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第287話 難民②

村境にやって来た難民たちには盗賊が紛れ込んでいた。それを退治した俺たちだったが、残された難民への対応を迫られることになった。

「率直に申して、難民を無条件に受け入れる余裕は村にはございませぬ」


 とりあえず危険なやつらは片付けたけど、自警団に難民たちの対応をさせておいて、俺は村長ら数名の年かさの者たちと、橋のたもとにある番小屋と言うのも名ばかりの田舎のバス停みたいな建屋に入り、相談していた。


「わしら自身、ここを拓いた当時は難民同然の境遇でしたから同情はしますがな」「だが我らは誰からも支援など受けず、山野草を摘み獣を捕らえながら畑地を拓いて、30年かけてここまでにしたのです・・・」


 入植第1世代とも言うべき年配の者たちには、餓死寸前の状況に耐えながら自分たちがゼロから村を作り上げたという自負があるからか、村人自身もこの冬を越える食糧に苦労している現状では、同情はしても受け入れには反対のようだった。


 特にこれから真冬になり、まだ難民の第二波、第三波が来るかもしれないし、その中には、きょうの盗賊たちのようなはっきりした悪人で無くても、むしろだからこそよりたちが悪い、村の治安を悪化させる者も少なくないだろう、と懸念しているようだ。


「けどな、おじさん・・・」

 異を唱えたのは、村長の甥でまだ20代のオレサンドルだった。自警団の一員として、彼はきょう最初から現場で対応にあたっていた。


「あの盗賊連中をのぞけば、大部分は普通の避難民だったよ。ちょっとイスネフ教の神官らしいのがいてそこは気になるとこだが、女子供が多くて、今からビストリアどころかシゲウツ村にだって暗くなるまでに着けるとは思えないよ。農地は今ちょうど広げてるところなんだし、この冬さえこせりゃあ、なんとかならないかな?」


 若い世代は最初の開拓の苦労をしていないせいかもしれないけど、最近の戦乱やら宗教弾圧やらで流民が増えていることに同情的だった。


「お前たちは簡単に言うがな、その冬を越すのが難しいと言っとるのだ。結局、いま村にいる弱い者があおりを食うことになるのだぞ?それにイスネフ教徒はいかん。最初はおとなしくしていても、すぐに教会を建てさせろ、他の者も信仰しろ、でないと地獄に落ちるなどと、まわりの者にも改宗を要求して軋轢を生むのだ・・・」


 いま足止めしている難民は見たところ100人から150人はいないだろう。

 魔法を使って新たに拓いた耕作地で収穫があがるようになれば、概算で今より数百人は多く養えるようになるから問題ない人数だけど、最初の冬野菜だけでも収穫できるのは、まだ4、50日先らしいから、それまでの食糧が無い。


 村に入れて自給自足ってことになったら、狩人や漁師とは競合することになるだろうから、村長たちの懸念もわからなくはない。


 でも、長い目で見れば、開発できる土地はまだまだ多いし労働力が増えるのはプラスのはずだ。


「あのさ、最初の収穫が上がるまでの食糧を俺が調達してくることにしたら、労働力として受け入れるってのはありかな?」

 村長たちが驚いた表情をする。


「そ、それは無論、当面の食糧さえなんとかなるなら、村の農家で小作人として受け入れて、新たな農地で働かせることはむしろ助かりますな。それでいずれは自立した農家を営ませる、ということも可能ではありましょうが・・・」

「しかし、どうやって・・・」


 領主が税金も取れないうちに自分の財産から持ち出しで村人を養うとかって、本末転倒な気がするけど、これは多分、半年か1年経てば元が取れる投資だとも言えるんじゃないだろうか。

 人材への投資が一番有効な投資、ってどっかで聞いたことがあるし・・・

 そして、ファイアドラゴンの素材売却益で、今の俺はひそかにかなりの金持ちなのだ。


 俺のように算盤をはじいてるわけではなく、純粋に困ってる人たちを助けてあげたいって気持ちが顔に出ているノルテが、“大丈夫ですか?”って目で尋ねてるのを見て、うんうん、と頷いてみせる。


「食糧を調達できないか、明日にでもデーバに行って来るよ。それと、無制限に受け入れたりする気はないから安心してよ」


 俺たちは橋のたもとの所へ行き、難民たちに呼びかけた。


 この橋から先の領地では、特定の信仰を他者に要求することや一切の亜人差別を禁じること。居住する場所や、すべき労働については命に従ってもらうこと。


 それでも正式にこの地の領民となることを望むなら、護身用を含む全ての刃物・武器を引き渡してもらい一定の審査を行った上で受け入れを判断する、といったことだ。


 まずは良識的な条件提示だったと思うし、実際、疲れ切った顔で子供の手を引いていた女たちや老人たちは、ほっとした表情を見せた。


 でも、中には怒りをぶつけてくる者もいた。

「我らは等しく唯一神の僕ですぞ、領主殿。その唯一の正しき信仰を否定するなど、神に背く暴挙であり、いかなる地上の権力者にもそのような権限は無い」

「そうだそうだ!第一、我らに戦争の責任などない。イスネフ教徒だからと言うだけで、家を焼かれた者を受け入れるのを拒否するなど、理不尽ではないか」


<神官(LV4)>と<神官(LV3)>の中年の男たちだった。


「あー、よく聞いてなかったかな。イスネフ教徒だからダメだと言ってるわけじゃ無い。イスネフ教でも“清教派”って言ったっけ?他人に信仰を押しつけずに、亜人とか他の人種も差別しないなら、自分の心の内で何を信じようが構わないって言ってるんだが?」

「なっ、せ、清教派だとっ!あのような異端者どもはイスネフ教徒では無いっ、やつらは見つけ次第、石を投げよとイシュタールの預言者様も仰せだ!」


 なるほど、どうやらスノリが言ってた通りらしい。


 しばらく押し問答があった末に、イスネフの神官たちに率いられた20人ぐらいの者たちは、「神に背く者よ、地獄に落ちよっ!」と捨て台詞を残して、来た道を戻っていった。

 この数が多いのか少ないのかは、よくわからないけど。


 プラト方面からの難民だから他にもイスネフ教徒はかなりいるだろうと思うけど、あとの連中はそこまで預言派の教義へのこだわりはないようだ。


 残った老若男女はざっと100人ほど。

 ほとんどは普通の人間族だが、中にはワーベアの一家とかもいた。ステータスが見えなければ普通の人間と見分けがつかないから、これまで迫害を免れていたのかもしれないな。


 人間の難民のジョブを見ると農民が一番多く、15歳未満でジョブが無いものも20人近くいた。

 もう夕暮れ近いし、これ以上寒いなか外に放置もできないよな。


 ルシエンに橋のところで結界を張らせて、しばらくは新たな難民も盗賊も村に入れないようにしておく。


 これだと正規の来訪者とか行商人なども、橋や村の存在に気づけなくなっちゃうんだけど、当面うちの領地に公務で入ってくる人がいるとすれば、南の辺境伯領から渡し船を使って来るぐらいのはずだから、しばらくは問題ないだろう。


 結界は時々張り直す必要もあるし、その間になにかうまい魔道具でも作りたいな。


 村に連れ帰った難民たちは今夜だけは、小さな村で一番スペースのある2軒の家、つまり村長宅の土間と俺たちの館の一階の広間に分けて雑魚寝させることにした。


 護身用や調理用にナイフなどを持っている者は多かったが、セキュリティー上、それらも全ていったん取り上げておく。


 村長や自警団のみんなは、「領主様の館に氏素性も知れぬ者たちを泊めるなんて」と半ば心配、半ば不満の様子だったけど、氏素性の知れない者をいきなり村人たちの家に分宿させる方がトラブルのもとだし、広間から奥に入る通路や二階への階段にはタロたちゴーレムを立たせておくことにしたから、丸腰の避難民相手に心配はないだろう。


 実際、人材発掘も兼ねて100人のステータスは館に着くまでにチェック済みで、危険なスキル持ちがいないことは確かめてある。

 使えそうな人材も少しばかり目についたので、いずれリクルートすることも考えている。


 もっとも、当の難民たちの方が、土間とは言え領主の館に泊めてもらうと聞いて驚いたり、「何と慈悲深い領主様だ」とか感激していたけど。


 そして、俺はノルテとアポスト村長を連れて、新たに拓いた農地のそばに来ていた。


「宿舎みたいなものを建てるとしたら、どこが都合がいいと思う?」

「農作業をさせるなら、先日造成していただいた土地で、まだ種を撒いていない場所で働かせようと思います。木の根を抜いたり石を拾って耕したり、そうした作業が一番人手がかかりますし、農業に慣れていない者でも使えますので・・・ただ、既に植えてある場所にあまり近いと、作物を盗まれないか不安に思う者もおりましょう」


 食い詰めると、畑に植えてある芋や大根とか勝手に抜いて食べちゃわれないか、ってことか。


 そこで、畑地に出るためには現在の集落の前を通る必要がある、つまり村人の目が届きやすい場所にあった空き地を使うことにした。


「ここなら立地としてはよいでしょう。ただ、建物を普請するため材木を運ぶには森から少し離れておりますし、不慣れな難民たちを使って建てさせるとすると、かなりの日数がかかりますぞ」

「いや、それは心配いらないから・・・」


 俺は粘土スキルで、その場にちょっとした体育館ぐらいの広さの建屋を創り出した。


「なんとっ、こ、これはいったい!?」

「魔法の一種だけど、まあ、どうやって建てたかはみんなには適当に説明しといてよ」

「そ、それはご命令であれば無論。しかし・・・」 


 スクタリでゴーレム軍団を収納するための土蔵を作ったのがいい経験になった。

 壁と屋根しか無いけど、これで寒さはしのげる。

 ノルテに聞いて、かまどとか水瓶とか最低限あすからの生活に必要なものも粘土スキルで用意しておく。


 さすがにMPが足りなくなってきたから、あとは明日からここに住む難民たち自身に任せるってことでいいよな。


 アポスト村長はあっけにとられて立ち尽くしていた。

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