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第301話 魔力地震

それは奇妙な現象だった。けれど最初はその深刻さがわからなかったんだ。

 鉱山を中心にした仮称“マイン集落”は活気に満ちていた。


 森から材木を切り出す音、大工仕事のかけ声、そして坑道の中から響いてくる岩を掘る音・・・


 ミスリルが採掘できそうだとわかって新たに移り住んできた者たちを加え、北方山脈からのドワーフたちは全部で60人あまりになっている。

 プラトからの難民だった新村民の中からも希望者を募り、40人ほどがこちらに移住した。

 あわせて100人以上が暮らす新たな集落だ。


 きょうはその状況をノルテ、カーミラ、ルシエンと一緒に視察に来ている。


 こちらに移り住んだ新村民たちに仕事として与えているのは、まず新たに魔法で拓いた畑地での食糧生産だ。

 このあたりは地熱で温度が高いから、今からでも冬野菜の作付けが可能なのだ。

 当面は食糧を援助するけど、なるべく早く自給できるようにしたい。


 農業スキルを持つ者たちには、他に“薬草園”と“製紙用林”の管理も任せている。

 クロヤマハッカをはじめとした、この土地ならではの薬草数種類。採れる量は少なくても薬は高値で売れるから貴重だ。

 そして、クワゾという皮から和紙みたいなものの原料が採れる低木も、苗をデーバで仕入れてきて植え付けた。

 ルシエンの植物魔法で成長を後押ししているし、ちゃんと根付いているようだ。

 

 新村民の中に大工スキルを持つ者がいたので、その男を中心に15人ほどは、木の切り出しとログハウスなどの建設に専念させている。

 中にはワーベアの一家もいて、力が強いから頼りにされているようだ。


 今のところはまだ多くの者が粘土スキルで作った仮設体育館暮らしだけど、このペースなら10日ぐらいで木造住宅への転居が完了しそうだ。


 ドワーフたちの鉱山開発も順調だ。

 

 アナとエイナの父・ビョルケンを中心に鉱石から金属を取り出すための“たたら場”作りが進み、ちょうどけさ1基目が出来たというのが、きょう視察に来た理由のひとつだ。


 坑道ではハルドルの指揮の下、新たに移住してきたドワーフの若者たちと、ザーオの隠れ里のワーラットたちも労働力として使い、採掘が始まっている。

 ワーラットたちは俺の領民ではなく、ザーオからは徒歩1時間ぐらいだから日帰りで仕事をしに来ているんだけど、労働の対価としては、軍から大量購入した糧食やキヌーク村で作っている布製品などを現物支給している。


 まだ試し掘りの段階だけど、鉄鉱石は鉱山として水準以上の品位で産出しているし、銅・銀も少々、そしてミスリルも確実に鉱脈があるそうだ。


 鉱山の作業を基本的にドワーフとワーラットに任せているのは、体が小さいこの2種族で進めてもらえば坑道は小さな穴でいいから採掘が速く進むし、穴が小さい分落盤事故とかも起こりにくい、というのがハルドルの考えだ。


 ドワーフたちには、他に温泉地の管理も任せている。

 位置的に鉱山の隣接地だし、坑道での作業後に体をきれいにするのにも役立つ。

 それにいわゆるボタ山の鉱毒で水源が汚染されないように気をつけてもらう必要もあるから、ドワーフたちの管理下に置くのがいいだろう、と思ったんだ。


 プラトから来た連中は入浴習慣というのが無いらしく、せっかくの温泉をほとんど利用していないと聞く。

 ただ、意外なことにワーベアの一家は温泉を気に入っていて、よくドワーフたちと一緒に入っているそうだ。


 いっそ“熊ノ湯”とでも名付けるか。


 そんなしょーもないことを考えていると、ノルテが大きな声をあげた。

「おかえりー」

「あ、ノルテちゃんっ」


 ノルテと仲のいいアナとエイナの姉妹ら子供たちが、母親のアローラが操る馬車で学校から帰ってきたところだった。


 俺たちも授業は受けたんだけど、転移魔法でこっちに飛んできたから馬車で戻ってくる子供たちより2時間ぐらい早くて、その間に視察をしていたわけだ。


 今や学校に通っているのは、ドワーフが4人、人間の新村民が2人。

 アナとかは本当はもう対象年齢より上なんだけど、そこはあまり細かいことは言わない。見た目も人間の感覚だと“小さい子”に見えるし、ノルテも俺も生徒だし。


 送迎役は、最近は集落の母親たちが交替で2人ずつ務めているらしい。

 領内の治安は大幅に改善しているけど、それでも館のあるあたりから遠い西部では低レベルの魔物や熊などが出ることもあるから、斧とか弓ぐらいの武器は携行している。


 とは言え、大人が2人乗っていく一番の理由は、子供たちが学校に行ってる間にキヌークの中心部で買い物とかをするのが楽しみだから、らしいけどね。


 人口が増えたことで、これまでよろず屋1軒だけしかなかったキヌーク村にも、ちらちら小さな店が出来つつあるのだ。

 たいていは農民や木こりが副業でやってる自宅兼のものだけど、まったく店とかが無いマイン集落からすると刺激的らしい。


「アローラさん、アレ買ってきてくれた?」

「ええ、赤と黄色の麻糸ね・・・それから西集落の魚醤だったね」

 奥さんたちも帰りを待ってたみたいだ。


 キヌーク村ではこれまで物々交換が中心だったけど、最近はちょっとずつ貨幣経済も広がっている。


 ドワーフたちには、こっちに移民してくる際に、鍋や釜、剣や槍の穂先とかの金属製品や武器を多めに持ってきてもらった。

 武器は俺が買い取って自警団などに持たせており、鍋釜とかは村人との取り引きの原資になっているのだ。



「シローどの、そろそろ火入れをしますぞ」


 ドワーフたちの神職にあたる役目の者が、ルシエンと一緒に作業の安全と精錬の成功を願って聖句を唱え、皆が唱和する。


 そして、ビョルケンの合図で炉に火が入れられた。


 かけ声に合わせて10人ほどの男女が大きな足踏みのふいごを体全体で動かし始める。


 これから三日三晩にわたってメンバーを交替しながら風を送り続け、火を絶やすことは無いのだという。

 たいへんな仕事だな。


***********************


 しばらく見学して、そろそろ館に引き上げようか、と思った時だった。


「っ!?」


 頭がぐらぐら揺れるような感じがして、最初俺は、地震かと思った。


 けれど、ふいごを一心に動かしているドワーフたちは別になんともないみたいだし、漏れ見える炎の様子も特に変わらない。


 まわりの物も特に揺れてないよな。

 俺の気のせいか? 


 頭が揺さぶられるような感覚と共に強い寒気みたいなのも感じたから、風邪でもひいたのかな?って次は思った。


 けど、ルシエンが青ざめているのを見て、俺の気のせいとかじゃ無いって気がついた。


「なんでしょう・・・これ?」

 ノルテも異変を感じたようだ。


 なぜドワーフたちは何も感じてないんだ?・・・いや、異変を感じてる者もいた。


「ノルテちゃん、お姉ちゃん、これなに?」

 アナの妹エイナが、ドワーフたちの中では真っ先になにか感じたようだ。

 アナも違和感を感じてるみたいだし、他にまわりをキョロキョロ見ているものがひとりふたりいる。


「大丈夫か?ルシエン、これって?」

「おそらく、魔力地震・・・魔力の強い波動だわ。ただ、こんな強力な、地鳴りみたいな魔力地震なんて経験がないわ・・・たぶん、魔法資質のある者にしか感じられないのかもしれないけど」


「魔法資質か」

 アナとエイナは、薬草作りを手伝ってくれた際に“薬生成”スキルを身につけている。

 あのスキルは魔法薬を作れるスキルだから、ある程度の魔法感受性が身につくのかもしれない・・・


「リナ、なにかわかるか?」


(ルシエンの言うとおり極めて強力な魔力地震ね。具体的な原因はわからないけど、どこか遠くでとてつもなく大きな魔力が放出されたと考えられるよ)


 リナの念話を聞いたパーティーのみんなの表情が険しくなる。


 カーミラがしきりに鼻を鳴らしている。

「はっきりわからないけど、どこかで魔物の匂いが強くなってるよ。ずっと遠くだけど・・・」


 たたら場のふいごを指揮しているビョルケンが、こちらを見て、何ごとか問いたそうにしている。


 俺はリナの遠話を使って、ビョルケンにはとりあえず原因を調べてみるからドワーフたちを動揺させないように、でも集落の警戒を怠らないように、と伝えた。


 言葉で全員に伝えるのはまだ早いような気がしたからだ。



 その時、館から遠話が入った。


 魔道具の“携帯遠話”を渡してあるエヴァからだった。

 エヴァには俺たちが視察に行く間、領主代行を頼んで残して来たんだけど、オリハナとかセンテとか遠話が使える者がいるのに携帯で直接連絡してくるのは珍しい。


《シローさんっ、大丈夫ですか?》

 そして大抵のことには余裕を失わないエヴァが、かなり焦った声だった。


 エヴァもやっぱりこの異変を感じ取ったらしい。


 そして、センテが“これは魔力の強い波動じゃないか?”と言い出して、各集落やキヌーク川の番所に異状が無いか確認しているところだ、と言う。

 さすが高レベル魔導師だな。


 俺はこっちでも同じように感じられたこと、とりあえず被害とかは無いことを伝えた。


「ちょっと領内西部の状況を調べてから戻るよ。そっちでも何か情報が入ったらまた教えてくれ」


《わかりました・・・気をつけて下さいね》


「シロー、エレウラスさんに連絡を取れないかしら?」

「・・・そうだな、そうしよう」


 ルシエンの提案はもっともだ。

 ここから大森林地帯は近いし、ハイエルフのエレウラスなら俺たちには無い知識を持ってるだろう。精霊王ならわかるかもしれないし。


 以前もらった“精霊の雫”をアイテムボックスから取り出し念を込めて呼びかける。

 それほど間を置かず、“冬休み”以来のハイエルフの声がパーティー編成しているみんなの脳裏に響いた。


《シローか、そなたらも感じたのだな》


「うん、エレウラスさん、これって何なんだろう?頭が揺さぶられて、悪寒がして、魔法が使えたりする仲間は何か感じてるんだけどさ?」


《魔力地震、現象としてはそう呼ばれる、強い魔力の波動だ。だが・・・》


 エレウラスの言葉はルシエンやリナの考えた通りだった。そこまでは。


《シローよ、これはただごとでは無い。この波動に私は覚えがあるのだ・・・》


 そこでエレウラスは、彼らしくも無く口ごもった。

 それから、まるで聞かれるのを恐れているかのように、ささやくような声で言葉をつないだ。


《・・・これは、魔王の波動だ》

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