラボフカを出てしばらく進んだところで運悪く今回のスタンピードに巻き込まれた。


 北から、つまり背後から迫ってくる魔物の群れから逃れるよう馬を急がせたものの、途中で東からもオークの群れが押し寄せて来たため、北方街道を外れ南西に逃れた。


 ところが、西コバスナ山地の切れ目からシゲウツ村に逃げ込もうとしたあたりで、今度はさらに西からも魔獣が迫ってきて、囲まれてしまったそうだ。


 結局、6人いた商人の中で生き残ったのはホジキンと若い妻の2人だけ。


 護衛パーティーも2人を失い、リーダーである冒険者LV11のトレバーの他に、ギヨームというLV10の魔法使い、ネイズというLV11のスカウトの3人だけになっていた。

 ネイズはちょっと特徴的な耳の形をしていて、どうやら猫人とのハーフらしい。

 ガリス公国で亜人排斥が強まったため、元々独り者ばかりで身軽だった彼らは拠点をレムルスに移して活動していた。そこで今回の護衛クエストを引き受けることになったそうだ。


 ホジキン夫妻はそれなりに富裕な商人らしく、今回の荷は失ってしまったものの、アイテムボックスにかなりの現金も持っていたようで、かなりの礼金を渡された。

 命の恩人相手だから当然だとも思うけど、わりときちんとした性格のようだ。


「ホジキンさんたちは、今後はどうするの?」

「そこなのですが、なにしろこの魔物の大発生がどこまで、いつまで続くのかわかりませんし・・・」

 きれいに整えたひげをなでつけながら、ホジキンは苦い顔をする。たしかに、予定の立てようも無いしな。


 それは俺たちも同じだ。だが、そろそろキヌークの状況も心配だし、とりあえず戻ろうと思う。


 センテとリナが休憩しMPが回復してきたところで、ロトトと今後のことを話し合った。


 いま、互いの領地であるキヌークと西シゲウツの間、そしてデーベル河から西コバスナ山地の間は一応結界で囲われ、新たな魔物の侵入は概ね防げる状態になっている。

 ただし、その中に既に侵入している魔物は残されている。


 俺たちが地図スキルに映った光点をざっくり数えてきた感じでは、残りはまだ数百匹はいる。

 その大半はオニウサギや魔猪のはずだけど、直接確認出来た一番強い魔物は、<魔熊(LV11)>だった。


 多分、数日あれば掃討できると思う。

 他に新たな厄介事が起こらなければ、の話だし、ルシエンが張ってくれた北方の結界はそう何日も持たないはずだから、補強も必要だけど。


 問題は、まだ今回のスタンピードの原因がよくわからないこと、だから今後どうなるのかも読めないことだ。


「男爵、さま・・・ひとつ推測があるんすけど」

 ヨネスクに治療してもらい、なんとか回復した様子の半猫人のスカウト、ネイズがおずおずと声をあげた。

 なんて言うか、冒険者だし、そんなに敬語とか使い慣れてないのに、無理に丁寧に話してる感じだ、べつにいいのに。


「あいつら、ひょっとして迷宮から出てきたんじゃ無いか、と思うんすよ」

 みんなの視線が集まる。

 ネイズのとなりでリーダーのトレバーが重々しそうにうなずいた。

「強い根拠とまでは言えないんですが、魔物が来た方角には、どっちも迷宮があるはずなんです・・・」


 俺たちは知らなかったんだが、プラト公国の南部、ラボフカの南東、そして西コバスナ山地の北側で北方旧街道の南方あたりには、いずれも迷宮が見つかっていたはずだ、という。


 俺たちの中で一番冒険者キャリアの長いルシエンも、聞いたことはある、というから、事実なんだろう。


 それだけでは根拠としては弱いけど、第一波で弱い魔獣とかコボルド、第二波でオーク、第三波で魔熊とかマダラオオヘビなんて大物の魔獣・・・これって考えてみると迷宮の階層ごとに出てくる魔物の種類みたいに思えなくも無いな。


「でも、迷宮は階層ごとに結界があって、二階層より深いところの魔物が外に徘徊することなんて、そうそうありませんよね?」

 エヴァの疑問ももっともだけど、そこになにか、今回のスタンピードの原因が隠されてるのかもしれない。


「・・・調べて見るべきかもしれないわね」

 ルシエンが抑えた声で、そうつぶやいた。

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