第293話 ひみつの会議
冬休みの旅行の最終日、そしてこの年の最後の日でもある、十三の月・下弦十四日の夜
「・・・みんな起きてる?」
「はい」
「カーミラおきてるよ」
「うちの男子は健康的ですね」
シクホルト城塞の高級幹部用の続き部屋を与えられ泊まっていた一行。その女子たちが深夜にむくりと起き上がった。
すやすや眠っている1名を寝室に残し、前室のソファーへと移動する。
「・・・さて、そろそろ大事な話をする時期だと思うの」
「・・・そうですね。お父さんの頭の固さのせいで正式にはまだ少し先ですけど、わたしたちもう夫婦ですよね」
「シローさんも領地持ちの貴族の仲間入りをしたことだし、そうするとやはり大事なのは後継者でしょうね」
「・・・」
仲の良い普段の4人の間には無い、張り詰めた空気が漂った。
「本当なら公平に同時にと行きたいところだけど・・・みんなが一度に妊娠してしまったら色々大変だしね・・・」
「シローさん、あれでわたしたちのことを頼りにしてくれてますし、まだまだ魔物退治とか、この間の盗賊の相手なんてこともあるかもしれませんし、一斉に仕事が出来なくなっちゃったら困りますよね?」
「それに、みんな初めてなんだし、お産も子育てもお互いが助け合えるよう少しずつ時期はずらした方がいいでしょうね・・・」
「・・・」
互いに探り合うような視線が交わされる。
「カーミラにはちょっと難しい話かもしれないけど、べつにみんなが張り合う必要はないのよ?」
「長の子ども産む。女の立場強くなる。カーミラ知ってるよ?」
「ノルテは一番若くてピチピチなんだし、慌てることはないんじゃないかしら?」
「わたしだってもうおとなです。お父さんだって孫の顔が見られるのを楽しみにしてると思います」
場は沈黙に包まれた。
「・・・交渉決裂ね」
4人の視線が、会話に加わっていなかった5人目に向かった。
「ふぅ・・・わかったよ。あたしが立会人を務めるから、うらみっこなしだよ?」
「「「ええ」」」
リナはいつの間に用意したのか、4本のこよりのような籤を取り出し、広げて見せた。
「これ見えるよね?1本だけ、こよりをほどいて広げると、ここにしるしが付いている。これを引いた人が当たり、一番くじね」
4人の視線が集中する。
「そうね、やはり神意を問うには籤引きでしょうね」
「異議ありません」
「正式な作法ですよね」
「・・・(くんくん)」
「匂いは変わらないと思うけど」
リナが4本のくじをまたこより直してしるしが見えないようにすると、革袋に入れた。
「で、誰から引くのかな?」
ごくっ、と誰かの喉が鳴った。互いの顔色を探り合う。
「一番年上のルシエンさんからでどうですか?」
「い、いえ、私人間の年齢で言えば必ずしも年上というわけじゃないし、シローと出会った順番で言えばノルテが最初よね?」
「わ、わたしですか?最初はちょっと・・・あっ」
「カーミラひいたよ」
ルシエンとノルテが互いに牽制し合っている間に、自然体の人狼娘があっさり1本を引き抜いていた。
「ま、まだ開かないでっ、私も引きますから」
続いてエヴァが、慌てて革袋に手を入れる。
「引きました」
その様子を見て、ルシエンとノルテも籤を引いた。
「では、みんないい?一斉に開いてみて」
「ちょ、ちょっと待って・・・すーはー、すーはー・・・い、いいわよ」
「じゃ、じゃあ、せーの・・・」
互いの手元に食い入るような視線が飛び交った。
「「「!」」」
「あっ!?・・・」
「・・・お、おめでとう」
それきり、再び沈黙が覆った。
この夜、シローの知らないところで、誰かの運命が大きく動き出したのだった。
 




