第289話 はじめてのおつかい
俺の魔道具生成スキルは、リナの魔法とも組み合わせられることがわかり、結界装置など作れる物が広がった。
MP切れになるまで色々試していたせいで、翌日は久々の寝坊だった。
ようやく昼頃になって起き出すと、試作品の魔道具を持ち出して村内でテストしてみることにする。
主な魔物を先日退治ししてしまったため、テストできる相手がなかなか見つからなかったのは皮肉なものだけど、山間の方まで行って魔猪やオニウサギを見つけ、色々試してみた。
転移防止の結界装置もちゃんと働いたので、これは俺たちの館に備えておいて、有事の際とかに使えばいいだろう。
そして、普段、村の入口にあたるキヌーク川の橋の所に設置しておくのは、オリジナルの魔道具で、スカウトの<索敵>スキルと、魔法使いの<結界>呪文を組み合わせたものが良さそうだとわかった。
これは、魔物とか盗賊とか、索敵すると敵と判断されるような存在に対してだけ、橋が結界に包まれ認識されなくなる、という働きをするものだ。
結界魔法を街全体に張ってしまうと、住民も商人なども街を見つけられず、入れなくなってしまうから実用的で無いんだけど、索敵と組み合わせて害意があるものだけを排除できるようにした、選択的な結界だってのがミソだ。
索敵スキルの判別能力がどこまで信用できるかってのがあるので、とりあえずしばらく試してみる必要はあるけど。
さらに、もう1つの魔道具に冒険者の<地図>と<パーティー編成>スキルを仕込んでこれと組み合わせておくと、館や番小屋に置いた地図の魔道具に、索敵結界装置で捉えた魔物とかの接近が表示される、という使い方も出来るようだった。
結界を張るより「ゆるい」領地の守り方としては、魔法使いの<重力制御>呪文や錬金術師の<力場>スキルと、<索敵>と組み合わせるのが実用度が高そうだ。
これは、害意を持つ者にとってだけ、「なかなか村に入れない」「歩くのも大変」という状況になるもので、盗賊とか魔物の類いだったら、わざわざ進むのが困難な方に行くことをあきらめ、よそに行くものが多くなるだろう、って意味ではある程度の効果は見込めそうだ。
とりあえず2セットずつ作り、1セットは早速、橋と館に置くことにした。
村長や自警団の者たちに村境の防衛装置のことを知らせると、かなり安心したようだった。
やっぱり小さな村にとっては、盗賊や魔物の侵入は大きな脅威だし、難民が押し寄せることも心配材料のようだ。
***********************
午後、ルシエンとカーミラを領主代行として村に残し、俺はノルテとエヴァを連れ、リナの転移で王都デーバへと飛んだ。
領主としての、はじめてのおつかいだ。
目的は、難民問題の相談と、彼らを当面食わせるための食糧などの調達、そして領地経営に必要な人材探しだ。
ついでに試作品の魔道具を冒険者ギルドに持ち込んで売れるかどうか見てもらおうとも思っていた。
同行メンバーがノルテとエヴァなのは、アイテムボックスのスキル持ちだから、というのが大きな理由だ。
まず先月、叙爵と領地の下賜を受けた内務省に行った。
その際に、今後領地の運営について相談することがあれば内務省が担当だと聞いていたし、家臣なんてものがいない俺は人材の斡旋も一応頼んであったからだ。
でも、やっぱりお役所と言うべきか、それはこの部署じゃないとか、担当者が変わったから聞いてないとか、たらい回しにされてるうちに夕方近くになり、途方に暮れかけた所で、声をかけられた。
「おや、シローさんじゃありませんか」
「ん・・・あ、ハメット村長?」
振り向くと、書類を抱えた女の人がいて、一瞬誰だかわからなかったんだけど、一時住んでたオザック村のハメット村長だった。
まるで役所の人みたいな服装になってるから・・・って、そう言えばハメットさん、“内務省から出向して村長をしてる”とかって話だったっけ。
「お久しぶりですね。この秋の異動で、出向から戻ってきたんですよ・・・そう言えば、おめでとうございます。男爵さまになったんですよね?うわさになってましたよ」
助かった。
ハメットさんは、トクテス公爵派につながる法服貴族たちが多数公職から追放されたために、玉突き人事で内務省のかなりエライ立場になったらしく、すごく頼りになった。
まず、難民を受け入れて自分の領民にすることは、今回のケースでは問題はないらしい。
貴族にとって領民はある意味で財産なので、エルザーク国内の他の領地から大量の民を移住させたりするのは問題になるし、他国からの逃亡者や流民を多数受け入れるのも、その国との間でトラブルになることが少なくない。
けれど、今回はエルザークに戦争をふっかけてきたプラト公国からの難民と言うことで、プラトから抗議してくることは無いから、自領にプラスになると判断すれば領主貴族の判断で好きにしていい、ということだ。
ただし、領主は定期的に王都に対し所領の人口や税収を報告する義務があるから、それはきちんとやるようにとのことだった。
しかし、考えてみたら、あの村に正確に何人住んでるか、とか俺も知らないぞ?
「・・・自由開拓村を所領に与えられるとよくあることですね。村人が自主的に戸籍なんて作ってませんから。そういうことも含めて、行政経験のある人材も必要ってことですよね?」
どうやら俺の人材斡旋の要望書は、戦争終結後の人事の混乱の中でどっかに紛れちゃってたらしい・・・
「うーん、これはうちの省内の引き継ぎミスなので申し訳ないですが・・・いえ、そうだわ」
俺の要望を聞き、なにやら人事情報みたいな資料を超高速で調べていたハメットさんが、思いついたように顔を上げた。
「2日ほどもらえますか?なんとかしますので」
「ぜひお願いします・・・」
どうせハメットさんに頼るほかないよな。
そして、この後は市場に難民たちの食糧の調達に行くつもりだと伝えたら、ハメットさんが、ああそれでしたらここに行くといいですよ、と思わぬ知恵をつけてくれた。
訪ねたのは軍務省の補給部というところだった。
なんでも、今回の戦争で軍務省が補給物資として大量の糧食をかき集めたところ、思ったより早く戦争にケリがついたために糧食が余ってしまい、内密に払い下げられる先を探している、ということだったんだ。
ハメットさんが推薦書みたいなのを持たせてくれたおかげで、その一部を破格の安さで譲り受けられることになった。
ただ、唯一の難点はロットが大きすぎたことで、「払い下げられるのは1万食分が最低単位だ」と言われ、よくわからないけど“穀物とかならある程度日持ちはするだろう”と思って、その兵糧を2万食分買い取った。
もともと戦乱で食糧不足になってる地域が多いだろうから必要な量を調達出来ない方を心配してたので、多く手に入って困るわけではない。
ただ、軍務省の倉庫に多数の木箱に詰められていたのをキヌーク村まで運ぶのには、3人のアイテムボックスをフル活用して転移を繰り返しても、そのあと3日間かかった・・・
翌朝は冒険者ギルドに魔道具の試作品を持って行った。
魔道具の販売は専門の業者などもあるらしいけど、一応アトネスクから、なるべく冒険者ギルドに持ち込むように、って言われたからな。
ギルドに登録している冒険者の中には、俺が指導を受けたユーニスばあさん以外にも高レベルの錬金術師がいるらしく、預けておくと鑑定と査定をしてくれるので、それで納得がいけば買い取ってもらう、という形らしい。
結界装置みたいな大物に加えて、練習がてら色々作ってみた小道具類も渡す。
窓口の職員は、<雷素>を使って懐中電灯みたいに使える「魔道ランタン」には微妙な反応だったけど、<索敵>と<地図>スキルを組み合わせた「自動地図」や、<重力制御>呪文を込めた「快速シューズ」、<HP回復>スキルを使った「健康ネックレス」とかは結構ウケてたと思う。
(あんたドクター中○?、ウケ狙ってどうすんの?)
リナに突っ込まれた。
なんで知ってんだよ?ってか、ド○ター○松もウケを狙ってたわけじゃないと思うし・・・。
俺がギルドに顔を出したのが伝わったのか、上の階のアトネスクに呼ばれた。
「おぬしは冒険者としての活動は引退するのか?領主貴族になっても、在籍はしておいてもらいたいのだが・・・」
「えっと、別に引退とかは別に考えてないですけど」
実際、魔物の討伐とか領主になってもやってるわけだし、まだ当面は領地からの税収もないから、冒険者ギルド証を持っていて損は無いと思う。
そう答えると、アトネスクはなにやら安心したようだった。
「おぬしが持ち込んだ、敵対するものだけを防ぐ結界だったか?あれは大変な価値があるかもしれん。性能をテストする必要があるが、これまでの治安維持や国防のあり方さえ変えかねぬ。場合によっては、相応の対価を払うので専売とさせてもらいたい」
そんな大層なものを開発したつもりはなかったんだけど、相手を限定できる結界とか防衛用魔道具というのは、これまでほとんど無かったらしい。
というのは、魔道具生成スキルの性質上、こういうのを作るにはLV25以上の錬金術師になった経験があり、かつ魔法使いの<結界>呪文とスカウトの<索敵>とかを一人で習得していることが必要だからみたいだ。
俺の場合、<お人形遊び>でリナが色んなジョブに変われるから可能だったんだけど。
そして、領内を治めるための家臣を募集しているなら、こちらでも心当たりを探してみよう、と言ってくれた。
冒険者を引退する者のキャリアパスを世話するのも、ギルドの役目のひとつだそうだ。
お次は買い物だ。
キヌーク村は今のところ外部につながるちゃんとした街道も無く、戦禍で行商人さえろくに来なくなってしまっているから、自給できている物以外はなにかと不足している。
ノルテがそうした必要な物資をリスト化していて、それらを王都の店を回って調達することになってたんだけど・・・
「でも、ちょっと洋服屋さんが長くないかなぁとか・・・」
「シローさん、そういうこと言うと女性に嫌われますよ?」
「うっ・・・」
エヴァがとってもいい笑顔をしながら、1オクターブ低い声で言うもんだから、それ以上なんも言えなくなっちゃった。
そりゃね、キヌーク村にはオシャレな服のお店とか全くありませんよ。
俺もね、みんながきれいだったりエロかわいい服装なのは大賛成ですよ。
けど、いったい何軒目?ってぐらい色んな店を回って、俺はもうくたびれましたよ・・・
ま、どっちにしてもリナのMPが回復するまで転移できないんだから、時間をつぶす必要はあるんだけどさ。
デーバ滞在2日目の帰りは、買いつけた食糧の輸送予定をちょっとばかり減らして、ルシエンやカーミラの分まで女子たち御用達の品々を抱えてキヌーク村へと転移したのだった。
そして、食糧の輸送もこれで最後だって日になって、人材募集の方に大きな動きがあった。




