第31話 お人形遊び
リナが負傷すると俺も傷つく、しかもMPが大量に失われることがわかり、なんとかしなくてはならないと思う。
俺のアイテムボックスは思わぬ所で役立った。
オークの残していった武器の中には、地上に出た際に人間から奪ったと思われる、それなりの価値がある剣や弓もあったためだ。
この伯爵領は、とことん貧乏なのだ。
4本の剣と2張りの弓がそこそこ価値がある、と言われ、
「アイテム収納」
と唱えたら、あら不思議!ド×えもんのポケットみたいに俺の中に吸い込まれる感触がした。
アイテム収納は、冒険者以外に商人や盗賊もスキルとして得られるそうだ。商人には必須というか、すごく重宝しそうなスキルだしな。
ちなみに、近くのでかい岩を収納しようとしたが出来なかったので、量や種類などなんらかの制約はあるようだ。
それと、一階層の主がいたところに戻った時、ラルークが宝箱を見つけた。『発見』スキルは俺も持ってるのに、個人差があるのか、ラルークの方が感覚が優れているみたいだ。それに、ラルークは『罠解除』スキルもあるから、結局宝箱を開けたのは彼女だった。
中からは、少量だが砂金が見つかって、カレーナがすごく喜んでいた・・・
「これでお給金の遅配が避けられる」
とかつぶやいていたのは、みんな聞こえないふりをした。
迷宮を出た所で、なんとか最後のMPを絞り出し、入口をまた粘土の壁で封じた。
『たっぷり粘土』を取得してからこれだけガス欠になったのは初めてで、これはリナが傷ついたときに大量のMPが抜けていったのだと思う。
帰路、ふらふらする頭で、今後も戦闘でリナが負傷することもあるだろうし、なんとかしないといけない、と考えた。
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帰投すると、俺とグレオンへの待遇が、これまでよりずっと良くなった。
迷宮討伐の主力要員と認められたことで、万全な体調にさせておく必要がより高まった、ということか。
あいかわらず奴隷棟の中だが、広めの独房というか、これは部屋と呼んでもいいな、なんと寝藁では無く硬いがベッドがある!
少し身分の高い者を囚人にした際の部屋らしい。
そして、許可を得れば、日没までは首輪をはめた上で練兵場や行水のための井戸に行くことも認められた。うーん、基本的人権ってすばらしい。
健康で文化的な最低限度の生活? 文化はないか。しかし、マジな話、高レベル引きこもりジョブの俺としては、これでネット環境さえあれば、ずっと生きていけそうだ。
俺は一応まじめにザグーに教わったことを復習するつもりで、リナと練兵場で剣の稽古をした。グレオンも一度出てきたが、やつは強すぎて、まだリナと二人がかりでやっと互角だった。
しかし、リナに怪我させないには腕を磨くのも必要だが、やっぱり防具だな。ソフビ製なんちゃってアーマーでは身を守れない。
とは言え、領兵用の鎧を支給してもらうってのも、着せ替え自在っていう素晴らしい特技は置いておくとしても、伸縮自在っていう戦術上も使える長所を捨てることになるからな。
セラミックの鎧って作れないんだろうか?
すごい粘土で、薄くても丈夫な硬質セラミックみたいなのが出せるようにはなってる。試してみるか。
俺はリナに動かず立ってるように命じて、俺たちが身につけている鎧をイメージし、粘土を生み出す。
体型に合わせたフォルム、可動部分は別パーツにする、など色々試すと、なんとか夕暮れ前に一応は使えそうで、そう重すぎないものが出来た。
剣を振らせてみるが、動きも制限されてないし、俺がポカポカ木剣で殴りつけても、大丈夫そうだ。
「痛いじゃない!」
「テストだ、テスト」
課題はこれでリナの大きさを変えた場合だな。
「小さくなれ」
おっ?
リナと一緒に、セラミック鎧も小さくなった。
なるほど・・・粘土を変形したり、吸収することも出来るんだから、小さくすることだって望めば可能なのか。
「リナ、おかしなところはないか?」
「あんた以外に?」
大丈夫らしい。
これは思わぬ便利ワザかもな。お人形と粘土を組み合わせて使う、ってのは発想に無かった。
問題はこのセラミック鎧をちゃんとした形に作ろうとすると、結構時間がかかるってことだ。こいつはお片付けせずに、ずっと着せとけばいいか。
「ちょっと、普段から鎧着たきりとか、無理だから。
リナはティーン女子のファッションアイコンだし」
むかつくな、こいつ。この世界に、ファッションアイコンとかないし。
むー、仕方がない。チビTとかネグリジェも捨てがたいから、では決してないが、出動するときだけ着せることにするか。
とすると、形成しておいてから、着脱できる構造にするか・・・
とりあえず一日の汚れを、(めちゃくちゃ冷たかったが)井戸水で洗い落とし、リナも裸にして(もちろん小さくしてだよ)丸洗いした。
「風邪ひいちゃうよー」
という抗議は当然無視だが、リナと感覚がリンクしてるのを忘れてた。俺も再び冷水を浴びたみたいに凍えた・・・うー、俺の方が風邪をひいたら、リナはどうなるんだ?
広くなった独房に戻り、飯の配給が来るまで、セラミックアーマーに切れ目を入れて粘土でくっつける方法とかをあれこれ試行錯誤した。
ついでに、フルフェイスのヘルメットみたいな兜やブーツなども作ってみた。こっちは可動部分が少ないから、もう少し簡単だった。
作った防具一式は、アイテムボックスに収納しておいた。
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目が覚めると、昨日あれだけ戦ったおかげで、冒険者レベルは9に上がっていた。
俺が直接倒した相手は少ないと思うが、やっぱりパーティーで経験値が分配されるんだろう。
レベルが上がるにつれて必要経験値が増えている気がするが、どれぐらいの増え方だろう?
1,2,4,8みたいな倍々とかまではいかないが、1,2,3,4とかの等差数列でもない。その間、だろうとは思う。
ジョブレベルの上昇に伴って新たに得たのは、<速さ増加(小)>だった。
ということは「速さ」ってパラメーターがあるんだろうな。だが、数値とかは見られないのでよくわからない。走る速さか、行動全般の敏捷さみたいなことか。“加速装置”とかがついてるわけではないようだし、冒険者ジョブにふさわしい能力としては、危険を乗り切れる「身軽さ」的なことか?まあ戦闘にでもなれば実感できるかもしれない。
『粘土遊び』のスキルは、結構使ったつもりだったがレベル7のまま。
だが、『お人形遊び』は粘土と同じレベル7に上がっていた。リナも頑張ったからな。
得られた能力は、
“着せ替えでなりきり”
と表示された。どういうこと?
起床点呼と招集がかかって慌ただしく動きながらなので、“内緒話”で尋ねる。
(表示された文字通り、だよ。いつも言ってるでしょ。
ジョブの衣装に着せ替えすると、そのジョブの能力に
なるって意味。
ただ、最低レベルだからね、頼りすぎないで)
それは、じゃあ、魔法使いにすれば魔法が使える、とかか?
もしそうなら、応用しがいがありそうだが・・・
迷宮に向かいながら、俺はメンバーの姿をじっくり観察することにした。
ベスの後ろ姿とか、カレーナの胸とか、ラルークもおしりは意外に・・・イタっ!
俺のおでこに銭貨が命中した。
「エロ気がダダ漏れだぞ、気配の消し方ぐらい覚えな」
振り向いたラルークに、あきれ顔でなじられた。
な、なんのことかな。 てか、なんつースキルだ。
あ、ベスまではっとしたように振り向いて、その軽蔑した目はやめて。




