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第286話 難民①

ザーオという隠れ里で、イスネフ教徒の中でも亜人排斥をしない一派が暮らしているのを知った俺たちは、キヌーク村へと帰ってきた。

「領主様、よくぞご無事で。そして、巨大な魔物を退治されたとのこと、お見事でございます。これで村の衆も安心して暮らせまするが・・・」


 今回は徒歩で遠征したため馬を気にする必要がないから、帰りはリナの転移魔法で一瞬で村へ帰還できた。


 アポスト村長は、昨夜帰ってきた甥のオレサンドルたちから既に報告を受けていたから話が早かったけれど、なにやら焦った様子だ。


「なにかあったの?」

「は、実は村境のキヌーク川のあたりまで、大勢の老若男女が押し寄せていると狩人からの報告がありまして・・・」


 きょうの昼過ぎに、東から難民らしい者たちがこちらに向かっているのが見つかり、デーベル河に注ぐ支流の所で、自警団が追い返しているのだと言う。

 難民の中には武器を持った者もいるらしく、今、自警団以外でも村の男衆で戦えそうな者を呼び集めているらしい。


「わかった、すぐに向かおう」


 今度は館に預けてあった馬に乗って、村長以下30名ほどの徒歩の男たちを連れて東に向かう。

 アポスト村長だけは古びた剣を背負っているが、あとの者は鉈とか木こり用の斧、そして狩猟用の手作りの弓矢程度だ。


 移動しながら村長にザーオの隠れ里のことを話すと、さすがに驚いていた。


「そうでしたか・・・もう十年ほど前、北からの難民の群れが通過したことは覚えておりますが、そのような集落が。そして、また再び難民の群れが来るとは、なんというタイミングというべきか。いや戦争があってこれから真冬ですし、まだまだ増えると見るべきでしょうな・・・」


「シロー、まもなくだけど精霊が騒いでる、よくない感じね」

 ルシエンが嬉しくない予想を伝えてきた。


 森を抜け見えてきたキヌーク川は、北の山から発して南のデーベル河に注いでいる。

 川幅は10メートルもないけど深さはそこそこあるので、粗末な木製の橋が一本架けられている。


 その橋のこっち側で、なにやらもみ合いになっている。


 自警団と言ったって、手作りの木の槍と弓矢ぐらいしか持ってない男が十数人だ。

 年齢もまだ子供みたいなやつから老人までいて、基本的にただの村人なのだ。


 そして難民の数は百人は軽く越えているだろう。


 ほとんどは橋の向こう側で疲れ切った様子で座り込んじゃっていて、老人や赤子連れの女とかも多いように見える。

 けれど、橋を渡ってこっちに押し入ろうとしている連中は、なんというか妙に隙が無くガラの悪そうなやつらだった。武器を持っている者も多い。

 そのうち数名が自警団ともみ合いになっている。


<盗賊 LV7><盗賊 LV4>・・・えっ?


「おいっ、やめろ!」

 思わず叫んで馬を走らせてた。


 盗賊じゃん。

 パーティー編成で共有してる地図スキルにも、白い光点の中にいくつも害意を示す赤い光点が見える。

 難民に混じって国境を越えようとしてたってことか?でもここに来るまで、途中の街とかどうしたんだ?


 同じようにステータスを見たんだろう、ルシエンが馬上から無言で矢を放った。

 自警団の少年を突き飛ばして、強行突破をはかろうとした盗賊LV7の額に矢が突き立ち、声も無く倒れた。


 いきなりか!? ・・・けど、そうだよな。


 川のこっち側は明らかにキヌーク村、俺の領地だ。

 領内に無断で立ち入って領民に暴力を振るったら、領主は実力で排除できる権限があるし、しなきゃならないってことか・・・ここはそういう世界なんだ。


「シロー」

 ルシエンがこっちを振り向いて、目でそのことを伝えてきた。

「うん、そうだよな。わかった」


 擬装難民と自警団の者たちがこっちを振り向いて動きを止めた。

「領主さまっ」

「ちっ」

 橋の上にいる男が舌打ちした。

<ナジール 男 33歳 盗賊LV12>だ。こいつがボスか?


 橋の手前では自警団側の老人が手当てを受けている。ケガをしているらしい。


「動くな。自警団は状況を聞かせてくれ」


 ルシエンとカーミラ、そしてルーヒトをノルテに預けたエヴァの3人が、橋のたもとに馬を進め武器を構えた。


 問いに答えたのは、昨日は俺たちに同行していたオレサンドルだった。村長の甥の狩人LV4だ。


 そして話は想像通りだった。


 昼頃から三々五々、プラトから逃れてきた難民の群れが東から押し寄せてきた。

 今も川向こうにいるのは百数十人。本当の農民とか職人とか、ジョブ無しの子供も多い。


 だが、その中に十人ほどの武器を持ったガラの悪い男たちが紛れ込んでおり、こいつらが先頭に立って村に入れろと押し問答になった。

 そして遮ろうとした自警団と小競り合いになって、老人たちが突き倒されたり殴られてケガをしたらしい。

 元の世界で言えば、公務執行妨害ってやつか。


「俺はこの村の領主だ。手を出したのはお前らか?」

 盗賊たちが目配せを交わし、盗賊LV12の大柄な男、ナジールが口調だけは丁寧に切り出した。やっぱりコイツがボスらしいな。


「これはこれは領主様。わしらは戦乱で家を焼かれたあわれな避難民でございます。道を通りたいと、ただそれだけのことでございますのに、ここで武器を持ったものらに不当な足止めをされ抗議しておっただけにございます。こちらには病の者や幼子を抱えた女もおりますので、どうか通行の許可をいただきたく・・・」


 一見もっともらしいことを並べ立てる。


「お前たちが盗賊だというのはわかっている。俺はステータスが見えるからな」

 まず、それだけを、まわりの者たち全員に聞こえるように言う。


 自警団の連中も、橋の向こう側にいた本当の難民たちも驚いている。

 盗賊LV12が憎々しげに顔を歪める。


「そして、“通行”というがどこへ行くつもりだ?」

「そ、それは、いずこかに安住の地を求めて・・・」

「この先には俺の領地に至る以外、通り抜ける道も無いぞ。キヌーク村の中心部だけ通り抜けて、こっそり領内に根じろを作ろうとでも思ったか?」

「そ、そのようなことは決して」


「なら、うちの領地に入るってことはエルザーク王国への入国ってことになるからな。盗賊を入れるなんて論外だ。だいいち、ナジールと言うのか、お前は賞金首じゃないか?ここで切り捨ててもいいが」


 さすがに冒険者ギルドとかデーバの憲兵隊に問い合わせないと、犯罪歴とかはわからないから、ただのハッタリだが、名前まで呼んだことで効果はあったようだ。


 ナジールという盗賊は、手下たちの様子を伺うと、橋のこっち側で自警団の男の首をつかんでいたヤツに目配せし、手を離させた。

 手下を先に行かせてナジールが橋を渡りきってないのは、いざという時、自分は領地に入ってはいない、とギリギリ言いわけ出来るようにしていたのかもしれない。かなり狡猾だな。

 

 だが、余計なことをしたのが命取りだ。

 ナジールは、こっちにナイフを投げざま身を翻し、難民たちを突き飛ばして元来た方角へ逃げ出そうとしたのだ。


 ナイフの狙いは正確に俺に向かって来たからヒヤッとしたけど、とっさにセラミック盾を出してはじき返すことが出来た。

 そして、ルシエンの矢が正確にナジールの後頭部に突き立った。


 手下たちは逆上して向かって来るものも、肝を潰して逃げ出すものもいたが、向こうは徒歩、こっちは騎馬だ。逃げられるはずがなかった。


 わずかな時間で盗賊たちを片付け、その場には行き場を失った難民たちが残された。

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